金運
収入獲得力
自営で10年やった人の収入は、雇われの中央値より35%低かった
米国のパネル調査8,771人を分析した研究では、自営で10年続けた人の収入は被雇用の中央値より35%低かった。ベンチャー投資を受けた22,004社を追った研究では、創業者が出口で受け取った現金の平均は580万ドル(米国・1987〜2008年)だが、4分の3近くはゼロである。収入は能力の関数というより、経路とその分布の関数だ。
収入源多様化力
「億万長者は平均7つの収入源を持つ」——探しても、その調査は出てこない
米国の口座データ100万人分を使った分析では、月ごとの収入変動の86%は同じ仕事に留まった人の中で起きており、転職によるものは14%にすぎなかった。源を増やしても、その源が同じ理由で揺れるなら分散は効かない。米連邦準備制度の2024年の調査では、成人の20%が直近1か月に何らかのギグ的な活動をしていたが、そのうち本業と答えたのは21%だった。
人的資本認識力
同じ大学に受かった者どうしで比べると、選抜性の効果はほぼ消える
世界銀行が140カ国について1995年から2018年まで作成した富の勘定では、将来の稼ぎの現在価値として測った人的資本が総額の64%を占める。一方、良い大学に行けば生涯収入が上がるという主張は、同じ大学群に出願し同じ合否を受け取った人どうしで比べると、平均としてはほぼ消える。ただし消えない層がいることも、同じ研究が示している。
収支差(フロー)認識力
家計簿をつけると支出は減る。ただし効いているのは、記録ではなく上限のほうだ
4つの研究では、人は将来の支出を過小に見積もり、その予測は 節約したい という願望に引っ張られていた。願望は予測を動かすが、実際の支出とは無関係だった。27研究・8,418人の分析では、将来の手元の余裕を見積もるとき、支出の変化より収入の変化を2.9倍重く扱っていた。
支出管理力
コーヒーをやめても、家賃は減らない——米国の家計では、支出の3分の1が住居である
米国の消費支出調査(2023年)では、1世帯あたりの年間支出77,280ドルのうち住居が32.9%、輸送が17.0%、食料が12.9%。外食の全額でも5.1%にとどまる。日本の家計調査(2024年平均)では二人以上の世帯の消費支出は月300,243円で、食料が29.9%、住居が6.0%——費目の定義が違うので、割合をそのまま並べて比べることはできない。
流動性確保力
「生活費3〜6か月分」の出どころを探したら、誰も持っていなかった
米国連邦準備制度理事会の家計調査(2024年)では、400ドルの想定外の支出を現金または同等の手段だけで払えると答えた成人は63%、どんな手段でも払えないと答えたのは13%だった。一方、19,000,000人分の口座データで実測した現金バッファの中央値は、所得の最下位四分位で約13日分、最上位四分位でも約26日分——3〜6か月分どころか、日数で数えるほうが早い。
キャッシュフロー管理力
自動化は加入率を37%から86%に上げ、そして拠出率を3%に固定した
米国の大企業1社で、退職貯蓄制度の加入方式を自らの申込みから自動加入に変えたところ、新入社員の加入率は37%から86%へ上がった。同時に、自動加入の参加者の約71%が、会社が決めた3%という拠出率と既定の運用先から動かなかった——自分で選んだ社員のうち同じ組み合わせを選んだ人は1%しかいなかったのに、である。
行動バイアス管理力
5つの標本・1,700人超で測ると、参加者の85.2%が、自分は平均的な他人よりバイアスに強いと答えた。この差が大きい人ほど、他人の助言を採り入れず、バイアスを減らす訓練からも利益を得にくかった。この単位では、お金の判断に効く3つだけを扱う——バイアスの総覧はやらない。
資産形成力
7銘柄のうち4銘柄は、短期国債に負けていた——90年分を数え直すと
米国の66,465世帯の売買記録では、売買回転率が最も高い5分の1の年率リターンは11.4%、同じ期間の市場は17.9%だった。1926年以降に米国の株式データベースに現れた普通株では、7銘柄のうち4銘柄が生涯を通じて1か月物の短期国債に負け、上位4%の企業が市場全体の純増分を説明した。
純資産(ストック)認識力
持ち家は資産か、負債か——どちらの答えも、引き算を止めている
日本の二人以上の世帯の負債現在高の平均は663万円で、そのうち612万円が住宅・土地のための負債である(2024年平均)。14の先進国の住宅価格を1870年以降で組み立てた研究によれば、19世紀末から20世紀半ばまで実質の住宅価格はほぼ一定で、第二次大戦後の上昇のおよそ8割は土地の価格で説明された。
負債管理力
報酬が成績に連動する模擬課題の4実験では、参加者は金利の高い借入より残高の小さい借入を先に消そうとした。一方、債務整理の顧客データでは、閉じた口座の割合が最終的に借金を消せたかどうかを予測し、返した金額の割合はそれを予測しなかった。
バランスシート思考力
4%という数字は、17か国のうち4か国でしか生き残らなかった
資産の4%を毎年取り崩す、という有名な数字は、米国の1926年から1992年のデータ、株式50〜75%、最低30年という3つの前提の上に立っている。17の先進国の1900年から2008年に当てはめ直すと、それが安全だったのは4か国だけで、日本で安全に引き出せた最大の率は0.47%だった。
金融リテラシー
金融教育が財務行動の分散を説明した割合は0.1%——それでも語彙を持たない人は、紙の上の行が読めない
168本の論文・201の研究を統合したメタ分析では、金融教育の介入が財務行動の分散を説明する割合は0.1%(r=.032)で、受講から18.5か月以上あくと24時間の授業でも有意な効果が消えた。一方、76のランダム化比較試験・16万人超を統合した別のメタ分析は、行動への効果を0.100標準偏差と推定している。同じものを測って、答えの桁が違う。
資本効率感覚
アインシュタインは複利について何も言っていない——出典を探すと、費用の話に行き着く
米国証券取引委員会の投資家向け資料が使う条件——10万米ドル・年4%・20年——でそのまま計算すると、年0.25%の費用がかかる場合の残高は約20万8,815米ドル、年1%の場合は約18万611米ドルで、差は約2万8,204米ドルになる。相場の予想ではなく、掛け算の話である。増える力を説明する指数関数は、減る側でも同じ形をしている。
将来キャッシュフロー思考力
将来の自分には送金できない——加工した顔写真を48,853人に見せた実地試験で、入金した人は1.5%から1.7%になった
1997年の Quarterly Journal of Economics に載ったモデルは、将来の自分に送金しきれない理由を、好みが時間とともに一貫しないことに求め、換金に手間のかかる資産を自分を縛る道具として扱った。対抗策として有名な「将来の自分を鮮明に想像させる」介入は、学生や在宅の作業者を集めた実験室で仮想の配分を4.41%から6.17%へ動かしたが、メキシコの48,853人を対象にした実地試験では、一度きりの入金をした人の割合が1.5%から1.7%になっただけで、積立の設定は動かなかった。
金銭的価値観の明確化
物より経験を買え、という処方は141の研究で d=0.383 まで縮み、出版バイアスがその3分の1を説明しうる
経験の購入は物の購入より幸せをもたらす、という主張は、141の研究・360の効果量を統合したメタ分析で d=0.383(95%信頼区間 .336〜.430)に落ち着き、出版バイアスがその約3分の1を説明しうる。優位は、機能が同等な場合、ひとりで行う場合、社会経済的な資源が少ない場合に消える。残るのは購入の種類ではなく、支出と本人の適合という軸だった。