健康
栄養
「30%低下」は、撤回されたあとで、少し小さな声で言い直された
「地中海食が心疾患リスクを30%低下」の出どころは、2013年に発表され、2018年に撤回され、同じ年に解析をやり直して再出版された無作為化試験である。ハザード比は 0.70 から 0.69 へ、ほとんど動かなかった。動いたのは結論の動詞のほうだった。
腸内環境
腸に免疫細胞の70%——その70%を、誰が数えたのかを探しに行った
「免疫細胞の70%が腸に」の出どころを査読誌からさかのぼると、2008年の総説の一文で行き止まりになる。いっぽう、同じものを飲んでも粘膜に定着する人としない人がいることは、内視鏡で直接確かめられている。効いた・効かないの分かれ目は、製品ではなく飲んだ人の側にあった。
睡眠
米国睡眠医学会と睡眠研究学会の2015年の合意声明が推奨しているのは1晩7時間以上であって、8時間ではない。装置で測った睡眠は平均6.0時間、本人の申告は6.8時間。数字は、正しいから残るのではなく、扱いやすいから残る。
運動
1日1万歩は、日本で1965年に売り出された歩数計の名前から始まった
1日1万歩の出どころは、日本では1965年に発売された歩数計の商品名である。加速度計で測った研究が示しているのは、下がり方の大半が最初の区間で出て、その先は緩むという形だった。どの研究も、1万歩という区切りを支持していない。
炎症制御
炎症を抑えると聞いて2万5千人が5年飲んだ。心臓の事故は386件と419件だった
米国で2万5,871人を無作為に割り付けたVITAL試験(2019年報告、追跡期間の中央値5.3年)では、オメガ3脂肪酸のサプリメントを割り当てられた群の主要な心血管イベントが386件、割り当てられなかった群が419件で、統計的な差は出なかった。がんの診断も820件と797件で差がなかった。
毒素回避
米国で10家族を無作為に2群へ分け、5日間すべての食事を新鮮な食材の仕出しに置き換えた2013年の試験では、尿中のフタル酸エステルの代謝物が中央値で 283.7 から 7,027.5 nmol/g へ、およそ24倍に増えた。原因は、使われた食材そのものの汚染だった。
自然環境
12人で測った免疫の数字は世界を回り、2万人に聞いた週120分には但し書きが付いた
森林浴と免疫の研究として最もよく引かれる一連の試験は、参加者が12人、12人、13人である。いっぽう、イングランドの1万9,806人に聞き取った2019年の横断調査では、週120分から179分の自然滞在が良好な健康と関連していた(オッズ比1.59、95%信頼区間1.31から1.92)。ただしこの調査は、元気な人ほど外に出るという向きを排除できない。
外見的健全
28年トラックを運転した人の顔は、左半分だけ25年ぶん先に進んでいた
2012年に New England Journal of Medicine に載った1件の症例では、69歳の男性が左側の顔だけに25年かけて進んだ肥厚と皺を示した。配送トラックを28年運転していた人である。左右で違ったのは体質でも食事でもなく、窓越しに当たり続けた紫外線の量だった。
心理的ストレス
同じ瞑想の試験でも、比べる相手を「何もしない人」から「同じ手間をかけた人」に替えると、数字が縮む
米国・2014年に発表されたメタ分析は、瞑想プログラムの無作為化試験47件・参加者3,515人を、同じくらい時間と手間のかかる別の活動と比べた。不安は8週で0.38、3〜6か月で0.22、抑うつは0.30と0.23、痛みは0.33。いずれも小さく、証拠の質は中程度と評価され、ストレスや心の健康に関わる生活の質では低いと評価された。この単位は、個人の身体反応と、それが下りるまでの時間だけを扱う。
社会的接触
「1日15本」は、論文の主張ではなく比較図から切り出された——元の一文には、孤独という語も入っていない
2010年に PLoS Medicine へ出たメタ分析は、148件の研究・308,849人を統合し、社会的なつながりが強い人は生存の見込みがおよそ1.5倍(オッズ比1.50、95%信頼区間1.42〜1.59)だったと報告した。「1日15本の喫煙と同等」という言い回しは、この論文が主張として掲げたものではない。この単位が扱うのは友情ではなく、死亡率という健康のアウトカムである。
遊び
「笑うとNK細胞が増える」の出どころを探した——見つかったのは、数十人と、その日の血液だけだった
笑いと免疫の指標を扱った研究を原典で探すと、標本は10人から62人、測っているのはその日の血液の値で、健康のアウトカムまで追った研究には行き着かない——それは総説自身が書いていることである。置き換わる実証は、前向きな感情と健康の関連が、対象によって向きまで変わるという地味な結果のほうだ。
目的感
「JAMA 2008年、生きがいで死亡リスク23%低下」を探した——誌名も、数字も、向きも、原典とは違っていた
日本では、生きがいと死亡率の関連を大規模に調べた2008年の研究が2件ある。宮城の43,391人を7年追った研究は Psychosomatic Medicine に、秋田の1,618人を平均13.3年追った研究は Journal of Epidemiology に載っている。前者が報告したのは、生きがいが無いと答えた人の全死因のハザード比1.5(95%信頼区間1.3〜1.7)——リスクが上がる側の数字である。
健康リテラシー
同じ検査結果を%から人数に書き直しただけで、正しく読めた医師は21%から87%になった
ドイツで行われた継続研修で、160人の産婦人科医に乳がん検診の陽性結果の意味を尋ねたところ、最も適切な選択肢を選べたのは21%だった。同じ情報を「1,000人のうち10人が」という人数のままの数え方に書き直して訓練したあと、87%が正しく答えた。この単位が扱うのは、健康の情報を集める力ではなく、見せられ方に耐える力である。思考法の棚が証拠の読み方の一般論を扱ったので、ここは健康情報・健診・検査結果という具体に絞る。
自己計測
同じ夜を7機種で測ったら、深い睡眠の長さは機種ごとに違う配分で切り分けられていた
米国で2021年に報告された実験は、市販の睡眠計測機器7機種と研究用のアクチグラフを、睡眠ポリグラフと同じ夜に並べた。総睡眠時間のずれは、基準とほぼ同じ機種からおよそ45分長く見積もる機種まで開き、睡眠段階の切り分けは機種ごとに向きが違った。この単位が扱うのは、体の指標を測る機器がどこまで正しいかである。家計の記録は金運の棚が、見積りの記録は思考法の棚が扱ったので、ここは機器の妥当性に絞る。
死生観
死を意識させる、あの短い手続きを17の研究室でやり直したら、元の効果は出てこなかった
1994年に米国の学生59人で報告された効果は Cohen の d で1.34だった。2022年に17の研究室・1,550人で行われた多施設の追試では、まとめた推定が Hedges の g で0.07(95%区間はマイナス0.03から0.17)、原著者の助言による実施条件でも0.08にとどまった。この単位が扱うのは、死の意識が今日の行動を変えるという主張の証拠がどこまで確かかである。看取りや終末期は家族の棚と病気の棚の持ち場なので、ここでは扱わない。
習慣設計
「習慣化には66日」の66日は平均ではなく、18日から254日まで開いたばらつきの真ん中だった
英国で96人が単純な行動を1つ選び、84日間毎日記録した2010年の研究では、自動化の伸びに曲線が良く当てはまったのは82人中39人、頭打ちの95%に達するまでの日数は中央値66日、範囲18日から254日だった。この単位が扱うのは、日数の目標ではなく、続かなかった日があっても回る形のほうである。学習計画や目標設定は学習と成長の棚と思考法の棚の持ち場なので、ここでは扱わない。