新鮮な食事を5日出したら、体の中のフタル酸は24倍になった
毒を出す、という言い方は気持ちがよい。だが、外から入ってくるものは自分では感じ取れないし、出ていったかどうかも感じ取れない。感じ取れないものについて、感じ取れたと言えてしまう——落とし穴はそこにある。
感じ取れないものを、避ける
前の単位では、慢性炎症を測る物差しがまだ決まっていないことと、CRPは風邪でも歯ぐきの腫れでも上がる非特異的な数字だということを見た。ここではその上に、体の外から毎日わずかに入ってくるものの話を置く。
曝露には、火事のような形が無い。空気も、水も、食品の容器も、たいていは無味無臭で、量も一度きりでは効かない。効くとすれば、少しずつ長く、である。だから曝露の話は、二重に厄介になる。入ってくるのが分からないうえに、減ったことも分からない。
この二重の見えなさに、いちばんよく効く言葉が用意されている。デトックスである。
値切り:デトックスという語を、原典まで追う
2015年に Journal of Human Nutrition and Dietetics へ出た批判的レビューが、この語を正面から扱っている。著者たちが探したのは、デトックス食が体内の毒素の排出を促すという主張を裏づける臨床の証拠だ。
結論は素っ気ない。市販のデトックス食の有効性をヒトで検証した無作為化比較試験は、これまで実施されていない。見つかったのは、方法の欠陥と標本の小ささに悩まされた、ひと握りの臨床研究だけだった。著者たちの言い方では——現時点で、体重管理にも毒素の排出にも、デトックス食の使用を支持する説得力のある証拠は無い。
注意しておきたいのは、このレビューが「体には解毒の仕組みが無い」と言っているのではない、ということだ。むしろ逆で、個別の物質については地味な研究がいくつもある。ただし、その地味な研究の集まりと、「デトックス」という一語で売られているものとのあいだには、橋が架かっていない。
新鮮な食事に替えた、2つの実験
橋が架かっていない、という話をもう少し具体的にしておく。
2011年に Environmental Health Perspectives へ出た米国の研究は、5家族20人に、缶詰でもプラスチック包装でもない新鮮な食事を3日間まるごと提供した。尿中のビスフェノールAは幾何平均で 3.7 ng/mL から 1.2 ng/mL へ、66%下がった。フタル酸エステルの代謝物も53%から56%下がった。きれいな結果である。
2013年、同じ考え方を無作為化した試験が Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology へ出た。10家族を2群に分け、片方には5日間すべての食事を新鮮な食材の仕出しに置き換え、もう片方には文書での助言だけを渡す。仕出しを受けた群で何が起きたか。尿中のフタル酸エステルの代謝物が、中央値で 283.7 nmol/g から 7,027.5 nmol/g へ上がった。およそ24倍である。助言だけの群には変化が無かった。
著者たちは原因を突き止めている。使った食材そのものが汚染されていた。コリアンダーからは 21,400 ng/g、牛乳からは 673 ng/g が検出された。
避けたつもりが、増えていた。しかも増えたことは、誰の体感にも現れなかった。
「最大92%」を追いかける
この棚の元になった資料には、「PM2.5が認知症リスクを最大92%増加」という一文が、出典なしで置かれている。追いかけてみた。
たどり着いたのは、2017年に Translational Psychiatry へ出た論文である。米国の女性健康イニシアチブ記憶研究に参加した65歳から79歳の女性3,647人を、平均およそ9.9年追跡している。米国環境保護庁の基準を超える微小粒子状物質の地域に住むことは、全般的な認知機能の低下のリスクを81%、すべての原因による認知症のリスクを92%高めることと関連していた。
数字はあった。だが「最大」ではない。92%はこの集団全体での推定であって、上限ではない。同じ論文は、遺伝型で分けるともっと大きな数字が出ることも報告している——ある型の人では、認知症のハザード比が2.95に達した。つまり「最大」という語は、原典にある値のいちばん大きいものを指してもいない。引用の連鎖のどこかで足された飾りである。
そして、この研究は65歳から79歳の米国人女性の観察研究である。誰にでもそのまま当てはまる数字ではない。
公的な一次情報のほうを見ておく。世界保健機関が2021年に改定した大気質のガイドラインは、PM2.5の指針値を年平均 5 µg/m3、24時間平均 15 µg/m3 とした。2005年版はそれぞれ 10 と 25 だったので、半分に引き下げられている。同機関は、2019年時点で世界人口の99%がガイドラインの水準を満たさない場所に住んでおり、屋外の大気汚染は同年に世界で420万人の早すぎる死をもたらしたと推定している。
並べてみると分かる。個人が感じ取れない量の話を、個人の努力の物語にすると、いちばん効く手立てが視界から外れる。
曝露を伏せると、申告と実際が合わなくなる
もうひとつ、この単位でどうしても書いておきたい型がある。
2010年に Bioelectromagnetics へ出た系統的レビューは、電磁波によって体調が悪くなると訴える人たちを対象にした、盲検あるいは二重盲検の誘発試験46件、のべ1,175人ぶんを集めた。曝露の有無を本人にも実験者にも伏せて、症状が出るかどうかを見る形である。
結果は、曝露を検知できるという説を支持する確かな証拠は見つからなかった、というものだった。レビューの整理では、急性の症状を引き起こしていたのはノセボ効果——効かないはずのものに反応が出る、あの現象——のほうだと考えるのが妥当だとされている。
ここを読み違えないでほしい。症状が嘘だという話ではない。症状は本物である。合っていなかったのは、症状と、その引き金として本人が指したものとの結びつけ方だ。そして、この結びつけ方の間違いは特別な人に起きるのではない。体の中は自分では見えないのだから、原因の名づけは誰の場合も後から作られる。前の単位で調子の悪い日の原因を1行書いたのは、まさにこの後づけを自分の手で見るためだった。
時間・変化:曝露は、出来事ではなく積算で効く
曝露の時間には、3つの層がある。
第一に、1回ぶん。ほとんどの場合、何も起きない。感じ取れないのは当然で、感じ取れる量ならそれは事故である。
第二に、1日ぶん。空気、水、食べもの、容器、床の埃。経路は複数あり、どれが主かは暮らし方で入れ替わる。2011年と2013年の2つの試験が示したのは、この日ぶんの合計が、食べものの中身をまるごと替えるだけで大きく上下し、しかも上下の向きが予測できないということだった。
第三に、年ぶん。ガイドラインの数字が年平均で書かれているのは、この層を見ているからだ。年で効くものを、日の実感で管理することはできない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、体感を証拠に使うことである。曝露の量は感じ取れず、減ったことも感じ取れない。だから「軽くなった」は、減ったことの証拠にはならない。
第二の妨げは、見えない曝露を、原因の受け皿にしてしまうことだ。原因が分からない不調に名前が付くと、確かに楽になる。楽になるが、そのぶん、別の原因を探す作業は止まる。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、欧米の中年以上を対象にした観察研究と、数日から数か月の短い介入試験で採られている。認知症の数字は米国の高齢女性の集団のものであり、日本人を対象にした追試はほとんど見当たらない。そして観察研究で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる——空気のよい地域に住み、新鮮な食材を選べる——という逆向きを排除できない。
助けるのは、努力の量を増やすことではなく、経路を1つ選んで見ておくことだ。空気、水、食品の容器。どれか1つについて、自分が何を根拠に何を変えたのかを書き出すと、根拠の欄が空いていることに気づく。
続く咳、皮膚の異常、原因の分からない不調があるなら、読み物より受診が先である。 ここに書いたのは情報の読み方であって、症状の扱い方ではない。
最初の一歩は5分。自宅か職場で、空気・水・食品の容器について自分が意識的に変えたことを3件挙げ、それぞれの根拠を1語で分類する。
次の単位は 023「自然環境」——ここでは、入ってくるものを避ける話をした。その上に、逆向きの話、外に出ることの効果がどこまで確かめられているかを積む。
- Klein & Kiat 2015(Journal of Human Nutrition and Dietetics 28(6):675-686)は、市販のデトックス食の有効性をヒトで検証した無作為化比較試験はこれまで実施されていないと報告している。見つかったのは方法の欠陥と小さな標本に悩まされたひと握りの臨床研究だけで、体重管理にも毒素の排出にも、支持する説得力のある証拠は無いと結論された
- Rudel ら 2011(Environmental Health Perspectives 119(7))は、米国の5家族20人に3日間、缶詰でもプラスチック包装でもない新鮮な食事を提供した。尿中のビスフェノールAは幾何平均 3.7 ng/mL から 1.2 ng/mL へ66%下がり、フタル酸エステルの代謝物も53%から56%下がった
- Sathyanarayana ら 2013(Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology)は、米国の10家族を無作為に2群へ分け、片方に5日間すべての食事を新鮮な食材の仕出しに置き換えた。尿中のフタル酸エステルの代謝物は中央値 283.7 nmol/g から 7,027.5 nmol/g へ、およそ24倍に増えた。原因は食材そのものの汚染で、コリアンダーから 21,400 ng/g、牛乳から 673 ng/g が検出された
- この棚の元になった資料の「PM2.5が認知症リスクを最大92%増加」は、Cacciottolo ら 2017(Translational Psychiatry 7:e1022)にたどり着く。米国の65歳から79歳の女性3,647人を平均およそ9.9年追跡した観察研究で、環境保護庁の基準を超える地域に住むことは認知機能の低下のリスクを81%、認知症のリスクを92%高めることと関連していた
- 同じ論文では、遺伝型で分けると認知症のハザード比が最大2.95に達した。つまり92%は集団全体の推定であって上限ではなく、「最大」という語は原典に無い。引用の連鎖のどこかで足された飾りである
- 世界保健機関は2021年に大気質ガイドラインを改定し、PM2.5の指針値を年平均 5 µg/m3、24時間平均 15 µg/m3 とした(2005年版はそれぞれ 10 と 25)。同機関は2019年時点で世界人口の99%がこの水準を満たさない場所に住み、屋外の大気汚染が同年に世界で420万人の早すぎる死をもたらしたと推定している
- Rubin, Nieto-Hernandez & Wessely 2010(Bioelectromagnetics 31(1):1-11)は、電磁波で体調が悪くなると訴える人を対象にした盲検・二重盲検の誘発試験46件、のべ1,175人ぶんを集め、曝露を検知できるという説を支持する確かな証拠は見つからなかったと報告した。症状そのものではなく、症状と引き金の結びつけ方のほうが一致していなかった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| デトックス食や解毒のプログラムで、体にたまった毒素を出せる | Klein & Kiat 2015(Journal of Human Nutrition and Dietetics 28(6))が探した範囲では、市販のデトックス食の有効性をヒトで検証した無作為化比較試験は実施されていなかった。あったのは方法の欠陥と小さな標本に悩まされたひと握りの研究だけで、体重管理にも毒素の排出にも支持する説得力のある証拠は無いと結論されている。体に解毒の仕組みが無いという話ではなく、個別の物質の地味な研究と、一語で売られているものとのあいだに橋が無いという話である |
| 新鮮な食材に替えれば、体に入る化学物質は確実に減る | 米国の5家族20人に3日間新鮮な食事を出した2011年の研究では、尿中のビスフェノールAが66%下がった。ところが10家族を無作為に分けて5日間の仕出しに置き換えた2013年の試験では、フタル酸エステルの代謝物が中央値 283.7 から 7,027.5 nmol/g へ、およそ24倍に増えた。原因は食材そのものの汚染だった。方向は事前には決まらず、体感にも現れない |
| 体調の悪さの原因は、本人がいちばんよく分かっている | 電磁波で体調が悪くなると訴える人を対象にした盲検・二重盲検の誘発試験46件・のべ1,175人分をまとめたレビューでは、曝露を検知できるという説を支持する確かな証拠は見つからなかった(Rubin ら 2010, Bioelectromagnetics 31(1))。症状は本物である。一致しなかったのは症状と引き金の結びつけ方のほうで、体の中が見えない以上、原因の名づけが後から作られるのは誰にでも起きる |
デトックスという語のいちばん優れた性質は、終わりが定義されていないことだ。何がどれだけ出たのかを誰も測らないので、失敗も起きない。24倍に増えた10家族が教えてくれるのは、体感だけを頼りにすると、増えたことにすら気づけないという地味な事実である。出したつもりの人は、たぶん今日も軽やかだ。
Q1. Klein & Kiat 2015 がデトックス食について報告したことを、探した対象と結論の両方に触れて述べよ。一問一答
Q2. 2011年と2013年の2つの食事の入れ替え試験は、それぞれ何を示したか。数値を挙げて述べ、この2つを並べると曝露についてどんなことが言えるかを書け。一問一答
Q3. 「PM2.5が認知症リスクを最大92%増加」という一文を原典まで追った結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q4. 世界保健機関が2021年に改定した大気質ガイドラインのPM2.5の指針値として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. 曝露の有無を伏せた誘発試験46件・のべ1,175人分をまとめたレビューの読み方として、本文の内容に合うものはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。自宅か職場で、空気・水・食品の容器のいずれかに関して、自分が意識的に変えたことを3件挙げる。換気の回数、飲む水の選び方、保存容器の材質、掃除の頻度、通り道の選び方——小さいもので構わない。1件ずつ1行で書く。次に、それぞれの右側に、その変更の根拠が「調べた」「聞いた」「なんとなく」のどれだったかを1語だけ書き添える。調べたと書いた行については、何で読んだのかを4文字以内で足す(記事・広告・説明書・論文、など)。3件挙がらなければ、挙がった件数のまま止めてよい。誰にも見せなくてよく、誰かに勧める必要も、やめさせる必要もない。続く咳・皮膚の異常・原因の分からない不調があるなら、この課題より受診が先である。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Klein A.V., Kiat H. (2015) 'Detox diets for toxin elimination and weight management: a critical review of the evidence', Journal of Human Nutrition and Dietetics 28(6):675-686 — researchers.mq.edu.au
- Rudel R.A. et al. (2011) 'Food Packaging and Bisphenol A and Bis(2-Ethyhexyl) Phthalate Exposure: Findings from a Dietary Intervention', Environmental Health Perspectives 119(7) — ehp.niehs.nih.gov
- Sathyanarayana S. et al. (2013) 'Unexpected results in a randomized dietary trial to reduce phthalate and bisphenol A exposures', Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology 23(4):378-384 — www.nature.com
- Cacciottolo M. et al. (2017) 'Particulate air pollutants, APOE alleles and their contributions to cognitive impairment in older women and to amyloidogenesis in experimental models', Translational Psychiatry 7:e1022 — www.nature.com
- World Health Organization (2021) 'WHO global air quality guidelines', Table 3.26: Recommended 2021 AQG levels and 2005 air quality guidelines — www.ncbi.nlm.nih.gov
- World Health Organization, Fact sheet 'Ambient (outdoor) air quality and health'(2019年時点の推計を掲載) — www.who.int
- Rubin G.J., Nieto-Hernandez R., Wessely S. (2010) 'Idiopathic environmental intolerance attributed to electromagnetic fields (formerly electromagnetic hypersensitivity): An updated systematic review of provocation studies', Bioelectromagnetics 31(1):1-11 — kclpure.kcl.ac.uk