同じ夜を7機種で測ったら、深い睡眠の長さは機種ごとに違う配分で切り分けられていた
手首に着いているのは睡眠計ではない。動きと、皮膚を通る光の変化を拾う装置である。深い睡眠が何分だったかは、測られた値ではなく、その機種の計算が出した答えだ。別の機種を着けていれば、同じ夜が別の配分で切り分けられる。
数字を読む側から、数字を作る側へ
前の単位では、渡された数字の見せられ方に耐える話をした。ここではその上に、自分で数字を作る話を置く。読み違いの次に来るのは、測り違いである。
持ち場を狭めておく。家計の記録は金運の棚が、見積りの記録は思考法の棚が扱った。この単位が扱うのは、体の指標を測る機器がどこまで正しいか、その一点に限る。
軸も1つでいい。測れば見えるようになる。ただし見えているのは体ではなく、機器の推定である。手首に着いているのは睡眠計でも心拍計でもない。動きと、皮膚を通る光の変化を拾う装置だ。段階も、消費した量も、そこから計算された結果である。この棚が繰り返してきたとおり、体は自分では見えない。機器は、その見えなさを埋めるのではなく、埋めたように見せる。
同じ夜に、7機種を並べてみる
2021年に SLEEP へ出た研究は、市販の睡眠計測機器7機種と研究用のアクチグラフ1機種を、睡眠ポリグラフと同じ夜に並べて比べた。米国での実験で、対象は健康な若い成人34人(うち女性22人、平均28.1歳、標準偏差3.9歳)。3夜連続で測り、うち1夜には睡眠を乱す条件を入れてある。
総睡眠時間のずれは、機種によってはっきり違った。基準との差が最も小さかった機種はマイナス0.3分、次が2.6分。一方、2機種は43.7分と46.8分、基準より長く見積もった。研究用のアクチグラフも23.9分長い。「だいたい合っている」と言えるのは一部の機種で、45分近くずれる機種もある。
眠っているかどうかの判定では、眠りを眠りと判定する感度はどの機種も0.93以上と高かった。ところが、起きているのを起きていると判定する特異度は0.18から0.54にとどまった。機器は眠りを見つけるのが得意で、目覚めを見落としやすい。布団の中でじっとしていれば、たいてい眠っていることにされる。
段階の切り分けは、そろわない
睡眠の段階になると、ずれ方はさらに機種ごとに違った。浅い睡眠については、段階を出力する6機種すべてが基準と有意に違い、1機種を除いて多めに見積もった。その1機種だけは22.5分少なく見積もっている。深い睡眠で基準と有意に違ったのは3機種で、いずれも多め。REM睡眠で有意に違ったのも3機種で、こちらはいずれも少なめだった。
つまり同じ一晩を、機種ごとに違う配分で切り分けている。画面に出ている「深い睡眠 1時間20分」は、測った値ではなく、その機種の切り分け方が出した値だ。別の機種を着けていれば、別の数字が出る。
睡眠だけの話ではない。2020年に npj Digital Medicine へ出た研究は、53人に6機種を着けて、皮膚を通る光から心拍を推定する方式を調べた。安静時の平均絶対誤差は市販機で毎分7.2拍(標準偏差5.4)、活動中は10.2拍(同7.5)。活動中の誤差は、安静時より平均で30%大きい。なお、肌の色による精度の差は、統計的に意味のある大きさでは見つからなかった。
2020年に JMIR mHealth and uHealth へ出た系統的レビューは、主要な9ブランドについて158本の研究を集めた。歩数は実験室ではおおむね正確、心拍はブランドによってばらつき、消費エネルギーはどのブランドも正確ではなかった。直接に近い量ほど当たり、計算の段が増えるほど外れる。
家庭用の機器でも同じである。カナダの研究チームが2017年に American Journal of Hypertension へ報告した調査では、自分の家庭用血圧計を持参した85人で測り比べたところ、基準の測定と5mmHg以上ずれた機器が69%、10mmHg以上が29%、15mmHg以上が7%だった。平均としてのずれは許容できる範囲だったが、5mmHg以内に収まる機器のほうが少なかった。
ここで線を引いておく。機器の数値で自己診断しない。気になる症状があるなら、画面を眺めるより受診が先である。2017年に Journal of Clinical Sleep Medicine へ出た臨床報告は、機器が示した数字を根拠に自分の睡眠に問題があると考えて受診した人たちを記述し、患者にとっては機器のデータのほうが、妥当性の確かめられた方法よりも自分の実感に合って感じられることがあると書いている。数字は、実感を裏づける道具としてよく効いてしまう。
自分で申告した量と、機器が測った量
機器がずれるなら、自分の申告はどうか。2008年に International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity へ出た系統的レビューは、身体活動の自己申告と直接測定を比べた研究を集めた。相関を報告していたのは148件。相関係数の平均は0.37(標準偏差0.25)で、低いか中くらいにとどまった。比較できるデータのある74件では、平均の差の60%で、自己申告のほうが直接測定より多かった。
面白いのは、向きが一定でないことだ。多めに申告する人もいれば、少なめに申告する人もいる。だから「自己申告は多めに出るから割り引いておこう」という補正も効かない。機器も申告も外れる。どちらが正しいかではなく、どちらもずれる、が出発点になる。
たまっている量と、出入りの量
ここまでは機器の話だった。もう1つ、数字の読み方そのものにある取り違えがある。
体重、体力、睡眠負債。これらはたまっている量である。食べた量、動いた量、眠った時間。これらは出入りの量だ。浴槽でいえば、前者が水位、後者が蛇口と排水口にあたる。
水位は、入る量と出る量の差を、時間のぶんだけ積み上げたものになる。だから蛇口を細くしても、出るぶんより多ければ水位は上がり続ける。入る量が減ったことと、たまっている量が減ることは、別の出来事である。
体重の増減も、この読み方で読む。増えた・減ったという1点の数字は、その日の水位を示しているだけで、蛇口の話も排水の話もしていない。しかも水位のほうには、水以外のもの——水分の出入り、腸の中身、測った時刻——が混ざる。ここで書けるのは「それがどういう種類の数字か」だけである。目指すべき値は、この棚では書かない。
時間・変化:出入りを変えた翌朝に、たまった量は動かない
出入りを変えると、たまっている量は遅れて動く。しかも小さく動く。ここに、記録が続かない最大の理由がある。変えた直後に見に行く数字が、いちばん動かない数字だからだ。
だから、時間の順に見るものを変えることになる。今日変えられるのは出入りだけである。数日から数週間の目盛で、はじめてたまっている量に向きが出る。そして1点の数字は、いつでも測り方の誤差とその日の事情を含んでいる。見るのは点ではなく、点がどちらへ並んでいるかのほうだ。機器のずれは、多くの場合その機種のなかでは一定の方向に出るので、絶対値は当てにならなくても、同じ機種で追った向きはまだ読める。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、画面に出てくる言葉づかいである。「回復」「準備度」「睡眠の質」——どれも、機器が直接測った量の名前ではない。センサーが拾った物理量から何段か計算した先に付けられた名札だ。名札は、計算の中身を隠す。第二の妨げは、数字が実感を裏づけてしまうことである。眠れなかった気がする朝に、機器も浅い睡眠が多いと言えば、それで話は終わってしまう。
標本の偏りを断っておく。この単位の証拠は、健康な若い成人を実験室で数晩測ったもの、そして欧米の成人を対象にした妥当性の研究が中心である。持病のある人、高齢の人、交代勤務の人、日本で日常的に使っている人を対象にした検証はずっと少ない。そして、観察研究で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる、という逆向きを排除できない。記録を続けられた人のデータだけが残る、という偏りも同じ形で効く。
助けるのは、機器を替えることではなく、1行の分類である。最初の一歩は3分。いま使っている記録から数字を1つ選び、それが直接測っている量なのか、そこから推定された量なのかを分けて書いてみる。分からなければ「分からない」でよい。分からないと分かった時点で、その数字は事実の席から降りている。
次の単位は 031「死生観」——自分の数字を作れるようになった上に、その数字がいつか終わることを織り込む話を置く。測れる期間には、端がある。
- Chinoy ら 2021(SLEEP 44(5):zsaa291)は、市販の睡眠計測機器7機種と研究用アクチグラフを睡眠ポリグラフと同じ夜に比べた。米国・健康な若い成人34人(女性22人、平均28.1歳、標準偏差3.9)、3夜連続、うち1夜は睡眠を乱す条件。総睡眠時間のずれはマイナス0.3分から46.8分まで開き、2機種は43.7分と46.8分、基準より長く見積もった
- 同じ研究で、眠りを眠りと判定する感度はどの機種も0.93以上と高かったが、起きているのを起きていると判定する特異度は0.18から0.54にとどまった。機器は眠りを見つけるのが得意で、目覚めを見落としやすい
- 睡眠段階では、浅い睡眠について段階を出力する6機種すべてが基準と有意に違い、1機種を除いて多めに見積もった(その1機種は22.5分少なめ)。深い睡眠で有意に違ったのは3機種でいずれも多め、REM睡眠で有意に違ったのも3機種でいずれも少なめだった
- Bent ら 2020(npj Digital Medicine 3:18)は53人・6機種で光学式の心拍推定を調べ、市販機の平均絶対誤差は安静時で毎分7.2拍(標準偏差5.4)、活動中で10.2拍(同7.5)、活動中の絶対誤差は安静時より平均30%大きいと報告した。肌の色による精度差は統計的に意味のある大きさでは見つからなかった
- Fuller ら 2020(JMIR mHealth and uHealth 8(9):e18694)は主要9ブランドの158本の研究を集め、歩数は実験室ではおおむね正確、心拍はブランドによってばらつき、消費エネルギーはどのブランドも正確ではなかったと結論した。直接に近い量ほど当たり、計算の段が増えるほど外れる
- Ringrose ら 2017(American Journal of Hypertension 30(7))は、自分の家庭用血圧計を持参した85人で測り比べ、基準の測定と5mmHg以上ずれた機器が69%、10mmHg以上が29%、15mmHg以上が7%だったと報告した
- Prince ら 2008(International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 5:56)は身体活動の自己申告と直接測定を比べた研究を集め、相関を報告した148件の相関係数の平均は0.37(標準偏差0.25)と低〜中程度、比較できる74件では平均の差の60%で自己申告のほうが多かった。ずれの向きが一定でないため、一律の補正も効かない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ウェアラブルが出す「深い睡眠◯時間」は、睡眠が測られた結果である | 米国で2021年に SLEEP へ報告された実験では、市販機7機種と研究用アクチグラフを睡眠ポリグラフと同じ夜に並べたところ、睡眠段階の切り分けは機種ごとに向きが違った。浅い睡眠は段階を出力する6機種すべてが基準と有意に違い、1機種を除いて多め(その1機種は22.5分少なめ)、深い睡眠で有意に違った3機種はいずれも多め、REM睡眠で有意に違った3機種はいずれも少なめだった。総睡眠時間ですら、基準との差はマイナス0.3分から46.8分まで開く。画面の数字は測られた値ではなく、その機種の計算が出した値である |
| 機器はあてにならないから、自分の感覚で記録したほうが確かだ | 2008年の系統的レビューでは、身体活動の自己申告と直接測定の相関を報告した148件で、相関係数の平均は0.37(標準偏差0.25)にとどまった。しかも比較できる74件のうち平均の差の60%で自己申告のほうが多く、残りでは少なかった。ずれの向きが人によって違うので、「自己申告は多めに出るから割り引く」という一律の補正も効かない。機器も申告も外れる。どちらが正しいかではなく、どちらもずれる、が出発点になる |
| 食べる量や動く量を変えたのに、数字が動かないのだから意味がない | 体重・体力・睡眠負債は「たまっている量」で、食べた量・動いた量・眠った時間は「出入りの量」である。浴槽でいえば前者が水位、後者が蛇口と排水口にあたる。水位は入る量と出る量の差を時間のぶんだけ積み上げたものなので、出入りを変えた翌朝に水位はほとんど動かない。しかも1点の数字には、測り方の誤差とその日の事情——水分の出入り、腸の中身、測った時刻——が混ざる。見るのは点ではなく、点がどちらへ並んでいるかのほうである。目指すべき値は、この棚では書かない |
自己計測の売り文句は「見える化」である。実際に起きるのは、見えないものの上に名札が置かれることだ。名札はよくできていて、眠れなかった気がする朝には浅い睡眠が多いと出る。同じ夜を別の機種で測れば、別の配分が出てくるのだが、その夜はもう二度と来ない。だから機器は、めったに反証されない。あなたの体について最も自信のある発言者が、いちばん検証されていない、という状態が毎朝続く。
Q1. 米国で2021年に行われた比較実験では、眠りを眠りと判定する感度はどの機種も( ① )以上と高かったが、起きているのを起きていると判定する特異度は( ② )から( ③ )にとどまった。穴埋め
Q2. 身体活動について、自己申告と直接測定を比べた2008年の系統的レビューが報告した数値を2つ挙げ、そこから「自己申告を一律に割り引く補正」が効かない理由を説明せよ。一問一答
Q3. 睡眠段階の推定について、2021年の比較実験が報告した内容として正しいものはどれか。選択
Q4. センサーから画面までの段を、外れにくい順に並べ替えよ。A 睡眠の段階/B センサーが拾う加速度や光の変化/C 消費エネルギー/D 歩数並べ替え
Q5. 出入りを変えてから、たまっている量に向きが読めるようになるまでの順に並べ替えよ。A 数日から数週間の目盛で、点の並びに向きが出る/B 今日、食べた量・動いた量・眠った時間という出入りを変える/C 翌朝、たまっている量はほとんど動いていない/D 1点の数字に、測り方の誤差とその日の事情が混ざっているのを見る並べ替え
今日1回、5分。いま自分が使っている記録を1つ挙げる。アプリでも、手帳でも、家庭用の測定機器でも、「何も使っていない」でもよい。次の2行を書く。1行目:それが直接拾っている量は何か(動き、皮膚を通る光の変化、腕帯の圧力、自分で書いた時刻や回数、など)。2行目:そこから計算されて画面や紙に出てくる量は何か(歩数、心拍数、眠り/目覚めの判定、睡眠の段階、消費エネルギー、スコアや評点、など)。分けられない項目があれば「分からない」と書く——それも記録である。「何も使っていない」を選んだ人は、代わりに、体調について自分が普段いちばん頼りにしている手がかりを1つ書き、それが直接の観察か、そこからの推測かを分ける。体重・体脂肪・カロリーの数値は書かない。誰かの機器を評価したり、買い替えを検討したりする必要はない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Chinoy E.D., Cuellar J.A., Huwa K.E., Jameson J.T., Watson C.H., Bessman S.C., Hirsch D.A., Cooper A.D., Drummond S.P.A., Markwald R.R. (2021) 'Performance of seven consumer sleep-tracking devices compared with polysomnography', SLEEP 44(5):zsaa291 — academic.oup.com
- Fuller D., Colwell E., Low J., Orychock K., Tobin M.A., Simango B., Buote R., Van Heerden D., Luan H., Cullen K., Slade L., Taylor N.G.A. (2020) 'Reliability and Validity of Commercially Available Wearable Devices for Measuring Steps, Energy Expenditure, and Heart Rate: Systematic Review', JMIR mHealth and uHealth 8(9):e18694 — mhealth.jmir.org
- Bent B., Goldstein B.A., Kibbe W.A., Dunn J.P. (2020) 'Investigating sources of inaccuracy in wearable optical heart rate sensors', npj Digital Medicine 3:18 — www.nature.com
- Ringrose J.S., Polley G., McLean D., Thompson A., Morales F., Padwal R. (2017) 'An Assessment of the Accuracy of Home Blood Pressure Monitors When Used in Device Owners', American Journal of Hypertension 30(7):683-689 — academic.oup.com
- Prince S.A., Adamo K.B., Hamel M.E., Hardt J., Connor Gorber S., Tremblay M. (2008) 'A comparison of direct versus self-report measures for assessing physical activity in adults: a systematic review', International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 5:56 — link.springer.com
- Baron K.G., Abbott S., Jao N., Manalo N., Mullen R. (2017) 'Orthosomnia: Are Some Patients Taking the Quantified Self Too Far?', Journal of Clinical Sleep Medicine 13(2):351-354 — jcsm.aasm.org