同じ検査結果を%から人数に書き直しただけで、正しく読めた医師は21%から87%になった
検査で陽性と言われた。では、本当に病気である見込みはどれくらいか。同じ数字を渡された160人の医師のうち、この問いに最も適切な答えを選べたのは5人に1人だった。ところが数字の書き方を人数に変えただけで、ほとんどが正解した。
数字は、集める前に見せられている
前の単位では、目的感と寿命の関連が繰り返し観察されている一方で、向きが読めないことを見た。あの結論にたどり着くために要ったのは、情報の量ではなく、渡された数字の受け取り方のほうである。ここでは、その受け取り方だけを扱う。
先に持ち場を狭めておく。証拠の読み方の一般論は思考法の棚が引き受けた。この単位が扱うのは、健康情報・健診・検査結果という具体の場面で、数字がどう見せられているかに限る。
健康リテラシーという語は、ナットビームが2000年に Health Promotion International で整理した3つの水準——読み書きできる、人とやりとりできる、吟味できる——が広く使われている。ただし整理は枠組みであって、効くかどうかの証拠ではない。軸は1つでいい。要るのは情報を集める力ではなく、数字の見せられ方に耐える力である。
「陽性です」と言われた、の意味
ドイツで行われた継続研修で、160人の産婦人科医にこう尋ねた実験がある。ある地域で乳がんの検診を行う。女性が乳がんである確率は1%。乳がんの女性が陽性と出る確率は90%。乳がんでない女性が陽性と出る確率は9%。ある女性が陽性だった。彼女にとって、それはどういう意味か。
選択肢は4つ。約81%、陽性10人のうち約9人、陽性10人のうち約1人、約1%。最も適切な答えを選べたのは21%だった。多くは81%や90%を選び、答えは1%から90%までばらついた。
同じ情報を、こう書き直す。1,000人の女性のうち、10人が乳がんである。その10人のうち9人が陽性になる。がんでない990人のうち、およそ89人も陽性になる。陽性は合わせておよそ98人。そのうち本当にがんなのは9人——およそ10人に1人。
割り算は1つも変わっていない。変わったのは数え方だけである。この書き方を自然頻度と呼ぶ。%に直す前の、人数のままの数え方だ。この書き方で訓練したあと、87%が「10人に1人」を選べるようになった。
矛先は医師に向けない。%は、割り算の途中でどの母数を使ったかを消してしまう表記である。消えた母数を、受け取った側が頭の中で組み立て直さなければならない。人数のまま渡せば、その作業が要らない。問題は読む人の頭ではなく、数字の渡し方の側にある。
5年生存率という、ほとんど無関係な数字
検診の話で最もよく使われるのが5年生存率だ。ところがこの数字は、検診が命を救ったかどうかについて、ほとんど何も語らない。
67歳で見つかり、70歳で亡くなる人たちを考える。生き延びたのは3年なので、5年生存率は0%である。同じ人たちが、検診で60歳のうちに見つかったとする。亡くなるのは同じ70歳。全員が10年生きたことになり、5年生存率は100%になる。死ぬ時期は1日も動いていない。これがリードタイムと呼ばれるずれだ。
もう1つ、過剰診断がある。2010年に Journal of the National Cancer Institute へ出た総説は、これを放っておいても症状も死ももたらさなかったはずの「がん」の診断と定義した。検診で見つかったがんのうちどれくらいがこれに当たるかの推定として、乳房でおよそ25%、胸部X線や喀痰で見つかった肺でおよそ50%、PSAで見つかった前立腺でおよそ60%という数字が挙がっている。いずれも推定であり、方法によって幅が出る。放っておいても何も起きなかった人が「がんを乗り越えた人」に数えられれば、生存率は上がる。亡くなる人の数は動かない。
実際の比較がある。前立腺がんの5年生存率は、米国で98%、英国で71%。ところが死亡率は、米国で男性10万人あたりおよそ26人、英国でおよそ27人。ほぼ同じである。
念のため書いておく。この単位は、どの検査を受けるべきか、受けないべきかについて何も言わない。それは自分の体の状態を知っている人と決めることだ。気になる症状があるなら、記事を読むより受診が先である。
読み違えるのは、知識のない人だけではない
2012年に Annals of Internal Medicine へ出た調査は、米国の一次医療の医師を対象に、架空の検診の話を2つ用意した。片方は「5年生存率が68%から99%に上がった」。もう片方は「がんによる死亡が1,000人あたり2人から1.6人に減った」。
前者は検診の効果の証拠にならない。後者はなる。ところが前者を見せられたとき69%が検診を勧め、後者では23%だった。さらに、この2つの統計が「検診が命を救う証拠になるか」を一般知識として尋ねると、76%と81%が、どちらも証拠になると答えた。この差は統計的に意味のある大きさではない。そして47%が、検診を受けた集団でがんが多く見つかることは「検診が命を救う証拠だ」と答えた。対象は2010年に297人、2011年に115人である。
この結果を、医師が愚かだという話に読み替えないでほしい。同じ効果が2通りに書けて、片方だけが答えを含んでいる。書き方が答えを運んでしまうなら、受け取る側の注意力では追いつかない。
探して見つからなかった——「科学リテラシーは最大の予防ツール」
この棚の元になった資料には、こう書かれていた。科学リテラシーは最大の予防ツール。出典は付いていない。探した。
探したのは4か所。この言い回しに相当する英語表現での学術検索、米国科学アカデミーが2016年に出した科学リテラシーの報告、健康リテラシーと健康アウトカムの系統的レビュー、そして日本語での検索である。「最大の」を支える一次情報には、たどり着けなかった。
見つかったのは、もっと控えめな形だった。米国科学アカデミーの報告は、科学リテラシーのよくある尺度の平均点と、そこから期待される結果との関係について、いま手元にある証拠では強い推論はできないと書いている。2011年に Annals of Internal Medicine へ出た系統的レビューは、質が良いか中程度の96件の研究を集め、健康リテラシーの低さが、入院の多さ、救急の利用、検診や予防接種の受け方、薬の扱い、ラベルの読み取りと関連していたと報告した。ただしこれらは観察研究である。2020年に BMC Public Health へ出たレビューは、リテラシーを上げる介入の試験22件・のべ10,997人を9か国から集め、リテラシー自体は22件中15件で改善したものの、全件がバイアスの危険を抱え、うち18件は高いと判定されたと書いている。
だからこの単位は、リテラシーが最大の予防だとは書かない。書けるのは、数字の渡し方を1つ変えるだけで、正しく読めた割合が21%から87%へ動いたという一点である。
時間・変化:健康の数字は、たいてい一度しか渡されない
健診の紙、記事の見出し、診察室での説明。健康の数字は、多くの場合その場で一度きり渡され、読み返す機会が来ない。だから、渡されてから勉強しても間に合わない。間に合うのは、受け取る前に用意しておいた問いのほうである。
用意しておく問いは3つでいい。何に対する何%か。比べた相手は誰か。それは生存率か、死亡率か。この3つは時間の順に効き方が違う。渡される前に用意してあれば、その場で使える。渡された直後なら、まだ数字を書き写せる。数日たつと、手元に残っているのは数字ではなく、その数字が呼び起こした気分のほうだ。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、%という表記そのものである。母数が消えるので、頭の中で組み立て直す手間がかかり、その手間は疲れているときほど省かれる。第二の妨げは、生存率という語の手ざわりがよすぎることだ。生き延びた割合を聞いて悪い気分になる人はいない。
標本の偏りを断っておく。この単位の証拠は、欧米の医師と一般成人を対象にした調査と、短い課題の実験から採られている。日本語で同じ手続きを繰り返した研究はほとんど見当たらない。そして、観察研究で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる、という逆向きを排除できない。リテラシーの得点が高い人のほうが健康だったとしても、健康であることが読む余裕を生んでいる可能性は消せない。
助けるのは、紙とペンである。最初の一歩は5分。今日見かけた健康の数字を1つ選び、人数のまま書き直してみる。「30%減った」なら、1,000人のうち何人が何人になったのか。書き直せなければ、それはまだ読めていないということだ。読めていないと分かった状態は、読めたつもりでいる状態より、確実に先に進んでいる。
次の単位は 030「自己計測」——渡された数字を読む力の上に、自分で数字を作る話を置く。読み違いの次に来るのは、測り違いである。
- ドイツの継続研修で160人の産婦人科医に、有病率1%・感度90%・偽陽性率9%という条件で陽性結果の意味を尋ねたところ、最も適切な選択肢(陽性10人のうち約1人ががん)を選べたのは21%だった。答えは1%から90%までばらついた(Gigerenzer, Gaissmaier, Kurz-Milcke, Schwartz & Woloshin 2007, Psychological Science in the Public Interest 8(2))
- 同じ情報を自然頻度——1,000人のうち10人ががん、その10人のうち9人が陽性、がんでない990人のうちおよそ89人も陽性——に書き直すと、陽性およそ98人のうち本当にがんなのは9人、およそ10人に1人と読める。この書き方で訓練したあと、87%が正しく答えた
- 5年生存率は、検診が命を救ったかどうかをほとんど語らない。67歳で見つかり70歳で亡くなる集団の5年生存率は0%だが、同じ集団が60歳で見つかれば100%になる。死ぬ時期は1日も動いていない。これがリードタイムである
- 過剰診断は「放っておいても症状も死ももたらさなかったはずのがんの診断」である。検診で見つかったがんのうち、乳房でおよそ25%、胸部X線や喀痰で見つかった肺でおよそ50%、PSAで見つかった前立腺でおよそ60%という推定が示されている(Welch & Black 2010, Journal of the National Cancer Institute 102(9))。いずれも推定で幅がある
- 前立腺がんの5年生存率は米国98%・英国71%と大きく違うが、死亡率は男性10万人あたり米国およそ26人・英国およそ27人でほぼ同じである。生存率の差が死亡率の差を意味しない実例である
- 米国の一次医療の医師を対象にした2012年の調査(2010年297人・2011年115人)では、5年生存率が68%から99%へ上がったという無関係な証拠を見せられたとき69%が検診を勧め、がん死亡が1,000人あたり2人から1.6人へ減ったという関係のある証拠では23%だった。47%は、検診でがんが多く見つかることが命を救う証拠だと答えた(Wegwarth ら 2012, Annals of Internal Medicine 156(5))
- 「科学リテラシーは最大の予防ツール」を4か所で探したが、一次情報にたどり着けなかった。見つかったのは、米国科学アカデミー2016年報告の「いま手元にある証拠では強い推論はできない」、96件の観察研究をまとめた Berkman ら 2011、および介入試験22件・のべ10,997人のうち18件が高いバイアスの危険と判定された Walters ら 2020 である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 検査で陽性と出たなら、その病気である見込みはかなり高いはずだ | 条件による。有病率1%・感度90%・偽陽性率9%という条件で計算すると、1,000人のうちがんの人は10人、そのうち陽性は9人。がんでない990人のうちおよそ89人も陽性になる。陽性はおよそ98人で、本当にがんなのは9人、およそ10人に1人である。ドイツの継続研修でこの問いを出されたとき、160人の産婦人科医のうち最も適切な答えを選べたのは21%で、多くは81%や90%を選んだ。数え方を人数のままにして訓練したあとは87%が正しく答えた。読み違いは知識の問題ではなく、%という表記が母数を消してしまうことから起きている |
| 検診を受けた人の5年生存率が上がったのなら、検診は命を救っている | 5年生存率は、見つかった時期から数える。67歳で見つかり70歳で亡くなる集団の5年生存率は0%だが、同じ集団が検診で60歳のうちに見つかれば5年生存率は100%になる。亡くなる時期は1日も動いていない。さらに、放っておいても症状も死ももたらさなかったはずのがんが見つかれば、その人は生存率の分子に加わる。前立腺がんの5年生存率は米国98%・英国71%だが、死亡率は男性10万人あたりおよそ26人と27人でほぼ同じである。検診の効果を見るなら、生存率ではなく死亡率を見ることになる |
| 科学リテラシーを高めることが、最大の予防になる | この言い回しの一次情報を、英語の学術検索、米国科学アカデミーの2016年の科学リテラシー報告、健康リテラシーの系統的レビュー、日本語検索の4か所で探したが、たどり着けなかった。米国科学アカデミーの報告は、科学リテラシーの尺度の平均点と期待される結果との関係について、いま手元にある証拠では強い推論はできないと書いている。健康リテラシーの低さと入院や救急利用との関連を報告した96件の研究は観察研究であり、健康な人ほど読む余裕がある、という逆向きを排除できない。介入試験を集めた2020年のレビューでは、22件すべてがバイアスの危険を抱え、18件は高いと判定された |
健康の記事は、たいてい「読者に知識が足りないから誤解が起きる」という前提で書かれている。だから記事は増え続ける。ところが、正しく読めた割合を21%から87%へ動かしたのは知識ではなく、%を人数に書き直すという一行ぶんの手つきだった。それでも、あなたが次に受け取る数字は、たぶん%のままで来る。母数を消したほうが、同じ数字は大きく見えるからだ。
Q1. ドイツの継続研修で160人の産婦人科医に乳がん検診の陽性結果の意味を尋ねたところ、最も適切な選択肢を選べたのは( ① )%だった。同じ情報を人数のままの数え方に書き直して訓練したあと、正しく答えたのは( ② )%だった。穴埋め
Q2. 1,000人のうち10人が乳がんで、その10人のうち9人が陽性、がんでない990人のうちおよそ89人も陽性になる。このとき陽性はおよそ( ① )人で、そのうち本当にがんなのは( ② )人、およそ( ③ )人に1人である。穴埋め
Q3. 「5年生存率が上がったのだから検診は命を救っている」と言えない理由を、本文が挙げた2つの仕組みの名前とともに説明せよ。前立腺がんの米英比較の数字も1組挙げること。一問一答
Q4. 「科学リテラシーは最大の予防ツール」について、本文はどこを探して何が分かったと書いているか。見つかった3つの資料のうち2つを、数字を添えて挙げよ。一問一答
Q5. 米国の一次医療の医師を対象にした2012年の調査で報告された割合を、大きい順に並べ替えよ。A 検診でがんが多く見つかることは命を救う証拠だと答えた割合/B 死亡率が1,000人あたり2人から1.6人へ減ったと示されて検診を勧めた割合/C 5年生存率が68%から99%へ上がったと示されて検診を勧めた割合/D 死亡率の統計は命を救う証拠になると答えた割合並べ替え
今日1回、10分。健康に関する記事・広告・投稿を1本選ぶ。紙でも画面でもよい。まず、そこに数字がいくつ出てくるかを数えて書き出す(%・人数・年数・倍率・順位、すべて含める)。次に、その数字のうち、どこから来たかが示されているものがいくつあるかを数える。示されているとみなす条件は1つだけ——著者名か機関名と、発表年か媒体名が書いてあること。「研究によると」「専門家は」だけなら、示されていないほうに数える。最後に、数字の総数と出典つきの数の2つを並べて書き、1度読み返す。記事を批判する文章は書かなくてよい。誰かに指摘したり、投稿したりもしない。数えるだけで完了である。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Gigerenzer G., Gaissmaier W., Kurz-Milcke E., Schwartz L.M., Woloshin S. (2007) 'Helping Doctors and Patients Make Sense of Health Statistics', Psychological Science in the Public Interest 8(2):53-96 — journals.sagepub.com
- Wegwarth O., Schwartz L.M., Woloshin S., Gaissmaier W., Gigerenzer G. (2012) 'Do Physicians Understand Cancer Screening Statistics? A National Survey of Primary Care Physicians in the United States', Annals of Internal Medicine 156(5):340-349 — www.acpjournals.org
- Welch H.G., Black W.C. (2010) 'Overdiagnosis in Cancer', Journal of the National Cancer Institute 102(9):605-613 — academic.oup.com
- Berkman N.D., Sheridan S.L., Donahue K.E., Halpern D.J., Crotty K. (2011) 'Low Health Literacy and Health Outcomes: An Updated Systematic Review', Annals of Internal Medicine 155(2):97-107 — www.acpjournals.org
- Walters R., Leslie S.J., Polson R., Cusack T., Gorely T. (2020) 'Establishing the efficacy of interventions to improve health literacy and health behaviours: a systematic review', BMC Public Health 20:1040 — link.springer.com
- National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (2016) 'Science Literacy: Concepts, Contexts, and Consequences', National Academies Press, Chapter: Science Literacy in Society and the World — www.ncbi.nlm.nih.gov
- Nutbeam D. (2000) 'Health literacy as a public health goal: a challenge for contemporary health education and communication strategies into the 21st century', Health Promotion International 15(3):259-267 — academic.oup.com