「JAMA 2008年、生きがいで死亡リスク23%低下」を探した——誌名も、数字も、向きも、原典とは違っていた
引用の連鎖でいちばん長く生き残るのは、主張でも数字でもなく、権威ある誌名のほうである。中身は途中で入れ替わっても、雑誌の名前だけは最後まで運ばれる。だから、まず誌名を疑うのがいちばん早い。
目的の無い時間の、その次
前の単位では、目的のない時間を分数だけで数えた。効果ではなく量を見る、という約束でここまで来ている。この単位では、その反対側——目的があることと寿命の関連——を置く。
先に持ち場を狭めておく。生きがいの見つけ方、目標の立て方は、開運の棚と、学習と成長の棚が扱った。ここで扱うのは、目的感と健康の関連について、証拠がどこまで確かかだけである。目的の探し方は書かない。信仰に関わる話もしない。
値切り:23%とJAMAを探す
この棚の元になった設計資料には、こう書いてある。「Ikigaiが高い人は死亡リスクが23%低下(JAMA 2008)」。誌名と年と数字が揃っていて、いかにも確かめ済みに見える一文である。確かめる。
日本では、生きがいと死亡率の関連を大規模に報告した2008年の研究が2件ある。
1件目。宮城県大崎地域で40歳から79歳の43,391人を追った前向きコホートで、Psychosomatic Medicine の第70巻6号709〜715ページに載っている。設問は1つだけ——あなたには生きがいがありますか。7年の追跡で3,048人が亡くなった。多変量で調整した全死因のハザード比は、生きがいが無いと答えた人で1.5(95%信頼区間 1.3〜1.7)、はっきりしないと答えた人で1.1(1.0〜1.2)。死因別では、循環器の病気1.6(1.3〜2.0)、うち脳卒中2.1(1.6〜2.9)、肺炎1.8(1.2〜2.7)、外因1.9(1.1〜3.3)。がんは1.3(1.0〜1.6)で、はっきりした差にはなっていない。
2件目。秋田県で40歳から74歳の1,618人(男性832人、女性786人)を平均13.3年追った研究で、Journal of Epidemiology の第18巻5号191〜196ページに載っている。追跡中の死亡は249人、うち循環器の病気が63人。生きがいが強い群のハザード比は、男性で全死因0.62(0.45〜0.86)、脳卒中0.28(0.10〜0.84)、循環器の病気0.56(0.28〜1.10)。女性では有意な関連が出ておらず、著者らは死亡数が少なく検出力が足りなかった可能性を挙げている。
設計資料の一文と、原典を並べる。ずれているのは4か所である。
第一に誌名。どちらも JAMA ではない。Psychosomatic Medicine と Journal of Epidemiology である。JAMA および同系列の雑誌で、2008年に日本の生きがいと死亡率を扱った論文を探したが、たどり着けなかった。存在しないとは断定しない。ただ、確かめようとした側が行き着けない場所にある帰属は、帰属として使えない。
第二に向き。宮城の研究が主要な結果として書いているのは、生きがいが無いと答えた人でリスクが1.5倍という、上がる側の数字である。「高い人が23%低下」は、上がる側を下がる側に言い換えた形になっている。
第三に数値。23%という値は、どちらの原典にも出てこない。近いのは秋田の研究の男性の0.62で、これを%の形にするなら38%低いになる。
第四に測り方。宮城の研究の生きがいは、はい・いいえ・はっきりしないの3択で答える1問である。
生存曲線というものの読み方
この種の研究の結果は、生存曲線として描かれる。横軸に追跡した年数、縦軸に生きている人の割合を取り、群ごとに線を引く。線は最初ほぼ重なっていて、年数が経つにつれて少しずつ開く。
ここで大事なのは、開き方である。7年の追跡で3,048人が亡くなったということは、43,391人のうち93%は生きているということでもある。ハザード比1.5という数字が指しているのは、その残りの部分に生じた差だ。曲線が劇的に分かれる絵を想像すると、数字を大きく読み違える。
プールすると、いくつになるか
個々の研究ではなく、統合した値を見る。2016年に Psychosomatic Medicine へ出たメタ分析は、目的感と死亡・心血管イベントを扱った前向き研究10件・136,265人を統合した。調整後のプール相対危険度は、全死因の死亡で0.83(95%信頼区間 0.75〜0.91)、心血管イベントで0.83(0.75〜0.92)である。
0.83を%の形にすると、17%低いになる。23%ではない。もちろん統合値も、対象と測り方の異なる研究の平均にすぎない。ただ、これがいま公表されている範囲で、いちばん引用に耐える数字である。
逆因果は、著者たちが先に書いている
目的感と寿命の関連について、いちばんよく引かれる米国の研究を見る。2019年に JAMA Network Open へ出た論文は、50歳を超える米国成人6,985人(平均68.6歳)を2006年から2010年まで追い、776人の死亡を観察した。目的感が最も低い群は、最も高い群と比べてハザード比2.43(1.57〜3.75)だった。
この論文の限界の節が、この単位の核心である。著者らは、これは観察研究であり、慢性の病気や終末期の衰えが目的感を下げているという逆向きの因果が懸念として残ると書いている。追跡初期の死亡や、開始時点で慢性の病気があった人を除いた感度分析でも関連は残ったが、選択の偏りは排除できず、因果を立てるには介入試験が要る、とも書いている。
2014年に Psychological Science へ出た米国の追跡研究も、14年の追跡で目的感の高い人ほど長く生きたことを示している。この関連は、参加者の年齢にも、追跡中にどれだけ生きたかにも、退職しているかどうかにも左右されなかった。それでもやはり観察研究である。
もう一つ、向きを考えるうえで参考になる結果がある。2024年に Journal of Affective Disorders へ出た16標本・108,391人の統合解析は、目的感が高いほど主観的なストレスが低いという関連(統合推定値 −0.228、95%信頼区間 −0.292〜−0.164)を報告した。ただし著者ら自身が、統合したデータは横断であり、関連はあくまで観察的なものだと書いている。
時間・変化:残るのは誌名と数字だけ
引用の連鎖を、この単位の材料で並べ直すと、落ち方の順番が見える。まず信頼区間が落ちる。次に対象と人数が落ちる。次に測り方——1問の自己申告だったこと——が落ちる。そのあと向きが反転し、数字が丸まる。最後まで残るのは、雑誌の名前と、%のついた1つの数だけである。
落ちる順番が決まっているということは、確かめる順番も決まるということだ。誌名を疑い、次に向きを確かめ、それから数字が何に対する%かを見る。この3手で、たいていの引用は崩れるか、生き残る。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、この話を目的探しの動機に使うことである。目的感が高いほど長生き、という関連から、目的を持たねばという義務は出てこない。関連の向きが読めていないからだ。
第二の妨げは、自分の目的感を採点することだ。宮城の研究の設問は3択の1問である。1問の答えを人生の評価に使う設計には、もともとなっていない。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、日本と米国の中年以上を対象にした観察研究で採られており、無作為化試験は無い。参加開始時に元気な人ほど調査に参加し、続けられた人のデータだけが残る。そして観察で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる、という逆向きを排除できない。目的感が寿命を延ばしたのか、体が動くうちは目的を持ちやすいのか、この設計では分けられない。2019年の論文の著者たち自身が、それを限界として先に書いている。
助けるのは、目的そのものではなく、目的感がどう測られたかを毎回確かめる癖である。1問なのか、尺度なのか。それだけで数字の意味が変わる。
最初の一歩は3分。今日やったことのうち、これは自分にとって大事だと思えたものを1件書き、その理由を1行だけ書く。大事だと思えたものが無ければ、無いと書けばよい。書けないと分かること自体が結果である。
次の単位は 029「健康リテラシー」——ここでは1つの主張の帰属を原典まで戻して確かめた。その上に、健康の情報や検査の数字を、その場でどう読むかという道具を置く。
- 設計資料の「Ikigaiが高い人は死亡リスクが23%低下(JAMA 2008)」を原典で確かめると、日本では2008年に生きがいと死亡率を扱った大規模研究が2件あり、どちらも JAMA ではない。Sone ら 2008 は Psychosomatic Medicine 70(6):709-715、Koizumi ら 2008 は Journal of Epidemiology 18(5):191-196 である
- Sone ら 2008 は宮城県大崎地域の40〜79歳・43,391人を7年追跡し、3,048人の死亡を観察した。生きがいの設問は「あなたには生きがいがありますか」という3択の1問。多変量調整後の全死因ハザード比は、生きがいが無いと答えた人で1.5(95%信頼区間 1.3〜1.7)、はっきりしないと答えた人で1.1(1.0〜1.2)。つまり原典は、リスクが上がる側で書かれている
- 同じ研究の死因別ハザード比は、循環器の病気1.6(1.3〜2.0)、うち脳卒中2.1(1.6〜2.9)、肺炎1.8(1.2〜2.7)、外因1.9(1.1〜3.3)で、がんは1.3(1.0〜1.6)とはっきりした差になっていない
- Koizumi ら 2008 は秋田県の40〜74歳・1,618人(男性832人、女性786人)を平均13.3年追い、249人の死亡(うち循環器63人)を観察した。生きがいが強い群のハザード比は男性で全死因0.62(0.45〜0.86)、脳卒中0.28(0.10〜0.84)、循環器0.56(0.28〜1.10)。女性では有意な関連が出ず、著者らは死亡数の少なさによる検出力不足の可能性を挙げている。23%という数字は、どちらの原典にも出てこない
- Cohen, Bavishi & Rozanski 2016(Psychosomatic Medicine 78(2):122-133)は前向き研究10件・136,265人を統合し、調整後のプール相対危険度が全死因の死亡で0.83(95%信頼区間 0.75〜0.91)、心血管イベントで0.83(0.75〜0.92)だったと報告した。0.83を%の形にすると17%低いであり、23%ではない
- Alimujiang ら 2019(JAMA Network Open 2(5):e194270)は50歳超の米国成人6,985人(平均68.6歳)を2006〜2010年に追い、776人の死亡を観察した。目的感が最も低い群のハザード比は最も高い群に比べ2.43(1.57〜3.75)。著者らは限界の節で、観察研究であること、慢性の病気や終末期の衰えが目的感を下げるという逆向きの因果が懸念として残ること、選択の偏りを排除できず因果を立てるには介入試験が要ることを明記している
- Hill & Turiano 2014(Psychological Science 25(7))は米国の成人を14年追跡し、目的感の高い人ほど長く生きたこと、その関連が年齢にも、追跡中にどれだけ生きたかにも、退職の有無にも左右されなかったことを示した。Sutin ら 2024(Journal of Affective Disorders 345:378-385)は16標本・108,391人で、目的感が高いほど主観的ストレスが低いという関連(統合推定値 −0.228、95%信頼区間 −0.292〜−0.164)を報告したが、統合したデータは横断である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| JAMA の2008年の研究で、生きがいが高い人は死亡リスクが23%低いと示された | 日本で2008年に生きがいと死亡率を扱った大規模研究は、Psychosomatic Medicine 70(6) の宮城県大崎地域43,391人の研究と、Journal of Epidemiology 18(5) の秋田県1,618人の研究である。JAMA および同系列の雑誌で2008年の該当論文を探したが、たどり着けなかった。前者が報告した主要な結果は、生きがいが無いと答えた人の全死因ハザード比1.5(1.3〜1.7)という、リスクが上がる側の数字であり、23%という値はどちらの原典にも出てこない |
| 目的感が高いと長生きすることは、繰り返し確かめられている | 繰り返し観察されているのは関連であって、向きではない。Alimujiang ら 2019 は目的感が最も低い群のハザード比2.43(1.57〜3.75)を報告したが、同じ論文の限界の節で、慢性の病気や終末期の衰えが目的感を下げるという逆向きの因果が懸念として残ること、因果を立てるには介入試験が必要であることを著者ら自身が書いている。無作為化試験は無い |
| 生きがいがあるかどうかは、質問に答えれば測れる | 何をもって測ったかで数字が変わる。Sone ら 2008 の生きがいは、はい・いいえ・はっきりしないの3択で答える1問である。米国の研究は複数項目の尺度を使う。統合したときの値は、Cohen ら 2016 で相対危険度0.83(0.75〜0.91)——17%低い——であり、個々の研究の値ではない。1問の答えを人生の評価に使う設計には、もともとなっていない |
「JAMA 2008」という6文字には、たいへん便利な機能がある。読んだ人が確かめた気持ちになり、書いた人が確かめた証拠を示さずに済む。皮肉なのは、この6文字を運ぶ手間で原典まで戻れば、もっと面白い数字——生きがいが無いと答えた4万3千人ぶんの1.5倍と、1問だけの設問——に行き当たることだ。生きがいがあるかどうかは、3択で答えられることになっている。ずいぶん気楽な人生観だが、そう決めたのは研究者ではなく、質問紙のスペースのほうである。
Q1. Sone ら 2008 は、日本・宮城県大崎地域の40〜79歳 ____ 人を7年追跡し、3,048人の死亡を観察した。多変量調整後の全死因ハザード比は、生きがいが ____ と答えた人で ____ (95%信頼区間 1.3〜1.7)だった。穴埋め
Q2. 「Ikigaiが高い人は死亡リスクが23%低下(JAMA 2008)」という一文と原典を突き合わせたとき、ずれていた4か所を挙げよ。一問一答
Q3. Cohen, Bavishi & Rozanski 2016 が統合した値はいくつで、それは%の形にすると何%低いにあたるか。研究数と参加者数も添えて答えよ。一問一答
Q4. Alimujiang ら 2019 の著者たちが、限界の節で自ら書いている懸念を2つ挙げよ。一問一答
Q5. 本文が示した「引用の連鎖で情報が落ちる順番」として、正しいものはどれか。選択
今日やったことを思い返して、これは自分にとって大事だと思えたものを1件だけ選び、紙かメモアプリに2行書く。1行目はその行為そのもの(送った返信、片づけた場所、続けた作業、聞いた話、など。大きなことでなくてよい)。2行目は、それを大事だと思えた理由を1行だけ。理由が言葉にならなければ、言葉にならないと書く。人生の目的を書く課題ではない。将来の計画も、価値観の宣言も要らない。大事だと思えたものが1件も無ければ、無いと書けば完了である。書けないと分かること自体が結果である。誰にも見せない。誰かに何かを求めたり、自分や他人を採点したりはしない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Sone T., Nakaya N., Ohmori K. ほか (2008) 'Sense of Life Worth Living (Ikigai) and Mortality in Japan: Ohsaki Study', Psychosomatic Medicine 70(6):709-715 — se-realiser.com
- Koizumi M., Ito H., Kaneko Y., Motohashi Y. (2008) 'Effect of Having a Sense of Purpose in Life on the Risk of Death from Cardiovascular Diseases', Journal of Epidemiology 18(5):191-196 — www.jstage.jst.go.jp
- Cohen R., Bavishi C., Rozanski A. (2016) 'Purpose in Life and Its Relationship to All-Cause Mortality and Cardiovascular Events: A Meta-Analysis', Psychosomatic Medicine 78(2):122-133 — www.midus.wisc.edu
- Alimujiang A., Wiensch A., Boss J. ほか (2019) 'Association Between Life Purpose and Mortality Among US Adults Older Than 50 Years', JAMA Network Open 2(5):e194270 — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Hill P.L., Turiano N.A. (2014) 'Purpose in Life as a Predictor of Mortality Across Adulthood', Psychological Science 25(7) — journals.sagepub.com
- Sutin A.R., Luchetti M., Stephan Y., Sesker A.A., Terracciano A. (2024) 'Purpose in life and stress: An individual-participant meta-analysis of 16 samples', Journal of Affective Disorders 345:378-385 — www.midus.wisc.edu