死を意識させる、あの短い手続きを17の研究室でやり直したら、元の効果は出てこなかった
自分の死について2つの問いに短く書く。しばらく別の作業をはさむ。それから、自分の国をほめる文章の書き手をどれくらい好ましく思うかを答える。30年にわたって数百の研究で使われてきたこの手続きを、17の研究室が同じ設計でやり直した。元の効果は、出てこなかった。
測れる期間には、端がある
前の単位では、体の数字を作る機器がどこまで正しいかを見た。測れるようになったところで、測れる期間そのものには端がある——ここではその端を、静かに扱う。
先に持ち場を狭めておく。看取りや終末期の場面は、家族の棚と病気の棚が扱った。この単位が引き受けるのは、死を意識すると今日の行動が変わる、という主張の証拠がどこまで確かか、それだけである。遺言や相続の手続きには触れない。
そして、この単位は不安を売るためのものではない。読んでいて気持ちが重くなったら、途中でやめてかまわない。体の不調が続くなら受診が先だし、気持ちがつらいときには、専門の相談窓口がある。それは弱さの証明ではなく、単に別の窓口である。
よく引かれる、あの手続き
心理学に、死を扱う理論の系統がある。人は自分がいつか死ぬことを知っており、その事実を意識させられると、自分の属する集団の価値観をより強く支持するようになる——というのがおおまかな主張だ。
この主張を測るための手続きは、驚くほど短い。参加者に、自分の死について2つの問いに短く書いてもらう。次に、しばらく別の作業をはさむ。それから、自分の国をほめる文章の書き手と、けなす文章の書き手のどちらをどれくらい好ましく思うかを答えてもらう。死を意識させた側で、ほめる側への好意が強く出る。
1994年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た報告が、この形の代表とされている。米国で、心理学入門の学生59人を5つの条件へ無作為に割り当てた実験だ。効果の大きさは Cohen の d で1.34。心理学の実験としては、かなり大きい部類である。
この手続きは、その後30年にわたって数百の研究で使われた。設計資料に「死の意識が予防行動を促す」と書かれるとき、たいていこの系統が背景にある。
17の研究室で、同じ手続きをやり直す
2022年に Collabra: Psychology へ出た多施設の追試計画が、この手続きをやり直した。名前は Many Labs 4。狙いは効果の有無ではなく、別のところにあった——追試がうまくいかないとき、それは元の発見が誤りだったからなのか、追試のやり方が悪かったからなのか。この2つを分けるために、原著者の助言を受けて設計した実施条件と、各研究室が自分で組み立てた実施条件の両方を走らせた。
参加したのは17の研究室、除外のあとで1,550人。結果はこうだった。
全体をまとめた推定は Hedges の g で0.07、95%の区間はマイナス0.03から0.17。原著者の助言による実施条件でも g は0.08、区間はマイナス0.07から0.23で、どちらの条件でも効果を検出できなかった。2つの条件のあいだにも意味のある差は出ていない。
論文自身の言い方が正確だ。当初の問い——原著者が関与すれば追試の質は上がるのか——には、答えが出せなかった。どの条件でも元の結果を再現できなかったからである。
「効果が無い」とは書けない
ここで止めておかないと、行きすぎる。同じ論文がこう書いている。1件の追試の失敗は、どれほど精密に推定されていても、それまでの研究すべてを覆すものではない。ただしこの証拠は、この理論が答えるべき重要な課題を突きつけている。
文献の側の数字も並べておく。2010年に Personality and Social Psychology Review へ出たメタ分析は、164本の論文・277の実験を集め、平均の効果を相関係数 r で.35と報告した。中くらいの大きさである。一方、2025年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た系統的な再検討は、この主題の643件から825件の研究に対し、出版の偏りを補正する複数の手法をまとめてかけた。結論は歯切れが悪い——手法によって結論が食い違う。ゼロでない効果が背後にある研究もあるが、効果は非常にばらついており、多くの研究は検出力が足りず、個々の効果の多くは見かけのものかもしれない。この論文は、今後の追試は効果の大きさを r で.18程度と見込み、専門家の助言に厳密に従うべきだと勧めている。
多施設の追試で数字が小さくなるのは、この主題に限らない。2018年に Advances in Methods and Practices in Psychological Science へ出た Many Labs 2 は、28の知見を36か国・およそ125の標本・15,305人でやり直し、同じ向きで統計的に意味のある結果が出たのは15件(54%)、効果量の中央値は元の d が0.60に対して追試は0.15、75%の追試で元より小さかったと報告している。
だから、書けるのはここまでである。よく引かれるあの手続きは、そのままでは再現しなかった。死の意識が人に何もしない、という意味ではない。
整理としては使える。ただし実証ではない
2012年に Personality and Social Psychology Review へ出た総説は、死の意識が向かう先を前向きな方向へも整理した。身体の健康を大事にする、成長に向かう目標を優先する、自分の信じる基準に沿って生きようとする、支えになる関係を作ろうとする——そうした経路がありうる、という議論である。
ここは正確に書いておく。この総説は概念の整理であって、実証ではない。新しいデータを出しているわけではなく、既存の研究を並べ替えて枠組みを提案した論文だ。だから「死を意識すれば健康行動が増える」の根拠として置くことはできない。使えるのは、自分の観察を並べるときの引き出しとしてだけである。
時間・変化:残り時間の見え方は、日によって変わる
死生観という語は、一度たどり着けば完成する答えのように響く。実際に動いているのは、もっと小さいものだ。残りの時間がどれくらいに見えているかは、日によって、体調によって、直前に何を読んだかによって変わる。締切の前と後で変わる。よく眠れた朝と、眠れなかった朝で変わる。
だから、この単位で扱えるのは態度ではなく、記録である。今日の1日について書いたことは、半年後に読み返すと、そのとき自分に時間がどう見えていたかの記録になっている。そのとき何を大事だと思っていたかは、後から思い出そうとすると、たいてい今の自分に都合よく作り直される。この棚が16回書いてきたとおり、体の中も、頭の中も、自分では直接は見られない。見られるのは、書いておいたものだけだ。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、この話を強い言葉で語りたくなることである。「明日死ぬと思って生きろ」の類は、証拠の側から支えられていない。第二の妨げは逆向きで、追試で再現しなかったと聞いたとたん、この主題ごと片づけてしまうことだ。再現しなかったのは、よく引かれるあの手続きである。
標本の偏りを断っておく。この主題の証拠は、その多くが欧米の大学生を対象にした短い実験室課題から採られている。2010年のメタ分析自身が、米国の参加者と大学生で効果が大きく出ると報告していた。日本語での追試はほとんど見当たらない。そして、観察研究で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる、という逆向きを排除できない。死を意識してから行動が変わったように見える人がいたとしても、そもそも変えられる余裕のある人が、意識する余裕も持てた可能性は消せない。
助けるのは、大きな問いではなく、小さな紙である。最初の一歩は5分。今日いちばん時間を使ったことを1件だけ書き、それを1年後の自分が覚えていると思うかどうかに○か×を付ける。当てにいかなくていい。○も×も、どちらも情報である。そして、この作業で気持ちが重くなるなら、今日はここでやめてよい。やめたという記録も、立派な1件である。
次の単位は 032「習慣設計」——今日1日をどう使うかを見た上に、その使い方が明日も回る形にする話を置く。この棚の最後の1枚になる。
- よく引かれる手続きは短い。自分の死について2つの問いに短く書き、別の作業をはさみ、自分の国をほめる文章の書き手とけなす文章の書き手への好意を答える、という形である。1994年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た報告では、米国の心理学入門の学生59人を5条件へ無作為に割り当て、効果の大きさは Cohen の d で1.34だった
- Many Labs 4(Klein ら 2022, Collabra: Psychology 8(1), 論文番号35271)は、17の研究室・除外後1,550人でこの手続きをやり直した。まとめた推定は Hedges の g で0.07、95%区間はマイナス0.03から0.17だった
- 同じ追試は、原著者の助言を受けて設計した実施条件と、各研究室が自分で組み立てた実施条件の両方を走らせた。原著者の助言による条件でも g は0.08(95%区間マイナス0.07から0.23)で、2つの条件のあいだにも意味のある差は出なかった。当初の問い——原著者が関与すれば追試の質が上がるのか——には答えが出せていない。どの条件でも元の結果を再現できなかったからである
- 同じ論文が、1件の追試の失敗はどれほど精密に推定されていても、それまでの研究すべてを覆すものではないと書いている。書けるのは「よく引かれるあの手続きは、そのままでは再現しなかった」までである
- 文献の側の数字。Burke, Martens & Faucher 2010(Personality and Social Psychology Review 14(2))は164本の論文・277の実験を集め、平均の効果を相関係数 r で.35と報告した。効果は米国の参加者と大学生でより大きく出ていた
- Chen, Benjamin, Guo, Lai & Heine 2025(Journal of Personality and Social Psychology 129(1))は643件から825件の研究に複数の偏り補正の手法をかけ、手法によって結論が食い違うと報告した。ゼロでない効果が背後にある研究もあるが効果は非常にばらつき、多くの研究は検出力が足りず、個々の効果の多くは見かけのものかもしれないとして、今後の追試には r で.18程度を見込むよう勧めている
- Vail ら 2012(Personality and Social Psychology Review 16(4))は、死の意識が身体の健康や成長に向かう目標、支え合う関係へ向かう経路もありうると整理した。ただしこれは概念の整理であって実証ではなく、新しいデータを出した論文ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 死を意識させると人の行動が変わることは、有名な実験で確かめられている | その有名な手続きを17の研究室・除外後1,550人でやり直した2022年の多施設追試では、まとめた推定が Hedges の g で0.07、95%区間はマイナス0.03から0.17だった。原著者の助言を受けて設計した実施条件でも g は0.08(区間マイナス0.07から0.23)で、どちらの条件でも元の効果を検出できていない。1994年の元の報告では Cohen の d が1.34だった。ただし「効果が存在しない」とまでは書けない。論文自身が、1件の追試の失敗はそれまでの研究すべてを覆すものではないと述べている。書けるのは、よく引かれるあの手続きは、そのままでは再現しなかった、までである |
| 追試で出なかったのは、やり方が下手だったからだろう | その可能性を分けるために設計された追試だった。原著者の助言を受けた実施条件と、各研究室が自分で組み立てた実施条件の両方を走らせ、2つのあいだに意味のある差は出ていない。しかもどちらの条件でも元の結果は再現されなかったため、当初の問い——原著者の関与が追試の質を上げるのか——には答えが出せていない。多施設で数字が小さくなるのはこの主題に限らず、Many Labs 2 では28の知見をやり直して同じ向きで有意だったのは15件(54%)、効果量の中央値は元の d が0.60、追試は0.15だった |
| 死の意識が前向きな変化につながることは、レビュー論文が示している | 2012年に Personality and Social Psychology Review へ出た総説は、死の意識が身体の健康や成長に向かう目標、支え合う関係へ向かう経路もありうると整理している。ただしこれは概念の整理であって実証ではない。新しいデータを出した論文ではなく、既存の研究を並べ替えて枠組みを提案したものである。整理は、自分の観察を並べるときの引き出しとしては使えるが、効果の根拠としては置けない |
この主題の本は、たいてい強い言葉で始まる。明日死ぬと思って生きろ、終わりを知れば今日が変わる。証拠の側は、そこまで大きな声を出していない。17の研究室が同じ手続きをやり直しても、元の効果は出てこなかった。ただし、静かな側にも都合のいい話は無い——今日を何に使ったかは、覚えていようと決めなくても、勝手に減っていく。減ったことに気づくのは、たいてい後からである。だからこの単位が渡せるのは、覚悟ではなく紙1枚だ。
Q1. 2022年の多施設の追試(Many Labs 4)が、原著者の助言による実施条件と各研究室が自分で組み立てた実施条件の両方を走らせたのはなぜか。そして、その当初の問いに答えが出せなかった理由も述べよ。一問一答
Q2. 1994年の元の報告と2022年の多施設追試の、規模と効果の大きさをそれぞれ数字で挙げよ。追試の95%の区間も述べること。一問一答
Q3. 2012年に Personality and Social Psychology Review へ出た総説について、本文はどう位置づけているか。使ってよい場面と、使えない場面を分けて述べよ。一問一答
Q4. この主題について、本文が「言えること」に分類しているのはどれか。選択
Q5. 同じ主題を4つの見方で見たときの数字の組み合わせとして、正しいものはどれか。選択
今日1回、5分。今日1日のうち、いちばん時間を使ったと思うことを1件だけ書く。仕事でも、家事でも、移動でも、画面を見ていた時間でもよい。良し悪しは書かない。次に、それを1年後の自分が覚えていると思うかどうかに○か×を付ける。当てにいく必要はない——○も×も、どちらも同じだけ情報になる。最後に、そう思った理由を1行だけ書き、書いたものを1度読み返す。誰かに見せなくてよいし、今日の使い方を変える計画も立てなくてよい。書いて、読み返したら終わりである。もしこの作業で気持ちが重くなったら、途中でやめてよい。やめたと1行書けば、それで完了とみなす。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Greenberg J., Pyszczynski T., Solomon S., Simon L., Breus M. (1994) 'Role of consciousness and accessibility of death-related thoughts in mortality salience effects', Journal of Personality and Social Psychology 67(4):627-637 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Klein R.A. ほか (2022) 'Many Labs 4: Failure to Replicate Mortality Salience Effect With and Without Original Author Involvement', Collabra: Psychology 8(1), 論文番号35271 — online.ucpress.edu
- Burke B.L., Martens A., Faucher E.H. (2010) 'Two Decades of Terror Management Theory: A Meta-Analysis of Mortality Salience Research', Personality and Social Psychology Review 14(2):155-195 — journals.sagepub.com
- Chen L., Benjamin R., Guo Y., Lai A., Heine S.J. (2025) 'Managing the terror of publication bias: A systematic review of the mortality salience hypothesis', Journal of Personality and Social Psychology 129(1):20-41 — doi.org
- Klein R.A. ほか (2018) 'Many Labs 2: Investigating Variation in Replicability Across Samples and Settings', Advances in Methods and Practices in Psychological Science 1(4):443-490 — journals.sagepub.com
- Vail K.E., Juhl J., Arndt J., Vess M., Routledge C., Rutjens B.T. (2012) 'When Death Is Good for Life: Considering the Positive Trajectories of Terror Management', Personality and Social Psychology Review 16(4):303-329 — journals.sagepub.com