同じ瞑想の試験でも、比べる相手を「何もしない人」から「同じ手間をかけた人」に替えると、数字が縮む
効き目の数字は、効くものの側だけで決まると思われている。ところが、比べる相手を「何もしなかった人たち」から「同じ時間と手間を別のことに使った人たち」に替えるだけで、数字は目に見えて縮む。替わったのは介入ではなく、引き算の相手のほうである。
掲示板の裏側へ
前の単位では、皮膚や口の中や姿勢を、内側で起きていることの掲示板として読んだ。掲示板は結果であって原因ではない、というところで終わっている。ここでは、掲示板に何かが出るより前の側——上がったものが下りているかどうかを扱う。
先に持ち場を狭めておく。職場の体制や人事の仕組みとしてのストレス対策は、組織の基盤の棚が扱った。この単位で扱うのは、個人の身体反応と、その反応が下りるまでの時間だけである。そしてこれは医療の話ではない。眠れない日・食べられない日・気分が戻らない日が続いているなら、この単位を読むより先に受診するほうがよい。
上がることではなく、下りないこと
締切の前に心拍が上がるのは、体が力を出すための反応である。血圧が上がり、糖が動員され、免疫の配置が変わる。ここまでは仕組みとして分かっている。問題は上がることではなく、上がったものが下りるかどうかのほうにある。
下りきらないうちに次が乗ると、体は上がった状態のほうを平常として扱いはじめる。だからこの単位で数えるのは、出来事の強さではなく、下りるまでの時間である。
目安の数字は無い。「1日何分の休息を挟めば足りる」という基準を査読された研究のなかに探しても、たどり着けない。無いものは無いと書く。この棚では、無い数字を作らない。
値切り:47試験を、同じ手間の別の活動と並べる
瞑想プログラムの効果は、この10数年でいちばん多く引用された健康の主張の一つである。原典に当たる。
米国・2014年に JAMA Internal Medicine へ出た系統的レビューとメタ分析は、瞑想プログラムの無作為化試験を集めた。採用されたのは47試験、参加者は3,515人。この研究の要点は、集めた試験の選び方にある。比較の相手を、待機や無介入ではなく、時間も手間も同じくらいかかる別の活動——教育・運動・支持的な話し合いなど——に置いた試験を中心に見た。
結果はこうだった。マインドフルネス瞑想は、不安で8週時点の標準化平均差0.38(95%信頼区間 0.12〜0.64)、3〜6か月時点で0.22(0.02〜0.43)。抑うつは0.30(0.00〜0.59)と0.23(0.05〜0.42)。痛みは0.33(0.03〜0.62)。この3つについて証拠の質は中程度と評価された。ストレスや苦痛、心の健康に関わる生活の質については低い。前向きな気分・注意・物質の使用・食習慣・睡眠・体重については、効果が無いという低い評価か、判断するには不十分という評価だった。
そして、いちばん引用されない一文がここにある。運動・筋弛緩・認知行動療法といった具体的な治療法より瞑想プログラムのほうが優れている、という証拠は見つからなかった。
0.38という数字は、小さい。だが小さいことより大事なのは、この0.38が「何と比べた0.38か」である。
比べる相手を替えると、どれだけ縮むか
思考法の棚から、この単位に渡されている素材が一つある。対照群の置き方で効果量が変わる、という一点だけを借りる。
2017年に Current Directions in Psychological Science へ出た論文は、ある訓練が訓練していない別の能力にまで効くか(遠転移)を調べたメタ分析の結果を、対照群の種類ごとに並べ直した。音楽の訓練では、何もしない対照群と比べたときの効果量が0.25(95%信頼区間 0.17〜0.34、研究数64)だったのに対し、同じくらい手間のかかる別の活動をした対照群と比べると0.03(−0.07〜0.12、研究数54)まで落ちた。作業記憶の訓練でも0.18から0.05へ落ちている。
訓練の中身の話には立ち入らない。借りるのは形だけである。同じ介入・同じ参加者でも、引き算する相手を替えると、残る数字が変わる。何もしなかった人たちを相手にすると、そこには「何かをした」という事実そのものの効果、期待、通う手間、人と会うこと、記録をつけること——介入の中身とは別の要素がまるごと残る。
この形は、瞑想の研究でも同じように出ている。2022年に Perspectives on Psychological Science へ出た総まとめは、無作為化試験のメタ分析44件(延べ336試験・30,483人)を横断して整理した。マインドフルネスに基づく介入は、受動的な対照に対してはほぼどの領域でも優位で、効果量は0.10から0.89まで幅があった。だが能動的な対照に対しては、効果は総じて小さく、統計的に意味のある差になることも少なかった。研究が足りないのではない。336試験あってもこうなる。
構造まで揃えて比べた1件
メタ分析は集めた試験の平均である。1件だけ、対照の作り込みが徹底している試験を見る。
2013年に Brain, Behavior, and Immunity へ出た米国の試験は、8週間のマインドフルネス低減プログラムに対して、健康増進プログラムという能動的な対照を新しく作った。週2.5時間の講義を8回、終日の会も1回、自宅での課題は毎日45〜60分。指導者の熟練度も揃える。違うのは中身だけ、という形にした。参加者は49人(介入25人、対照24人)。
結果は、読み方の練習にちょうどよい。自己申告の心理的な苦痛も、不安の症状も、身体症状の数も、両群とも同じように改善し、群間の差は出なかった。ストレスを与えたときのコルチゾール反応にも差は出ていない。差が出たのは、皮膚に炎症を起こさせたときの反応の広がりという、ごく限られた指標だけだった。
設計の元になった資料には「マインドフルネスで炎症マーカーが低下」という一文が置かれている。原典に当たると、こうなる。同じ手間の対照を置いた49人の試験で、心理的な自己申告には差がなく、限られた生理指標に差が出た。この一文は、間違ってはいない。ただ、落ちている情報のほうが多い。
時間・変化:550塩基対は、12年後にどうなったか
もう一つ、この単位でよく引かれる数字がある。慢性のストレスがテロメア——染色体の端にある、細胞分裂のたびに短くなる部分——を縮める、という話である。
出どころは、2004年に PNAS へ出た米国の研究だ。参加者は閉経前の健康な女性58人。うち39人は慢性の病気を持つ子を介護する母親、19人は健康な子の母親である。自覚するストレスがいちばん高い群のテロメアは平均3,110塩基対、いちばん低い群は3,660塩基対。差はおよそ550塩基対で、著者らはこれを「少なくとも10年分の加齢に相当する」と書いた。
この研究は横断——ある一時点で測ったもの——である。著者ら自身が、自覚するストレスとテロメア長は因果の関係かもしれないし相関にとどまるかもしれない、と本文に書いている。ストレスがテロメアを縮めたのか、体の状態がストレスの感じ方を変えたのか、この設計では向きが読めない。
12年後を見る。2016年に Brain, Behavior, and Immunity へ出たメタ分析は、この主題の研究23件を洗い、うち22件・8,948人を統合した。著者には2004年の研究の筆頭著者も入っている。年齢で調整したうえでの相関はマイナス0.06(95%信頼区間 −0.10〜−0.008)。関連は統計的にはあるが、テロメア長のばらつきのうち自覚するストレスで説明できるのは1%に満たない。そして、対象となった研究はすべて横断だった。著者らは、研究ごとのばらつきが大きいこと、出版の偏りや標本サイズの影響が結果の一部を作っている可能性を、自分たちで書いている。
2004年の550塩基対は、間違った測定ではない。ただ、1件の小さな横断研究の値が、その後12年ぶんの研究を集めた値とこれだけ違うということである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、効果量の数字を単体で覚えることである。0.38も0.03も、それだけでは何も意味しない。必ず「何と比べたか」がくっついている。
第二の妨げは、この読み方を人の実感に向けることだ。能動的な対照と比べて差が出ないことと、その人にとって役に立たないことは、別である。メタ分析が答えているのは「その中身に固有の上乗せがあるか」であって、「あなたに合うか」ではない。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠の多くは、欧米の成人を対象に、8週間から6か月という短い期間で、自己申告の尺度と血中の指標を主な物差しとして採られている。日本人を対象にした追試はほとんど見当たらない。そして観察で見えた関連は、健康な人ほどその習慣を持てる、という逆向きを排除できない。落ち着いている人ほど静かに座る時間を作れる、という向きが同じデータから読める。
助けるのは、下りたかどうかを1日1回だけ確かめることである。上がった回数は数えなくていい。下りた瞬間だけを数える。
最初の一歩は3分。今日、緊張が下りたと感じた瞬間を1件だけ思い出し、その直前に何をしていたかを1行書く。思い出せなければ、思い出せないと書く。書けないと分かること自体が結果である。くり返すが、症状が続いているなら、記録より受診が先である。
次の単位は 026「社会的接触」——ここでは自分の中で上がったものが下りるかを見た。その上に、下ろす相手が外にいるかどうかを置く。ただし扱うのは友情ではなく、死亡率という健康のアウトカムのほうである。
- Goyal ら 2014(JAMA Internal Medicine 174(3):357-368)は、瞑想プログラムの無作為化試験47件・参加者3,515人を集め、時間も手間も同じくらいかかる別の活動を対照にした場合の効果を推定した。マインドフルネス瞑想の効果量は、不安が8週で0.38(95%信頼区間 0.12〜0.64)、3〜6か月で0.22(0.02〜0.43)、抑うつが0.30(0.00〜0.59)と0.23(0.05〜0.42)、痛みが0.33(0.03〜0.62)で、いずれも証拠の質は中程度と評価された
- 同じ2014年のメタ分析で、ストレスや苦痛、心の健康に関わる生活の質については証拠の質が低いと評価された。前向きな気分・注意・物質の使用・食習慣・睡眠・体重については、効果が無いという低い評価か、判断するには不十分という評価だった。運動・筋弛緩・認知行動療法といった具体的な治療法より優れているという証拠は見つかっていない
- Sala & Gobet 2017(Current Directions in Psychological Science 26(6):515-520)は、遠転移の効果量を対照群の種類で並べ直した。音楽の訓練では、何もしない対照と比べると0.25(95%信頼区間 0.17〜0.34、研究数64)だった効果量が、同じくらい手間のかかる活動をした対照と比べると0.03(−0.07〜0.12、研究数54)まで縮んだ。作業記憶の訓練では0.18から0.05へ縮んでいる
- Goldberg ら 2022(Perspectives on Psychological Science 17(1):108-130)は、マインドフルネスに基づく介入の無作為化試験のメタ分析44件、延べ336試験・30,483人を横断して整理した。受動的な対照に対してはほぼどの領域でも優位(効果量0.10〜0.89)だったが、能動的な対照に対しては効果は総じて小さく、統計的に意味のある差になることも少なかった
- Rosenkranz ら 2013(Brain, Behavior, and Immunity 27:174-184)は、8週間のマインドフルネス低減プログラムに対し、週2.5時間8回・終日1回・自宅課題45〜60分という構造まで揃えた健康増進プログラムを対照に置いた。参加者49人(介入25人、対照24人)。自己申告の心理的苦痛・不安・身体症状はどちらの群も同じように改善し、群間差は出なかった。差が出たのは皮膚の炎症反応という限られた指標だけだった
- Epel ら 2004(PNAS 101(49))は、閉経前の健康な女性58人(慢性の病気を持つ子を介護する母親39人、健康な子の母親19人)を対象に、自覚するストレスの高い群のテロメアが平均3,110塩基対、低い群が3,660塩基対で、差はおよそ550塩基対だったと報告した。著者ら自身が、因果か相関かは決められないと本文に書いている横断研究である
- Mathur ら 2016(Brain, Behavior, and Immunity 54:158-169、2004年の研究の筆頭著者も共著)は、この主題の22件・8,948人を統合し、年齢を調整した相関はマイナス0.06(95%信頼区間 −0.10〜−0.008)だったと報告した。テロメア長のばらつきのうち自覚するストレスで説明できるのは1%に満たず、対象となった研究はすべて横断だった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| マインドフルネスがストレスに効くことは、メタ分析ではっきり確かめられている | Goyal ら 2014 が47試験・3,515人を集めて出した数字は、不安0.38(8週)と0.22(3〜6か月)、抑うつ0.30と0.23、痛み0.33で、いずれも小さく、証拠の質は中程度である。しかもこれは、時間も手間も同じくらいかかる別の活動を対照にしたときの上乗せ分にすぎない。ストレスや心の健康に関わる生活の質では証拠の質は低いと評価され、運動や認知行動療法より優れているという証拠は見つかっていない |
| 効果量が小さいのは、研究の数がまだ足りないからだ | Goldberg ら 2022 は、メタ分析44件・延べ336試験・30,483人を横断して整理した。それだけの量があっても、受動的な対照に対しては効果量0.10〜0.89で優位、能動的な対照に対しては総じて小さく有意になりにくい、という形は変わらない。Sala & Gobet 2017 が示したのも同じ形で、音楽の訓練の遠転移は0.25から0.03へ、比べる相手を替えるだけで縮んだ。量ではなく、引き算の相手の問題である |
| 慢性のストレスはテロメアを縮めることが分かっている | よく引かれる Epel ら 2004 は、女性58人を一時点で測った横断研究で、高ストレス群3,110塩基対、低ストレス群3,660塩基対という差を報告したものである。著者ら自身が、因果か相関かは決められないと書いている。12年後に同じ筆頭著者も加わって22件・8,948人を統合した Mathur ら 2016 では、年齢調整後の相関はマイナス0.06で、テロメア長のばらつきの1%も説明できていない |
ストレス対策の売り文句には、たいへん都合のよい性質がある。効いたと感じた人は感想を書き、効かなかった人は黙ってやめるので、世に出る報告は最初から片側だけになる。皮肉なのは、この分野でいちばん強い証拠が示しているのが、中身ではなく比べ方の力だということだ。同じ時間、同じ手間、同じ通う回数——それだけで人はいくらか良くなる。何もしないよりは、たいてい何かをしたほうがいい。ただしそれは、あなたが選んだその何かが特別だった、という意味ではない。
Q1. Goyal ら 2014 は、瞑想プログラムの無作為化試験 ____ 件・参加者3,515人を集め、時間も手間も同じくらいかかる別の活動を対照にした場合の効果を推定した。マインドフルネス瞑想の効果量は、不安が8週で ____ 、抑うつが8週で0.30、痛みが ____ で、いずれも証拠の質は中程度と評価された。穴埋め
Q2. Sala & Gobet 2017 が示した「音楽の訓練の遠転移」の効果量は、対照群を替えるといくつからいくつへ縮んだか。対照群の種類も添えて答えよ。一問一答
Q3. Rosenkranz ら 2013 の試験で、構造まで揃えた対照と比べて「差が出なかった」のはどの種類の指標か。2つ以上挙げよ。一問一答
Q4. Epel ら 2004 のテロメアの研究について、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. 本文が「効果量の読み方」として並べた3つの手順を、順に並べよ。(証拠の質の評価を見る/効果量の数字を見る/何と比べた数字かを確かめる)並べ替え
今日1日を思い返して、体の緊張が下りたと感じた瞬間を1件だけ選ぶ。肩の力が抜けた、息が深くなった、はりつめていたものがゆるんだ——どんな言い方でもよい。紙かメモアプリに2行書く。1行目は、その瞬間がいつごろで、どんな感じだったか。2行目は、その直前に自分が何をしていたか(座っていた、湯を沸かしていた、電車を降りた、通知を見るのをやめた、など)。上がった回数は数えなくてよい。下りた瞬間だけを1件書く。思い出せなければ、思い出せないと書く。書けないと分かること自体が結果である。誰にも見せない。誰かに何かを頼んだり、環境を変えるよう求めたりはしない。体を動かす必要はない。なお、眠れない日・食べられない日・気分が戻らない日が続いているなら、この記録より受診が先である。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Goyal M., Singh S., Sibinga E.M.S. ほか (2014) 'Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis', JAMA Internal Medicine 174(3):357-368 — www.ncbi.nlm.nih.gov
- Sala G., Gobet F. (2017) 'Does Far Transfer Exist? Negative Evidence From Chess, Music, and Working Memory Training', Current Directions in Psychological Science 26(6):515-520 — journals.sagepub.com
- Goldberg S.B., Riordan K.M., Sun S., Davidson R.J. (2022) 'The Empirical Status of Mindfulness-Based Interventions: A Systematic Review of 44 Meta-Analyses of Randomized Controlled Trials', Perspectives on Psychological Science 17(1):108-130 — journals.sagepub.com
- Rosenkranz M.A., Davidson R.J., MacCoon D.G. ほか (2013) 'A comparison of mindfulness-based stress reduction and an active control in modulation of neurogenic inflammation', Brain, Behavior, and Immunity 27:174-184 — www.sciencedirect.com
- Epel E.S., Blackburn E.H., Lin J. ほか (2004) 'Accelerated telomere shortening in response to life stress', Proceedings of the National Academy of Sciences 101(49) — www.pnas.org
- Mathur M.B., Epel E., Kind S. ほか (2016) 'Perceived stress and telomere length: A systematic review, meta-analysis, and methodologic considerations for advancing the field', Brain, Behavior, and Immunity 54:158-169 — escholarship.org