組織の基盤
ミッション明確性
優れた組織の共通点は必ず見つかる——うまくいかなかった組織は、社史を残さないからだ
ミッション文と組織成果の関係を14件の研究から集計したベルギーの研究チームのメタ分析では、全体の相関は .22 だった。ただし硬い財務指標で測った研究では .135、主観的な業績評価で測った研究では .338 と、測り方だけで2倍以上に動く。この単位が扱うのは、存在理由が明文化されていることと、日常の判断で実際に参照されていることが別物だ、という一点である。
ビジョン共有性
共有できているかは、全員が同じ言葉を言えるかではなく、別々に書いたときどれだけ食い違うかで分かる
米国で2010年に発表された、65件の研究・231の相関・3,738チームを集計したメタ分析では、チームの認知と成果の相関は .38 だった。ただし主観的な成果指標では .44、客観的な成果指標では .31。しかも「同じことを考えている」という類似性で測ると .29 から .32 まで下がる。この単位は、共有を声の一致ではなく、書いたときの食い違いの数で見る。
コアバリュー浸透
良い文化が業績を生むのではなく、業績が良いと文化が良く見える——8年分のデータが示した向き
米国で1987年から1995年までの8年間、最大35社の従業員態度と財務指標を突き合わせた研究では、総資産利益率や1株当たり利益が翌期の職務満足を予測する向きのほうが強かった。人と組織の適合と離職意思の相関も、本人の感じで測ると −.52、実際の価値の差で測ると −.19。この単位が扱うのは、掲げた行動原則が今日の判断で使われたかどうか、という一点である。
組織アイデンティティ
組織に強く同一化している人ほど、組織のために嘘をつくことに寛容だった
米国で2010年に発表された研究は、組織への同一視が強い人ほど、組織の利益になるなら社会の道徳規範に反する行動をとることに肯定的だと報告した。ただしそれは、互恵に対する信念が強い人でとくに顕著という交互作用として示されている。この単位が扱うのは、「私たちは何者か」が安定していることの効用と、同時に発生する代償である。
役割・権限の流動的明確性
「役割を明確にすれば成果が上がる」は言いすぎだ——上がるのは、本人の落ち着きのほうである
米国・2000年に発表されたメタ分析では、役割の曖昧さと職務成果の相関は -.21、役割の葛藤に至っては -.07 だった。米国・1983年のメタ分析では、上司が評定した成果との相関は曖昧さが -.10、葛藤が -.09。いっぽう満足度や組織コミットメントとの関係はもっと大きい。役割を書き出すことは、成果を上げる手続きというより、人が消耗しないための手続きである。
情報流通の健全性
中国南部の従業員約14,000人の携帯電話工場で2009年に行われた実地実験では、16ラインの2交代=32のライン交代のうち4つをカーテンで囲った。不良のない1時間あたりの生産数は、最初の1週間のあと最大で10から15%増え、28の対照を5か月間上回り続けた。観察されている状態では、工夫は「言われた通りにやっていない」と読まれる。だから隠れる。
資源配分の公正性
配分そのものより、どう決めたかを説明できるかで、組織への評価は決まる
米国・2001年に発表された183研究のメタ分析では、組織コミットメントとの相関は手続きの公正が .48、分配の公正が .42。権威への評価では .56 と .53 で、いずれも手続きのほうが強い。いっぽう、受け取った結果そのものへの満足では分配 .52 が手続き .40 を上回る。よく引かれる「不公正は公正の2倍以上効く」という数字のほうは、一次情報にたどり着けなかった。
システム的整合性
Aを望みながらBに報いる——この分野で数少ない因果の証拠は、インドの繊維工場から来た
インドの綿織物工場を対象にした無作為割り付けの実験では、17社28工場のうち20工場を実験に使い、経営の慣行を整えた工場の生産性が初年度に17%上がった。不良は43%減り、在庫はおよそ22%減った。この分野は相関の海だが、ここには因果の証拠が1つある。いっぽう、7Sの整合度が高い組織は変革の成功率が高いという調査のほうは、一次情報にたどり着けなかった。
組織内信頼
74%を探しにいくと、査読された版には別の数字が書いてあった
高信頼の組織ではストレスが74%低く生産性が50%高い、という数字が流通している。同じ著者の査読された論文にたどり着くと、74%は見当たらず、慢性ストレスは中位から最上位へ移った場合に34.5%低い、という別の数字だった。心理的安全性の原典は米国の家具製造業1社・51チーム・427人の調査で、示されたのは主に学習行動との関係である。136標本のメタ分析でも、関係が強いのは満足やコミットメントのほうだった。
承認・貢献の可視性
尺度を作った会社が、尺度の効果を測っている——それでも承認は効く、ただし別の理由で
米国で2002年に発表された事業単位のメタ分析は、7,939の事業単位・36社・198,514人を集計し、従業員のエンゲージメントと成果の真値相関を、顧客満足 .33、生産性 .25、収益性 .17 と報告した。尺度は分析した会社の著作権つきの独占物で、著者らは因果関係については論じていないと明記している。いっぽう128の実験を集めたメタ分析では、有形の報酬は内発的な動機を下げ、言語的な承認は下げなかった。
対話・異論の文化
集団思考という有名な枠組みは、事例研究から生まれた。1998年のレビューは、実験室での支持が部分的にとどまり、とくに凝集性が高いほど起きるという中心的な予測は一貫して支持されていないとまとめている。代わりに残るのは、ドイツで行われた実験群だ。批判するなというルールのもとで一緒に話した集団より、同じ人数が別々に考えたほうがアイデアは多く、異論を持ち込む一人がいる集団のほうが正しい答えに届いた。
所属・関係の充足
2018年に発表された316研究・約105万人のメタ分析では、実際の離職との関係が最も強いのは、辞めることを考えているかどうか(.56)、次いで職探しの行動(.40)だった。職務満足は -.28、組織コミットメントは -.29、同僚との関係は -.14 である。いっぽう1995年の帰属欲求のレビューは、必要なのは一定の最小限の数の安定した関係で、それを超えると効果は逓減すると書いている。
学習・実験の制度化
「振り返りで成果が約25%上がる」は本当だった。ただし、隣に貼られていた論文は別の話をしていた
米国で2013年に発表されたメタ分析は、46標本・2,136人を統合し、振り返りを行った群は対照群より成果が約25%高い(d=.67)と報告した。ただし但し書きが付く——構造があること、進行役がいること、狙いと測る水準がそろっていること。そしてこの25%は、しばしば別の論文の名前を付けたまま流通している。
変化適応力
「組織変革の70%は失敗する」——この数字の出どころを5つ遡った人がいる。どれも空だった
英国で2011年に発表された論文は、70%という失敗率が引かれている公刊物を5件たどり、有効で信頼できる実証的根拠は存在しないと結論した。置き換えられる証拠のほうははっきりしている——1948年から2007年までの79の量的研究をまとめたレビューによれば、人の反応を分けるのは変化の中身よりも、事前に知らされていたか、決める場に居たか、という手続きのほうである。
倫理・持続可能性の規範
行動規範があるかどうかは、ほとんど何も予測しない。予測するのは、破られたときに何が起きたかだ
30年ぶんの研究を統合した米国・2010年のメタ分析では、行動規範が存在するかどうかと非倫理的な選択との関連は −0.038 でほぼゼロにとどまり、規範が実際に運用され違反が罰せられているかどうかとの関連は −0.459 だった。負の値は非倫理的な選択が少ないという意味である。掲げることと守られることのあいだには、この開きがある。
組織再生力(レジリエンス)
レジリエンスという言葉を、危機の前に何を余らせておいたかの台帳に置き換える
組織のレジリエンス研究を1977年から2014年まで339件たどったレビューは、定義も測り方も流れごとに違い、将来の逆境への耐性を前もって検出する実証はほとんど無いと述べている。測れているのは、危機が来たあとの落ち込みの深さと、戻るまでの時間の2つだけだ。そしてその2つを分けた米国963社の分析が指していたのは、危機の後にできることではなく、危機の前に何を余らせていたかだった。