Aを望みながらBに報いる——この分野で数少ない因果の証拠は、インドの繊維工場から来た
掲げた目的と、実際に評価されているもの。この2つが食い違っている組織は珍しくない。珍しくないどころか、食い違っていない状態のほうが、保守を続けないと維持できない。
3本置いたので、噛み合っているかを見る
前の単位までで、誰が何を決めるか、情報がどこを通るか、限られた資源をどう割り振るかという構造の3本を置いた。ここでは、その3本が掲げた目的とちゃんと噛み合っているかを点検する仕組みを載せる。
整合性という言葉は大げさに聞こえるが、点検する対象は1つしかない。掲げている目的と、実際に評価されている行動が、同じ方向を向いているかどうかである。
Aを望みながら、Bに報いる
1975年に Kerr が Academy of Management Journal へ発表した論文は、この現象に名前を与えた。人は何が報われるかについての情報を探し、報われる行動をやろうとする——少なくともやっているように見せようとする——のであって、報われない行動はほとんど排除される。だから、望んでいる行動と報いている行動がずれていれば、組織は望んでいないほうへ正確に進む。
厄介なのは、この食い違いが悪意からではなく、測りやすさから生まれることだ。測りやすい行動は数えられ、数えられたものは評価に入り、評価に入ったものが増える。測りにくい行動——長い目で見た顧客との関係、あとから効いてくる整備、誰かの失敗の穴埋め——は、そのあいだ静かに減っていく。
公的な領域には、この形の記録がよく残っている。Bevan と Hood が2006年に Public Administration へ発表した研究は、英国の公的医療で使われた目標と説明責任による統治を検討し、その前提には、部分の指標を全体の代わりに扱ってしまうことと、測定と操作の問題を軽く見ることの2つがあると論じた。そして、報告された達成と並んで、測定の困難と、指標を満たすための操作の記録を並べてみせた。ここでも矛先は個人ではない。指標が1つ立つと、そこへ向かって行動が寄る、というだけである。
値切り:7Sの整合度が変革の成功率を上げる、という調査
組織の整合性というと、ほぼ必ず7つのSの枠組みが出てくる。原典は、Waterman・Peters・Phillips が1980年に Business Horizons へ発表した論文で、戦略・構造・システム・スタイル・人材・スキル・上位の目標という7つを挙げている。
この枠組み自体は便利だ。問題は、そこにたいてい添えられている数字のほうである——7つの整合度が高い組織は変革の成功率が有意に高い、という形の調査結果。この一次情報を探した。原典の論文には効果検証はない。著者たち自身が、教育とワークショップと実際の問題解決の中で試して有用だと分かった、と書いている。つまり枠組みの提示である。経営学の主要誌と学術検索、そして枠組みを広めた側が公開している資料にも当たったが、整合度と変革の成功率を測った査読された一次情報にはたどり着けなかった。
ついでに1文だけ。この枠組みの著者の1人が書いた優良企業の共通点の本は、成功した企業を先に選んでから共通点を数える形をしている。この棚の入口で扱った手つきそのものなので、ここでは繰り返さない。
相関しかない分野に、1つだけある因果の証拠
この棚でずっと言ってきたとおり、組織の研究のほとんどは相関である。制度を作った側が作った尺度に、制度の中にいる人が答える。だから向きが分からない。
この単位が置くのは、その例外である。Bloom・Eifert・Mahajan・McKenzie・Roberts が2013年に The Quarterly Journal of Economics へ発表した研究は、インドのムンバイ近郊の綿織物工場を対象に、経営の慣行そのものを無作為に割り付けた。参加したのは17社・28工場で、うち20工場を実験に使い、14工場に4か月の実装支援を、6工場を対照とした(診断の1か月はどちらにも入っている)。
結果は、処置した工場の生産性が初年度に17%上がった、というものである。内訳では不良が43%減り、在庫がおよそ22%減り、産出がおよそ9%増えた。1工場あたりの年間利益は、およそ325,000米ドル増えたと推計されている(インド・2013年発表、米ドル建て)。
入れた中身は、驚くほど地味だ。機械の予防保全の記録、不良の原因の記録、在庫の置き場と数量の管理、誰が何の担当かの明示。この棚の緑の4単位でやってきたことと、ほとんど同じ種類のものである。
この研究には、もう一つの読みどころがある。同じ著者たちが2020年に American Economic Journal: Applied Economics へ発表した追跡では、9年後に採用された慣行のおよそ半分が捨てられていた。企業をまたいだ広がりは少なく、同じ企業の別の工場への広がりは多かった。理由として挙がったのは、経営を担う人の離職と、役員の時間の不足である。
横断のデータのほうも見ておく。Bloom と Van Reenen が2007年に The Quarterly Journal of Economics へ発表した研究は、米国・フランス・ドイツ・英国の中規模企業732社を面接で採点し、経営慣行の得点が生産性・収益性・生存と結びつくことを示した。さらに、悪い経営が残る条件も特定している——競争が弱いこと、そして長子相続で経営を継いでいることである。
時間・変化:整合は、達成する状態ではなく保守する作業である
上の9年後の追跡が示すとおり、整合は放っておくと外れる。外れ方には順番がある。
第一に、人が入れ替わると外れる。慣行は文書ではなく人に載っているので、担当者が変わると、なぜそうしていたかが消える。
第二に、忙しくなると外れる。整合の保守は、それ自体が成果に見えない作業だからだ。切ったことが見える形で表れるのは、たいてい数か月後である。
第三に、うまくいくと外れる。うまくいっている理由は説明されないまま、目立つ指標だけが残り、その指標を上げる行動が増える。ここで最初の食い違いが生まれる。
だから点検は、問題が起きたときではなく、暦で回すほうがよい。四半期に一度、掲げた目的と、実際に褒められた行動を並べて眺めるだけでいい。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、食い違いを誰かの不誠実として読む癖である。Kerr が書いたとおり、人は報われる行動を選ぶ。それは適応であって、性格ではない。制度を作った側にも、その中にいる側にも、非があるとは限らない。
第二の妨げは、整合を一度で完成させようとすることだ。整合は状態ではなく作業である。
証拠の偏りも断っておく。インドの実験の対象は、従業員が数百人規模の工場である。ここで挙げた他の研究も、米国と西欧の数百人以上の組織のものだ。あなたの組織が30人以下なら、そのまま当てはまる保証はない。しかも工場の生産性は測りやすい部類の成果で、測りにくい仕事にそのまま移せるわけでもない。日本の雇用慣行と評価の仕組みも違う。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、点検を組織の単位ではなく自分の単位に落とすことだ。組織全体の整合は権限がないと動かせないが、自分が評価される基準と、組織が掲げる目的の食い違いは、今日1枚の紙で見える。
最初の一歩は10分。自分が評価される基準を1つ書き、それが組織の掲げる目的と食い違う点を1つ書き、書いたものをそのまま読み返す。読み返して、その食い違いが自分の行動のどこに出ているかを1行足す。誰にも見せなくていい。
ここまでで、構造・仕組みの4本——決定権、情報、資源、そして整合の点検——が置けた。次の単位は 169「組織内信頼」——ここから先は、その構造の上で人がどう振る舞うかという、関係と文化の話に移る。構造が同じでも、言えることと言えないことは組織によって違う。
- Bloom, Eifert, Mahajan, McKenzie & Roberts 2013(The Quarterly Journal of Economics 128(1):1-51)は、インドのムンバイ近郊の綿織物工場17社28工場のうち20工場を実験に使い、14工場に4か月の実装支援を、6工場を対照とした。経営の慣行を整えた工場の生産性は初年度に17%上がった
- 同じ実験の内訳では、不良が43%減り、在庫がおよそ22%減り、産出がおよそ9%増えた。1工場あたりの年間利益はおよそ325,000米ドル増えたと推計されている(インド・2013年発表、米ドル建て)。組織の慣行を無作為に割り付けて測った、この分野では珍しい因果の証拠である
- Bloom, Mahajan, McKenzie & Roberts 2020(American Economic Journal: Applied Economics 12(2):198-219)の9年後の追跡では、採用された慣行のおよそ半分が捨てられていた。企業をまたいだ広がりは少なく、同じ企業の別工場への広がりは多かった。理由に挙がったのは経営を担う人の離職と役員の時間不足である
- Kerr 1975(Academy of Management Journal 18(4):769-783)は、人は何が報われるかの情報を探し、報われる行動をやろうとする(少なくともやっているように見せようとする)のであって、報われない行動はほとんど排除されると論じた。望む行動と報いる行動がずれていれば、組織は望まないほうへ正確に進む
- 7つのSの原典は Waterman, Peters & Phillips 1980(Business Horizons 23(3):14-26)で、戦略・構造・システム・スタイル・人材・スキル・上位の目標を挙げた枠組みの提示である。著者たち自身が、教育とワークショップと問題解決の中で試して有用だと分かったと書いている。整合度が変革の成功率を上げるという調査の一次情報には、経営学の主要誌・学術検索・枠組みを広めた側の公開資料を探してもたどり着けなかった
- Bevan & Hood 2006(Public Administration 84(3):517-538)は、英国の公的医療における目標と説明責任による統治が、部分の指標を全体の代わりに扱うことと、測定と操作の問題を軽視することの2つを前提にしていると論じ、達成の報告と並んで測定の困難と指標を満たすための操作を記録した
- Bloom & Van Reenen 2007(The Quarterly Journal of Economics 122(4):1351-1408)は、米国・フランス・ドイツ・英国の中規模企業732社を面接で採点し、経営慣行の得点が生産性・収益性・生存と結びつくことを示した。悪い経営が残る条件は、競争が弱いことと、長子相続で経営を継いでいることだった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 7つのSの整合度が高い組織は、変革の成功率が有意に高いという調査結果がある | 7つのSの原典(Waterman, Peters & Phillips 1980, Business Horizons)は枠組みの提示であって効果検証ではなく、著者たち自身が、教育とワークショップと問題解決の中で試して有用だと分かったと書いている。整合度と変革の成功率を測った査読された一次情報は、経営学の主要誌・学術検索・枠組みを広めた側の公開資料を探してもたどり着けなかった。存在しないとは断定しない。ただし根拠としては使えない |
| 掲げた目的と違う行動が増えるのは、その人たちが不誠実だからだ | Kerr 1975 が書いたとおり、人は何が報われるかを調べて、報われる行動を選ぶ。それは適応であって性格ではない。しかも食い違いは悪意ではなく測りやすさから生まれる。測りやすい行動は数えられ、評価に入り、増える。測りにくい行動——長い関係、あとから効く整備、誰かの穴埋め——は、そのあいだ静かに減る |
| 組織の話は相関ばかりで、何が原因かは結局分からない | ほとんどはそのとおりだが、例外はある。インドの綿織物工場で経営の慣行を無作為に割り付けた2013年の実験では、処置した工場の生産性が初年度に17%上がり、不良は43%減った。ただし2020年の9年後の追跡では、採用された慣行のおよそ半分が捨てられていた。因果の証拠が1つあることと、放っておいても続くことは別である |
整合性という言葉は、たいてい図の中央に置かれる。7つの丸が線でつながって、真ん中に上位の目標が座っている、あの図だ。実際に組織を動かしているのは、その図ではなく、先週いちばん褒められた行動である。インドの工場で生産性を17%動かしたのも、思想ではなく、機械の点検の記録と在庫の置き場だった。しかも9年たつと、その半分は消えていた。整合は達成する状態ではなく、誰かが手を入れ続けているあいだだけ存在する状態である。
Q1. インドの綿織物工場を対象にした無作為割り付けの実験では、____ 社 ____ 工場のうち20工場を実験に使い、処置した工場の生産性は初年度に ____ 上がった。穴埋め
Q2. 同じ実験の内訳では、不良が ____ 減り、在庫がおよそ ____ 減り、産出がおよそ ____ 増えた。9年後の追跡では、採用された慣行のおよそ ____ が捨てられていた。穴埋め
Q3. 7つのSの枠組みと、それに添えられる「整合度が高い組織は変革の成功率が高い」という調査について、本文の記述に合うものはどれか。選択
Q4. Kerr 1975 の主張と、本文がそこから導いた読み方として正しいものはどれか。選択
Q5. Bloom & Van Reenen 2007 が、米国・フランス・ドイツ・英国の中規模企業732社の面接調査から特定した「悪い経営が残る条件」はどれか。選択
自分が評価される基準を1つ書く(例:返信の速さ、担当した件数、遅れを出さないこと)。次に、その基準が組織の掲げる目的と食い違う点を1つ書く(例:速く返すほど、確認に時間をかける仕事が後回しになる)。書いたら、そのまま一度読み返して、その食い違いが自分の直近1週間の行動のどこに出ていたかを1行だけ足す。合計3行で終わる。人事評価そのものを論じる必要はなく、他人の評価は書かない。誰にも見せず、提出もしない。組織に所属していない場合は、直近の仕事で自分が「これができていれば良い仕事」と見なしていた基準を1つ選び、同じ形で書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Bloom N., Eifert B., Mahajan A., McKenzie D., Roberts J. (2013) 'Does Management Matter? Evidence from India', The Quarterly Journal of Economics 128(1):1-51 — academic.oup.com
- Bloom N., Mahajan A., McKenzie D., Roberts J. (2020) 'Do Management Interventions Last? Evidence from India', American Economic Journal: Applied Economics 12(2):198-219 — www.aeaweb.org
- Kerr S. (1975) 'On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B', Academy of Management Journal 18(4):769-783 — journals.aom.org
- Waterman R.H. Jr., Peters T.J., Phillips J.R. (1980) 'Structure Is Not Organization', Business Horizons 23(3):14-26 — tompeters.com
- Bevan G., Hood C. (2006) 'What's Measured Is What Matters: Targets and Gaming in the English Public Health Care System', Public Administration 84(3):517-538 — eprints.lse.ac.uk
- Bloom N., Van Reenen J. (2007) 'Measuring and Explaining Management Practices Across Firms and Countries', The Quarterly Journal of Economics 122(4):1351-1408 — academic.oup.com