配分そのものより、どう決めたかを説明できるかで、組織への評価は決まる
限られた人と時間をどう割り振るかで、組織はもめる。もめている当人たちは、たいてい配分の中身について争っていると思っている。測ってみると、組織への評価をより強く左右しているのは、中身ではなく、決め方のほうだった。
情報が届いたあとに、必ず起きること
前の単位で、決めるための材料がどこで詰まるかを見た。ここではその上に、材料がそろったあとに必ず来る問題を載せる——人も時間も予算も足りない中で、それを何にどれだけ割り振るか、である。
この単位では、金額の水準や報酬の仕組みには触れない。国ごとに法制度が違いすぎて、書いた瞬間に嘘になるからだ。扱うのは、割り振りの決め方が説明されているかどうか、という一点に絞る。
配分は、結果ではなく手続きとして見える
配分は、たいてい宣言されない。会議で決まるのは個別の案件で、資源の割り振りはその積み重ねの結果として、事後に現れる。だから組織の中の人は、配分表を見て不満を持つのではない。自分の1か月がどこに消えたかを数えて、初めて配分の存在に気づく。
この単位で扱う資源は3種類しかない。人、時間、そして予算である。このうち、決め方がいちばん記録に残るのは予算で、いちばん残らないのが時間だ。人の配分はその中間にあって、口頭で決まり、書かれないまま数か月続くことが多い。書かれていないものは、あとから理由を説明できない。説明できないものは、決め方として存在していないのと同じに見える。
10人から30人の組織では、これがとくに見えにくい。配分の単位が部門ではなく人だからだ。誰が何に何時間使ったかは、本人以外には見えない。だから「あの取り組みには誰も手が回っていない」という事実は、全員がうすうす知っていて、誰の議題にもなっていない、という形で存在する。
値切り:「不公正は公正の2倍以上効く」という帰属
組織の公正の話には、必ず出てくる数字がある。不公正だと感じることの心理的な影響は、公正だと感じることの2倍以上ある、というものだ。たいてい、行動経済学の有名な研究者の名前が添えられている。
この形の主張の一次情報を探した。心理学と経営学の主要誌、学術検索、そして引き合いに出される原典——Kahneman と Tversky が1979年に Econometrica へ発表したプロスペクト理論の論文——の該当箇所に当たった。原典にあるのは、金銭を伴う賭けの選好についての損失回避であって、組織の公正感の非対称ではない。組織の文脈でこの2倍以上という数値を報告した査読された一次情報には、たどり着けなかった。存在しないとは断定しない。ただ、別の領域の知見に有名な名前を添えて運んでいる形であることは確かである。
置き換える実証:効くのは、決め方のほう
代わりに使えるものは、たっぷりある。Colquitt・Conlon・Wesson・Porter・Ng が2001年に Journal of Applied Psychology へ発表した183研究のメタ分析は、公正を種類ごとに分けて測った。
結果はきれいに分かれた。組織コミットメントとの相関は、手続きの公正が .48、分配の公正が .42。決定を下した相手への評価では .56 と .53。どちらも手続きのほうが強い。いっぽう、受け取った結果そのものへの満足では、分配の公正 .52 が手続きの公正 .40 を上回る。
読み方はこうだ。もらった量に満足するかどうかは、もらった量で決まる。当たり前である。だが、この組織にいてよいかどうかの判断は、もらった量ではなく、決め方のほうで動く。
ここでいう決め方の公正は、抽象的な理念ではない。この分野が測ってきた中身は、だいたい次のようなものだ——決める前に当事者の言い分を聞く機会があったか、同じ種類の案件に同じ基準が使われているか、判断の根拠になった情報が正確か、間違いだと分かったときに直せる道があるか。どれも、書き出せば数行で済む項目である。
同じ研究群を10年後に集計し直した2013年のメタ分析——493の独立標本、413本の論文——では、課題の成果との相関は、分配・手続きがともに .19、対人的な扱いと説明の丁寧さがともに .13 だった。効果は小さい。公正は成果を押し上げる装置ではなく、人が組織をどう評価するかを決める装置である。
結果が悪いときほど、決め方が効いてくる
もう一段はっきりした形がある。Brockner と Wiesenfeld が1996年に Psychological Bulletin へ発表した45の独立標本のレビューは、結果の良し悪しと手続きの公正が掛け算で効くことを示した。結果が良いときには、決め方の差はあまり効かない。結果が悪いときに、決め方の差が大きく効く。
つまり、資源を配る側から見ると、手続きの説明がいちばん要るのは、断るときである。そして実務では、断るときほど説明が短くなる。理由は分かりやすい。良い知らせを配るときには時間があり、悪い知らせを配るときには、こちらも早く終わらせたいからだ。
これは配る側だけの話でもない。配られる側にとっても、決め方が分かっていれば、次に何を用意すればよいかが分かる。分からないままだと、次の一手は、成果を上げることではなく、決める人に近づくことになる。
説明の中身についても実証がある。Shaw・Wild・Colquitt が2003年に Journal of Applied Psychology へ発表した54標本のメタ分析は、説明があること自体に強い効果があること、そして望まない結果のあとでは、その決定が正しかったと主張する形よりも、やむを得ない事情を述べる形のほうが受け止められることを示した。正しさの主張は、受け手の側で反論の材料になる。
時間・変化:時間という資源は、配分表に載らない
人と予算の配分は、少なくとも誰かが決めている。時間の配分だけは、誰も決めていないのに配分されている。
Perlow が1999年に Administrative Science Quarterly へ発表した研究は、ある米国の大企業の製品開発の現場に9か月入り、ソフトウェアの集団17人を追った。そこでは、互いへの割り込みが際限なく起き、集中の要る仕事は夜と週末へ押し出されていた。介入として導入されたのが、静かな時間——午前中は割り込まないという取り決めである。第1局面で自分の生産性を平均以上と答えた技術者は59%、割り込み可能な時間帯を広げた第2局面では41%に下がり、元の形に戻した第3局面では65%になった。担当の副社長は、期日どおりの製品投入をこの取り組みの成果として挙げている(部門の歴史で2回目の期日どおりの投入だった)。
この研究で重要なのは数字より順番のほうだ。時間の配分は、方針として決まるのではなく、割り込みの積み重ねとして事後に決まる。だから配分を変える最初の手は、優先順位の宣言ではなく、割り込みの規則である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、公正を配分の均等さと取り違えることである。均等は手続きの一種にすぎず、しかも多くの場合、いちばん説明の要らない手続きとして選ばれている。等分は、決め方を説明しないための道具にもなる。
第二の妨げは、決め方の説明を、結果が良かったときにだけ丁寧にやってしまうことだ。上の実証では、逆である。
第三の妨げは、決め方を先に決めてしまうと動きが鈍る、という感覚である。実際に鈍るのは、決め方が案件ごとに変わるときのほうだ。前回と違う決め方をした理由を説明する手間は、決め方を先に一度書く手間より大きい。
証拠の偏りも断っておく。ここで挙げたメタ分析の元になった研究は、米国と西欧の、数百人以上の組織で採られたものにほぼ限られる。あなたの組織が30人以下なら、そのまま当てはまる保証はない。自己申告の横断調査が多く、配分がうまくいかずに解散した組織はそもそも調査に答えない。日本では人事の慣行も配分の決め方も違うので、方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、配分を自分の側の実測から始めることだ。他人の配分は変えられないが、自分の時間がどこへ行ったかは今日数えられる。
最初の一歩は10分。直近1か月の自分の時間が、上位3つの取り組みにそれぞれ何%配分されていたかを、記憶とカレンダーから数字で置く。合計が100%にならなくてよい。残りが何%かのほうが、たいてい効く情報である。
ここまでで、決定権の所在、材料の経路、そして限られた資源の割り振りが置けた。次の単位は 168「システム的整合性」——ここまで置いた3つが、掲げた目的と食い違っていないかを点検する仕組みを、その上に載せる。
- Colquitt, Conlon, Wesson, Porter & Ng 2001(Journal of Applied Psychology 86(3):425-445)の183研究のメタ分析では、組織コミットメントとの相関は手続きの公正 .48、分配の公正 .42、決定を下した相手への評価では .56 と .53 で、いずれも手続きのほうが強い
- 同じメタ分析で、受け取った結果そのものへの満足では分配の公正 .52 が手続きの公正 .40 を上回る。もらった量への満足はもらった量で決まるが、この組織にいてよいかの判断は決め方のほうで動く
- Colquitt ら2013(Journal of Applied Psychology 98(2):199-236)の493独立標本・413論文のメタ分析では、課題の成果との相関は分配・手続きがともに .19、対人的な扱いと説明の丁寧さがともに .13。公正は成果を押し上げる装置ではなく、人が組織をどう評価するかを決める装置である
- Brockner & Wiesenfeld 1996(Psychological Bulletin 120(2):189-208)の45独立標本のレビューでは、結果の良し悪しと手続きの公正は掛け算で効く。結果が良いときは決め方の差はあまり効かず、結果が悪いときに大きく効く。手続きの説明がいちばん要るのは、断るときである
- Shaw, Wild & Colquitt 2003(Journal of Applied Psychology 88(3):444-458)の54標本のメタ分析では、説明があること自体に強い効果があり、望まない結果のあとでは、その決定が正しかったと主張する形より、やむを得ない事情を述べる形のほうが受け止められた
- 「不公正は公正の2倍以上の心理的影響がある」という組織向けの主張は、心理学と経営学の主要誌・学術検索・原典(Kahneman & Tversky 1979, Econometrica 47(2):263-291)の該当箇所を探しても、査読された一次情報にたどり着けなかった。原典にあるのは金銭を伴う賭けの選好についての損失回避である
- Perlow 1999(Administrative Science Quarterly 44(1):57-81)は米国の大企業の製品開発現場で技術者17人を9か月追い、午前中は割り込まないという取り決めを入れた。自分の生産性を平均以上と答えた割合は第1局面59%、割り込み可能な帯を広げた第2局面41%、元に戻した第3局面65%。時間の配分は方針ではなく割り込みの積み重ねとして事後に決まる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 不公正だと感じることの心理的な影響は、公正だと感じることの2倍以上ある——行動経済学の研究が示している | 心理学と経営学の主要誌、学術検索、そして引き合いに出される原典(Kahneman & Tversky 1979, Econometrica)の該当箇所まで探したが、組織の公正感についてこの2倍以上という数値を報告した査読された一次情報にはたどり着けなかった。原典にあるのは金銭を伴う賭けの選好についての損失回避である。別の領域の知見に、有名な名前を添えて運んでいる形になっている |
| 配分でもめるのは、配る量が足りないからだ。量が確保できれば納得は得られる | Colquitt ら2001 の183研究のメタ分析では、組織コミットメントとの相関は手続きの公正 .48、分配の公正 .42、決定を下した相手への評価では .56 と .53。受け取った結果への満足だけは分配 .52 が手続き .40 を上回る。量は結果への満足を決めるが、組織への評価は決め方で動く。しかも Brockner & Wiesenfeld 1996 によれば、決め方の差がいちばん効くのは結果が悪いときである |
| 説明は、決定が正しかったことを納得してもらうためにする | Shaw, Wild & Colquitt 2003 の54標本のメタ分析では、望まない結果のあとに効いたのは、その決定が正しかったと主張する形ではなく、やむを得ない事情を述べる形だった。正しさの主張は、受け手の側で反論の材料になる。ただしこの知見も米国と西欧の研究に偏っており、30人以下の組織で採られたものではない |
資源配分の公正という言葉には、配る側にしか出番がないような響きがある。実際に測られてきたのは、配られた側が何を見ているかのほうだった。見ているのは量ではなく、量の決まり方である。皮肉なのは、決め方の説明にかかる時間が、たいてい1分か2分で足りるという点だ。その1分をいちばん節約したくなるのが、断るときであり、そこがいちばん効く場面でもある。
Q1. 「不公正は公正の2倍以上の心理的影響がある」という組織向けの主張について、本文はどこを探して何が分かったと書いているか。一問一答
Q2. 米国・2001年の183研究のメタ分析では、組織コミットメントとの相関は手続きの公正が ____、分配の公正が ____ だったが、受け取った結果そのものへの満足では分配の公正が ____ で手続きの公正の .40 を上回った。穴埋め
Q3. Brockner & Wiesenfeld 1996 の45標本のレビューが示した、結果の良し悪しと手続きの公正の関係はどれか。選択
Q4. Shaw, Wild & Colquitt 2003 の54標本のメタ分析が示した、望まない結果のあとの説明について正しいものはどれか。選択
Q5. Perlow 1999 の研究で、自分の生産性を平均以上と答えた技術者の割合は3つの局面でどう動いたか。数値と、そこから本文が引き出した結論を答えよ。一問一答
直近1か月の自分の働く時間が、上位3つの取り組みにそれぞれ何%配分されていたかを、カレンダーと記憶から数字で置く。3つの数字を出したら、100からその合計を引いた残りも書く。厳密な計測は要らない。5%刻みで十分である。他人の時間は数えない。誰かに提出しない。数字を置いたあとに、その配分を自分がどう決めたかを思い出せるかどうかだけ、はいかいいえで1つ記録する(思い出せない場合が普通である)。組織に所属していない場合は、直近1か月の自分の活動を同じ形で3つに分けて数える。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Colquitt J.A., Conlon D.E., Wesson M.J., Porter C.O.L.H., Ng K.Y. (2001) 'Justice at the Millennium: A Meta-Analytic Review of 25 Years of Organizational Justice Research', Journal of Applied Psychology 86(3):425-445 — leeds-faculty.colorado.edu
- Colquitt J.A., Scott B.A., Rodell J.B., Long D.M., Zapata C.P., Conlon D.E., Wesson M.J. (2013) 'Justice at the Millennium, a Decade Later: A Meta-Analytic Test of Social Exchange and Affect-Based Perspectives', Journal of Applied Psychology 98(2):199-236 — terry.uga.edu
- Brockner J., Wiesenfeld B.M. (1996) 'An Integrative Framework for Explaining Reactions to Decisions: Interactive Effects of Outcomes and Procedures', Psychological Bulletin 120(2):189-208 — business.columbia.edu
- Shaw J.C., Wild E., Colquitt J.A. (2003) 'To justify or excuse?: A meta-analytic review of the effects of explanations', Journal of Applied Psychology 88(3):444-458 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Kahneman D., Tversky A. (1979) 'Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk', Econometrica 47(2):263-291 — www.jstor.org
- Perlow L.A. (1999) 'The Time Famine: Toward a Sociology of Work Time', Administrative Science Quarterly 44(1):57-81 — journals.sagepub.com