カーテンで見えなくしたら、生産性は上がった
情報は流れているほうがよい——ここまでは正しい。だから透明性を上げましょう、という話になる。ところが、生産ラインをカーテンで囲って外から見えなくした実験では、囲ったラインのほうが速くなった。
決定権の地図があっても、材料が届かなければ決定は生まれない
前の単位で、誰が何を決めてよいかという構造の1本目を置いた。ここではその上に、決めるための材料——情報——が組織のどこで詰まるかを載せる。
情報流通という言葉は、たいてい量の話として使われる。もっと共有しよう、もっと見えるようにしよう、と。だが組織で問題になるのは量ではなく、届く先の当たり外れである。全員に届いているが誰も読まない状態と、必要な1人にだけ届いていない状態は、量の指標では区別がつかない。
配管に見立てると、詰まる場所は毎回だいたい同じところにある。届く相手が決まっていない情報、書いた本人しか意味の分かる形になっていない情報、そして、出すと自分の評価が下がると本人が予想している情報。最初の2つは書式で直る。3つ目は書式では直らない。
値切り:透明性は、高いほどよいわけではない
売り物としての透明性は、単調増加の形で語られる。見えるほどよい、見せるほど信頼される。この形を正面から崩したのが、Bernstein が2012年に Administrative Science Quarterly へ発表した研究である。
舞台は中国南部の、従業員およそ14,000人の携帯電話工場。2009年6月末から11月末までの5か月間、16ラインの2交代——合わせて32のライン交代——のうち4つを、病院で使うようなカーテンで囲い、外部の視線から遮った。残る28は対照である。
カーテンの内側で起きていたこと
結果はこうだ。囲った4つのライン交代の、不良のない1時間あたりの生産数は、最初の1週間のあとに最大で10から15%増え、その差を残る5か月間保った。実数では、処置側が1時間あたり216.01個から240.03個へ、対照側は219.07個から218.16個でほぼ横ばいだった。
観察の量を減らしたのに速くなった理由は、観察されているあいだ何が起きていたかを見ると分かる。作業者たちは、手順書より速いやり方をいくつも見つけていた。ただし、それを見られる場所では使わなかった。見られている状態でそれをやると、改善ではなく、言われた通りにやっていないという行為に見えるからである。遮蔽は工夫を生んだのではない。すでにあった工夫を、隠さなくてよくした。
これは監視をやめろという話でも、情報を隠せという話でもない。透明性という言葉が、見る側の情報量と、見られる側の行動の質を、同じ方向に動くものとして扱っている点が誤りだということである。
自分しか知らない情報は、会議に出てこない
情報流通の弱点は、隠す意図がなくても現れる。Stasser と Titus が1985年に Journal of Personality and Social Psychology へ発表した実験では、4人の集団に候補者を選ばせた。全員が同じ資料を持っている条件では、18集団の83%が最良の候補を選んだ。ところが、同じ情報を分割して1人ずつにしか渡さない条件では、正解にたどり着いたのは21集団のうち24%、別の条件では17集団のうち12%だった。集団全体としては情報がそろっているのに、話し合いで出てくるのは、みんながすでに持っている情報のほうだった。
この現象は繰り返し確かめられている。Lu・Yuan・McLeod が2012年に Personality and Social Psychology Review へ発表したメタ分析は、65の研究・101の効果・3,189集団を集計し、情報が分割された集団が正解にたどり着く確率は、全員が全部持っている集団の8分の1だと報告した。議論の中では、共通の情報が固有の情報より2標準偏差ぶん多く言及される。
量の側から見た研究もある。Mesmer-Magnus と DeChurch が2009年に Journal of Applied Psychology へ発表したメタ分析は、72の独立した研究・4,795集団・のべ17,279人を集計し、情報共有がチームの成果・凝集性・満足・知識の統合と正の関係を持つことを示した。同時に、共有を妨げる条件も特定している——情報が分散していること、互いの情報に依存していること、メンバーが異質であること。つまり、共有がいちばん要る状況ほど、共有は起きにくい。
ここで、この単位に割り当てられた出典の点検を1つ。創業者しか知らない情報が多い組織ほど初期の離職や失敗が増える、という主張を、ある著名な起業支援組織の事後分析として引く例がある。この分析の一次情報を探した。組織研究と経営学の主要誌、学術検索、そして当の支援組織の公開資料に当たったが、たどり着けたのは記事とブログと講演の要約だけだった。査読された一次情報にはたどり着けなかった。存在しないとは断定しない。ただし、上の3本の査読された研究で足りる話でもある。
時間・変化:情報は止まるのではなく、経路を変える
情報の流れは、蛇口のように止まったり開いたりしない。ふさぐと、別の経路へ移る。
第一に、場所を変えると経路が変わる。Bernstein と Turban が2018年に Philosophical Transactions of the Royal Society B へ発表した2社の実測——52人と100人の職場で、間仕切りを取り払う前後を身につけた計測器で追った研究——では、対面のやり取りが有意に減り、電子的なやり取りが増えた。開けたのに、直接話さなくなったのである。
第二に、構造を変えると経路が変わる。Tsai が2002年に Organization Science へ発表した多部門企業の研究では、決定が中央に集まっているほど部門間の知識共有は減り、非公式な横のやり取りが多いほど増えた。ただしその効果には条件がある。外の市場で競合している部門どうしでは横のやり取りが効いたが、社内の資源を奪い合っている部門どうしでは効かなかった。
第三に、時間が経つと、共有されない情報は「共有する必要がないもの」として扱われるようになる。誰も決めていないのに、そう決まる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、情報流通を善悪の問題として扱うことである。隠す人が悪い、という枠に入れた瞬間、隠れている情報の量は変わらないまま、話題だけが人格へ移る。
第二の妨げは、共有の場を増やすことで解決しようとすることだ。会議を1本足すと、共通の情報を確認し合う時間が増える。上の実験が示したのは、増えにくいのは固有の情報のほうだ、ということである。
証拠の偏りも断っておく。ここで挙げた研究の現場は、大きな工場、大企業の職場、そして大学の実験室である。あなたの組織が30人以下なら、証拠のほとんどは数百人以上の組織で採られていることを差し引く必要がある。実験室の課題は、正解が決まっている点でも現実と違う。日本の職場で使われる報告・連絡・相談の慣行にそのまま重ねられるわけでもない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、量ではなく、固有の情報を名指しで数えることだ。自分しか知らないことの数は、今日の自分だけで数えられる。
最初の一歩は10分。直近1週間を思い返して、自分しか知らない情報を3件、手元に書き出す。共有するかどうかは、今日は決めなくていい。数えるだけで、配管のどこが細いかは見える。
ここまでで、決定権の所在と、その材料が通る経路が置けた。次の単位は 167「資源配分の公正性」——情報が届いたあとに必ず起きる、限られた人・時間・予算をどう割り振るかという問題を、その上に載せる。
- Bernstein 2012(Administrative Science Quarterly 57(2):181-216)は、中国南部の従業員およそ14,000人の携帯電話工場で2009年6月末から11月末に実地実験を行い、16ラインの2交代=32のライン交代のうち4つをカーテンで遮蔽した。不良のない1時間あたりの生産数は最初の1週間のあと最大で10から15%増え、28の対照を5か月間上回り続けた
- 同実験の実数では、遮蔽した側が1時間あたり216.01個から240.03個へ増え、対照側は219.07個から218.16個でほぼ横ばいだった。作業者は手順書より速いやり方を持っていたが、見られている場所では使わなかった。遮蔽は工夫を生んだのではなく、隠さなくてよくした
- Stasser & Titus 1985(Journal of Personality and Social Psychology 48(6):1467-1478)の4人集団の実験では、全員が同じ資料を持つ条件で18集団の83%が最良の候補を選んだのに対し、情報を1人ずつに分割した条件では21集団の24%、別の条件では17集団の12%しか正解に至らなかった
- Lu, Yuan & McLeod 2012(Personality and Social Psychology Review 16(1):54-75)は65研究・101効果・3,189集団を集計し、情報が分割された集団が正解に至る確率は全員が全情報を持つ集団の8分の1、議論では共通情報が固有情報より2標準偏差ぶん多く言及されると報告した
- Mesmer-Magnus & DeChurch 2009(Journal of Applied Psychology 94(2):535-546)は72の独立研究・4,795集団・のべ17,279人を集計し、情報共有がチーム成果・凝集性・満足・知識の統合と正の関係を持つ一方、情報の分散・情報面の相互依存・メンバーの異質性が共有を妨げると示した。共有がいちばん要る状況ほど、共有は起きにくい
- 創業者しか知らない情報が多い組織ほど初期の離職や失敗が増えるという、ある著名な起業支援組織の事後分析に帰属される主張は、組織研究と経営学の主要誌・学術検索・当の支援組織の公開資料を探しても、査読された一次情報にたどり着けなかった(見つかるのは記事とブログと講演の要約)
- Bernstein & Turban 2018(Philosophical Transactions of the Royal Society B 373(1753):20170239)の52人と100人の職場の実測では、間仕切りを取り払うと対面のやり取りが有意に減り電子的なやり取りが増えた。Tsai 2002(Organization Science 13(2):179-190)では、決定の集中は部門間の知識共有に負、非公式な横のやり取りは正に効いたが、社内資源を奪い合う部門間では後者が効かなかった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 透明性は高ければ高いほどよい。見えるようにすれば組織はよくなる | Bernstein 2012 の中国南部の工場での実地実験では、カーテンで遮蔽した4つのライン交代の不良のない1時間あたり生産数が、最初の1週間のあと最大10から15%増え、28の対照を5か月間上回った。作業者は手順書より速いやり方を持っていたが、見られている状態では「言われた通りにやっていない」と読まれるため使わなかった。透明性という言葉は、見る側の情報量と見られる側の行動の質を同じ方向に動くものとして扱っているが、そこが誤りである |
| 共有の場を増やせば、情報は行き渡る | Stasser & Titus 1985 では、情報が分割された集団の正解率は24%と12%(全員が全情報を持つ条件では83%)だった。Lu ら2012 のメタ分析(65研究・3,189集団)でも、分割された集団が正解に至る確率は8分の1で、議論では共通情報が固有情報より2標準偏差ぶん多く語られる。会議を1本増やして増えるのは、みんながすでに知っている情報の確認である |
| 創業者に情報が集まっている組織は失敗しやすい、というデータがある | この主張はある著名な起業支援組織の事後分析として引かれるが、組織研究と経営学の主要誌、学術検索、当の支援組織の公開資料を探しても、査読された一次情報にたどり着けなかった。存在しないとは断定しない。ただし、情報の偏りが集団の判断を悪くすることは、上の3本の査読された研究だけで十分に言える |
透明性という言葉の便利なところは、増やしても誰も反対できない点にある。反対すると、隠したい人に見えるからだ。だから会議が増え、報告の書式が増え、共有の場が増える。増えたぶんだけ、みんながすでに知っていることの確認が丁寧になる。工場の作業者が見つけた速いやり方は、そのあいだもカーテンの内側にある。彼らは隠していたのではなく、見せると叱られる仕組みのほうに、正しく適応していただけだった。
Q1. 中国南部の携帯電話工場で2009年に行われた実地実験では、32のライン交代のうち ____ をカーテンで遮蔽し、____ を対照とした。遮蔽した側の不良のない1時間あたりの生産数は、最初の1週間のあと最大で ____ 増えた。穴埋め
Q2. Bernstein 2012 の実験で、遮蔽したラインの生産性が上がった理由として本文が挙げているものはどれか。選択
Q3. Stasser & Titus 1985 の実験で、全員が同じ資料を持つ条件と、情報を1人ずつに分割した2つの条件それぞれで、最良の候補を選べた集団の割合を答えよ。一問一答
Q4. Mesmer-Magnus & DeChurch 2009 のメタ分析(72研究・4,795集団)が示した、情報共有を妨げる条件の組み合わせはどれか。選択
Q5. 本文が示した、情報の経路が変わる3つの仕方を、本文に出てきた順に並べよ。(構造を変えると変わる/時間が経つと共有しなくてよいものとして扱われる/場所を変えると変わる)並べ替え
直近1週間を思い返して、自分しか知らない情報を3件、手元に書き出して記録する。対象は業務上の事実に限る——たとえば、ある取引先が来月から担当者を替えること、ある作業に実際は表の見積もりの2倍かかっていること、ある不具合の直し方を自分だけが知っていること。人の評価・うわさ・個人的な事情は書かない。各件について、その情報を知っていると助かる人が何人いるかを0以上の整数で1つだけ添える。誰にも送らず、共有するかどうかは今日は決めない。3件挙がらなければ、挙がった件数のまま記録する。組織に所属していない場合は、直近の仕事の相手や過去に所属した組織を思い出して同じ形で書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Bernstein E.S. (2012) 'The Transparency Paradox: A Role for Privacy in Organizational Learning and Operational Control', Administrative Science Quarterly 57(2):181-216 — journals.sagepub.com
- Stasser G., Titus W. (1985) 'Pooling of Unshared Information in Group Decision Making: Biased Information Sampling During Discussion', Journal of Personality and Social Psychology 48(6):1467-1478 — www.uni-muenster.de
- Lu L., Yuan Y.C., McLeod P.L. (2012) 'Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis', Personality and Social Psychology Review 16(1):54-75 — journals.sagepub.com
- Mesmer-Magnus J.R., DeChurch L.A. (2009) 'Information sharing and team performance: A meta-analysis', Journal of Applied Psychology 94(2):535-546 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Bernstein E.S., Turban S. (2018) 'The impact of the open workspace on human collaboration', Philosophical Transactions of the Royal Society B 373(1753):20170239 — royalsocietypublishing.org
- Tsai W. (2002) 'Social Structure of Coopetition Within a Multiunit Organization: Coordination, Competition, and Intraorganizational Knowledge Sharing', Organization Science 13(2):179-190 — ideas.repec.org