良い文化が業績を生むのではなく、業績が良いと文化が良く見える——8年分のデータが示した向き
良い文化を作れば業績が上がる、という順序は誰もが知っている。米国の35社を8年間追いかけたデータでは、向きは逆のほうが強かった。良い会社だから満足している——その逆とは限らない。
将来像の次に置くのは、今日の午後の目盛り
前の単位では、3年後の姿がどれだけ食い違わずに持たれているかを、書かせて数える形で見た。ここではその上に、もっと目の細かい目盛りを置く——掲げた行動原則が、今日の午後の判断で実際に使われたかどうかである。
将来像は3年先を指す。価値は、今日あなたが何かを断るときに使われるか、使われないかのどちらかだ。だから確かめる周期がまったく違う。
掲げた価値と、使われた価値
価値というものは、三重の円で考えると扱いやすい。
いちばん外側は、掲げられている価値。文書や壁にあり、採用の場で読み上げられる。その内側が、説明に使われる価値。何かを決めたあとに、理由として持ち出される。いちばん内側が、判断の分かれ目で実際に効いた価値。二つの選択肢の重みを変えたものである。
外側の円は簡単に大きくできる。書けばいいからだ。内側の円は、増やそうとしても増えない。分かれ目の数だけしか発生しない。そして組織の中で観察できるのは、たいてい外側だけである。
この単位が扱うのは、内側の円をどう数えるか、という問いだけだ。浸透という言葉は使いにくい。浸透しているかどうかは、本人に聞いても分からない。聞かれた人は、掲げられている価値のほうを思い出して答える。
値切り①:良い文化が業績を生む、という因果の向き
この領域でもっとも自然に見える主張は、良い文化が良い業績を生む、というものである。順序が逆でないことを、誰も確かめずに使う。
確かめた研究がある。Schneider、Hanges、Smith、Salvaggio が2003年に Journal of Applied Psychology へ発表した研究は、米国の企業——年によって12社から35社——について、1987年から1995年までの8年ぶんの従業員態度と財務指標を突き合わせ、時間をずらした分析で向きを検証した。回答したのは1社あたり年平均およそ450人である。
結果は、常識と逆だった。全体的な職務満足については、総資産利益率と1株当たり利益が翌期の満足を予測する向きのほうが、満足が翌期の業績を予測する向きより強かった。雇用の安定に対する満足でも、業績から態度への向きが一貫して出た。給与に対する満足は双方向だが、やはり業績から態度への側がやや強い。
読み方を間違えないようにしたい。これは、文化に意味がないという話ではない。良い会社だから満足している、という向きが確かに存在する、という話である。業績が良い組織は、待遇も雇用の見通しも良くしやすい。そこで採られたアンケートの結果を、文化の勝利として読むと、順序が入れ替わる。
値切り②:適合が高いと離職率が30〜40%下がる、という数字
もう一つ、この領域でよく運ばれる数字がある。組織と価値観が合っている人は離職率が30から40%低い、というものだ。
この数字の出どころを探した。心理学の学術データベースと学術検索に加えて、人と組織の適合を扱った代表的なメタ分析——2005年に Personnel Psychology へ出たものと、2003年に Journal of Vocational Behavior へ出たもの——の本文と表も当たった。この形の主張を報告した査読論文には、たどり着けなかった。存在しないと断定はしない。ただ、確かめようとした人がたどり着けない場所にある数字は、根拠としては使えない。
しかも、メタ分析が実際に報告している数字のほうは、これよりずっと控えめだ。次の節で見る。
置き換える実証——数字は、測り方で2倍以上になる
Kristof-Brown、Zimmerman、Johnson が2005年に Personnel Psychology へ発表したメタ分析は、172件の研究から836の効果量を集計した。人と組織の適合と離職意思の相関は −.35、職務満足は .44、組織コミットメントは .51。ここまでは中程度である。ところが、実際に辞めたかどうか——離職意思ではなく離職そのもの——との相関は −.14 まで下がる。
決定的なのは測り方だ。本人に合っている感じを直接たずねる測り方では、離職意思との相関は −.52、職務満足は .56、組織コミットメントは .77。これに対して、本人の価値と組織の価値を別々に測って差を取る測り方では、順に −.19、.29、.27 に落ちる。同じ概念が、測り方だけで2倍から3倍に見える。
Verquer、Beehr、Wagner が2003年に Journal of Vocational Behavior へ発表した21件のメタ分析も、主観的な適合尺度を使うと効果量が大きくなると報告している。合っている感じは、満足しているという気分と近い場所で測られている。
別々に測る側の研究もある。Chatman が1991年に Administrative Science Quarterly へ発表した研究は、米国の大手会計事務所8社の新人会計士171人について、本人の価値と事務所の価値を別々に並べ替えて突き合わせ、一致していた人ほど早く適応し、職務満足が高かったことを示した。同じ道具を作った O'Reilly、Chatman、Caldwell が1991年に Academy of Management Journal へ発表した研究では、その適合が1年後の職務満足と組織コミットメント、2年後の実際の離職を予測した。時間をおいても消えない関係はある。ただし大きさは、感じで測ったときの数字ではない。
Hoffman と Woehr が2006年に Journal of Vocational Behavior へ発表した集計も同じ向きだ。適合と行動面の成果——実際の離職、職務の遂行——の関係は、態度面との関係より小さい。
時間・変化:価値は、入ってきた人の数だけ薄まる
価値は、掲げた日から時間の関数で動く。
第一に、人が増えるたびに、価値の由来を知らない人の割合が増える。10人の組織に5人入れば、3分の1が、その原則がどの失敗のあとに書かれたかを知らないことになる。原則は残り、失敗は残らない。
第二に、価値は成功したやり方の記述にすり替わる。うまくいった案件のやり方が、あとから原則として言い直される。そうやって書き直された原則は、何も排除しない。
第三に、判断の分かれ目そのものが減っていく。手続きが整うほど、選択の余地は減る。使われない価値は、忘れられるのではなく、出番が消える。
だから、浸透しているかどうかは年に一度のアンケートでは測れない。測れるのは、直近の判断のうち何件が、どの原則に当たるかを言えたか、という数のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、価値を増やすことだ。原則が7つあると、どの判断も必ずどれかに当たる。全部に当たる原則の束は、何も決めない。
第二の妨げは、合っている感じを指標にすることである。さきほど見たとおり、それは満足という気分の近くで測られていて、実際の行動との関係はずっと小さい。
ここで断っておく。この単位の数字は、ほぼすべて米国のもので、対象は会計事務所や上場企業など、数百人以上の組織に偏っている。読者の組織は30人以下かもしれないが、証拠のほうは数百人以上の組織で採られている。自己申告と横断調査が多く、うまくいかなかった組織はそもそも調査に答えない。日本の雇用慣行——採用の仕方も、辞めるという選択の重さも——にそのまま当てはまる保証はない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、判断のほうから見ることだ。価値の一覧を眺めるのではなく、実際に下した判断を並べて、どれに当たるかを後から貼っていく。当たらない判断が出ても構わない。当たらないと分かることのほうが情報である。
最初の一歩は10分。直近3日で自分が下した判断を3件だけ書き出し、それぞれに、組織が掲げている原則のどれに当たるかを1つずつ貼る。どれにも当たらなければ「なし」と書く。
ここまでで、なぜ存在するか、いつ・誰に・何が、そして今日の判断がどの原則に当たるか、という三つの目盛りが置けた。次の単位は 164「組織アイデンティティ」——その上に、外から見たときの輪郭を載せる。私たちは何者か、という問いには、効用と代償の両方がある。
- 価値は三重の円で見る。外側は掲げられている価値、中間は説明に使われる価値、内側は判断の分かれ目で実際に効いた価値。外側は書けば大きくできるが、内側は分かれ目の数だけしか発生しない
- Schneider, Hanges, Smith & Salvaggio 2003(Journal of Applied Psychology 88(5):836-851)は、米国の企業(年により12社から35社、1社あたり年平均およそ450人が回答)の1987年から1995年までの8年ぶんを時間をずらして分析し、総資産利益率と1株当たり利益が翌期の全体的な職務満足を予測する向きのほうが強いことを示した
- 同研究では、雇用の安定に対する満足でも業績から態度への向きが一貫し、給与に対する満足は双方向だが業績から態度への側がやや強かった。文化に意味がないという話ではなく、良い会社だから満足しているという向きが確かに存在する、という話である
- 組織と価値観が合っている人は離職率が30から40%低い、という数字の出どころを、心理学の学術データベース、学術検索、および2005年の Personnel Psychology と2003年の Journal of Vocational Behavior に載った適合のメタ分析の本文と表で探したが、この形の主張を報告した査読論文にはたどり着けなかった
- Kristof-Brown, Zimmerman & Johnson 2005(Personnel Psychology 58(2):281-342)は172件・836の効果量を集計し、人と組織の適合と離職意思の相関を −.35、職務満足 .44、組織コミットメント .51 とした。実際に辞めたかどうかとの相関は −.14 まで下がる
- 同メタ分析では、本人に合っている感じを直接たずねる測り方だと離職意思 −.52、満足 .56、コミットメント .77 だが、本人の価値と組織の価値を別々に測って差を取ると、順に −.19、.29、.27 に落ちる。Verquer, Beehr & Wagner 2003(Journal of Vocational Behavior 63(3):473-489)の21件の集計も、主観的な尺度で効果量が大きくなると報告している
- Chatman 1991(Administrative Science Quarterly 36(3):459-484)は米国の大手会計事務所8社の新人会計士171人で、価値を別々に測って突き合わせた適合が早い適応と職務満足に関係することを示し、O'Reilly, Chatman & Caldwell 1991(Academy of Management Journal 34(3):487-516)ではその適合が1年後の満足とコミットメント、2年後の実際の離職を予測した
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 良い文化を作れば業績が上がる。従業員の満足度が高い会社は、そのおかげで伸びている | Schneider et al. 2003 が米国の企業(年により12社から35社)の1987年から1995年の8年ぶんを時間をずらして分析したところ、総資産利益率と1株当たり利益が翌期の全体的な職務満足を予測する向きのほうが強かった。雇用の安定に対する満足でも同じ向きが一貫した。良い会社だから満足している、という順序が確かに存在する。文化に意味がないのではなく、アンケートの結果を文化の勝利として読むと順序が入れ替わる |
| 価値観が合っている人を採れば、離職率は30から40%下がる | その数字の出どころを、学術データベース、学術検索、および代表的な適合のメタ分析2本の本文と表で探したが、たどり着けなかった。実際にメタ分析が報告しているのは、Kristof-Brown et al. 2005 の、離職意思との相関 −.35、実際に辞めたかどうかとの相関 −.14 である。関係はあるが、掲げられている大きさではない |
| アンケートで、うちの価値観に合っていると答える人が多いのだから、浸透している | Kristof-Brown et al. 2005 では、本人に合っている感じをたずねる測り方だと離職意思との相関は −.52 だが、本人の価値と組織の価値を別々に測って差を取ると −.19 に落ちる。職務満足は .56 と .29、組織コミットメントは .77 と .27。合っている感じは、満足しているという気分の近くで測られている。Verquer et al. 2003 の21件の集計も同じ向きを報告した |
行動原則を掲げる作業には、ほとんど欠点が無い。半日の合宿で7つほど決まり、印刷でき、採用の場で読み上げられ、しかも誰も反対しない。誠実、挑戦、顧客第一。反対できる原則を1つでも入れた組織を、私はあまり知らない。皮肉なのは、反対できない原則の束は、どの判断とも矛盾しないという性質を持つことだ。矛盾しないものは、判断を変えない。壁の7行は、今日の午後もそこにあり、あなたが何かを断るのを、静かに見送っている。
Q1. Schneider らが2003年に発表した研究は、何を、どれだけの期間、どのように分析して、どんな向きを見つけたか。対象と期間と結論を書け。一問一答
Q2. 組織と価値観が合っている人は離職率が30から40%低い、という数字について、本文はどこを探して何が分かったと書いているか。あわせて、代わりに置かれた実際の数字を1つ挙げよ。一問一答
Q3. Kristof-Brown らが2005年に発表したメタ分析では、本人に合っている感じをたずねる測り方だと、適合と離職意思の相関は ____、職務満足は .56、組織コミットメントは ____ だった。ところが、本人の価値と組織の価値を別々に測って差を取ると、離職意思は ____ に落ちる。穴埋め
Q4. 本文が示した価値の三重の円について、正しい説明はどれか。選択
Q5. Chatman 1991 と O'Reilly, Chatman & Caldwell 1991 の研究について、本文の記述に合うものはどれか。選択
直近3日で自分が下した判断を3件だけ書き出す。大きな決断でなくてよい——依頼を断った、順番を入れ替えた、書き直した、返事を保留した、といった小さいもので構わない。次に、自分の組織が掲げている行動原則を手元に置き(覚えていなければ、思い出せる範囲で構わない)、3件それぞれに、どの原則に当たるかを1つだけ貼る。二つ以上に当たると感じたら、いちばん近い1つを選ぶ。どれにも当たらなければ「なし」と書く。原則が思い出せなかった場合は、その事実も記録する。他人の判断は対象にしない。誰かに見せる必要も、誰かに何かを求める必要もない。組織に所属していない場合(フリーランス・休職中・求職中など)は、自分が仕事で守っていると思っている原則を3つだけ挙げ、同じように直近3日の判断3件に貼る。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Schneider B., Hanges P.J., Smith D.B., Salvaggio A.N. (2003) 'Which comes first: Employee attitudes or organizational financial and market performance?', Journal of Applied Psychology 88(5):836-851 — home.ubalt.edu
- Kristof-Brown A.L., Zimmerman R.D., Johnson E.C. (2005) 'Consequences of individuals' fit at work: A meta-analysis of person-job, person-organization, person-group, and person-supervisor fit', Personnel Psychology 58(2):281-342 — onlinelibrary.wiley.com
- Verquer M.L., Beehr T.A., Wagner S.H. (2003) 'A meta-analysis of relations between person-organization fit and work attitudes', Journal of Vocational Behavior 63(3):473-489 — eric.ed.gov
- Chatman J.A. (1991) 'Matching People and Organizations: Selection and Socialization in Public Accounting Firms', Administrative Science Quarterly 36(3):459-484 — eric.ed.gov
- O'Reilly C.A., Chatman J., Caldwell D.F. (1991) 'People and Organizational Culture: A Profile Comparison Approach to Assessing Person-Organization Fit', Academy of Management Journal 34(3):487-516 — journals.aom.org
- Hoffman B.J., Woehr D.J. (2006) 'A quantitative review of the relationship between person-organization fit and behavioral outcomes', Journal of Vocational Behavior 68(3):389-399 — www.sciencedirect.com