共有できているかは、全員が同じ言葉を言えるかではなく、別々に書いたときどれだけ食い違うかで分かる
会議で全員が同じ将来像を口にできる組織は、共有できているように見える。同じことを別々の紙に書かせると、たいてい半分は違うものが出てくる。声を合わせるのは簡単で、同じものを見ているかどうかは、書かせるまで分からない。
文が定まったら、次は時間の軸
前の単位では、存在理由が明文化されていることと、日常の判断で参照されていることは別物だ、という一点を置いた。ここではその上に、時間の軸を1本載せる——3年後にどうなっていたいかが、この組織の中でどれだけ食い違わずに持たれているか、である。
この単位も、値切りから入る。組織の話は、うまくいった会社を後から集めて共通点を数える手つきでできていて、しかも測っているのはたいてい同じ人たちだ——この二つは前の単位で正面から扱った。ここでは1文だけ思い出して先へ進む。
「同じことを言えるか」ではなく「別々に書いたときどれだけ食い違うか」
共有できているかを、会議室で確かめることはできない。全員が同じ言葉を言えることは、共有の証拠ではなく、その言葉が耳に残っている証拠である。
確かめ方は素朴だ。同じ問いを、別々の紙に、相談させずに書かせる。「3年後、この組織はどうなっていたいか」。出てきた文を、三つの欄に割る。いつまでに、誰に対して、何が。
三つとも入っている文は、意外なほど少ない。多くの文は「もっと良い会社になる」の言い換えで、三つの欄がすべて空になる。空欄の多い文どうしは、決して食い違わない。何も指していないものは、ぶつかりようがないからだ。逆に三つが埋まると、途端に食い違いが見える。片方は2年後の話をしていて、片方は別の相手を思い浮かべている。
この食い違いは、悪いことが起きている印ではない。見えるようになった、というだけである。見えていない食い違いは、締切の直前に、優先順位の争いという形で回収される。
値切り:大きな目標を掲げれば人は動く、という言い方
この領域には、社運を賭けた大胆な目標を掲げよ、という有名な処方がある。1994年の一般書に出てくる言い方で、頭文字を取った略語として広く流通した。ただしこれは一般書の記述であって、効果を検証した査読研究ではない。掲げた組織と掲げなかった組織を比べた対照も、掲げたあと何が起きたかの追跡もない。
ややこしいのは、この処方が、実在する頑健な研究の名前を借りて運ばれることだ。目標設定の研究——具体的で難しい目標のほうが、曖昧な目標より成果が高い——は、心理学のなかでも再現性の高い知見のひとつである。Locke と Latham が2002年に American Psychologist へまとめた35年ぶんの総括が、その代表的な文献にあたる。
しかし、その実証が届く距離を見ておく必要がある。この分野の証拠の多くは、数分から数週間で終わる、近接した課題についてのものだ。今日の午後に何個組み立てるか、今月いくつ書き上げるか。10年後のありたい姿は、その射程の外にある。射程の外の主張を、射程の中の証拠で支えているのが、この処方の構造である。
さらに、同じ分野の中から副作用の指摘が出ている。Ordóñez、Schweitzer、Galinsky、Bazerman が2009年に Academy of Management Perspectives へ発表した論考は、目標設定が処方されすぎていると論じ、目標に入らなかった領域が捨てられること、リスクの取り方がゆがむこと、非倫理的な行動が増えること、内発的な動機が下がること、組織の風土が損なわれることを挙げた。
実験もある。Schweitzer、Ordóñez、Douma が2004年に Academy of Management Journal へ発表した研究では、単語を作る課題の成績を本人に自己採点させたところ、「できるだけ頑張れ」と言われた群にくらべて、具体的で高い目標を与えられた群のほうが、成績を水増しした人の割合が高かった。差は統計的に有意である。目標そのものが人を不正直にするのではなく、届かなかった目標のすぐ手前に立たされた人が、帳尻を合わせる。
置き換える実証——共有は、測り方で大きさが変わる
では、共有についてどこまで言えるのか。DeChurch と Mesmer-Magnus が2010年に Journal of Applied Psychology へ発表したメタ分析は、チームの認知に関する65件の独立研究から231の相関を集め、3,738のチーム、のべおよそ18,240人を集計した。チームの認知と成果の相関は .38。行動面の過程とは .43、意欲面とは .37 だった。
内訳が効く。成果を主観的な指標で測ると .44、客観的な指標で測ると .31 に下がる。そして共有のかたちによっても変わる。全員が同じことを考えているという類似性で測ると、行動面の過程や成果との相関は .29 から .32。互いに違うことを知っていて補い合うかたちで測ると .44 から .62 まで上がる。つまり、そろっていることより、噛み合っていることのほうが強く効く。
個別の研究も同じ向きを示す。Mathieu らが2000年に Journal of Applied Psychology へ発表した実験では、米国の大学生2人組56組にパソコンの飛行シミュレーターで任務をこなさせ、チームと課題についての心的な見取り図の一致度が高い組ほど、その後の過程と成果が良かった。
小さな組織のデータもある。Baum、Locke、Kirkpatrick が1998年に Journal of Applied Psychology へ発表した縦断研究は、米国の建築用木工品業界の起業家CEOと従業員183組を対象に、1992年から1994年までの成長を追った。1992年時点の平均は従業員およそ25人、売上およそ230万米ドル。将来像の内容と属性は、口頭と文書での伝え方を介して、またそれとは別に直接、その後の成長と結びついていた。読者の組織に近い規模で採られた、数少ない証拠である。
時間・変化:3年後の姿は、半年ごとに書き換わっている
将来像には、明文化された日付が付く。その日付が古くなる速さは、組織の外の事情で決まる。
第一に、3年後は毎日1日ずつ近づく。書いた文が同じままなら、指している時点は毎日1日ずつ手前にずれていく。1年放置した3年後の姿は、実質2年後の姿になっている。
第二に、人が入れ替わるたび、食い違いは静かに増える。あとから入った人は、その文が排除した選択肢を知らない。文だけを受け取ると、自分の理解で空欄を埋める。
第三に、書き換えは記録されない。多くの組織で、将来像は上書きされ、前の版は残らない。何を諦めたのかが分からなくなり、同じ議論が半年ごとに繰り返される。
だから、共有の度合いは一度測って終わりにならない。測るのは、書いた文そのものではなく、書き直した回数と、書き直した理由のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、食い違いを見つけたら潰さなければならない、という思い込みだ。食い違いの数を数えることと、そろえることは別の作業で、前者だけなら権限は要らない。
第二の妨げは、大きく書けば伝わるという誤解である。大きい文は空欄が多く、空欄は食い違わない。食い違わないことを共有と読み違える。
ここで断っておく。この単位の数字は、ほぼすべて米国と西欧のもので、対象は大学生のチームと、数百人以上の組織に偏っている。読者の組織は30人以下かもしれないが、証拠のほうは数百人以上の組織で採られている。自己申告と横断調査も多く、うまくいかなかった組織はそもそも調査に答えない。日本の雇用慣行——人の入れ替わりの速さや、職務の区切り方——にそのまま当てはまる保証もない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、書かせることだ。声をそろえる場ではなく、別々に書く時間を確保する。それは会議より短くて済む。
最初の一歩は5分。3年後にどうなっていたいかを、自分の言葉で1行だけ書く。そして、その1行に「いつまでに」「誰に対して」「何が」がいくつ入っているかを数える。0でも構わない。0だと分かっている状態と、分からない状態は違う。
ここまでで、なぜ存在するかの上に、いつ・誰に・何がという時間の軸が載った。次の単位は 163「コアバリュー浸透」——その上に、日々の判断の側から見る目盛りを置く。将来像が3年先を指すのに対して、価値は今日の午後に使われる。
- 共有できているかは、全員が同じ言葉を言えるかではなく、相談させずに別々に書かせたときの食い違いの数で見る。書いた文を「いつまでに」「誰に対して」「何が」の三つの欄に割ると、空欄の多い文どうしは決して食い違わない。何も指していないものは、ぶつかりようがない
- 社運を賭けた大胆な目標という有名な処方は1994年の一般書に由来し、掲げた組織と掲げなかった組織を比べた対照も、掲げたあとの追跡もない。効果を検証した査読研究ではない
- Locke & Latham 2002(American Psychologist 57(9):705-717)がまとめた35年ぶんの目標設定研究が示すのは、具体的で難しい目標のほうが曖昧な目標より成果が高いという、数分から数週間の近接した課題についての知見である。10年後のありたい姿は、その射程の外にある
- Ordóñez, Schweitzer, Galinsky & Bazerman 2009(Academy of Management Perspectives 23(1):6-16)は、目標設定が処方されすぎていると論じ、目標に入らなかった領域が捨てられること、リスクの取り方がゆがむこと、非倫理的行動が増えること、内発的動機が下がること、組織の風土が損なわれることを挙げた
- Schweitzer, Ordóñez & Douma 2004(Academy of Management Journal 47(3):422-432)の実験では、単語を作る課題を自己採点させたとき、『できるだけ頑張れ』条件より、具体的で高い目標を与えられた条件のほうが成績を水増しした人の割合が高く、差は統計的に有意だった
- DeChurch & Mesmer-Magnus 2010(Journal of Applied Psychology 95(1):32-53)は65件の研究・231の相関・3,738チーム(のべおよそ18,240人)を集計し、チームの認知と成果の相関を .38 とした。主観的な成果指標では .44、客観的な指標では .31。類似性で測ると .29 から .32、補い合いのかたちで測ると .44 から .62 になる
- Baum, Locke & Kirkpatrick 1998(Journal of Applied Psychology 83(1):43-54)は、米国の建築用木工品業界の起業家CEOと従業員183組(1992年時点の平均は従業員およそ25人、売上およそ230万米ドル)で1992年から1994年の成長を追い、将来像の内容と属性が、伝え方を介して、またそれとは別に直接、その後の成長と結びついていることを示した
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 大きな目標を掲げれば人は動く。社運を賭けた大胆な目標を持つべきだ | その処方は1994年の一般書の記述であって、効果を検証した査読研究ではない。頑健なのは目標設定の研究のほうだが、Locke & Latham 2002 が総括した証拠は数分から数週間の近接した課題についてのもので、10年後のありたい姿は射程の外にある。しかも Ordóñez et al. 2009 は同じ分野の中から、目標に入らない領域が捨てられ、リスクの取り方がゆがみ、非倫理的行動が増えると指摘している |
| 会議で全員が同じ将来像を言えるなら、共有できている | 同じ言葉を言えることは、その言葉が耳に残っている証拠にすぎない。DeChurch & Mesmer-Magnus 2010 のメタ分析では、そろっていることを示す類似性で測った認知と成果の相関は .29 から .32 にとどまり、互いに違うことを知っていて補い合うかたちで測ると .44 から .62 に上がった。そろっていることより、噛み合っていることのほうが強く効く |
| 目標を具体的にすれば、副作用なく成果だけが上がる | Schweitzer, Ordóñez & Douma 2004 の実験では、自己採点で成績を水増しした人の割合は、『できるだけ頑張れ』条件より具体的で高い目標を与えられた条件のほうが高かった。目標そのものが人を不正直にするのではなく、届かなかった目標のすぐ手前に立たされた人が帳尻を合わせる。数字を作りやすい場所に目標を置くと、数字が先に動く |
将来像を書く仕事には、他に類を見ない利点がある。3年後にならないと間違いが確定しないのだ。そのころには文のほうが2回ほど書き換わっていて、前の版は誰も保存していない。皮肉なのは、その文がいちばん強く働くのが、書いた直後の数週間——つまり、まだ誰も食い違いに気づいていない期間だということだ。食い違いは消えたのではない。書かせる機会が無かっただけで、締切の前の晩に、優先順位の争いという名前で返ってくる。
Q1. DeChurch と Mesmer-Magnus が2010年に発表したメタ分析では、65件の研究・231の相関・3,738チームを集計し、チームの認知と成果の相関は ____ だった。成果を主観的な指標で測ると ____、客観的な指標で測ると ____ になる。穴埋め
Q2. 本文は、共有できているかどうかをどう確かめよと言っているか。確かめ方と、そのときに使う三つの欄を答えよ。あわせて、空欄の多い文どうしについて本文が述べていることを書け。一問一答
Q3. 社運を賭けた大胆な目標という処方について、本文はどんな値切り方をしているか。出所の問題と、実証との関係の2点を書け。一問一答
Q4. Schweitzer, Ordóñez & Douma が2004年に発表した実験の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. Baum, Locke & Kirkpatrick が1998年に発表した縦断研究について、本文の記述に合うものはどれか。選択
3年後に自分の組織がどうなっていたいかを、自分の言葉で1行だけ書く。他の人に見せる必要はなく、正しい答えを当てる課題でもない。書いたら、その1行に次の三つがいくつ入っているかを数える。(1)いつまでに、という時点が書かれているか。(2)誰に対して、という相手が書かれているか。(3)何が、という変わるものが具体的に書かれているか。入っていれば1つ、入っていなければ0で数え、合計を0から3の整数で記録する。0でも構わない。0だと分かっている状態と、分からない状態は違う。組織に所属していない場合(フリーランス・休職中・求職中など)は、いま続けている仕事や活動、または過去に所属した組織について同じように1行書いて数える。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Locke E.A., Latham G.P. (2002) 'Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey', American Psychologist 57(9):705-717 — eric.ed.gov
- Ordóñez L.D., Schweitzer M.E., Galinsky A.D., Bazerman M.H. (2009) 'Goals Gone Wild: The Systematic Side Effects of Overprescribing Goal Setting', Academy of Management Perspectives 23(1):6-16 — journals.aom.org
- Schweitzer M.E., Ordóñez L., Douma B. (2004) 'Goal Setting as a Motivator of Unethical Behavior', Academy of Management Journal 47(3):422-432 — journals.aom.org
- DeChurch L.A., Mesmer-Magnus J.R. (2010) 'The cognitive underpinnings of effective teamwork: A meta-analysis', Journal of Applied Psychology 95(1):32-53 — atlas.northwestern.edu
- Mathieu J.E., Heffner T.S., Goodwin G.F., Salas E., Cannon-Bowers J.A. (2000) 'The influence of shared mental models on team process and performance', Journal of Applied Psychology 85(2):273-283 — www.semanticscholar.org
- Baum J.R., Locke E.A., Kirkpatrick S.A. (1998) 'A longitudinal study of the relation of vision and vision communication to venture growth in entrepreneurial firms', Journal of Applied Psychology 83(1):43-54 — www.academia.edu