優れた組織の共通点は必ず見つかる——うまくいかなかった組織は、社史を残さないからだ
組織の本は、たいてい成功した会社を集めて共通点を数える。共通点は必ず見つかる——潰れた会社は取材されないし、社史も残さないからだ。しかも困ったことに、その共通点を測っているのは、たいてい同じ人たちである。
この棚の入口——読者は、決定権を持っているとは限らない
ここまでの10の棚は、すべて個人から始まっていた。この棚だけが組織から始まる。だからまず、誰に向けて書くのかを決めておく。
読者は、10人から30人くらいの組織にいる人である。創業者かもしれないし、3人目の社員かもしれないし、部門をひとつ任された人かもしれない。この棚は、そのどれであっても読めるように書く。制度を作る側にも、制度の中にいる人にも立たない。経営者向けの指南書にはしないし、組織への不満の代弁にもしない。だから実践課題は、権限がなくても今日できることに限る。「制度を作れ」とは書かない。書くのは、それが起きているかどうかがどこに現れるか、だけである。
規模の話も先にしておく。日本の企業数は2021年6月時点で337.5万者、うち中小企業が336.5万者で99.7%、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の小規模企業者が285.3万者で全体の84.5%を占める。中小企業庁が2023年に公表した集計である。数のうえでは、この棚の読者がいる規模の組織が圧倒的多数だ。ところが、これから出てくる研究の標本は、ほとんどが数百人以上の組織で採られている。この非対称は、16の単位すべてで断り続ける。
4層の梯子——この棚の地図
この棚は道具箱ではなく、梯子である。
下から順に、存在基盤——なぜこの集まりがあるのか。その上に、構造・仕組み——誰が何を決めてよいのか。その上に、関係・文化——言ったことが、そのあとどう扱われるのか。いちばん上に、適応・持続——方針が変わってから、実際の行動が変わるまでに何日かかるのか。下が無いと上は崩れる。決定権の線を引こうとしても、何のための集まりかが定まっていなければ、線をどこに引くかを決める基準そのものが無い。
地図はここで一度だけ描く。以降の15単位では描き直さない。ただし、順に読まないと分からない書き方もしない。各単位は単独でも読める。
そのうえで、この単位が置く一点はこれだ。存在理由が明文化されていることと、日常の判断で実際に参照されていることは、別物である。前者は紙の上で完了する。後者は、先週あなたが何かを断ったり引き受けたりしたときにしか現れない。
値切り:成功した会社を後から集めると、共通点は必ず出る
この領域でもっとも広く流通している主張は、1994年の一般書に由来する。長く続いた企業を選び、同業の比較企業と並べ、共通点を数えたという本だ。結論として、コアバリューを保持し続けた企業の累積株式リターンは、1926年から1990年までで一般市場の15倍だったと書かれている——ちなみに、この棚のもとになった設計資料には18倍と書かれていた。同じ主張が、15倍にも18倍にもなって運ばれている。この数字を報告した査読論文を、経営学と心理学の学術データベースおよび学術検索で著者名と主題を組み合わせて探したが、たどり着けなかった。存在しないと断定はしない。ただ、確かめようとした人がたどり着けない場所にある数字は、根拠としては使えない。
設計のほうが、数字より重い問題である。成功した企業を先に選び、それから共通点を探している。共通点は必ず見つかる。同じ特徴を持って消えた企業は、そもそも標本に入っていないからだ。うまくいかなかった組織は取材されないし、社史も残さないし、アンケートにも答えない。しかも本が出たあと、選ばれた企業がどうなったかは追跡されていない。
この手つきの一般形は、経営学のなかで査読された形で書かれている。March と Sutton が1997年に Organization Science へ寄せた論考は、組織の成果を結果変数として扱う研究には三つの困難があると指摘した。成果の優位は競争によって不安定であること、因果が複雑に絡むこと、そして回顧的なデータには限界があること——うまくいったと知っている人が、後からその理由を語るからである。二人が最後に指摘したのは、研究者たちがこの困難を認めながら同じやり方を続けている、という事実のほうだった。
もう一つの手つき——同じ人が作って、同じ人が答える
この領域には、もう一つ厄介な事情がある。測っているのが、たいてい同じ人たちだということだ。制度を作った側が作った質問票に、制度の中にいる人が答える。相関は出る。向きは分からない。
これは印象論ではない。Podsakoff らが2003年に Journal of Applied Psychology でまとめた方法バイアスの総説によれば、先行の集計では、典型的な測定尺度の分散の26.3%が、測っている中身ではなく測り方に由来する系統的な誤差で説明されうる。同じ総説が数えた577件の研究のうち51%が、原因側と結果側の両方を同じ回答者から取っていた。同じ人が両方に答えると、答えの一貫性を保とうとする働きだけで、相関は膨らむ。
この二つの手つき——成功例の後づけ収集と、同じ人が作って同じ人が答える自己申告——は、この棚のどの単位にも顔を出す。正面から展開するのはここだけで、以降は1文で触れて先へ進む。
置き換える実証——効果はある。ただし、講演で使える大きさではない
では、値切ったあとに何が残るのか。ベルギーの研究チーム(Desmidt、Prinzie、Decramer)が2011年に Management Decision へ発表したメタ分析は、ミッション文と組織成果の関係を扱った20年ぶんの研究から14件を選び、206の相関を集計した。全体の相関は .22。正の方向ではあるが、小さい。
面白いのは内訳のほうだ。硬い財務指標で測った研究では .135、主観的な業績評価で測った研究では .338。測り方を変えるだけで、同じ関係が2倍以上に見える。部分集計の幅は .08 から .41 まで開いていた。ここでも、さきほどの二つ目の手つきが効いている。
個別の研究も同じ形をしている。Bart と Baetz が1998年に Journal of Management Studies へ発表した、カナダの大企業136社を対象にした研究では、ミッション文とその特徴の一部が、より高い成果と選択的に結びついていた——すべての特徴ではなく、一部だけが。Alegre らが2018年に Journal of Management & Organization へ発表した53本の文献レビューの結論は、もっと素っ気ない。ミッション文は実務では広く使われているが、理論的にはあまり研究されていない。
時間・変化:明文化された日と、参照された日のあいだ
ミッションは、書かれた日にいちばん明確で、その翌日から薄くなる。理由は三つある。
第一に、書いた本人以外は、その文が何を排除するために書かれたかを知らない。「社会に貢献する」という文は、何も排除しない。排除しない文は、判断のときに呼び出されない。
第二に、人が入れ替わる。10人の組織に3人入ると、文を作る場に居合わせなかった人が3割を占める。文は残るが、文の背後にあった却下案は誰にも引き継がれない。
第三に、事業が動く。文はたいてい、いま売れているものの説明として書き直され、そのたびに排除する力を失っていく。
だから、明確さは文の出来では測れない。測れるのは、直近の判断のうち何件がその文に照らして説明できたか、という数のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、良い文を書けば済むという前提だ。文の推敲に使った時間は、参照された回数を1回も増やさない。
第二の妨げは、他組織の文を借りてくることである。借りた文は、借りた組織が何を断ったかを含んでいない。
ここで、この棚として必ず断ることがある。この単位で出した数字は、ほぼすべて北米と西欧の、数百人以上の組織から採られている。読者の組織は30人以下かもしれないが、証拠のほうは数百人以上の組織で採られている。しかも自己申告と横断調査が多く、うまくいかなかった組織はそもそも調査に答えない。日本の雇用慣行——人の入れ替わりの速さも、職務の区切り方も——にそのまま当てはまる保証はない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、文そのものではなく、文と判断を突き合わせる習慣だ。突き合わせは、権限が無くてもできる。
最初の一歩は10分。自分の組織がなぜ存在するかを1文で書く。それから、直近1週間で自分が下した判断を1件だけ思い出し、その1文に沿っていたかどうかに○か×を付ける。×でも構わない。×だと分かっている状態と、分からない状態は違う。
ここまでで、梯子のいちばん下に1本目の横木が置けた。次の単位は 162「ビジョン共有性」——その上に、時間の軸を1本載せる。なぜ存在するかが定まったあとに残るのは、3年後にどうなっていたいかが、各自の頭の中でどれだけ食い違っているか、という問いである。
- この棚の読者は10人から30人くらいの組織にいる人であり、制度を作る側にも制度の中にいる人にも立たない。日本の企業数は2021年6月時点で337.5万者、うち中小企業が336.5万者で99.7%、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の小規模企業者が285.3万者で全体の84.5%を占める(中小企業庁が2023年に公表した集計)
- この棚は梯子である。存在基盤(なぜあるのか)→構造・仕組み(誰が何を決めるか)→関係・文化(言ったことがどう扱われるか)→適応・持続(方針の変更が行動に届くまでの時間)の順に積み上がり、下が無いと上は崩れる。地図を描くのはこの単位だけである
- 1994年の一般書が示した、コアバリューを保持した企業の累積株式リターンが1926年から1990年までで一般市場の15倍という主張(設計資料では18倍と書かれていた)は、学術データベースと学術検索で探したが、これを報告した査読論文にたどり着けなかった。設計の中心には、成功した企業を先に選んでから共通点を探すという手つきがある
- March & Sutton 1997(Organization Science 8(6):698-706)は、組織の成果を結果変数として扱う研究の三つの困難——成果の優位が競争で不安定なこと、因果が複雑なこと、回顧的データの限界——を挙げ、研究者がその困難を認めながら同じやり方を続けていると指摘した
- Podsakoff et al. 2003(Journal of Applied Psychology 88(5):879-903)がまとめた集計では、典型的な測定尺度の分散の26.3%が測り方に由来する系統的な誤差で説明されうる。同総説が数えた577件の研究のうち51%は、原因側と結果側の両方を同じ回答者から取っていた
- Desmidt, Prinzie & Decramer 2011(Management Decision 49(3):468-483)のメタ分析は、20年ぶんの研究から14件・206の相関を集計し、ミッション文と組織成果の全体相関を .22 とした。硬い財務指標で測った研究では .135、主観的な業績評価で測った研究では .338 で、部分集計の幅は .08 から .41 まで開いていた
- Bart & Baetz 1998(Journal of Management Studies 35(6):823-853)はカナダの大企業136社で、ミッション文の特徴の一部だけが高い成果と選択的に結びつくことを示した。Alegre et al. 2018(Journal of Management & Organization 24(4):456-473)の53本のレビューは、ミッション文が実務では広く使われる一方で理論的にはあまり研究されていないと結論した
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 長く続いた優れた企業の共通点を調べた本があるのだから、その共通点を持てば組織はうまくいく | その本は成功した企業を先に選び、それから共通点を探している。同じ特徴を持って消えた組織は標本に入っていない。うまくいかなかった組織は取材されず、社史も残さず、アンケートにも答えない。加えて、一般市場の15倍という累積リターンの数字(設計資料では18倍)を報告した査読論文には、探してもたどり着けなかった。March & Sutton 1997 が査読された形で書いたのは、成果を結果変数にする研究では、うまくいったと知っている人が後から理由を語る、という回顧的データの限界である |
| ミッション文がある組織は業績が良い、という研究がたくさんある | Desmidt et al. 2011 のメタ分析では、14件・206の相関を集計した全体の相関は .22 と小さい。しかも硬い財務指標で測ると .135、主観的な業績評価で測ると .338 で、測り方を変えるだけで2倍以上に動く。関係が無いとは言わないが、掲げれば業績が付いてくるという大きさではない |
| アンケートで従業員がミッションに共感していると答えているのだから、浸透している | Podsakoff et al. 2003 の集計では、典型的な測定尺度の分散の26.3%が測り方に由来する系統的な誤差で説明されうる。577件の研究のうち51%は原因側と結果側を同じ回答者から取っていた。制度を作った側が作った質問票に制度の中にいる人が答えれば、相関は出る。向きは分からない |
存在理由を明文化する作業には、たいへん優れた性質がある。半日で終わり、成果物が残り、しかも誰にも反証されない。壁に貼れば、来客にも見える。皮肉なのは、その文がいちばん明確なのが、貼った日の午後だということだ。翌週、あなたが何かを断る場面が来る。そのとき壁を見る人はいない。文はそこにあり続けるが、判断のほうは、文を経由せずに済ませることができる——そして、経由したかどうかを記録している組織は、ほとんど無い。
Q1. Desmidt, Prinzie & Decramer が2011年に発表したメタ分析では、20年ぶんの研究から ____ 件を選んで206の相関を集計し、ミッション文と組織成果の全体相関は ____ だった。硬い財務指標で測った研究では ____、主観的な業績評価で測った研究では .338 である。穴埋め
Q2. 日本の企業数は2021年6月時点で337.5万者、うち中小企業が336.5万者で ____%、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の小規模企業者が285.3万者で全体の ____% を占める。ところが、この棚に出てくる研究の標本は、ほとんどが ____ 人以上の組織で採られている。穴埋め
Q3. コアバリューを保持した企業の累積株式リターンが一般市場の15倍だった、という有名な主張について、本文はどこを探して何が分かったと書いているか。あわせて、この主張の設計上の問題を1つ挙げよ。一問一答
Q4. Podsakoff らが2003年にまとめた方法バイアスの総説について、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. この棚の4層の梯子を、下から順に並べよ。(関係・文化——言ったことがどう扱われるか/適応・持続——方針の変更が行動に届くまでの時間/存在基盤——なぜこの集まりがあるのか/構造・仕組み——誰が何を決めてよいのか)並べ替え
紙でもメモアプリでもよいので、自分の組織がなぜ存在するのかを1文で書く。長さは40字程度まで。うまい文にしようとしない。次に、直近1週間で自分が下した判断を1件だけ思い出す——何かを引き受けた、断った、順番を後回しにした、書き直した、など、小さいもので構わない。その判断が、いま書いた1文に照らして説明できるなら○、説明できないなら×を付ける。○×の理由は書かなくてよい。他人に見せる必要はなく、誰かに何かを要求する必要もない。組織に所属していない場合(フリーランス・休職中・求職中など)は、いま自分が続けている仕事や活動を1つ選び、それがなぜ存在するのかを1文で書いて、同じように直近1週間の判断1件に○×を付ける。過去に所属した組織を思い出して書いてもよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- 中小企業庁 (2023)「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果」(総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」に基づく) — www.chusho.meti.go.jp
- March J.G., Sutton R.I. (1997) 'Crossroads—Organizational Performance as a Dependent Variable', Organization Science 8(6):698-706 — pubsonline.informs.org
- Podsakoff P.M., MacKenzie S.B., Lee J.-Y., Podsakoff N.P. (2003) 'Common Method Biases in Behavioral Research: A Critical Review of the Literature and Recommended Remedies', Journal of Applied Psychology 88(5):879-903 — eli.johogo.com
- Desmidt S., Prinzie A., Decramer A. (2011) 'Looking for the value of mission statements: a meta-analysis of 20 years of research', Management Decision 49(3):468-483 — www.emerald.com
- Bart C.K., Baetz M.C. (1998) 'The Relationship Between Mission Statements and Firm Performance: An Exploratory Study', Journal of Management Studies 35(6):823-853 — onlinelibrary.wiley.com
- Alegre I., Berbegal-Mirabent J., Guerrero A., Mas-Machuca M. (2018) 'The real mission of the mission statement: A systematic review of the literature', Journal of Management & Organization 24(4):456-473 — ideas.repec.org