組織に強く同一化している人ほど、組織のために嘘をつくことに寛容だった
一体感は強いほど良い、と誰もが思っている。組織への同一視を測った研究は、それが協力を増やすことも、組織のために事実を隠すことへの寛容さを増やすことも、同じ手つきで示してきた。危機のときの結束と、内部からの異論の消失は、同じ一つの変数の裏表である。
価値の次に置くのは、外から見たときの輪郭
前の単位では、掲げた行動原則が今日の判断で実際に使われたかどうかを見た。ここではその上に、外から見たときの輪郭を置く——この集まりは何者か、という問いである。
これで存在基盤の4本がそろう。なぜあるのか、どこへ向かうのか、何を良しとするのか、そして何者か。ここまでが梯子のいちばん下の段で、次の段からは、誰が何を決めてよいかという構造の話になる。
なお、組織の話は成功例を後から集める手つきでできていて、しかも測っているのはたいてい同じ人たちだ——この二つは棚の入口で扱った。ここでは思い出すだけにして先へ進む。
「私たちは何者か」が安定していることの効用
輪郭がはっきりしていると、何が起きるのか。実測がある。
Mael と Ashforth が1992年に Journal of Organizational Behavior へ発表した研究は、米国のある単科大学の卒業生297人を対象に、組織への同一視の前提と結果を調べた。同一視と結びついていたのは、その組織が他と際立って違うこと、外から見て威信があると思えること、内部での競争が少ないことだった。そして同一視が強い人ほど、寄付をし、身近な人にその学校を勧め、行事に参加していた。
Dukerich、Golden、Shortell が2002年に Administrative Science Quarterly へ発表した研究は、米国の三つの医療システムに属する医師1,504人から回答を得て、1年後に285人を追跡した。組織の同一性が魅力的だと感じられること、そして外からどう見られていると思うかが、同一視と結びついていた。その同一視が、協力的な行動と結びついていた。
輪郭とは、外の人に30秒で説明できる形のことである。中にいる人だけが分かる説明は、輪郭ではない。誰のために、何をして、そして何をしないか。三つ目が入って初めて、他の集まりと区別がつく。
値切り:一体感は強いほど良い、という想定
ここまでなら、輪郭を強めればよいという話になる。ならない理由がある。
Umphress、Bingham、Mitchell が2010年に Journal of Applied Psychology へ発表した研究は、組織のための非倫理的行動——社会の道徳規範に反するが、組織の利益にはなる行動——を扱った。尺度に並ぶのは、たとえば自社の製品について不都合なデータを伏せる、といった項目である。上司に命じられてやることではなく、自分から進んでやることを指す。
結果はこうだ。組織への同一視が強い人ほど、この種の行動に肯定的だった。ただし単純な直線ではない。受けた恩には返す、という互恵の信念が強い人でとくに顕著、という交互作用として報告されている。組織から良くしてもらったと感じている人が、その分を返そうとする形で、組織のために事実を伏せる側に回る。
同じ向きの研究が続いている。Effelsberg、Solga、Gurt が2014年に Journal of Business Ethics へ発表した二つの研究では、部下を鼓舞する型のリーダーシップが、組織への同一視を介して、組織のための非倫理的行動への意欲と結びついていた。本人の倫理観の強さが、その結びつきを弱める側に働く。
読み方を間違えないようにしたい。強い一体感が悪だ、という話ではない。危機のときに人が残ることと、内部から異論が出なくなることは、同じ一つの変数の別の側面だという話である。片方だけを増やす方法は、いまのところ見つかっていない。ここで注意しておくと、集団への同一視を説明する社会的アイデンティティ理論は1979年に提出された理論の枠組みであって、実証の代わりに置けるものではない。
なお、これらの研究が測っているのは、多くの場合、本人が自分で答えた質問票である。同じ人が同一視の強さにも、非倫理的な行動への肯定にも答えている。
一体感には、4つの向きがある
一体感を、強い・弱いの1本の線で測るのをやめると、見え方が変わる。
Kreiner と Ashforth が2004年に Journal of Organizational Behavior へ発表した研究は、就業する成人330人を対象に、同一視、反同一視、両価的な同一視、中立的な同一視という四つの次元が、互いに区別できることを示した。反同一視とは、自分をその組織ではないものとして定義することである。両価的な同一視は、強く同一視しながら同時に強く反発している状態を指す。
実務上の含意はひとつだけだ。一体感が弱く見える人は、無関心とは限らない。反発している人も、両価的な人も、輪郭についてはむしろ強い意見を持っている。輪郭がぼやけているのは、たいてい中立の人が多い組織のほうである。
置き換える実証——同一視は、隣の概念と紙一重の場所で測られている
では、同一視という変数はどこまで信用してよいのか。
Riketta が2005年に Journal of Vocational Behavior へ発表したメタ分析は、96件の標本を集計し、組織への同一視が幅広い職務態度・行動・文脈の変数と相関することを確認した。そのうえで、いちばん近い隣人である態度的な組織コミットメントとは経験的に区別できると結論している。ただしこの結論は、どの尺度を使うかに左右される——著者は、行動を説明する目的なら Mael の尺度のほうが望ましいとした。
言い換えれば、一体感という数字の大きさは、何と呼ぶかと、どの物差しを当てるかで動く。この棚のどの単位にも顔を出す事情が、ここでも顔を出す。
時間・変化:輪郭は、外の人に説明した回数だけ確かめられる
輪郭は、内側にいるだけでは薄くなる。理由は三つある。
第一に、中にいる人どうしの説明は省略が効く。省略された部分は、しばらくすると本人にも思い出せなくなる。輪郭の確かめは、省略が効かない相手——外の人——に説明したときにしか起きない。
第二に、事業が増えると、何をしないかの部分が先に落ちる。輪郭は、やることの一覧ではなく、やらないことの一覧で決まる。増えるほど薄くなる。
第三に、外からどう見られているかの認識は、たいてい更新されない。何年か前に言われた評判のまま止まる。Dukerich らの研究で同一視と結びついていたのは、実際の評判ではなく、外からどう見られていると思うかのほうだった。思い込みは、確かめないかぎり更新されない。
だから、輪郭の明確さは会議では測れない。測れるのは、外の人にこの集まりを説明した回数と、そのときに詰まった箇所のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、輪郭を強めることを目的にすることだ。強い一体感は、危機のときの結束と、内部からの異論の消失を同時に連れてくる。目的にできるのは、輪郭が説明できる状態のほうであって、一体感の強さそのものではない。
第二の妨げは、何をしないかを言わずに済ませることである。それを言わない説明は、他のどの集まりの説明にもなってしまう。
ここで断っておく。この単位の数字は、ほぼすべて米国のもので、対象は医師、卒業生、就業する成人など、数百人以上の組織に属する人に偏っている。読者の組織は30人以下かもしれないが、証拠のほうは数百人以上の組織で採られている。自己申告と横断調査が多く、うまくいかなかった組織はそもそも調査に答えない。日本の雇用慣行——所属の重さも、辞めるという選択の意味も——にそのまま当てはまる保証はない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、外に向かって話す機会を意図的に作ることだ。相手は取引先でも、家族でも、久しぶりに会う知り合いでもよい。
最初の一歩は10分。この集まりが何をしているかを、外の人に向けて30秒で言える文にして、声に出して一度読む。誰のために、何をして、何をしないか。三つ目で詰まったら、そこが今の輪郭の端である。
ここまでで、存在基盤の4本——なぜあるか、どこへ向かうか、何を良しとするか、何者か——が置けた。次の単位は 165「役割・権限の流動的明確性」——梯子の次の段に上がり、その4本の上に、誰が何を決めてよいかという構造を載せる。何者かが決まっていない集まりでは、決定権の線をどこに引くかを決める基準そのものが無い。
- Mael & Ashforth 1992(Journal of Organizational Behavior 13(2):103-123)は、米国のある単科大学の卒業生297人を対象に、組織が他と際立って違うこと、外から見て威信があると思えること、内部での競争が少ないことが同一視と結びつき、同一視の強い人ほど寄付や推薦、行事への参加といった支援行動をとることを示した
- Dukerich, Golden & Shortell 2002(Administrative Science Quarterly 47(3):507-533)は、米国の三つの医療システムの医師1,504人から回答を得て1年後に285人を追跡し、組織の同一性の魅力と、外からどう見られていると思うかが同一視と結びつき、その同一視が協力的な行動と結びつくことを示した
- Umphress, Bingham & Mitchell 2010(Journal of Applied Psychology 95(4):769-780)は、組織への同一視が強い人ほど、組織の利益になるなら社会の道徳規範に反する行動——自社の製品について不都合なデータを伏せるなど——に肯定的だと報告した。ただしそれは、受けた恩には返すという互恵の信念が強い人でとくに顕著、という交互作用である
- Effelsberg, Solga & Gurt 2014(Journal of Business Ethics 120(1):81-93)の二つの研究では、部下を鼓舞する型のリーダーシップが、組織への同一視を介して、組織のための非倫理的行動への意欲と結びついていた。本人の倫理観の強さは、その結びつきを弱める側に働いた
- 強い一体感は、危機のときの結束と、内部からの異論の消失を同時に連れてくる。片方だけを増やす方法はいまのところ見つかっていない。社会的アイデンティティ理論は1979年に提出された理論の枠組みであって、実証の代わりには置けない
- Kreiner & Ashforth 2004(Journal of Organizational Behavior 25(1):1-27)は、就業する成人330人を対象に、同一視、反同一視、両価的な同一視、中立的な同一視の四つが互いに区別できることを示した。一体感が弱く見える人は無関心とは限らず、輪郭がぼやけているのは中立の人が多い組織のほうである
- Riketta 2005(Journal of Vocational Behavior 66(2):358-384)は96件の標本を集計し、組織への同一視が幅広い職務態度・行動・文脈の変数と相関すること、いちばん近い隣人である態度的な組織コミットメントとは経験的に区別できることを示した。ただしこの結論は使う尺度に左右され、著者は行動を説明する目的なら Mael の尺度が望ましいとした
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 一体感は強いほど良い。同じ旗の下にいると感じられれば、組織は強くなる | Umphress, Bingham & Mitchell 2010 は、組織への同一視が強い人ほど、組織の利益になるなら社会の道徳規範に反する行動に肯定的だと報告した(受けた恩には返すという互恵の信念が強い人でとくに顕著)。Effelsberg et al. 2014 の二つの研究も同じ向きを示している。危機のときの結束と、内部からの異論の消失は、同じ一つの変数の別の側面である |
| 一体感が薄い人は、組織に無関心な人である | Kreiner & Ashforth 2004 は、就業する成人330人を対象に、同一視・反同一視・両価的な同一視・中立的な同一視の四つが互いに区別できることを示した。反発している人も、強く同一視しながら同時に強く反発している人も、輪郭についてはむしろ強い意見を持っている。輪郭がぼやけているのは、中立の人が多い組織のほうである |
| 組織への同一視は、確立した尺度で測れる確かな指標である | Riketta 2005 の96件の集計では、同一視は幅広い態度・行動と相関し、いちばん近い隣人である態度的な組織コミットメントとは経験的に区別できるとされたが、その結論はどの尺度を使うかに左右される。しかもこれらの研究の多くは、同一視の強さにも、非倫理的な行動への肯定にも、同じ人が自分で答えた質問票で測っている |
何者かがはっきりしている組織には、独特の心地よさがある。説明が短くて済み、迷いが減り、揉めごとが起きても内側で片づく。皮肉なのは、その心地よさを作っている力が、外に向かって事実を伏せるときにも同じだけ働くことだ。強い輪郭は、内と外を分ける線である。線がはっきりするほど、線の内側でだけ通用する説明が育ちやすい。壁に飾るのに向いているのは輪郭のほうで、点検すべきなのは、その線がどこで引かれているかのほうである。
Q1. Dukerich らが2002年に示した経路を、本文に出てきた順に並べよ。(外からどう見られていると思うか/協力的な行動/組織の同一性が魅力的だと感じられること/組織への同一視)並べ替え
Q2. 外の人に30秒で説明する文の3つの部品を、本文に出てきた順に並べよ。(何をしないか/何をして/誰のために)並べ替え
Q3. Umphress, Bingham & Mitchell が2010年に報告した内容として、本文に合うものはどれか。選択
Q4. Kreiner & Ashforth が2004年に示した4つの次元と、本文がそこから引き出した含意の組み合わせとして正しいものはどれか。選択
Q5. 本文は「一体感は強いほど良い」という想定をどう値切っているか。効用と代償の両方に触れ、あわせて Riketta 2005 が同一視という変数について示したことを書け。一問一答
自分の組織が何をしている集まりかを、業界の外にいる人に向けて、30秒で言える長さの文にまとめる。目安は150字程度。次の三つを必ず入れる。(1)誰のために。(2)何をして。(3)何をしないか。専門用語は使わない。用意できたら、誰もいないところで一度だけ声に出して読み、30秒に収まるかを確かめる。三つ目で詰まったら、詰まったという事実だけ覚えておけばよい——そこが今の輪郭の端である。実際に誰かに話す必要はなく、上司や同僚に確認を取る必要もない。組織に所属していない場合(フリーランス・休職中・求職中など)は、いま自分がしている仕事や活動、または過去に所属した組織について同じ三つを入れて用意する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Mael F., Ashforth B.E. (1992) 'Alumni and their alma mater: A partial test of the reformulated model of organizational identification', Journal of Organizational Behavior 13(2):103-123 — onlinelibrary.wiley.com
- Dukerich J.M., Golden B.R., Shortell S.M. (2002) 'Beauty Is in the Eye of the Beholder: The Impact of Organizational Identification, Identity, and Image on the Cooperative Behaviors of Physicians', Administrative Science Quarterly 47(3):507-533 — journals.sagepub.com
- Umphress E.E., Bingham J.B., Mitchell M.S. (2010) 'Unethical behavior in the name of the company: The moderating effect of organizational identification and positive reciprocity beliefs on unethical pro-organizational behavior', Journal of Applied Psychology 95(4):769-780 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Effelsberg D., Solga M., Gurt J. (2014) 'Transformational Leadership and Follower's Unethical Behavior for the Benefit of the Company: A Two-Study Investigation', Journal of Business Ethics 120(1):81-93 — link.springer.com
- Kreiner G.E., Ashforth B.E. (2004) 'Evidence toward an expanded model of organizational identification', Journal of Organizational Behavior 25(1):1-27 — asu.elsevierpure.com
- Riketta M. (2005) 'Organizational identification: A meta-analysis', Journal of Vocational Behavior 66(2):358-384 — eric.ed.gov