尺度を作った会社が、尺度の効果を測っている——それでも承認は効く、ただし別の理由で
承認が効くという話は、たいてい承認を測る道具を売っている会社の数字と一緒に運ばれてくる。嘘だという話ではない。誰が測ったかを見ないまま使うことはできない、という話だ。
言える状態の上に、見えている状態を載せる
前の単位で、発言のしきい値としての信頼を見た。ここではその上に、言われたことと、やったことが誰の目に入っているか——貢献の可視性を載せる。
扱う範囲を先に狭めておく。人事評価と昇進の制度設計は、就職と職業の棚の持ち場であり、しかも法制度が国ごとに違う。学び手が受け取るフィードバックの設計は、学習と成長の棚の持ち場だ。ここで扱うのは、日常の中で誰の仕事が誰に見えているか、その往復が記録として残っているか、という一点である。
22%という数字は、どこから来て、何を含んでいるか
承認の話には、決まって数字がついてくる。週に1回以上承認を受けるチームは生産性が22%高い、収益性が21%高い——この形の数字だ。
出どころは、ある米国の調査会社が自社の顧客企業のデータで行った一連のメタ分析である。査読された版もある。2002年に Journal of Applied Psychology へ出たもので、7,939の事業単位、36社、198,514人ぶんの回答を集計している。真値相関は、顧客満足と .33、生産性と .25、収益性と .17、離職と .30、安全と .32、そして複数の成果をまとめた総合指標と .38 だった。数字としては、正でそれなりの大きさである。
問題は、数字の大小ではない。検証可能性の構造のほうだ。三点ある。
第一に、使われている尺度は同社の著作権つきの独占物で、論文にも項目は同社が権利を持つと明記されている。第三者が同じ尺度で測り直すことができない。第二に、これは事業単位を横に並べた相関である。著者ら自身が、この論文では因果関係について論じていない、と書いている。第三に、分析している側が、その尺度を企業へ販売している側でもある。
この三つは、どれも不正の指摘ではない。査読を通った真面目な分析である。ただ、道具を売る会社が道具の効果を測るとき、他の誰にも測り直せない、という構造だけは残る。値切っているのは会社ではなく、その構造だ。
もうひとつ、単位の話をしておく。相関 .25 と、上位と下位の差 20%台は、同じデータから出てくる別の表現である。差の形にすると数字は大きく見え、相関に戻すと小さく見える。どちらが正しいという話ではないが、講演のスライドに載るのはいつも前者のほうだ、という規則性はある。
承認は効く。ただし、金銭とは向きが違う
代わりに置ける実証は、別の系統にある。
1999年に Psychological Bulletin へ出たメタ分析は、128の実験を集計した。結果は二つに割れている。有形の報酬——金銭や賞品——は、課題そのものへの自発的な取り組みを下げた(d=-0.34)。あらかじめ約束された有形報酬ではさらに下がった(d=-0.36)。いっぽう言語的な承認、つまり具体的に良かった点を伝えることは、自発的な取り組みを上げた(d=0.33)。本人が報告する興味も上がった(d=0.31)。
ただし、ここには但し書きがつく。同じ言語的な承認でも、子どもを対象にした7つの研究では効果が有意でなかった(d=0.11)。大学生では 0.43 だった。褒めればよい、という単純な話ではない。
実際の職場で測った数字もある。2003年に Personnel Psychology へ出たメタ分析は、72の研究・13,301人を集計し、業績の平均改善率を、金銭で23%、社会的な承認で17%、フィードバックで10%と報告した。3つを同時に使うと45%で、単純な足し算より大きかった。
感謝そのものを操作した実験もある。2010年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た研究では、米国の大学で寄付を募る担当者に責任者が短く感謝を伝えたところ、翌週の架電件数が約50%増えた。感謝を伝えなかった群は変わらなかった。伝えられた側で上がったのは、自分は役に立っているという感覚のほうだった。
承認は片道では成立しない
組織の中で観察できるのは、誰から誰へ承認が流れているかの往復である。上から下へだけ流れる組織では、承認は評価の予告になる。横へも流れる組織では、承認は情報になる——誰が何をやったかが、上を経由せずに伝わる。
ここで数えるのは中身の質ではなく、件数と向きだけでよい。質を採点しようとすると、採点する人が要る。採点する人が要ると、承認はまた評価に戻ってしまう。件数と向きなら、権限のない側からでも数えられる。しかも、自分が受けた件数と出した件数は、たいてい一致しない。多くの人は、受けた件数を過少に、出した件数を過大に見積もる。この二つを並べて書き出すだけで、片道になっている向きがどちらかは分かる。
承認が効くとき、伝わっているのは称賛そのものではないらしい。1999年のメタ分析で効いたのは、良かった点を具体的に指して伝える言語的な承認のほうだった。2010年の実験で上がったのも、自分の仕事が誰かの役に立っているという感覚のほうだった。この二つを重ねると、承認の経路は三つに割れる——見られていたという事実、その仕事が何につながったかの接続、そして誰から来たか、である。どれかが欠けると、残るのは、よくやっているという趣旨の音声だけになる。名前も行動も入っていない承認は、件数としては1件だが、経路としては0本である。
2014年に Psychological Bulletin へ出た183標本・212,468人のメタ分析は、内発的な動機と成果の相関を .26 と報告した。興味深いのは内訳だ。報酬が成果に直接結びついている場面では .30、間接的にしか結びついていない場面では .45 だった。報酬の紐が太いほど、内発的な動機が成果を説明する余地は減る。
時間・変化:制度にすると、制度が測られる
承認を制度にすると、時間の経過とともに、承認そのものではなく制度の条件が測られはじめる。
2016年に Organization Science へ出た研究が、その過程を米国の産業用洗濯工場で追っている。皆勤を表彰する制度が導入されたあと、遅刻しがちだった人は表彰の条件に合わせて休みを使い分け、条件から外れた月には元へ戻った。一方、もともと時間を守っていた人の遅刻が増えた。工場全体では、日次の生産性が1.4%下がった。
下がった理由は、表彰が悪だからではない。表彰の条件が、承認の対象を勝手に定義し直したからだ。制度が始まる前、時間を守ることは自分で決めていたことだった。制度が始まったあと、それは賞をめぐる競争の一項目になった。
第二に、承認は慣れる。同じ言葉が同じ頻度で続くと、情報量が落ちる。効いているのは言葉ではなく、名指しされた行動の具体性のほうだからだ。第三に、記録が残らない承認は、3か月で存在しなかったことになる。言った側は覚えていて、言われた側は忘れている。
では承認は積み上がるのか、それとも減っていくのか。積み上がるのは承認そのものではなく、記録のほうだ、と考えたほうが観察と合う。伝えられた言葉は本人の記憶にしか残らないが、誰が何をやったかが書かれていれば、後から参照できる。記録のない組織では、承認は毎回ゼロから作り直されることになる。
規模もここに効く。10人の組織では、全員が全員の仕事をだいたい見ている。承認の経路は短く、制度にするまでもない——見えているものを、見えていると言えばよい。30人になると、同じ部屋にいても、隣の人が先週何を片づけたのかは分からなくなる。このとき起きるのは、承認が減ることではなく、承認の経路が上へ集まることだ。全体を見ている人が数えるほどしかいないので、その人たちだけが承認できる立場になる。さきほどの格子で左上の数行だけが濃くなるのは、たいてい誰かの意地悪ではなく、この算術の結果である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、承認を士気の話として語ることだ。士気は測れないので、対策は掛け声になる。往復の件数なら数えられる。
第二の妨げは、可視性を可視化ツールの話にすることである。道具を入れると、道具の中の数字は必ず増える。増えた数字は、道具を入れた人が見る。この単位の冒頭で値切った構造が、そのまま戻ってくる。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、米国と西欧の、数百人以上の組織や大学生を対象にしたものがほとんどである。事業単位のメタ分析は36社の大企業、実験の多くは学生を対象にしている。この棚が想定する10人から30人の組織を対象にした研究は、ほとんど存在しない。日本の雇用慣行——長期の在籍、異動、年次の評価——にそのまま当てはまる保証もない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、自分が出した承認と受けた承認を、件数として数えることだ。相手を評価するのでも、制度を変えるのでもない。自分の側の往復だけを数える。権限がなくても今日できる。
最初の一歩は10分。直近1週間を送信済みのメッセージとカレンダーで見返して、自分が受けた承認の件数と、自分が出した承認の件数を数える。差が大きいほうへ、次の1件を置けばよい。
次の単位は 171「対話・異論の文化」——承認が往復するようになると、次に問題になるのは、承認しにくい発言のほうだ。ここまでで、見えている状態が置けた。次はその上に、賛成ではない発言が出たあとに何が起きるかを載せる。
- Harter, Schmidt & Hayes 2002(Journal of Applied Psychology 87(2):268-279)は7,939の事業単位・36社・198,514人を集計し、従業員のエンゲージメントと成果の真値相関を、顧客満足 .33、生産性 .25、収益性 .17、離職 .30、安全 .32、総合指標 .38 と報告した
- この分析の検証可能性には3つの構造がある——尺度が分析した会社の著作権つきの独占物で第三者が測り直せないこと、事業単位を横に並べた相関であり著者ら自身が因果関係については論じていないと明記していること、分析者がその尺度を企業へ販売する側でもあること。不正の指摘ではなく、構造の指摘である
- Deci, Koestner & Ryan 1999(Psychological Bulletin 125(6):627-668)は128の実験を集計し、有形の報酬は課題への自発的な取り組みを下げ(d=-0.34、約束された場合は-0.36)、言語的な承認は上げた(d=0.33、自己申告の興味は0.31)。ただし子ども対象の7研究では有意でなく(d=0.11)、大学生では0.43だった
- Stajkovic & Luthans 2003(Personnel Psychology 56(1):155-194)は72研究・13,301人を集計し、業績の平均改善率を金銭23%、社会的な承認17%、フィードバック10%、3つ同時で45%と報告した
- Grant & Gino 2010(Journal of Personality and Social Psychology 98(6):946-955)の現場実験では、米国の大学で寄付を募る担当者に責任者が短く感謝を伝えたところ、翌週の架電件数が約50%増え、伝えなかった群は変わらなかった
- Cerasoli, Nicklin & Ford 2014(Psychological Bulletin 140(4):980-1008)は183標本・212,468人を集計し、内発的な動機と成果の相関を .26 とした。報酬が成果に直接結びつく場面では .30、間接的な場面では .45 で、報酬の紐が太いほど内発的な動機の説明する余地は減る
- Gubler, Larkin & Pierce 2016(Organization Science 27(2):286-303)は米国の産業用洗濯工場で、皆勤の表彰制度の導入後に、条件に合わせた休みの使い分けが起き、もともと時間を守っていた人の遅刻が増え、日次の生産性が1.4%下がったことを示した
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 週に1回以上承認を受けるチームは生産性が22%高い、という研究がある | この形の数字は、ある米国の調査会社が自社の顧客企業のデータで行った一連の分析に由来する。査読された版(2002年、7,939事業単位・36社・198,514人)が報告しているのは、生産性との真値相関 .25、収益性 .17、総合指標 .38 といった相関である。嘘ではない。ただし、尺度は同社の著作権つきの独占物で第三者が測り直せず、事業単位の横断相関であり、著者ら自身が因果関係については論じていないと書いている。値切っているのは会社ではなく、この構造のほうだ |
| 承認も報酬も、要するにご褒美なのだから同じように効く | 128の実験を集めた Deci, Koestner & Ryan 1999 では、有形の報酬は課題への自発的な取り組みを下げ(d=-0.34)、言語的な承認は上げた(d=0.33)。向きが逆である。職場で測った Stajkovic & Luthans 2003 でも、金銭23%・社会的な承認17%・フィードバック10%と、性質の違う効き方が並ぶ |
| 承認を制度にすれば、承認の量が増えて成果も上がる | Gubler, Larkin & Pierce 2016 が米国の産業用洗濯工場で観察したのは逆だった。皆勤の表彰制度の導入後、遅刻しがちな人は条件に合わせて休みを使い分け、もともと時間を守っていた人の遅刻が増え、日次の生産性は1.4%下がった。制度は承認を増やす前に、承認の対象を定義し直してしまう |
承認が足りない、という診断はよく売れる。原因は測れず、対策は掛け声で、効果は本人の申告で確かめられるからだ。数えはじめると、先週こちらが出した承認が1件で、そのうち相手の名前も行動も入っていたものは0件だった、といった数字が出てくる。皮肉なことに、承認を士気と呼んでいるあいだは、誰の士気も上がらないまま、士気の話だけが上手になっていく。
Q1. Harter, Schmidt & Hayes 2002 は ____ の事業単位・36社・198,514人を集計し、真値相関を顧客満足 .33、生産性 ____、収益性 ____、総合指標 .38 と報告した。穴埋め
Q2. 本文が挙げた、この分析の検証可能性についての3つの構造を書け。一問一答
Q3. Deci, Koestner & Ryan 1999 のメタ分析で、有形の報酬と言語的な承認は、課題への自発的な取り組みにそれぞれどう働いたか。効果量の値も添えて答えよ。あわせて、この結果につく但し書きを1つ挙げよ。一問一答
Q4. Stajkovic & Luthans 2003(72研究・13,301人)が報告した業績の平均改善率の組み合わせとして正しいものはどれか。選択
Q5. Gubler, Larkin & Pierce 2016 が米国の産業用洗濯工場で観察した、皆勤の表彰制度の導入後に起きたこととして、本文の内容に合うものはどれか。選択
直近7日ぶんの送信済みメッセージ、チャット、カレンダーを見返して、2つの数字を記録する——(1)自分が受けた承認の件数、(2)自分が出した承認の件数。ここでいう承認とは、誰かの具体的な行動を名指しして、良かった・助かったと伝えたもののこと。良い感じですね、といった対象のない一言は数えない。誰が言ったか、誰に言ったかは記録せず、件数だけを残す。この課題では、誰かに承認を求めない。制度も変えない。数字が0と0でも、そのまま記録する。組織に所属していない場合は、取引先・共同作業の相手・過去に所属した組織でのやりとりを対象にして同じ2つを数える。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Harter J.K., Schmidt F.L., Hayes T.L. (2002) 'Business-Unit-Level Relationship Between Employee Satisfaction, Employee Engagement, and Business Outcomes: A Meta-Analysis', Journal of Applied Psychology 87(2):268-279 — psycnet.apa.org
- Deci E.L., Koestner R., Ryan R.M. (1999) 'A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation', Psychological Bulletin 125(6):627-668 — home.ubalt.edu
- Stajkovic A.D., Luthans F. (2003) 'Behavioral Management and Task Performance in Organizations: Conceptual Background, Meta-Analysis, and Test of Alternative Models', Personnel Psychology 56(1):155-194 — digitalcommons.unl.edu
- Grant A.M., Gino F. (2010) 'A Little Thanks Goes a Long Way: Explaining Why Gratitude Expressions Motivate Prosocial Behavior', Journal of Personality and Social Psychology 98(6):946-955 — www.hbs.edu
- Cerasoli C.P., Nicklin J.M., Ford M.T. (2014) 'Intrinsic Motivation and Extrinsic Incentives Jointly Predict Performance: A 40-Year Meta-Analysis', Psychological Bulletin 140(4):980-1008 — selfdeterminationtheory.org
- Gubler T., Larkin I., Pierce L. (2016) 'Motivational Spillovers from Awards: Crowding Out in a Multitasking Environment', Organization Science 27(2):286-303 — doi.org