異論の文化とは、みんなで話す場を増やすことではない
異論を歓迎する、と書いてある組織は多い。歓迎されているかどうかは、異論が出た直後の30秒に現れる。歓迎という言葉のほうには、何も現れない。
見えている状態の上に、賛成ではない発言を載せる
前の単位で、貢献の可視性を承認の往復として置いた。ここではその上に、承認しにくい発言——賛成ではない発言が出たあとに何が起きるかを載せる。
持ち場をはっきりさせておく。個人の議論の技術、説得の型、判断の癖の一覧は、思考法の棚の持ち場である。友人との意見の食い違いは、友達の棚が扱う。この単位が扱うのは一点だけだ——異論が出たあとに、その人がどう扱われるか。つまり制度としての異論である。
値切り:集団思考は、事例から来ている
異論の話をすると、たいてい集団思考という言葉が出てくる。結束の強い集団が、まずい決定を全員一致で通してしまう現象のことだ。1972年に米国の心理学者が、いくつかの外交上の失敗を読み解いて提示した枠組みで、影響は絶大だった。
1998年に Organizational Behavior and Human Decision Processes へ出たレビューが、その後25年ぶんの検証を集めている。結論は歯切れが悪い。実験室での検証は、この理論の予測を部分的にしか支持していない。とくに中心にあった予測——集団の凝集性が高いほど集団思考が起きる——については、弱い支持か、支持なしの結果が並んだ。レビューが引くメタ分析では、凝集性と決定の質のあいだに全体としての関係が見られなかった。いっぽうで支持されたものもある。リーダーの振る舞いと、集団の手続き上の欠陥のほうだ。
レビューの結論はこう書かれている——この研究は、集団思考の理論を曖昧さなく検証したとは言えない。枠組みとしての貢献は大きい。予測の裏づけは、思われているより小さい。
仲が良いから危ない、という話ではなかった。危ないのは、誰がどう振る舞い、どんな手続きで決めているかのほうである。
場を増やしても、アイデアは増えない
では、異論の文化とは話し合いの場を増やすことなのか。ここに古い実験群がある。
1987年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た4つの実験は、ドイツのテュービンゲンの学生を対象に、集まって話す集団と、同じ人数が別々に考えて後から答えを合算する集団を比べた。ブレインストーミングの基本ルール——批判するな、量を出せ——は両方に与えられている。
結果は一貫していた。第4実験では、4人が集まって話した集団の平均が55.67件、同じ4人が別々に考えた場合が106.00件。ほぼ倍である。原因も特定された。評価されるのが怖いからでも、他人任せにするからでもない。誰かが話しているあいだ、他の人が自分の考えを出せずに待っている——発言の順番待ちが、差の大半を説明した。
つまり、集まって話す時間を増やすことは、それ自体では異論を増やさない。増えるのは待ち時間のほうだ。
批判するな、というルールの値段
2004年に European Journal of Social Psychology へ出た研究は、米国とフランスで同じ比較を行った。指示は3種類——特に指示なし、批判するなという古典的なブレインストーミングの指示、そして議論し批判してよいという指示である。
どちらの国でも、討論を促した条件のアイデアが最も多かった。米国側では1組あたり、指示なしが約20件、ブレインストーミングが約24件、討論が約25件。批判の禁止は、安全を作る代わりに、量まで下げていたわけではないが、少なくとも上乗せにはなっていなかった。
異論の質にも条件がある。2001年に同じ雑誌へ出た実験では、米国の94人を4人組に分け、本当に少数意見を持っている人がいる場合と、反対役を割り当てられた人がいる場合を比べた。本物の異論がある集団は解決案を平均2.76件出し、反対役を演じた集団は1.86件、全員が同意している統制条件は1.84件だった。反対役は、統制条件と有意に違わなかった。
役を割り当てても、異論の効果は出ない。効くのは、その人が本当にそう思っていることのほうである。
出たあとの30秒
異論が価値を持つ場面を、はっきり切り取った実験がある。2006年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た研究は、ドイツのミュンヘンで447人が3人1組になり、分析の対象になったのは135組である。この135組に、正解の手がかりが全員に分散していて、一人ひとりの手元だけを見ると間違った候補が良く見える課題を与えた。
全員が同じ間違った候補を支持していた集団が正解に届いたのは7%。誰かが違う候補を支持していた集団では26%。そして、正解の候補を支持する一人がいた集団では62%だった。参考として、全員が全情報を持っていた統制条件は100%である。
異論そのものが正しさを運ぶわけではない。異論は、手元にある情報を場に出させる。出た情報が、正解を持っている一人と噛み合ったときに、答えが変わる。
そして、その一人がまた発言するかどうかは、前回どう扱われたかで決まる。2012年に Academy of Management Journal へ出た3つの研究——281人の店舗管理者を含む——は、既存のやり方を変えようとする発言をした人が、それを支持する発言をした人より、管理者から成果が低いと評価され、忠誠心が低いと見られ、提案を採用されにくいことを示した。
時間・変化:異論は、一度の扱われ方で次が決まる
異論の量は、その組織に異論を持つ人が何人いるかでは決まらない。前回の異論がどう扱われたかで決まる。
第一に、扱われ方は目撃される。当人が損をしたかどうかは、その場にいた全員が学習する。だから一件の扱いが、次回の発言数を人数分だけ動かす。
第二に、時間が経つと、扱われ方の記憶だけが残って、中身は消える。3か月後に残っているのは、あの提案の内容ではなく、あの人がそのあとどうなったかである。
第三に、異論は形を変えて生き延びる。会議で消えた反対意見は、廊下と、雑談と、退職面談に現れる。消えたのではなく、記録の残らない場所へ移っただけだ。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、異論を人格の問題として読むことだ。あの人は否定的だ、という読み方をした瞬間、内容の検討は終わる。
第二の妨げは、反対役を制度として割り当てることである。2001年の実験が示したように、割り当てられた反対役は、全員が同意している状態と有意に変わらなかった。形式は、形式のぶんしか効かない。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、米国・ドイツ・フランスの大学生と、数百人以上の組織で採られたものがほとんどである。実験の課題は数十分で終わるもので、続きのある職場の関係は再現されていない。この棚が想定する10人から30人の組織を対象にした研究は、ほとんど存在しない。日本の会議の慣行——事前の根回し、稟議、席次——にそのまま当てはまる保証もない。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、異論を評価ではなく情報として場に出す形にすることだ。反対の主張は、相手の立場への評価を含みやすい。同じ中身を質問の形にすると、評価が抜けて情報だけが残る。これは権限がなくても今日できる。
最初の一歩は10分。直近の会議で自分が出さなかった反対意見を1つ選び、批判ではなく質問の形に書き換えてみる。送らなくてよい。書き換えられるかどうかを見るのが目的である。
次の単位は 172「所属・関係の充足」——異論が出せる場は、そこに居続ける人がいて初めて意味を持つ。ここまでで、賛成ではない発言の置き場が作れた。次はその上に、人がその場に留まるかどうかを載せる。
- Esser 1998(Organizational Behavior and Human Decision Processes 73(2-3):116-141)のレビューは、集団思考の実験室での検証が部分的な支持にとどまり、とくに凝集性が高いほど集団思考が起きるという中心的な予測は弱い支持か支持なしだったとまとめた。支持されたのはリーダーの振る舞いと集団の手続き上の欠陥のほうで、レビューは曖昧さのない検証は得られていないと結論している
- Diehl & Stroebe 1987(Journal of Personality and Social Psychology 53(3):497-509)の4つの実験(ドイツ・テュービンゲン)では、第4実験で4人が集まって話した集団の平均が55.67件、同じ4人が別々に考えた場合が106.00件だった。差の大半を説明したのは、誰かが話しているあいだ他の人が待つという発言の順番待ちである
- Nemeth, Personnaz, Personnaz & Goncalo 2004(European Journal of Social Psychology 34(4):365-374)は米国とフランスで、指示なし・批判するな・討論してよいの3条件を比べ、どちらの国でも討論を促した条件のアイデアが最も多かった。米国側では1組あたり、指示なし約20件、ブレインストーミング約24件、討論約25件だった
- Nemeth, Brown & Rogers 2001(European Journal of Social Psychology 31(6):707-720)は米国の94人を4人組に分け、本当に少数意見を持つ人がいる集団の解決案が平均2.76件、反対役を割り当てられた人がいる集団が1.86件、全員が同意する統制条件が1.84件だったと報告した。反対役は統制条件と有意に違わなかった
- Schulz-Hardt et al. 2006(Journal of Personality and Social Psychology 91(6):1080-1093)は、ドイツ・ミュンヘンの447人を3人組にした実験で、全員が同じ間違った候補を支持していた集団の正答率が7%、誰かが違う候補を支持していた集団が26%、正解の候補を支持する一人がいた集団が62%、全情報を持つ統制条件が100%だったと報告した
- Burris 2012(Academy of Management Journal 55(4):851-875)の3つの研究は、既存のやり方を変えようとする発言をした人が、それを支持する発言をした人より、管理者から成果が低いと評価され、忠誠心が低いと見られ、提案を採用されにくいことを示した
- 異論の量は、異論を持つ人の数ではなく、前回の異論がどう扱われたかで決まる。扱われ方はその場の全員に目撃されるため、一件の扱いが次回の発言数を人数分だけ動かす
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 結束の強いチームほど集団思考に陥りやすいことは、研究で確かめられている | Esser 1998 のレビューによれば、集団思考の実験室での検証は部分的な支持にとどまり、凝集性が高いほど起きるという中心的な予測については弱い支持か支持なしの結果が並んだ。引かれているメタ分析でも、凝集性と決定の質のあいだに全体としての関係は見られなかった。支持されたのはリーダーの振る舞いと手続き上の欠陥のほうである |
| 異論の文化を作るには、みんなで話す場を増やせばよい | Diehl & Stroebe 1987 の第4実験では、4人が集まって話した集団の平均が55.67件、同じ4人が別々に考えた場合が106.00件だった。差の大半を説明したのは発言の順番待ちである。集まって話す時間を増やして増えるのは、待ち時間のほうだ |
| 反対役を割り当てておけば、異論の効果は得られる | Nemeth, Brown & Rogers 2001 では、本当に少数意見を持つ人がいる集団の解決案が平均2.76件、反対役を演じた集団が1.86件、全員が同意する統制条件が1.84件で、反対役は統制条件と有意に違わなかった。Schulz-Hardt et al. 2006 でも、正答率を7%から62%へ動かしたのは、正解の候補を実際に支持する一人がいたことだった |
異論を歓迎する、という一文は、たいへん安く手に入る。掲げるのに費用はかからず、掲げたことは議事録に残り、歓迎しているかどうかを測る人はいない。測るとしたら、前回反対した人が今回も呼ばれているかを数えるくらいだが、その数字は誰の資料にも載らない。皮肉なことに、異論の文化がある組織では、この一文をわざわざ壁に貼る必要がない。貼ってあるのは、たいてい足りていない場所のほうである。
Q1. Diehl & Stroebe 1987 の第4実験では、4人が集まって話した集団の平均アイデア数が ____ 件、同じ4人が別々に考えて合算した場合が ____ 件だった。差の大半を説明したのは、評価への不安でも他人任せでもなく ____ である。穴埋め
Q2. Schulz-Hardt et al. 2006(ミュンヘン・447人)では、全員が同じ間違った候補を支持していた集団の正答率が ____%、誰かが違う候補を支持していた集団が ____%、正解の候補を支持する一人がいた集団が ____% だった。穴埋め
Q3. Esser 1998 のレビューが集団思考の研究について結論したこととして、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q4. Nemeth, Brown & Rogers 2001(米国・94人)の結果として正しいものはどれか。選択
Q5. 本文が挙げた、異論の量を時間の中で左右する3つの事実を、本文に出てきた順に並べよ。(扱われ方の記憶だけが残って中身は消える/扱われ方はその場の全員に目撃される/異論は記録の残らない場所へ移る)並べ替え
直近の会議や打ち合わせで、自分が出さなかった反対意見を1つ選ぶ。それをまず、思ったままの反対の形で一行書く。次に、同じ中身を質問の形へ書き換える——相手の立場や人柄への評価を抜き、確かめたい事実か、置かれている前提だけが残るようにする。たとえば、その案は無理だ、を、この案が成り立つのはどの条件が満たされたときですか、へ。書き換えた一行を手元に残す。誰にも送らなくてよい。送るかどうかはこの課題の範囲外で、書き換えられるかどうかを見るのが目的である。組織に所属していない場合は、取引先とのやりとりや、過去に所属した組織の会議を対象にしてよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Esser J.K. (1998) 'Alive and Well after 25 Years: A Review of Groupthink Research', Organizational Behavior and Human Decision Processes 73(2-3):116-141 — www.sciencedirect.com
- Diehl M., Stroebe W. (1987) 'Productivity loss in brainstorming groups: Toward the solution of a riddle', Journal of Personality and Social Psychology 53(3):497-509 — psycnet.apa.org
- Nemeth C.J., Personnaz B., Personnaz M., Goncalo J.A. (2004) 'The liberating role of conflict in group creativity: A study in two countries', European Journal of Social Psychology 34(4):365-374 — onlinelibrary.wiley.com
- Nemeth C., Brown K., Rogers J. (2001) 'Devil's advocate versus authentic dissent: stimulating quantity and quality', European Journal of Social Psychology 31(6):707-720 — onlinelibrary.wiley.com
- Schulz-Hardt S., Brodbeck F.C., Mojzisch A., Kerschreiter R., Frey D. (2006) 'Group decision making in hidden profile situations: Dissent as a facilitator for decision quality', Journal of Personality and Social Psychology 91(6):1080-1093 — psycnet.apa.org
- Burris E.R. (2012) 'The Risks and Rewards of Speaking Up: Managerial Responses to Employee Voice', Academy of Management Journal 55(4):851-875 — journals.aom.org