「組織変革の70%は失敗する」——この数字の出どころを5つ遡った人がいる。どれも空だった
変革の話は、いつも同じ数字から始まる。組織変革の70%は失敗する、というあれだ。その出どころを5件たどった研究者がいて、たどり着いた先はどれも、別の誰かを指していた。
学んだことが、行動に移るまで
前の単位で、組織が経験を知識に変える仕組みを置いた。ここではその上に、方針が変わったときに、その知識が実際の行動へ移るまでにかかる時間を載せる。
適応力という言葉は、放っておくとどこまでも広がる。柔軟さ、感度、機を見る力——どれも測れない。だからこの単位では、観察できる一点だけに絞る。方針が変わったと伝えられた日から、自分の行動が実際に変わった日まで、何日あったか。それだけである。機会をどう察知するかは開運の棚、転職の判断は就職と職業の棚の持ち場なので、ここでは扱わない。
この一点に絞ると、良いことが2つ起きる。日数は権限がなくても数えられる。そして日数は、誰かの熱意や抵抗感といった言葉より、はるかに反論しにくい。
値切り:70%という数字を、5つ遡った人がいる
変革の資料には、ほぼ必ずこの一行がある。組織変革の取り組みの70%は失敗する。
ヒューズが2011年に Journal of Change Management へ発表した論文は、この数字が現れる公刊物を5件選び、それぞれの出典をたどった。結論はこうだ——70%という失敗の物語が広く流通していることは認めるが、それを支える有効で信頼できる実証的根拠は存在しない。
ここで注意したいのは、皮肉の向け先である。この数字を会議で口にした人が悪いのではない。悪いのは、根拠のない数字が、根拠を求められない場所に置かれ続けている構造のほうだ。しかも70%という数字は、たいてい商品の隣に置かれる——だから我が社の手法が要る、という文の直前に。
ついでに言えば、この数字には便利すぎる性質がある。失敗の定義が書かれていないので、反証できない。何をもって失敗とするかを決めないかぎり、70%も30%も同じくらい正しい。
能力として売られているもの、測られていないもの
変化に強い組織を説明する枠組みとして、最もよく引かれるのがダイナミック・ケイパビリティである。ティース、ピサノ、シュエンが1997年に提示した、環境に合わせて自社の資源を組み替える能力、という考え方だ。
この枠組みには、同じ分野の中から正面からの批判がある。アレンドとブロムリーが2009年に Strategic Organization へ発表した論考は、この見方が構成概念として定まらず、測定と実証が追いついていないと論じた。何を指しているのかが論者ごとに違えば、あるかないかも確かめられない。
枠組みが悪いのではない。枠組みを、測定できた能力のように扱うのが早すぎるのである。組織に「変化適応力がある/ない」と言い切るとき、たいていは結果を見てから逆算している——うまくいった組織は適応力があったことになる。棚の入口で値切ったのと同じ手つきだ。
置き換える実証——効くのは中身より手続き
オレグ、ヴァコラ、アルメナキスが2011年に Journal of Applied Behavioral Science へ発表したレビューは、1948年から2007年までに公刊された量的研究のうち、条件を満たす79件を集めて整理した。変化を受け取る側の反応を、感情・認知・行動の3つの面を持つ態度として捉え、その手前にあるものを、変化の前からあった条件(受け手の特性と組織の内部の状況)と、変化そのものに伴うもの(変化の進め方、得か損かの見込み、変化の中身)に分けている。
分けてみると、動かせる場所がはっきりする。変化の中身——組織の形を変える、事業を畳む、系統を入れ替える——は、たいてい現場では動かせない。動くのは進め方のほうである。
ワンバーグとバナスが2000年に Journal of Applied Psychology へ発表した縦断研究は、改組の渦中にある職場で、変化への開かれ方を予測する要因を測った。効いたのは3つ——変化について受け取った情報の量、自分が対処できるという見込み、決める過程に参加したかどうかである。そして受け入れが低い人ほど、職務満足が低く、仕事上の苛立ちが強く、辞める意思が強かった。
不確実性は1種類ではない
ボルディアらが2004年に Journal of Business and Psychology へ発表した研究は、変化にまつわる不確実性を3つに分けた。どこへ向かうのかが分からない戦略の不確実性、組織の形や指揮系統がどうなるか分からない構造の不確実性、そして自分の仕事がどうなるか分からない職務の不確実性である。
面白いのは、効く手続きが種類ごとに違ったことだ。経営側からの説明は戦略の不確実性と負の関係にあったが、構造と職務の不確実性を下げていたのは、決める過程への参加のほうだった。さらに参加は、自分の状況を動かせるという感覚と正の関係にあり、その感覚が心理的な負担を和らげていた。
つまり、全社集会で丁寧に説明しても、自分の担当がどうなるか分からない人の不安はあまり動かない。説明と参加は、別の穴をふさぐ道具である。
時間・変化:伝わった日と、変わった日のあいだ
ここで冒頭の一点に戻る。方針が伝えられた日と、行動が実際に変わった日のあいだには、必ず何日かある。この日数には、上の3つがそのまま現れる。
日数が長い理由は、たいてい抵抗ではない。第一に、何が変わったのかが具体的な行動に翻訳されていない。第二に、前のやり方をやめてよいと誰も言っていない。第三に、変えたあとに何を測るのかが決まっていない。
この3つは、どれも受け手の性格ではなく、伝え方の欠落である。そして日数を1回でも数えると、この欠落は自分の手元で見えるようになる。
測る道具のほうも、まだ完成していない。ラファティ、ジミーソン、アルメナキスが2013年に Journal of Management へ発表したレビューは、変化への準備性の研究に2つの穴があると指摘した——この態度の感情の側面が扱われてこなかったこと、そして個人の準備性と集団の準備性が水準を分けて扱われてこなかったことである。組織が準備できているかを測る物差しは、まだ出来上がっていない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、変化を人格の話にすることである。あの人は変化に弱い、という説明は、日数を数えるより早く出てきて、何も直さない。79研究のレビューが示した動かせる場所は、性格ではなく手続きのほうにあった。
第二の妨げは、やめる合図がないことだ。新しいやり方は増えるが、古いやり方は誰も止めないので、二重に走る。二重になった時期は、たいてい「浸透していない」と記録される。
標本の偏りを断っておく。この単位の証拠は、米国・欧州・豪州の、公的部門や大規模な事業所を対象にした調査に偏る。読者の組織はおそらく30人以下だが、ここまでの数字のほとんどは数百人以上の組織で採られたものだ。しかも自己申告と横断調査が多く、変化に耐えられず消えた組織は調査に答えない。日本の雇用慣行——定期的な異動や、年度単位で方針が切り替わる運用——にそのまま当てはまる保証もない。数字は向きだけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、日数を1件だけ数えることだ。平均も傾向も要らない。1件で、自分の組織における翻訳の速さの目安になる。
最初の一歩は10分。直近1年の方針転換を1件思い出し、伝えられた日と、自分の行動が実際に変わった日を思い出して、その差を日数で書く。分からなければ、まだ変わっていない、と書けばよい。それも1つの数字である。
次の単位は 175「倫理・持続可能性の規範」——ここまでで、変わるべきときに変わる速さを置けた。次はその上に、変わらないと決めたものが、監視なしで守られているかを載せる。
- この単位は適応力を、観察できる一点に絞る——方針が変わったと伝えられた日から、行動が実際に変わった日までの日数。機会の察知は開運の棚、転職の判断は就職と職業の棚の持ち場で、ここでは扱わない
- Hughes 2011(Journal of Change Management 11(4):451-464)は、組織変革の70%が失敗するという数字が現れる公刊物を5件たどり、その物語が広く流通していることは認めつつ、それを支える有効で信頼できる実証的根拠は存在しないと結論した。しかも失敗の定義が書かれていないので、この数字は反証もできない
- 変化に強い組織の枠組みとして最もよく引かれるダイナミック・ケイパビリティ(Teece, Pisano & Shuen 1997)については、Arend & Bromiley 2009(Strategic Organization 7(1):75-90)が、構成概念として定まらず測定と実証が追いついていないと批判している。あるかないかを確かめられない能力は、結果から逆算されやすい
- Oreg, Vakola & Armenakis 2011(Journal of Applied Behavioral Science 47(4):461-524)は、1948年から2007年に公刊された量的研究79件を整理し、受け手の反応を感情・認知・行動の3面を持つ態度として捉えたうえで、その手前を変化前からの条件と、変化の進め方・得か損かの見込み・変化の中身に分けた。現場で動かせるのは、たいてい進め方だけである
- Wanberg & Banas 2000(Journal of Applied Psychology 85(1):132-142)の縦断研究では、改組の渦中で変化への開かれ方を予測したのは、受け取った情報の量・自分が対処できるという見込み・決める過程への参加の3つだった。受け入れが低い人ほど職務満足が低く、仕事上の苛立ちが強く、辞める意思が強かった
- Bordia, Hobman, Jones, Gallois & Callan 2004(Journal of Business and Psychology 18(4):507-532)は、変化にまつわる不確実性を戦略・構造・職務の3種類に分けた。経営側からの説明は戦略の不確実性と負の関係にあり、構造と職務の不確実性を下げていたのは決める過程への参加のほうだった。説明と参加は、別の穴をふさぐ道具である
- Rafferty, Jimmieson & Armenakis 2013(Journal of Management 39(1):110-135)は、変化への準備性の研究に2つの穴——感情の側面が扱われてこなかったこと、個人と集団の水準が分けられてこなかったこと——を指摘した。組織が準備できているかを測る物差し自体が、まだ出来上がっていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 組織変革の70%は失敗する。これは繰り返し確認されてきた数字だ | 英国で2011年に発表された論文が、この数字の現れる公刊物を5件たどって出典を遡ったところ、有効で信頼できる実証的根拠にはたどり着かなかった。どれも別の誰かを指していた。加えて、何をもって失敗とするかが定義されていないため、この数字は反証もできない。反証できない数字は、根拠ではなく前口上である |
| 変化に適応できるかどうかは、組織や人の性質で決まる。うちは変化に弱い体質だ | 1948年から2007年までの79の量的研究をまとめたレビューでは、受け手の反応の手前にあるものは、変化前からの条件と、変化の進め方・得か損かの見込み・変化の中身に分かれる。現場で動かせるのは、たいてい進め方だけである。改組の渦中を追った縦断研究でも、開かれ方を予測したのは受け取った情報の量・対処できるという見込み・決める過程への参加であって、性格ではなかった |
| 変化のときは、経営側が丁寧に全体説明をすれば不安は収まる | 変化にまつわる不確実性は少なくとも3種類ある。経営側からの説明が下げていたのは、どこへ向かうのかという戦略の不確実性であって、組織の形と自分の仕事がどうなるかという2つを下げていたのは、決める過程への参加のほうだった。説明でふさげる穴と、参加でしかふさげない穴は別である |
根拠のない数字にも、生態系の中の役割はある。70%という失敗率は、変革の講演で最初のスライドに置かれ、聴衆を静かにさせ、次のスライドで登場する手法の必要性を保証する。その手法を導入したあと、成功率が何%になったかを追いかけた記録は、たいてい残らない。追いかけないほうが、次の講演で同じ数字を使えるからだ。こちらにできるのは、たった1件の日数を数えることである。伝えられた日と、変わった日。その差は誰の講演にも出てこないし、誰の商品にもならない。だからこそ、たぶん正しい。
Q1. 英国で2011年に発表された論文は、組織変革の ____ % が失敗するという数字が現れる公刊物を ____ 件たどり、それを支える有効で信頼できる実証的根拠は ____ と結論した。穴埋め
Q2. 1948年から ____ 年までに公刊された量的研究 ____ 件を整理したレビューは、変化を受け取る側の反応を、感情・認知・ ____ の3面を持つ態度として捉えた。穴埋め
Q3. 改組の渦中にある職場を追った2000年の縦断研究で、変化への開かれ方を予測した3つの要因を挙げよ。また、受け入れが低いことは何と結びついていたか。一問一答
Q4. 変化にまつわる不確実性の3種類を挙げ、それぞれを下げていた手続きの違いを説明せよ。一問一答
Q5. ダイナミック・ケイパビリティという枠組みに対して、2009年に Strategic Organization で示された批判はどれか。選択
今日1回、10分。直近1年で、自分の周りで方針が変わったことを1件思い出す。大きさは問わない——優先順位が入れ替わった、使う道具が変わった、報告の出し方が変わった、で十分。まず、それが自分に伝えられた日を思い出して書く(およそで構わない)。次に、その方針にそって自分の行動が実際に変わった日を思い出して書く。2つの日付の差を日数で出し、その数字を1つだけ記録する。まだ変わっていない場合は、伝えられた日から今日までの日数を書き、末尾に「未」と添える——それも1つの数字である。他人の行動が変わった日は数えない。誰かに確認もしない。組織に所属していない場合(フリーランス・休職中・求職中など)は、取引先や公的機関から手続きの変更が通知された件、あるいは過去に所属した組織での方針転換を1件選べばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Hughes M. (2011) 'Do 70 Per Cent of All Organizational Change Initiatives Really Fail?', Journal of Change Management 11(4):451-464 — research.brighton.ac.uk
- Arend R.J., Bromiley P. (2009) 'Assessing the dynamic capabilities view: spare change, everyone?', Strategic Organization 7(1):75-90 — journals.sagepub.com
- Oreg S., Vakola M., Armenakis A. (2011) 'Change Recipients' Reactions to Organizational Change: A 60-Year Review of Quantitative Studies', The Journal of Applied Behavioral Science 47(4):461-524 — journals.sagepub.com
- Wanberg C.R., Banas J.T. (2000) 'Predictors and outcomes of openness to changes in a reorganizing workplace', Journal of Applied Psychology 85(1):132-142 — experts.umn.edu
- Bordia P., Hobman E., Jones E., Gallois C., Callan V.J. (2004) 'Uncertainty During Organizational Change: Types, Consequences, and Management Strategies', Journal of Business and Psychology 18(4):507-532 — link.springer.com
- Rafferty A.E., Jimmieson N.L., Armenakis A.A. (2013) 'Change Readiness: A Multilevel Review', Journal of Management 39(1):110-135 — journals.sagepub.com