財務
収益設計・トップライン管理力
「年間経常収益は成長の真実」——その数字を、月次を12倍しただけのこともある
2001年の論文は、財務諸表分析を将来のプロフォーマ分析とし、比率を予測の部品と位置づけた。2002年の論文は、発生項目と利益の質は見積り誤差が大きいほど下がると論じ、2010年の研究は、収益に着目したモデルがSECの執行対象で操作を検知できたと報告する。流通する成長率や維持率のbenchmarkは実務資料であって、査読された測定の真実ではない。
コスト構造最適化力
「バーンレートで体力がわかる」——その数字が、出ていく現金だけか差し引き後かで、倍ほど変わる
米国企業7,629社の20年を追った2003年の論文は、販管費が売上1%増で0.55%増える一方、売上1%減では0.35%しか減らない非対称を報告した。2010年の論文はこのべたつきが将来の費用を読みにくくすると示し、2018年の総説は、企業が自ら作る調整後の指標が除外項目の選び方で動くことを体系化した。バーンレートやユニットエコノミクスの早見は実務資料であって、査読された測定の真実ではない。
利益創出・利益率管理力
「利益率が高い=強い」——その利益は、現場のCFOの見立てでは五社に一社が動かしている
1985年の論文は、賞与の仕組みが経営者の会計判断を動かすと示した。2013年に169人のCFOへ行った実地調査は、どの時期でも企業の約20%が利益を調整し、その幅は1株利益の約10%に達すると見積もった。1996年の論文は、発生項目の多い利益ほど翌期に持続しないと示し、1982年の研究は高いROEが平均回帰すると報告した。DuPont分解は因果ではなく恒等式である。
損益構造の把握・改善力
「損益計算書に成果が出る」——ただしEBITDAは、会計基準のどこにも定義がない
損益計算書は、粗利・営業利益・EBITDA・純利益という複数の途中の利益でできている。EBITDAは基準に定義のない非GAAP指標で、米SEC規則は最も近いGAAPの数字との橋渡しを求める。2003年の論文はpro forma利益から除外された費用が将来の業績の低さと結びつくと示し、同年の研究は1,149件のpro forma発表がGAAP損失やハイテクに偏ると報告、2004年の研究はGAAP利益の情報価値が低い企業ほどpro formaを出しやすいと示した。
資産効率・ROA管理力
総資産利益率(ROA、資産がどれだけ利益を生んだかの比)を利益率と回転率へ分解する読み方について、2001年の *Review of Accounting Studies* の研究は、ROAの水準の分解は1年先のROA変化の予測に増分情報を与えず、変化の分解だけが有用だと報告している。同誌のもう1本は、比率を『予測の部品』と位置づける。さらに自分で作った無形資産は原則として帳簿に載らないため、無形を厚くした会社ほどROAが高く見える。『良いROAは何%』の早見の多くは実務資料であって一次情報ではない。
負債管理・レバレッジ設計力
レバレッジ(借入で自己資本の利益率を増幅すること)に最適な割合がある、という俗説の出どころを原典でたどる。1958年のモディリアーニ&ミラーは、税も摩擦もない世界では企業価値は資本構成と無関係(最適は無い)という定理を立てた。1963年に税を入れると『できるだけ借りる』へ反転し、1976年のエージェンシー費用でまた動く。実際の借り方を測った4本の実証も、標本ごとに向きが揃わない。最適負債比率の具体値は本文に書かない。
純資産・自己資本の充実力
純資産(自己資本)は資産から負債を引いた残りで、返さなくてよいので『厚いほど安全』と言われる。だが1984年の Myers が対比した二つの説では、厚さの望ましさが逆を向く。Myers & Majluf は増資が割安シグナルになる見えないコストを示し、Welch(2004)と Baker & Wurgler(2002)は、厚さの多くが株価と市場のタイミングという会社の意図の外で決まると示した。安全ラインの具体的なパーセントは本文に書かない。
財務体質・バランスシート健全性
「自己資本比率で健全性が測れる」——ただし、その分母の合計は、ばらばらの物差しの寄せ集めである
2000年の研究は、財務諸表から取れる九つの信号を合算する合成スコアで会社の強弱がより分かれると示した。1989年と1993年の研究は、分析がもともと多数の信号を束ねる作業だったことを示す。2001年の総説は、簿価や利益がどれだけ価値を映すかは文脈で変わると整理した。貸借対照表の合計は歴史的原価と時価が混ざり、自己創設の無形資産は原則載らない。
キャッシュフロー創出・管理力
1962年から1991年の米国上場企業を分析した1996年の研究は、利益を発生高の成分と現金の成分に分けると、発生高成分の持続性のほうが低いと報告した。1994年の研究は、利益と現金がそもそも構造的に違うものを測っていると書く。1980年の事例研究は、10年間黒字を計上しながら現金を内部創出しなかった小売企業を追っている。
資金繰り・ランウェイ管理力
「黒字倒産は◯%」を辿ったら、母集団と年と定義で数字が動いた
東京商工リサーチが集計した倒産企業の黒字率は、2020年が46.76%、2022年は最終赤字が62.9%(黒字は4割弱)と年で動く。同社の休廃業・解散企業では黒字率が2022年54%、2023年52.4%と、母集団を変えると半分を超える。件数の集計は民間の複数系統で食い違い、中小企業庁はその一つを二次利用している。『9割が資金ショートで倒産』の一次には行き着かなかった。
運転資本・流動性最適化力
「現金化の周期を短くすれば強い」——原典を開くと、著者が因果の向きを逆に書いていた
ベルギーの非金融大企業1,009社を1992〜1996年で分析した2003年の研究は、現金化の周期と収益性の負の相関を報告したが、要旨は同時に、収益性の低い企業ほど支払いを遅らせる、と書く。2014年の研究は、運転資本と業績の関係が逆U字(最適な水準がある)だと報告した。流動比率2:1という『健全』の目安は、査読された学史によれば20世紀初頭の信用分析の慣習である。
財務リスク検知・早期警戒力
破綻は数年前から予測できる——ただし、作られた時代の外では外れた
1968年の判別分析は、5つの財務比率から作った点数で、製造業66社の倒産を2年前に確率的に見分けた。1966年の単変量の研究では、現金フロー対負債が最良の予測子だった。1980年の研究は分布の仮定を外したロジットで確率を出した。だが1996年の検証は、これらの原モデルを1980年代のデータに当て直すと誤分類が増え、とくに古い点数式が劣化することを示した。
企業価値・時価総額設計力
「計算すれば企業価値が出る」を開くと、中身は前提の掛け算だった
1983年から1989年に完了した高レバレッジ取引51件を対象にした1995年の研究は、割引後キャッシュフロー予測の価値が、完了した取引の市場価値の平均10%以内に収まっていたと報告する。ただしこれは特定の取引集団の平均であって、普遍的な精度ではない。同じ会社でも、配当・キャッシュフロー・発生主義利益のどのモデルで測るかで推定値が変わり、割引モデルと残余利益モデルは前提を一貫させれば必ず同じ値になる——差が出るのは前提の置き方が食い違ったときである。
資本効率(ROE・ROIC)向上力
ROEが上がった。ただし、上がったのは効率ではなく借金の比率だった
2001年の Review of Accounting Studies 6(1):109-154 は、ROEを営業の収益性と財務レバレッジに分解し、ROEの高さの一部がレバレッジ由来であることを恒等式として示した。1997年の Journal of Accounting and Economics 24(3):301-336 は、資本コストを控除した指標が利益より株式リターンや企業価値をよく説明するという主張を、データは支持しないと報告する。一方でそれに反論する2004年の論文もあり、実証は弱いのではなく混在している。
市場評価・マルチプル・無形資産管理力
「マルチプルで割安割高がわかる」は、どの物差しを選ぶかで裏返る
2002年の Journal of Accounting Research 40(1):135-172 は、予測利益で作った倍率が価格をよく説明し(誤差が価格の15%以内に収まるのは標本の約半分)、実績利益がそれに次ぎ、キャッシュフローと簿価が同順で中位、売上が最悪だと報告した。物差し次第で説明力が激変する。2012年の Review of Accounting Studies 17(4):749-780 は、のれんの公正価値が経営者の将来の行動に依存して検証できないことを示す。
財務予測・シナリオ設計力
「3表を連動させれば未来が描ける」を辿ると、中核の前提がそもそも当たらなかった
2003年の The Journal of Finance 58(2):643-684 は、長期の利益成長に偶然を超えた持続はなく、多様な予測変数を使っても予測力は低いと報告した。専門家の成長予測は楽観的で予測力に乏しい。1972年の研究は会計の利益がほぼランダムウォークに近いことを示し、2012年の研究は単純なランダムウォークが長い期間や小さな企業で専門家の予測より正確なことを示す。予測の効果を因果的に確かめた研究は、単一企業の事例にとどまる。