「損益計算書に成果が出る」——ただしEBITDAは、会計基準のどこにも定義がない
会社の成果の話は、たいてい途中の利益から始まる。粗利はこれだけ、EBITDAはこう。皮肉なことに、いちばん引き合いに出されるEBITDAは、会計基準のどこにも定義がなく、企業が自分で組む数字である。何を一度きりとして足し戻すかも企業が選べて、同じ営業の実態から、黒字にも赤字にも見える成果が作れる。査読の側が見ていたのは「いくら残ったか」ではなく、どの段で線を引いたかだった。
前の単位では、残った利益と、その率を扱った。ここでは、その利益がどの段階で、どう区切られて出てくるのか——損益計算書の構造を扱う。
この単位が扱うのは一点——損益計算書を見れば成果がわかる、という言い方が、どこまで本当かである。 どの費用をどう計上すべきかという会計処理や税務には踏み込まない。書けるのは、損益計算書に並ぶ「途中の利益」が、何を、どこで区切って見せているか、である。
損益計算書は、いくつもの「途中の利益」でできている
損益計算書は、一つの「成果」を出す表ではない。売上から順に費用を引きながら、途中でいくつもの利益を通過する——売上から売上原価を引いた粗利益(売上総利益)、そこから販売や管理の費用を引いた営業利益、利払いや税を差し引く前のEBITDA(利払い・税・減価償却の前の利益)、最後に残る純利益。同じ会社の同じ期でも、「利益」と言ったときにどの段の利益を指すかで、額はまるで違う。
そして、それぞれの段をどこで区切るかは、測って決まるものではなく、会計基準の定めと各社の選択で動く。 どの費用を売上原価に入れ、どこからを販売管理費とするか。ある費用を「本業の外」として営業利益の下に落とすか、中に残すか。この線引きひとつで、粗利益率も営業利益率も変わる。損益計算書は成果を映す鏡ではなく、どこで線を引くかの約束の集まりである。
EBITDAは、会計基準に定義のない数字である
途中の利益のなかで、とくに扱いに注意がいるのがEBITDAである。利払い・税・減価償却という「業種や資本構成で違う費用」を差し引く前の利益で、会社どうしを比べやすい、と言われる。ところが——EBITDAは、会計基準が定義している利益ではない。 国際会計基準(IAS 1)や米国の基準(FASB ASC 220)は、損益計算書に何をどう表示するかの枠は定めるが、EBITDAという段は、そのどこにも定義されていない。 基準の外で、企業が自分で組み立てる数字である。
こうした「基準の外の数字」を非GAAP指標(一般に認められた会計原則の外で企業が作る指標)と呼ぶ。米国の証券規則——Regulation G と Reg S-K Item 10(e)——は、企業が非GAAP指標を公表するときには、最も近いGAAP(基準どおり)の数字と対応づけ、両者の橋渡しを示すことを求めている。規則がわざわざ橋渡しを要求するのは、非GAAPの数字がそのままでは基準の利益と食い違いうるからである。 ここで押さえるのは一点だけだ。EBITDAや調整後利益を「基準の利益」と同じ確かさで受け取ってはいけない。 基準は表示の枠を定めるが、EBITDAをどう組むかは作り手に委ねられている。
「調整後」の利益は、何を足し戻すかを選んでいる
非GAAPの利益は、たいてい「一度きりの特殊な費用を除いた、本業の実力」として示される。pro forma(調整後)利益がその代表で、リストラ費用、株式で払った報酬、評価損などを「本業とは別」として足し戻す。問題は、何を足し戻すかを企業が選べることである。
これを正面から測ったのが、2003年に *Review of Accounting Studies* 8巻2-3号へ出た論文である。pro forma利益から除外された費用が、その後どうなるかを追い、除外された費用が、将来の業績の低さと結びついていることを示した。つまり、外された費用の多くは「一度きり」ではなく、先々の成果を食う費用だった。「特殊要因を除いた本業の実力」として渡された数字が、実は将来の重しを外して見せていた、ということである。 除外の名目は「一度きり」だが、外された中身は翌期以降にも尾を引く。
同じ実態から、複数の「成果」が出せる
段階利益の境界が動き、足し戻す項目を選べるということは、同じ営業の実態から、複数の「成果」の数字が作れるということである。ある会社は評価損を足し戻して黒字の調整後利益を示し、別の見方をすれば同じ期が赤字になる。どちらも嘘ではない——線の引き方が違うだけである。 だからこそ、調整後の利益を見るときは、「基準どおりの利益からいくら、何を足し引きして、この数字になったのか」を一度たどる必要がある。足し戻しの一覧が示されない調整後利益は、成果ではなく、編集後の数字である。
調整後の利益は、本業が苦しいときほど前に出る
では、調整後の利益はどんな会社が、どんなときに前に出すのか。2003年に *Journal of Accounting and Economics* 36巻1-3号へ出た研究は、1,149件の実際のpro formaの発表を調べ、それらがGAAP基準では損失を出していることが多く、サービス業やハイテク産業に偏っていたと報告した。基準どおりでは芳しくない会社ほど、調整後の明るい数字を掲げていた、という姿である。
ただし、この同じ研究のもう一つの——そしてより中心的な——発見は、逆を向いている。 この研究は、市場がこのpro forma利益を、GAAP基準の営業利益よりも情報量が多く、より持続的なものとして受け止めていたとも報告している。偏りの記述と、情報量の評価は、別の発見である。 調整後の数字が苦しい会社に偏るという事実は、その数字に中身が無いことを意味しない。前段の除外費用の話(先々を食う費用が外されている)と、この情報量の話は、どちらも同じ調整後利益の別の面であり、片方だけを取って断じられない。
さらに2004年に *The Accounting Review* 79巻3号へ出た研究は、これを一歩進め、GAAP利益の情報価値が低い企業ほど、pro formaの数字を出しやすいという戦略的な開示のパターンを示した。調整後の利益は、本業が基準どおりの数字で語りにくいときほど、前面に出やすい。 これは不正の話ではない。ただ、明るい途中の利益ほど、なぜいまその段の利益が選ばれて示されているのかを問う値打ちがある。
時間・変化:段は増え、線引きは各社の手に移った
順に置く。2003年、pro forma利益から除外された費用が将来の業績の低さと結びつくことが示され、同じ年、1,149件のpro forma発表がGAAP損失企業やハイテクに偏ることが報告された。2004年、GAAP利益の情報価値が低い企業ほどpro formaを出しやすい戦略的開示が確かめられた。そして会計基準(IAS 1・ASC 220)は損益計算書の表示の枠を更新し続けたが、EBITDAのような段は基準の外に置かれたままで、証券規則がその開示に橋渡しを課す形で追いかけている。
四半世紀で、損益計算書に載る「利益」の段は、基準が定める段のほかに、各社が組む調整後の段が増えた。基準の枠は残ったが、どの段を前に出すかは各社の手に移った。 そして、どの段を選んで見せたかは、外へ出るときにたいてい書かれない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、途中の利益、とくに調整後の利益を、線引きを確かめずに「成果そのもの」と読むことである。明るい利益の段を掲げれば成果を語った気になれるが、それがどの段の利益で、基準どおりか、何を足し戻したものかは、たいてい書かれていない。
標本の偏りを断っておく。この単位が挙げた査読研究は、ほぼすべて米国の上場企業を対象に採られている。 日本の会社を対象にした査読研究はごく少なく、非公開の会社のpro formaは、そもそも標本に入りにくい。基準は国や時期で違い、EBITDAのように基準の外にある段は、比べる相手ごとに中身が揃わない。
助けになるのは、利益の数字を見たときに「これはどの段の利益で、基準どおりか、何を足し戻したものか」を先に一度たしかめるという一手である。最初の一歩は5分。 いま自分が見ている利益の数字を1つ選び、それが「粗利・営業利益・EBITDA・調整後」のどれで、基準どおりの数字か、何かを足し引きした数字かを、分かる範囲で書き写す。直さなくてよい。どの段か・何を足したかが書けなかった項目がいくつ残ったかを見ることが収穫である。 いま会社に属していない場合や一人で全部を回している場合は、自分の家計や副業で「儲け」と呼んでいる数字を1件選び、そこから何を除いて『儲け』と呼んでいるかを書き出せばよい。
次の単位は 261「資産効率・ROA管理力」——資産がどれだけ稼いでいるかは、一つの比率で測れるのか。
- 損益計算書は一つの成果ではなく、粗利益・営業利益・EBITDA・純利益という複数の途中の利益(段階利益)でできている。どの費用を売上原価に入れ、どこからを販売管理費とするかといった線引きは会計基準の定めと各社の選択で動き、段階利益の境界は測られた事実ではなく線引きの結果である。
- EBITDA(利払い・税・減価償却の前の利益)は会計基準に定義のない非GAAP指標である。国際会計基準IAS 1やFASB ASC 220は損益計算書の表示の枠を定めるがEBITDA自体は定義しておらず、米SECのRegulation GおよびReg S-K Item 10(e)は、非GAAP指標を最も近いGAAPの数字と対応づけて橋渡しを開示するよう求めている。
- Doyle, Lundholm & Soliman(2003, Review of Accounting Studies 8巻2-3号)は、pro forma(調整後)利益から除外された費用が、将来の業績の低さと結びついていることを示した。除外された費用は一度きりの特殊要因ではなく先々の成果を食う費用であることが多く、調整後は本業の実力とは限らない。
- Bhattacharya, Black, Christensen & Larson(2003, Journal of Accounting and Economics 36巻1-3号)は、1,149件の実際のpro forma発表を調べ、それらがGAAP基準では損失を出していることが多く、サービス業やハイテク産業に偏っていたと報告した。基準どおりでは芳しくない会社ほど、調整後の明るい数字を掲げていた。
- Lougee & Marquardt(2004, The Accounting Review 79巻3号)は、GAAP利益の情報価値が低い企業ほどpro formaの数字を出しやすいという戦略的な開示のパターンを示した。調整後の利益は、本業が基準どおりの数字で語りにくいときほど前面に出やすい。
- 会計基準は何をどの段階でいくらとして表示するかの枠を定めるが、それは真実を保証するものではなく、EBITDAのように基準の外で企業が作る利益も広く使われている。この棚は、どう計上すべきかという実務の指南や税務の助言はしない。基準が何をどう表示すると定めているかまでを事実として示す。
- 妨げるものの筆頭は、途中の利益とくに調整後の利益を、線引きを確かめずに成果そのものと読むこと。証拠はほぼ米国の上場企業に偏り、EBITDAのように基準の外の段は比べる相手ごとに中身が揃わない。助けは、利益の数字を見たら どの段の利益で、基準どおりか、何を足し戻したものか を一度確かめることである。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 損益計算書を見れば、会社が上げた成果がそのまま数字で出ている | 損益計算書は、粗利益・営業利益・EBITDA・純利益といった複数の途中の利益(段階利益)でできており、どこで線を引くかは会計基準の定めと各社の選択で動く。とくにEBITDA(利払い・税・減価償却の前の利益)は会計基準に定義がなく、企業が作る非GAAP指標である。米SECのRegulation G・Reg S-K Item 10(e)は、非GAAP指標を最も近いGAAPの数字と対応づけて開示するよう求めている。段階利益の境界は測られた事実ではなく、線引きの結果である |
| 調整後利益(pro forma・EBITDA)は、一度きりの特殊要因を除いた、本業の実力を映す数字である | 何を一度きりとして足し戻すかは企業が選ぶ。Doyle, Lundholm & Soliman(2003)は、pro forma利益から除外された費用が将来の業績の低さと結びついていること——除外された費用が一度きりではなく先々の成果を食うこと——を示した。Bhattacharya, Black, Christensen & Larson(2003)は1,149件のpro forma発表を調べ、それらがGAAPでは損失を出していることが多くサービス業やハイテクに偏っていたと報告した。Lougee & Marquardt(2004)は、GAAP利益の情報価値が低い企業ほどpro formaを出しやすい戦略的開示を示した |
皮肉なのは、会社どうしを公平に比べるためのはずのEBITDAが、会計基準のどこにも定義されていない数字だという点である。基準は表示の枠を定めるが、途中のどの利益を前に出し、何を一度きりとして足し戻すかは、各社の手に残る。だから同じ営業の実態から、黒字の調整後利益も赤字の基準利益も、どちらも嘘をつかずに作れてしまう。損益計算書を見たときに得られるいちばん確かなものは、たぶん、この数字はどの段の利益で、そこに誰が何を足し引きしたのか、と問い直す習慣のほうである。
Q1. ____(利払い・税・減価償却の前の利益)は会計基準に定義がなく、企業が作る ____ 指標である。米SECの Regulation G・Reg S-K Item 10(e) は、これを最も近い ____ の数字と対応づけて開示するよう求めている。穴埋め
Q2. 2003年のDoyle, Lundholm & Solimanが、pro forma利益から「除外された費用」について示したことを書き、それがなぜ問題かを述べなさい。一問一答
Q3. 本文が「損益計算書は成果を映す鏡ではない」と言うとき、その根拠として最も適切なのはどれか。選択
Q4. 2003年のBhattacharyaらが1,149件のpro forma発表について報告した偏りと、2004年のLougee & Marquardtが示した開示のパターンを、それぞれ書きなさい。一問一答
Q5. 会計基準(IAS 1・FASB ASC 220)は損益計算書の ____ の枠を定めるが、EBITDAという段は基準の ____ に置かれたままで、証券規則がその ____ に橋渡しを課す形で追いかけている。穴埋め
紙かメモアプリを開く。いま自分が仕事で目にしている利益の数字を1つ選ぶ(粗利、営業利益、EBITDA、調整後利益など、どれでもよい)。その数字について、分かる範囲で三つを書く——(1)これはどの段の利益か(粗利・営業利益・EBITDA・調整後のどれか)、(2)基準どおりの数字か、何かを足し引きした調整後の数字か、(3)調整後なら、何を足し戻して(あるいは除いて)この数字にしたか。直したり計算し直したりはしない。分からない項目は「不明」と書く。最後に、どの段か・何を足したかが書けなかった項目がいくつ残ったかを1行で書く。いま会社に属していない場合や一人で全部を回している場合は、自分の家計や副業で『儲け』と呼んでいる数字を1件選び、そこから何を除いて『儲け』と呼んでいるかを書き出せばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Doyle J.T., Lundholm R.J., Soliman M.T. (2003) 'The Predictive Value of Expenses Excluded from Pro Forma Earnings', Review of Accounting Studies 8(2-3):145-174 — doi.org
- Bhattacharya N., Black E.L., Christensen T.E., Larson C.R. (2003) 'Assessing the relative informativeness and permanence of pro forma earnings and GAAP operating earnings', Journal of Accounting and Economics 36(1-3):285-319 — doi.org
- Lougee B.A., Marquardt C.A. (2004) 'Earnings Informativeness and Strategic Disclosure: An Empirical Examination of “Pro Forma” Earnings', The Accounting Review 79(3):769-795 — doi.org
- U.S. Securities and Exchange Commission, Regulation G / Regulation S-K Item 10(e)(非GAAP財務指標の定義・開示規制。2003年施行・2026年閲覧) — www.sec.gov
- IASB, IAS 1 'Presentation of Financial Statements' / FASB ASC 220 'Income Statement—Reporting Comprehensive Income'(会計基準=表示の枠の定義・2026年閲覧) — www.ifrs.org
- EBITDA・調整後EBITDAを健全性や企業価値の指標として推奨する実務・アドバイザリー資料(一般的な実務資料。査読誌ではない・2026年8月閲覧) — corporatefinanceinstitute.com