「利益率が高い=強い」——その利益は、現場のCFOの見立てでは五社に一社が動かしている
強い会社の話は、たいてい利益率の高さから始まる。粗利は何割、営業利益率はこの水準。皮肉なことに、その利益は現金の出入りそのものではなく見積りを通った数字で、現場のCFO自身が、どの時期でも五社に一社は利益を動かしていると見ている。しかも高い収益性は、放っておいても真ん中へ下がっていく。査読の側が測っていたのは「いくら儲かったか」ではなく、その利益がどれだけ続く高さなのかだった。
前の単位では、費用がどう出ていくのか、その構造を扱った。ここでは、売上から費用を引いて残る利益と、その率——利益率を扱う。
この単位が扱うのは一点——利益率が高いほど強い、という言い方が、どこまで確かめられているかである。 どう利益を大きく見せるか、というやり方は書かない。書けるのは、利益という数字が何から作られていて、その高さがどこまで続くと確かめられているか、である。
利益は「測った真実」ではなく、選ばれた数字である
利益は、売上から費用を引いた残りである。ただし、その引き算に入る数字の多くは、現金の出入りそのものではなく、見積りや割り付けを通った数字である。まだ入金されていない売掛、期をまたぐ費用の配分、返品や貸倒れの見込み——こうした発生項目が、利益を現金の動きから引き離す。そして、どう見積もるかには、報告する側の判断が入る。
このことを実地で示した古典が、1985年に *Journal of Accounting and Economics* 7巻1-3号へ出た論文である。経営者の賞与が、利益がある下限を超えたときに出はじめ、ある上限で頭打ちになる仕組みだと、経営者は利益をその範囲に収まるように、会計上の裁量——発生項目——を使って動かす傾向がある、と示した。利益が下限に届かない年は、翌年に回せる費用や損失を今年に寄せて利益をさらに下げ、上限を超える年は、利益を来年へ繰り延べる。 つまり、利益は業績だけでなく、それを報告する側の都合でも動く。 「利益率が高い」という一言の裏には、こうした選択が畳み込まれている。この棚は、どう利益を良く見せるかという指南はしない。なぜ帳簿の利益を鵜呑みにできないか、を読む側から書く。
どれだけの会社が、それをしているのか
では、こうした利益の調整は、例外的なことなのか。2013年に *Journal of Accounting and Economics* 56巻2-3号へ出た研究は、169人の最高財務責任者(CFO)に直接たずねる実地調査を行った。CFOたちは、質の高い利益とは何かを問われて、持続的で、キャッシュに裏づけられ、見積りに頼りすぎていない利益だと答えた。そして利益の調整がどれだけ広く行われているかについて、どの時期をとっても企業の約20%が利益を意図的に調整しており、その調整の幅は1株あたり利益の約10%に達すると見積もった。
現場で数字を作っている当人たちが、五社に一社は利益を動かしていると見ている、という証言である。ここで注意がいる。これは「不正が横行している」という話ではない。会計基準の枠の中でも、見積りの置き方や計上の時期には幅があり、その幅の中で数字は動く。だから、利益率という一つの数字を強さの証明として受け取る前に、その数字がどれだけキャッシュに裏づけられているかを一度問う必要がある。
高い利益ほど、翌期に戻りやすい部分がある
利益に混じった見積りの部分は、翌期にどうなるのか。これを大標本で測ったのが、1996年に *The Accounting Review* 71巻3号へ出た論文である。要旨はこう書く。“The persistence of current earnings performance is decreasing in the magnitude of the accrual component of earnings and increasing in the magnitude of the cash flow component.”(現在の利益の持続性は、利益に含まれる発生項目の成分が大きいほど下がり、キャッシュフローの成分が大きいほど上がる)。
同じ利益率でも、その中身が発生項目——見積りで作られた部分——に寄っているほど、翌期には元へ戻りやすい。 逆に、現金の裏づけが厚い利益は続きやすい。つまり「利益率が高い」だけでは、それが続く高さなのか、来期には戻る一時の高さなのかは、区別がつかない。高さと、続く力は、別のことである。
高い利益率は、放っておいても真ん中へ戻る
見積りの問題を抜きにしても、高い利益率にはもう一つの重力がかかる。1982年に *Journal of Accounting Research* 20巻2号へ出た研究は、帳簿上の自己資本利益率(ROE、自前の元手がどれだけ利益を生んだか)が、平均回帰する——高いものは放っておいても真ん中へ下がり、低いものは上がってくる——ことを示した。競争や参入、需要の変化によって、飛び抜けて高い収益性は長くは保たれにくい。
この含意は静かだが重い。 いま利益率が高いという事実は、それだけでは「これからも高い」の根拠にならない。むしろ、統計的にはこれから下がるほうへ引かれている。「利益率が高い=強い」を、そのまま「これからも強い」と読むと、平均回帰という引力を勘定に入れそこねる。
DuPont分解は、因果ではなく恒等式である
利益率を語るとき、よく持ち出されるのがDuPont分解である。自己資本利益率を、純利益率(売上に対する利益の割合)×総資産回転率(資産がどれだけ売上を生んだか)×財務レバレッジ(自己資本の何倍の資産を動かしているか)の三つの掛け算に分ける。「利益率が低くても回転で稼ぐ」「レバレッジで持ち上げている」といった読み方に使われる。
ところが、この分解には落とし穴がある。三つを掛ければ必ず元のROEに戻るのは、そう定義しているからにすぎない。 分子と分母が次々に打ち消し合って、掛け算が必ず成り立つように作られている——これは恒等式であって、どの要素がROEの高さの原因かを説明する因果ではない。分解は現状を三つの窓から眺める作法ではあるが、「ここを動かせばここが変わる」という因果の地図ではない。 利益の質そのものも一つの物差しでは測れない。2010年に *Journal of Accounting and Economics* 50巻2-3号へ出た総説は、利益の質を測る代理の指標が多数あり、目的によって使い分けるべきで一つに定まらないことを整理した。単一の利益率を「質の高さ」と読むことはできない。(この総説は査読つきだが、一次実証ではない。)
時間・変化:物差しは利益からキャッシュへ、但し書きが増えた
順に置く。1982年、高いROEが平均回帰することが示された。1985年、賞与の仕組みが会計判断を動かすことが実地で示された。1996年、発生項目の多い利益ほど持続しないことが大標本で確かめられた。2010年、利益の質を測る物差しが一つでないことが総説にまとめられた。2013年、現場のCFOが「五社に一社は利益を調整している」と証言した。
約三十年で、利益をめぐる問いは「いくら儲かったか」から「その利益はどれだけキャッシュに裏づけられ、どれだけ続くか」へと移った。利益率という一つの数字は残ったが、その周りに但し書きが増えた——見積りで動く、平均へ戻る、分解しても因果はわからない。そして但し書きは、利益率が一人歩きするときに、たいてい落ちる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、利益率という一つの数字を、強さの証明として使うことである。高い利益率を掲げれば力を示した気になれるが、それがどれだけ見積りで作られ、どれだけキャッシュに裏づけられ、これからも続く見込みがあるかは、たいてい書かれていない。 成長率と利益率を足す「Rule of 40(合計が40%を超えれば健全)」のような早見も出回っているが、これは実務資料であって、査読された証拠ではない。
標本の偏りを断っておく。この単位が挙げた査読研究は、ほぼすべて米国の、決算データが残る上場企業を対象に採られている。 日本の会社を対象にした査読研究はごく少なく、非公開の小さな会社のデータは標本に入りにくい。続いている会社のデータだけが残る、という逆向きも排除できない。
助けになるのは、利益率を見たときに「これはどれだけ現金に裏づけられ、これからも続く高さか」を先に一度問うという一手である。最初の一歩は5分。 いま自分が見ている利益か利益率の数字を1つ選び、その利益が「どれだけ現金で入ってきた分か、どれだけ掛けや見積りの分か」を、分かる範囲で書き分ける。直さなくてよい。書き分けられなかった部分がどれだけ残ったかを見ることが収穫である。 いま会社に属していない場合や一人で全部を回している場合は、自分の家計や副業の「儲け」を1件選び、同じように現金の分と見込みの分を書き分ければよい。
次の単位は 260「損益構造の把握・改善力」——損益計算書を見れば成果がわかる、という言い方は、どこまで本当か。
- 利益は測った真実ではなく、見積りや割り付け(発生項目)を通り、報告する側の裁量でも動く数字である。Healy(1985, Journal of Accounting and Economics 7巻1-3号)は、賞与に下限と上限があると、経営者が発生項目を使って利益をその範囲に収まるよう動かすことを示した。利益は業績だけでなく、それを報告する側の都合でも動く。
- Dichev, Graham, Harvey & Rajgopal(2013, Journal of Accounting and Economics 56巻2-3号)は169人のCFOへの実地調査で、どの時期をとっても企業の約20%が利益を意図的に調整しており、その調整幅は1株あたり利益の約10%に達すると見積もった。CFOたちは、質の高い利益とは持続的でキャッシュに裏づけられた利益だと答えた。
- Sloan(1996, The Accounting Review 71巻3号)は、現在の利益の持続性が、利益に含まれる発生項目の成分が大きいほど下がり、キャッシュフローの成分が大きいほど上がると示した(要旨の逐語)。同じ利益率でも、見積りで作られた部分の多い利益ほど翌期に元へ戻りやすい。高さと、続く力は別のことである。
- Freeman, Ohlson & Penman(1982, Journal of Accounting Research 20巻2号)は、帳簿上の自己資本利益率(ROE)が平均回帰することを示した。高いROEは放っておいても真ん中へ下がり、低いROEは上がってくる。いま利益率が高いという事実は、それだけでは これからも高い の根拠にならない。
- DuPont分解(ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ)は、三つを掛ければ必ず元のROEに戻るように分子と分母が打ち消し合う恒等式であって、因果の説明ではない。必ず成り立つのはそう定義しているからにすぎず、どの要素が強さの原因かを教えるものではない。
- Dechow, Ge & Schrand(2010, Journal of Accounting and Economics 50巻2-3号)は、利益の質を測る代理の指標が多数あり、目的によって使い分けるべきで一つに定まらないことを総説した。だから単一の利益率を質の高さと読むことはできない。査読つきだが一次実証ではなく総説である。
- 妨げるものの筆頭は、利益率という一つの数字を強さの証明として使うこと。成長率と利益率を足す Rule of 40 のような早見も実務資料であって査読の証拠ではない。証拠はほぼ米国の決算が残る上場企業に偏り、続いている会社のデータだけが残る逆向きも排除できない。助けは、利益率を見たら、どれだけ現金に裏づけられ、これからも続く高さかを一度問うことである。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 利益率が高い会社は、それだけで強い会社である | 利益は現金の出入りそのものではなく、見積りや割り付け(発生項目)を通った数字で、報告する側の裁量でも動く。Healy(1985)は賞与に下限と上限があると経営者が利益をその範囲へ動かすことを示し、Dichev, Graham, Harvey & Rajgopal(2013)は169人のCFOへの実地調査で、どの時期でも企業の約20%が利益を意図的に調整し、その幅は1株利益の約10%に達すると見積もった。Sloan(1996)は、発生項目の多い利益ほど翌期に持続しないと示した。高い利益率の一部は作られており、続く高さとは限らない |
| DuPont分解(ROE=利益率×回転率×レバレッジ)を見れば、どの要素が利益を生んでいるかという因果がわかる | DuPont分解は、分子と分母が打ち消し合って三つを掛ければ必ず元のROEに戻るように作られた恒等式であって、因果の説明ではない。必ず成り立つのは、そう定義しているからにすぎない。Freeman, Ohlson & Penman(1982)は高いROEが放っておいても真ん中へ戻る(平均回帰する)ことを示し、Dechow, Ge & Schrand(2010)は利益の質を測る物差しが多数あって一つに定まらないと総説した。恒等式の分解は、強さの原因を教えてくれない |
皮肉なのは、いちばん強さの証拠とされる利益率が、いちばん作り手の手の入りやすい数字だという点である。利益には見積りが混じり、賞与の仕組みで押し引きされ、高ければ高いほど平均へ戻る引力を受ける。そしてDuPont分解は、その利益率を三つに割って因果を見た気にさせるが、割り算が必ず戻るのは定義がそう組まれているからにすぎない。利益率を見たときに得られるいちばん確かなものは、たぶん、その高さがどれだけ現金に裏づけられ、あとどれだけ続きそうかを、別々に問い直す習慣のほうである。
Q1. 1996年のSloanは、現在の利益の持続性が、利益に含まれる ____ の成分が大きいほど下がり、____ の成分が大きいほど上がると示した。つまり見積りで作られた部分の多い利益ほど、翌期に ____ やすい。穴埋め
Q2. DuPont分解(ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ)が「因果ではなく恒等式」だとはどういう意味か。なぜ必ず成り立つのかを含めて書きなさい。一問一答
Q3. 2013年に169人のCFOへ行った実地調査が報告した、利益調整の広がりについての見立てはどれか。選択
Q4. 1982年のFreeman, Ohlson & Penmanが示した、帳簿上の自己資本利益率(ROE)の性質を書き、それが「利益率が高い=強い」という読み方にどう関わるかを述べなさい。一問一答
Q5. 本文の『時間・変化』で、利益をめぐる問いに但し書きが積み重なった順に並べなさい。(ア)賞与の仕組みが会計判断を動かすことが実地で示された(1985年)(イ)高いROEが平均回帰することが示された(1982年)(ウ)現場のCFOが五社に一社は利益を調整していると証言した(2013年)(エ)発生項目の多い利益ほど持続しないことが大標本で確かめられた(1996年)並べ替え
紙かメモアプリを開く。いま自分が仕事で目にしている利益か利益率の数字を1つ選ぶ(月次の利益、粗利、営業利益率など、どれでもよい)。その数字について、分かる範囲で三つを書く——(1)その利益のうち、どれだけがすでに現金で入ってきた分で、どれだけが掛け(未回収)や見積り(返品・貸倒れの見込みなど)の分か、(2)去年や前月と比べて上がったか下がったか(続いているのか一度きりか)、(3)その数字の出どころ(誰が作った表か)。直したり計算し直したりはしない。分からない項目は「不明」と書く。最後に、現金の分と見積りの分を書き分けられなかった部分がどれだけ残ったかを1行で書く。いま会社に属していない場合や一人で全部を回している場合は、自分の家計や副業の『儲け』を1件選び、同じように現金の分と見込みの分を書き分ければよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Sloan R.G. (1996) 'Do Stock Prices Fully Reflect Information in Accruals and Cash Flows about Future Earnings?', The Accounting Review 71(3):289-315, doi:10.2308/tar-9608042309 — www.jstor.org
- Healy P.M. (1985) 'The effect of bonus schemes on accounting decisions', Journal of Accounting and Economics 7(1-3):85-107 — doi.org
- Dichev I.D., Graham J.R., Harvey C.R., Rajgopal S. (2013) 'Earnings quality: Evidence from the field', Journal of Accounting and Economics 56(2-3):1-33 — doi.org
- Freeman R.N., Ohlson J.A., Penman S.H. (1982) 'Book Rate-of-Return and Prediction of Earnings Changes: An Empirical Investigation', Journal of Accounting Research 20(2):639-653 — www.jstor.org
- Dechow P.M., Ge W., Schrand C. (2010) 'Understanding earnings quality: A review of the proxies, their determinants and their consequences', Journal of Accounting and Economics 50(2-3):344-401 — doi.org
- Brad Feld「The Rule of 40% For a Healthy SaaS Company」(発行元の公開資料。査読誌ではない・2015年公開・2026年8月閲覧) — feld.com