学業
成長マインドセット
米国・2023年に Psychological Bulletin へ出た分析は、無作為化された介入63件・97,672人を集計し、学業成績への平均効果を d = 0.05 と報告した。同じ号に載った提唱者側の応答は、同じデータから 0.09 を出した。論争はこの二つの数字のあいだで止まっている。どちらも、一般向けの本に書かれている主張の大きさではない。
自己効力感
英国・2012年の大規模メタ分析では、同じ「自己効力感」というラベルの下で、試験の得点予想なら r = .59、一般的な見込みなら r = .31 に割れた。そして米国・2013年に同じ人を繰り返し測った研究を集めた分析では、成績が伸びていく軌跡を統制した瞬間に、個人内の相関が .23 から .06 に落ちて有意でなくなった。
自己調整
「自分に合った学び方」を確かめられる設計の研究は、1,215件のうち10件だった
米国・2008年のレビューは、学習スタイル説の検証には、型ごとに最適な提示形式が入れ替わる交差が必要だと定義した。2018年に六つのデータベースで1,215件を走査すると、その方法を用いた研究は10件、条件に完全に沿っていたのは1件だった。一方で、18か国15,405人の教育者を集計した2020年のレビューでは、この説を支持する割合は89.1%だった。
注意制御
机の上のスマートフォンが奪っていたのは、成績のばらつきの1.4%だった
米国・2017年の実験が報告した効果の大きさは、成績のばらつきの1.4%と1.5%にあたる。カナダ・2022年の事前登録つき直接追試は再現せず、22件を集めた2023年の集計は g = −0.14、56件・7,093人を対象にした2024年の系統的レビューでは六つの認知機能のうち一つだけが有意に残った。
作業記憶
米国・2016年に公表された、訓練研究87本・145の実験的比較を集めたメタ分析では、能動的な対照群を置いた比較で、非言語的な能力への効果は g = 0.05、算数は 0.06。いっぽう「一度に7つ」という有名な数字は、唱え直しと束ね直しを封じるとおよそ4つに縮む。
処理速度
英語の文章を読む速さは、訓練を受けた大人でおよそ毎分200〜400語(米国・2016年の総説)。速さを上げると理解が落ちるという交換は、いまのところ回避されていない。いっぽう制限時間つきのテストでは、知っていることと速さが同じ点数に溶け込み、あとから分離できない。
言語能力
3,000万語の差は、6家庭分の記録を4年に引き伸ばして作られた
未知語が50語に1語を超えると理解は崩れ始める——この目安の出どころは、ニュージーランドの大学生66人の実験である。いっぽう「3歳までに3,000万語の差」の出どころは、米国で42家庭を月1回1時間ずつ観察した研究で、低いほうの端を担っていたのは6家庭だった。
論理的思考
「批判的思考力が伸びた」の平均は 0.195。31本のうち13本に、比べる相手がいなかった
米国・2013年、大学生を対象にした批判的思考の介入研究31本から40の効果量を集めたメタ分析で、平均は 0.195(95%信頼区間 0.087〜0.303)。うち13本は統制群のない一群の前後比較で、比べる相手が置かれていなかった。
メタ認知
いちばん配られているメタ認知の効果量は、査読誌ではなく1冊の本の中にある
「メタ認知介入の効果量 d=0.69」という一文の典拠は、800を超えるメタ分析を合成した一般向けの書籍である。2017年に McGill Journal of Education へ出た論文は、この合成の手続きそのものを統計の側から検討した。査読誌の側にある数字は、20件を集めた 0.71 と、51件を集めた 0.45 で、どちらも何を測ったかが違う。この単位が扱うのは勉強法の正解ではなく、自分の理解度の見え方と、数字の出どころである。
知識の構造化
図にすると理解が深まる、の効果量は、何と比べたかで4倍ちがう
概念地図の効果を集めた2006年のメタ分析は、55件の研究・5,818人から67の効果量を取り出し、全体で g=0.60 と報告した。ところが比較の相手ごとに分けると、講義や討論と比べたときは 0.74、同じように手を動かして文章やアウトラインを作る作業と比べたときは 0.19 になる。この単位が扱うのはノート術ではなく、対照条件の選び方が結論をどこまで動かすかである。
転移能力
難しい科目を学んだ人が賢く見えるのは、鍛えられたからではなく、選ばれていたからかもしれない
英国の高校生124人を1年間追いかけた研究では、数学を選んだ側は開始時点ですでに推論課題の成績が高く、1年で動いた分は、論理学の標準とは別の方向へのずれだった。この単位が扱うのは応用力の伸ばし方ではなく、何をもって「持ち出せた」とみなすかという判定の線と、その線の手前にある選抜である。
内発的動機
同じ実験の山から、正反対の結論が二度出た——違っていたのは、仕切りの入れ方だった
1994年に Review of Educational Research へ出たメタ分析は96件の実験を集め、報酬は内発的動機を下げないと結論した。2001年、同じ雑誌に128件の実験を集めた側が反論し、同じ号にさらに再反論が載った。数字が食い違ったのではない。研究をどう分類し、どこまでまとめて平均するかが違っていた。この単位が扱うのは、ご褒美の是非ではなく、集計の手続きが結論をどこまで作るかである。
やり抜く力
米国・2022年のメタ分析は137件の研究・のべ28万5,331人を集め、やり抜く力と学業成績の相関を r = .19 と報告した。二つの下位尺度のうち、興味の一貫性のほうは .08 である。この単位では、名前がついたあとに何が起きたかを見ていく。
感情調整
11パーセンタイル上昇、の11は、0.27を大きく見せるための単位だった
米国・2011年に Child Development へ出たメタ分析は、学校での社会性と情動の学習の介入213件・のべ27万34人を集計した。学業成績の平均効果量は0.27。論文はこれを11パーセンタイルの差と言い換えている。この単位では、その言い換えが運ばれるあいだに何が落ちるかを見ていく。
計画立案力
人はいつも短く見積もる——ただし、その「いつも」は文献によって違っていた
所要時間の予測を扱った研究を横断して読み直した2012年の総説は、過小評価が優勢だったのは工学と経営の文献で、心理学の文献ではそうではなかったと報告した。この単位では、段取りが当たるようになるまでに何を記録する必要があるかを見ていく。
協働力
協働で伸びる、という数字を数えてきたのは、その枠組みを作った人たちだった
人に説明するつもりで読むだけで思い出せる量が変わる、というのは繰り返し確かめられている。ただしその周りにある「協同学習は効果量いくつ」という数字のほうは、誰が集計したかで見え方が変わる。学業の棚は、ここで終わる。