図にすると理解が深まる、の効果量は、何と比べたかで4倍ちがう
覚えた量ではなく、しまい方で差がつく。この言い方はおおむね正しい。ただし、しまい方を可視化する道具の効果量は、その道具の性能ではなく、隣に何を置いて比べたかで決まっている。
机の上に、覚えるべき言葉が20個ある。20個を20回ずつ唱えるより、20個のあいだに線を引いたほうが残る——という言い方は、おおむね正しい。問題は、そこから「だから図にして整理すれば理解が深まる」まで一足飛びに進んだときに、何が抜け落ちるかである。抜け落ちるのは、それを何と比べたのかという一点だけだ。そして、この一点が効果量のほとんどを決めている。
持ち場を狭めておく。長年その分野をやっている人の頭の中に何が入っているかは、芸道の棚が熟達と練習量として扱った。ここで扱うのは、いま覚えようとしている手元の材料を、どう並べるかだけである。ノートの取り方やアプリの選び方も書かない。
並べ方を先に渡す、という古い提案
1960年に Journal of Educational Psychology へ出た実験が、この系統の出発点にあたる。米国の大学最終学年の学生120人に、炭素鋼についての2,500語の文章を読ませる。片方の群には、その前に先に枠組みだけを述べた短い文章を渡した。もう片方には、同じ長さの歴史的な導入文を渡した。3日後の多肢選択テストで、枠組みを先に渡された群のほうが成績がよかった——ただし原典の書きぶりは控えめで、その差は 0.01 水準にほぼ届くという表現になっている。
1980年に American Educational Research Journal へ出たメタ分析は、この種の先渡しを扱った135件の研究を集めた。結論は一行である——小さいながら促進的な効果が認められた。大きい、とは書かれていない。
1980年代以降、この系統は「先に渡す」から「自分で描く」へ移る。丸で囲んだ言葉を線でつなぎ、線の上に関係を書き込む形式は、1970年代の研究計画から生まれたものとして、提唱者自身の技術報告に整理されている。この報告は効果の検証ではなく、誰が何を提案したかの記録である。
値切り:効果量を決めているのは、比べた相手のほう
2006年に Review of Educational Research へ出たメタ分析が、この単位の中心にある。55件の研究・5,818人から67の効果量を取り出し、全体の平均は g=0.60(95%区間 0.55〜0.66)だった。ここだけを読めば、確かに効く道具に見える。
ところが同じ論文の表を、比較の相手ごとに分け直すと、様子が変わる。地図を自分で作る条件を、講義や討論を受ける条件と比べたときは g=0.74(k=10)。同じ地図を作る条件を、同じように手を動かして文章やアウトラインを作る条件と比べたときは g=0.19(k=7)。地図を読む条件を、文章を読む条件と比べると g=0.39(k=29)、アウトラインやリストを読む条件と比べると g=0.28(k=10)である。
論文自身の言い方は明快だ——概念地図は、学ぶ人の手が空きやすい教え方(全体討論など)と比べればたいへん有利に見えるが、ほかの手を動かす作業と比べれば、わずかな優位しかない。
2018年に Educational Psychology Review へ出た集め直しでも、同じ形が出ている。142の独立した効果量・11,814人で全体は g=0.58。自分で作る条件が 0.72、できあがった地図を読む条件が 0.43 だった。2つのメタ分析は、12年を隔てて、ほぼ同じ値に着地している。動いていないのは道具のほうで、動くのは比較の相手のほうである。
図が「条件」の側に回ると、負ける
この構造がいちばん露骨に出たのが、2011年に Science へ出た実験である。米国の大学生を対象に、同じ理科の文章を、1回読むだけ・繰り返し読む・概念地図を描く・閉じて思い出して書き出すの4条件で学ばせた。実験1が80人、実験2が120人である。
1週間後の試験で、思い出して書き出した条件は 0.67、概念地図を描いた条件は 0.45 だった。最終試験を概念地図を描かせる形式にしても、順位は変わらなかった。
ここで注目すべきは学生の予想である。実験2では120人のうち90人、つまり4分の3が、概念地図のほうが同等かそれ以上に効くと考えていた。描いた地図は手元に残る。残ったものが整って見える。整って見えることと、1週間後に取り出せることは、別の性質である。
時間・変化:同じ雑誌の上で、比較の妥当性が争われた
この実験には査読誌上の続きがある。翌年、同じ雑誌に反論が載った。
反論した11人の研究者は、こう書いている——この実験で渡された概念地図の説明は簡略で、例は1つ、作業時間は25分だった。自分たちの研究では、この技法の習得には10週から15週の反復と助言が要る。だから、実験室という環境で、指導も助言も無いままに描かれたものについて、そもそも技法として成立していたかを評価する手立てが無い。
応答は同じ号に載った。応答が持ち出したのは、批判した側自身の過去の刊行物である。そこには、この技法は教えやすい、比較的短い期間で学べる、50分の1コマで学べると書かれていた。そして、10週から15週が必要だという主張の裏づけとなるデータは、反論の側から示されていない、と。
どちらが正しいかは、ここでは裁定しない。注目すべきは、争点が「概念地図は効くか」ではなく、「どんな作らせ方をすれば比較として成立するか」に移っていることである。効果量を決めているのが道具ではなく条件の作り方だ、という同じ話が、批判の側からも繰り返されている。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、効果量を道具の性能表として読むことである。0.74 も 0.19 も同じ道具について測られていて、違うのは隣に置いたもののほうだ。第二の妨げは、見た目の整理を、概念の整理と取り違えること。線がまっすぐ引けたかどうかと、その線の上に書いた関係が正しいかどうかは、別々に確かめるしかない。
標本の偏りを断っておく。ここで挙げた研究の対象は、ほとんどが北米の大学生と、学校に通っている児童・生徒である。働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少ない。測定はおおむね1週間から数週間で、数か月後まで追ったものはその一部にすぎない。そして、こうした比較で見えた差は、もともと学ぶ余裕のある人ほど、その学習法を試せる、という逆向きを排除できない。25分の作業時間を確保できること自体が、条件である。
助けるのは、線に言葉を載せることだ。丸と丸をつないだだけの線は、位置関係を描いただけで終わる。線の上に「〜が原因で」「〜の一種」と書いた瞬間に、その関係が正しいかどうかを確かめられるようになる。確かめられる形にすることが、並べ方をつくるという作業の中身である。
最初の一歩は5分。いま学んでいる分野の言葉を5つだけ書き出し、そのあいだに引ける線を引いて、線の上に関係を1語ずつ書く。引けた線の本数を数える。0本なら、その5語はまだ並んでいないという情報になる。
次の単位は 059「転移能力」——道具箱の隣の引き出しである。ここでは並べ方の効果が比較の相手で決まることを見たが、あちらでは、学んだことを別の場所へ持ち出せたかどうかの判定線を、誰がどこに引くかで結果が決まっている。
- Nesbit & Adesope 2006(Review of Educational Research 76(3):413-448)は概念地図の効果を集めたメタ分析で、55件の研究・5,818人から67の効果量を取り出し、全体の平均を g=0.60(95%区間 0.55〜0.66)と報告した。全体値だけを読めば有効な道具に見える
- 同じメタ分析を比較の相手ごとに分けると、地図を自分で作る条件は、講義や討論と比べれば g=0.74(k=10)、同じように手を動かして文章やアウトラインを作る条件と比べれば g=0.19(k=7)だった。地図を読む条件は、文章を読む条件と比べて g=0.39(k=29)、アウトラインやリストと比べて g=0.28(k=10)。論文自身が、学ぶ人の手が空きやすい教え方と比べれば有利に見えるが、ほかの手を動かす作業と比べればわずかな優位しかないと書いている
- Schroeder, Nesbit, Anaya & Cloutier 2018(Educational Psychology Review 30(2):431-455)は142の独立した効果量・11,814人で集め直し、全体 g=0.58、自分で作る条件 0.72、できあがった地図を読む条件 0.43 と報告した。12年を隔てた2つのメタ分析はほぼ同じ値に着地しており、動くのは道具ではなく比較の相手のほうである
- Karpicke & Blunt 2011(Science 331(6018):772-775)は、同じ理科の文章を1回読む・繰り返し読む・概念地図を描く・閉じて思い出して書き出すの4条件で学ばせた。実験1は米国の大学生80人、実験2は120人。1週間後の試験は、思い出して書き出した条件が 0.67、概念地図を描いた条件が 0.45 で、最終試験を概念地図を描く形式にしても順位は変わらなかった
- 同じ実験2で、120人のうち90人(4分の3)が、概念地図のほうが同等かそれ以上に効くと予想していた。描いた地図は手元に残り、残ったものは整って見える。整って見えることと、1週間後に取り出せることは別の性質である
- 2011年に Science へ出た反論(Mintzes ほか、334(6055):453)は、この実験の概念地図条件が簡略な説明・例1つ・作業時間25分で行われた点を挙げ、自分たちの研究では習得に10週から15週の反復と助言が要ると主張した。同じ号の応答(Karpicke & Blunt、334(6055):453-d)は、批判した側自身の刊行物にこの技法は教えやすい・50分の1コマで学べると書かれていることを示し、10週から15週を要するというデータは示されていないと返している
- この系統の出発点にある Ausubel 1960(Journal of Educational Psychology 51(5):267-272)は、米国の大学最終学年120人に炭素鋼についての2,500語の文章を読ませ、先に枠組みを述べた短い文章を渡した群と、同じ長さの歴史的導入文を渡した群を3日後に比べた。差は前者に有利だが、原典の書きぶりは 0.01 水準にほぼ届くという控えめなものである。Luiten, Ames & Ackerson 1980(American Educational Research Journal 17(2):211-218)は同種の先渡しを扱った135件を集め、小さいながら促進的な効果が認められたと結論した
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 概念地図やマインドマップで整理すれば、理解が深まることは実証されている | 実証されているのは「何と比べて」の部分まで込みの値である。2006年のメタ分析では、地図を自分で作る条件は講義や討論と比べれば g=0.74 だが、同じように手を動かして文章やアウトラインを作る条件と比べれば g=0.19 にとどまる。論文自身が、学ぶ人の手が空きやすい教え方と比べれば有利だが、ほかの手を動かす作業と比べればわずかな優位しかないと書いている。2018年の集め直しでも全体 g=0.58 で、値を動かしているのは道具ではなく対照条件である |
| 整った図が描けたということは、内容を理解できたということである | 描いた図は手元に残り、残ったものは整って見える。2011年に Science へ出た実験では、1週間後の試験で概念地図を描いた条件が 0.45、閉じて思い出して書き出した条件が 0.67 で、最終試験を概念地図を描く形式にしても順位は変わらなかった。それでも参加者120人のうち90人は、概念地図のほうが同等以上に効くと予想していた。見た目の整理と概念の整理は別々に確かめるしかない |
| この論争は「概念地図は効かない」で決着している | 決着していないし、争点も別のところにある。2011年の反論は、実験で渡された説明が簡略で作業時間が25分だったこと、習得には10週から15週の反復と助言が要ることを挙げた。同じ号の応答は、批判した側自身の刊行物にこの技法は教えやすい・50分の1コマで学べると書かれていることを示し、10週から15週を要するというデータは示されていないと返している。争われているのは道具の性能ではなく、どんな作らせ方をすれば比較として成立するか、である |
並べ方を可視化する道具には、売り物として理想的な性質がある。作った本人の手元に、成果物が残るのだ。しかも残ったものは、たいてい美しい。皮肉なのは、この分野でいちばん厳密に測られてきたのが、地図の出来ではなく、その隣に何を置くかだったことである。講義の横に置けば 0.74、同じだけ手を動かす作業の横に置けば 0.19。数字が4倍動いても、描いた図は1ミリも変わっていない。
Q1. 2006年に Review of Educational Research へ出たメタ分析は、55件の研究・____ 人から67の効果量を取り出し、全体の平均を g=____ と報告した。ところが比較の相手で分けると、講義や討論と比べたときは ____、同じように手を動かして文章やアウトラインを作る条件と比べたときは ____ になる。穴埋め
Q2. 2011年に Science へ出た実験で、1週間後の試験の成績が高かったのはどの条件か。選択
Q3. 2011年に同じ雑誌へ載った反論と、その応答の争点はどれか。選択
Q4. 本文の並べ方にしたがって、この系統の研究を年の順に並べよ。(142の効果量・11,814人で集め直したメタ分析/枠組みを先に渡した120人の実験/同じ雑誌の上での反論と応答/135件を集めたメタ分析/55件・5,818人のメタ分析)並べ替え
Q5. 2006年のメタ分析で報告された4つの値を、大きい順に並べよ。(地図を読む 対 文章を読む/地図を作る 対 文章やアウトラインを作る/地図を読む 対 アウトラインやリストを読む/地図を作る 対 講義や討論)並べ替え
紙かメモアプリを開く。いま学んでいる分野から、言葉を5つだけ書き出す。資格の勉強でも、業務の技術書でも、語学でも、子どもの宿題で出てきた用語でもよい。次に、その5つのうち関係があると思う組み合わせを線で結び、線の上に関係を1語だけ書き添える(〜の一種、〜が原因で、〜のときに使う、など)。最後に、引けた線の本数を数えて記録する。最大は10本だが、多いほどよいという課題ではない。0本なら、その5語がまだ並んでいないという情報になるので、0と書けばよい。誰にも見せなくてよく、書き直す必要もない。いま学校に通っていない場合は、仕事で使っている用語5つに置き換えてよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Nesbit J.C., Adesope O.O. (2006) 'Learning With Concept and Knowledge Maps: A Meta-Analysis', Review of Educational Research 76(3):413-448 — journals.sagepub.com
- Schroeder N.L., Nesbit J.C., Anaya C.J., Cloutier J.F. (2018) 'Studying and Constructing Concept Maps: a Meta-Analysis', Educational Psychology Review 30(2):431-455 — link.springer.com
- Karpicke J.D., Blunt J.R. (2011) 'Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping', Science 331(6018):772-775 — www.science.org
- Mintzes J.J., Cañas A., Coffey J., Gorman J., Gurley L., Hoffman R., McGuire S.Y., Miller N., Moon B., Trifone J., Wandersee J.H. (2011) 'Comment on Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping', Science 334(6055):453 — www.science.org
- Karpicke J.D., Blunt J.R. (2011) 'Response to Comment on Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping', Science 334(6055):453-d — www.science.org
- Ausubel D.P. (1960) 'The use of advance organizers in the learning and retention of meaningful verbal material', Journal of Educational Psychology 51(5):267-272 — psycnet.apa.org
- Luiten J., Ames W., Ackerson G. (1980) 'A Meta-analysis of the Effects of Advance Organizers on Learning and Retention', American Educational Research Journal 17(2):211-218 — journals.sagepub.com
- Novak J.D., Cañas A.J. (2008) 'The Theory Underlying Concept Maps and How to Construct and Use Them', Technical Report IHMC CmapTools 2006-01 Rev 01-2008, Florida Institute for Human and Machine Cognition(公開技術報告、2026年閲覧) — cmap.ihmc.us