いちばん配られているメタ認知の効果量は、査読誌ではなく1冊の本の中にある
研修のスライドにも、学習法の解説にも、同じ数字が載っている。メタ認知への働きかけは効果量 0.69。出どころをたどると、査読誌ではなく、1冊の書籍の表に行き着く。
「分かった」という感じは、どこから来ているのか。たいていは、読み返したときの滑らかさから来ている。同じ文章を三度読めば、三度目はつっかえずに読める。つっかえずに読めたことを、理解したことだと受け取る。ここがこの単位の入口である。滑らかさは、理解の量ではない。
持ち場を狭めておく。組織が自分たちの学び方について何を信じているかは、学習と成長の棚が扱った。ここで扱うのは、机に向かっている一人の頭の中で、自分の理解度がどう見えているか——それだけである。そのうえで、見えなさを直す手立てとして最もよく配られている数字が、どこから来てどう丸くなったかを追う。学んでいる本人には、覚えた量も伸びた幅も見えないという、この棚が何度も戻ってくる一点には、ここでは1文だけ触れて先へ進む。
自分の理解を、一段上から見る働き
1979年に American Psychologist へ出た論文が、この働きに名前を与えた。著者はそれを4つの区分に分けている——メタ認知的知識(人の頭のはたらきについて自分が持っている知識)、メタ認知的経験(作業中に湧く、分かった・詰まったという意識のほうの手触り)、目標や課題、そして行為や方略。名前が付いたのはこの4つの関係であって、伸ばし方ではない。
同じ論文には、この分野の出発点になった観察が書かれている。わざと欠落や不明瞭さを混ぜた説明文を渡したところ、年少の対象者たちはその欠落に驚くほど気づかなかった。分からないことに気づく、という段がまず難しい。
2005年に Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition へ出た研究は、その難しさの正体を実験室で切り出した。学習中に語の組を見せ、あとでどれくらい思い出せるかを予想させる。答えが目の前にある状態で予想を出すと、予想は実際の再生率を上回った。実験1では予想の平均が 28.9 に対して実際の再生は 19.2、実験2では 75.7 に対して 60.3 である。対象は24人・20人・16人と小さい。答えを見ながら測った手応えは、答えが無い状態での再生を過大に見積もる。
値切り:0.69 という数字の、出どころをたどる
学習の設計資料には、しばしばこう書かれている——「メタ認知介入の効果量 d=0.69(Hattie, 2009)。最も費用対効果が高い介入の一つ」。この一文をそのまま出発点にする。
典拠として挙がっている 2009年の刊行物は、一般向けの書籍である。査読を経た論文ではない。そこに並んでいる効果量は、個々の実験から直接算出されたものではなく、すでに公表されたメタ分析の結果を、さらに合成した値である。書籍自身の説明によれば、その合成は800を超えるメタ分析、5万を超える研究にまたがっている。
2017年に McGill Journal of Education へ出た論文は、この合成の手続きを統計の側から検討した。著者の指摘は3点にまとめられる。第一に、成績に影響する要因という母集団と、その要因について行われた研究という母集団を混同していること。第二に、性質の違うものを一つの平均にまとめる操作そのものが意味を失うこと——論文はこれを、頭をオーブンに入れて足を冷凍庫に入れれば平均すると快適だ、という比喩で書いている。第三に、効果量を分かりやすく言い換えるために使われた指標の計算に誤りがあり、負の確率や100%を超える確率が出てしまう箇所があること。合わせて、0.40 を境目として「望ましい効果の領域」と呼ぶ区切りにも、根拠が示されていないと述べている。
ここは正確に書いておく。この論文が検討しているのは合成の手続きであって、メタ認知という項目の 0.69 という値を名指しで再計算したわけではない。批判の対象は、数字が作られる工程のほうである。
査読誌の側には、別の数字が並んでいる
では 0.69 に対応する査読論文はあるのか。論文データベースで、メタ認知への働きかけの効果量としてこの値を報告した査読論文を探したが、たどり着けなかった。合成前の材料として査読誌にあるのは、次のようなものである。
1988年に Educational Researcher へ出た統合は、20件の研究・1,553人・115の効果量を集め、平均効果量を 0.71 と報告した。ただしこれは読解に限った話で、対象は米国の児童・生徒であり、とくに中学1〜2年にあたる学年で効果が大きかったと書かれている。
1996年に Review of Educational Research へ出たメタ分析は、学習技能への働きかけを51件の研究・270の効果量で集計し、重みづけ平均を 0.45 としている。内訳は成績が 0.57、学習技能そのものが 0.16、情意面が 0.48 である。0.71 も 0.45 も実在するが、測っている対象が違う。一つの数字に丸めた時点で、どちらの意味でもなくなる。
時間・変化:5分後と1週間後で、順位が入れ替わる
2006年に Psychological Science へ出た実験は、同じ材料を読む回数と、思い出す回数の配分を変えて比べた。米国の大学生が対象で、実験1が120人、実験2が180人である。
実験2では、4回とも読んだ群・3回読んで1回思い出した群・1回読んで3回思い出した群を、5分後と1週間後に測っている。5分後は 83%・78%・71% で、読んだ回数が多いほど成績がよい。1週間後は 40%・56%・61% で、順位が完全に入れ替わる。実験1でも、5分後は読み返し 81% に対して想起 75%、1週間後は 42% に対して 56% だった。5分後の値が実験1と実験2で少しずれているが、入れ替わりの向きは両方で同じである。
入れ替わりよりも、この単位にとって重要なのは予想のほうである。最後の学習の直後に「1週間後にどれくらい覚えていると思うか」を7点尺度で答えさせると、4回とも読んだ群が 4.8、3回読んで1回思い出した群が 4.2、1回読んで3回思い出した群が 4.0 だった。いちばん残らなかったやり方に、いちばん高い自信が付いている。手応えは、時間の経過を織り込んでくれない。
格付けされているのは、手応えではない
2013年に Psychological Science in the Public Interest へ出たレビューは、10の学習法を有用性の高低で格付けした。高いと評価されたのは2つだけ——自分に問題を出して思い出す練習と、間隔をあけて分散させる学習である。中程度が3つ、低いと評価されたのが5つで、そこには要約・ハイライト・語呂合わせ・文章の心像化、そして再読が入っている。
低いと評価された5つに共通するのは、やっている最中の手応えが良いことである。再読は滑らかになる。ハイライトはページが整っていく。どちらも、自分が上達したという信号を返してくる。返ってこないのは、1週間後の再生率である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、手応えを唯一の計器として使うことである。手応えは資料が開いている状態で測られる。試験も仕事も、資料が閉じた状態で来る。第二の妨げは、効果量を一つの数字として受け取ることだ。0.69 と 0.71 と 0.45 は別々の対象について測られていて、並べれば桁が近いというだけである。
標本の偏りを断っておく。ここで挙げた実験の対象は、ほとんどが米国の大学生と、学校に通っている児童・生徒である。働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少ない。測られた期間も短く、1週間後まで追ったものが多数を占める。そして、こうした研究で見えた関連は、もともと学ぶ余裕のある人ほど、その学習法を試せる、という逆向きを排除できない。静かな机とまとまった時間は、誰にでもあるものではない。
助けるのは、計器を1つ足すことである。資料を閉じて書き出し、開いて突き合わせる。それだけで、手応えとは別の目盛りが1本手に入る。
最初の一歩は3分。いま「分かっている」と思っている内容を1つ選び、資料を閉じて3行書く。そのあと開いて、食い違ったところに印を付ける。印が0個なら、選んだ内容が易しすぎたという情報になる。
次の単位は 058「知識の構造化」——道具箱の隣の引き出しである。ここでは自分の理解度が見えるかどうかを見たが、あちらは覚えたものの並べ方を可視化する道具の話で、そこでも数字は、比べた相手のほうで決まっている。
- 学習の設計資料が引く「メタ認知介入の効果量 d=0.69(Hattie, 2009)」の典拠は一般向けの書籍であり、そこに並ぶ効果量は個々の実験からではなく、すでに公表されたメタ分析の結果をさらに合成した値である。書籍自身の説明では、その合成は800を超えるメタ分析・5万を超える研究にまたがる
- Bergeron & Rivard 2017(McGill Journal of Education 52(1):237-246)は、この合成の手続きを統計の側から検討した。指摘は、成績に影響する要因という母集団と研究という母集団の混同、性質の違うものを一つの平均にまとめる操作の無意味さ、効果量の言い換え指標の計算に負の確率や100%超の確率が出る箇所があること、0.40 という境目に根拠が示されていないこと。検討の対象は合成の工程であって、0.69 という値の再計算ではない
- 査読誌の側にあるのは別の数字である。Haller, Child & Walberg 1988(Educational Researcher 17(9):5-8)は20件の研究・1,553人・115の効果量を集め、平均効果量 0.71 を報告した。ただし対象は読解に限られ、米国の児童・生徒、とくに中学1〜2年にあたる学年で効果が大きかった
- Hattie, Biggs & Purdie 1996(Review of Educational Research 66(2):99-136)は学習技能への働きかけを51件の研究・270の効果量で集計し、重みづけ平均 0.45 とした。内訳は成績 0.57、学習技能そのもの 0.16、情意面 0.48 である。0.71 も 0.45 も実在するが、測っている対象が違う
- Koriat & Bjork 2005(Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 31(2):187-194)は、答えが目の前にある状態で出した予想が実際の再生を上回ることを示した。実験1は予想 28.9 に対し再生 19.2、実験2は 75.7 に対し 60.3。対象は24人・20人・16人と小さい
- Roediger & Karpicke 2006(Psychological Science 17(3):249-255)の実験2では、米国の大学生180人を対象に、4回読んだ群・3回読んで1回思い出した群・1回読んで3回思い出した群を比べ、5分後は 83%・78%・71%、1週間後は 40%・56%・61% と順位が入れ替わった。それでも1週間後の自己予想は 4.8・4.2・4.0(7点尺度)で、いちばん残らなかったやり方に最も高い自信が付いていた
- Dunlosky, Rawson, Marsh, Nathan & Willingham 2013(Psychological Science in the Public Interest 14(1):4-58)は10の学習法を格付けし、高い評価は想起練習と分散学習の2つだけだった。低い評価は要約・ハイライト・語呂合わせ・文章の心像化・再読の5つで、いずれも作業中の手応えが良いという共通点がある
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| メタ認知への働きかけの効果量は 0.69 で、これは費用対効果のいちばん高い介入の一つだと確かめられている | この値の典拠は一般向けの書籍であり、査読を経た論文でその数字を報告したものにはたどり着けなかった。書籍の効果量は、すでに公表されたメタ分析の結果をさらに合成したものである。2017年に McGill Journal of Education へ出た論文は、この合成の手続きに、性質の違うものを一つの平均にまとめる操作や、効果量の言い換え指標に負の確率が現れる箇所があると指摘している。査読誌の側にある数字は、読解に限った20件の統合で 0.71、学習技能への働きかけ51件の集計で 0.45 と、対象によって別々である |
| 自分に合った勉強法かどうかは、やっていて手応えがあるかで判断できる | 手応えは資料が開いている状態で測られる。答えが目の前にある状態で出した予想は、実際の再生を上回った(実験1で 28.9 対 19.2、実験2で 75.7 対 60.3)。1週間後の成績で順位が入れ替わった実験でも、いちばん残らなかったやり方に最も高い自信が付いていた(7点尺度で 4.8 対 4.0)。格付けの低い5つの学習法に共通するのは、作業中の手応えが良いことである |
| 効果量が大きい学習法を選べば、誰がやっても同じだけ効く | 効果量は対象と条件の上でしか意味を持たない。0.71 は米国の児童・生徒の読解について、0.45 は学習技能への働きかけ全般について測られた値で、内訳では学習技能そのものの伸びは 0.16 にとどまる。ここで挙げた実験の対象はほとんどが米国の大学生と学校に通っている児童・生徒であり、働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少ない。加えて、もともと学ぶ余裕のある人ほどその学習法を試せる、という逆向きを排除できない |
数字にはたいへん便利な性質がある。桁が同じなら、並べたときに同じ種類のものに見えるのだ。0.69 と 0.71 と 0.45 は、そうやって同じ棚に並べられてきた。皮肉なのは、自分の理解度を測る力の話をしているこの領域で、いちばん検算されずに流通していたのが、その力の効き目を表す数字のほうだったことである。手応えは当てにならない、と教える資料が、手応えのよい数字ひとつで配られていた。
Q1. 「メタ認知介入の効果量 d=0.69」の典拠として挙がる2009年の刊行物は ____ であり、そこに並ぶ効果量は、個々の実験からではなく、すでに公表された ____ の結果をさらに ____ した値である。穴埋め
Q2. 査読誌にある数字は別である。1988年に Educational Researcher へ出た統合は ____ 件の研究・1,553人を集めて平均効果量 ____ を報告したが、対象は ____ に限られていた。1996年に Review of Educational Research へ出たメタ分析は51件の研究を集計し、重みづけ平均 ____ としている。穴埋め
Q3. 2006年に Psychological Science へ出た実験2では、5分後の再生率が 83%・78%・____% だったのに対し、1週間後は 40%・56%・____% と順位が入れ替わった。それでも1週間後の自己予想は7点尺度で ____・4.2・4.0 だった。穴埋め
Q4. 2017年に McGill Journal of Education へ出た論文が、書籍の効果量の合成に対して行った指摘を3点挙げよ。あわせて、その論文が検討したのは何であって何ではないかも書け。一問一答
Q5. 2013年に Psychological Science in the Public Interest へ出たレビューが、10の学習法のうち「高い」と評価したものはどれか。選択
いま学んでいることの中から、自分が「分かっている」と思っている内容を1つ選ぶ。資格の勉強でも、業務の技術書でも、語学でも、子どもの宿題で説明した箇所でもよい。資料をすべて閉じて、その内容を3行だけ書く。次に資料を開き、書いた3行と突き合わせて、食い違ったところ・抜けていたところに印を付ける。最後に、印を付けた紙をもう一度だけ通して読み返す。印が0個なら、選んだ内容が易しすぎたという情報なので、そう書き添えればよい。誰にも見せなくてよく、覚え直す必要も今日はない。いま学校に通っていない場合は、仕事で人に説明したことのある事柄に置き換えてよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Bergeron P.-J., Rivard L. (2017) 'How to Engage in Pseudoscience With Real Data: A Criticism of John Hattie's Arguments in Visible Learning From the Perspective of a Statistician', McGill Journal of Education 52(1):237-246 — mje.mcgill.ca
- Haller E.P., Child D.A., Walberg H.J. (1988) 'Can Comprehension Be Taught?: A Quantitative Synthesis of Metacognitive Studies', Educational Researcher 17(9):5-8 — journals.sagepub.com
- Hattie J., Biggs J., Purdie N. (1996) 'Effects of Learning Skills Interventions on Student Learning: A Meta-Analysis', Review of Educational Research 66(2):99-136 — journals.sagepub.com
- Koriat A., Bjork R.A. (2005) 'Illusions of competence in monitoring one's knowledge during study', Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 31(2):187-194 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Roediger H.L., Karpicke J.D. (2006) 'Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention', Psychological Science 17(3):249-255 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Dunlosky J., Rawson K.A., Marsh E.J., Nathan M.J., Willingham D.T. (2013) 'Improving Students' Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology', Psychological Science in the Public Interest 14(1):4-58 — journals.sagepub.com
- Flavell J.H. (1979) 'Metacognition and Cognitive Monitoring: A New Area of Cognitive-Developmental Inquiry', American Psychologist 34(10):906-911 — psycnet.apa.org