協働で伸びる、という数字を数えてきたのは、その枠組みを作った人たちだった
グループで学ぶと伸びる、という数字がある。11の年代にわたって1,200件を超える研究が重ねられてきた、と書かれている。その研究群を数え、要約し、成功物語として発表してきたのは、この枠組みを提唱した当人たちである。
人に説明しようとして、言葉に詰まる。詰まった場所は、たいてい自分が分かっていないと思っていなかった場所である。この単位が扱うのは、その一点——説明する側に何が起きるかである。集団の賢さやチームの学習は学習と成長の棚と組織の基盤の棚の持ち場なので、ここでは踏み込まない。勉強会の運営の話にもしない。
説明する側に、何が起きているか
米国で2014年に Memory & Cognition へ出た実験は、意地の悪い設計をしている。同じ文章を読ませ、片方の群には「あとでテストがある」、もう片方には「あとで他の人に教えてもらう」と伝えた。実際には誰も教えていない。全員がテストを受けただけである。
実験1は大学生56人。自由に思い出す課題で、教えるつもりで読んだ群は考えの単位の17%を再生し、テストのつもりで読んだ群は13%だった。思い出し方のまとまりを示す指標も、.81 と .67 で差がついている。実験2は44人。こちらでは、要点にあたる設問で .56 と .44 という差が出たが統計的には境界線上で、細部の設問では .30 と .31 で差が無かった。
期待だけで読み方が変わる、というのは確かめられている。ただし、効いたのは要点のほうだけで、規模は大学生56人と44人である。
2024年に Educational Psychology Review へ出たメタ分析は、この領域の39件を統合した。準備して学んだあとに実際に教えることの効果は g = 0.27(95%信頼区間 0.15〜0.39)。そして調整変数の結果が本題である。教える予定があると伝えられていた場合は g = 0.48、伝えられていなかった場合は g = −0.02 だった。
言い換えると、効いているのは教える行為そのものというより、教えることになっているという前提のほうである。誰にも会わなくても、その前提だけは自分で用意できる。
ただし、たいていは伝えるだけになる
2007年に Review of Educational Research へ出た総説は、説明する側の学びを分解している。この総説の書き出しがすでに率直である——教える側が学ぶことは多くの場面で観察されてきたが、その伸びの大きさはしばしば期待外れである。
分解の軸は2つ。知っていることを並べて言い渡す説明と、自分の理解を点検しながら、既知と新しい情報を結び直して組み立てる説明。伸びるのは後者だと総説は支持する。そして同時に、説明する側には、言い渡すほうへ偏る傾向が広く見られると報告している。訓練を受けていてさえ、知識を作るより届けるほうに寄る。 その結果、説明する側の学びの潜在的な可能性は、めったに実現されない。
値切り:d=0.59 と書かれている一文
学習の設計資料には、こういう一文が載る。「協調学習が個人学習より概念理解・保持・転移を促進。メタ分析効果量 d=0.59」。
代表文献として挙がるのは、2009年に Educational Researcher へ出た論文である。冒頭はこう始まる——協同学習の広範な普及は、社会心理学と教育心理学の大きな成功物語のひとつである。 そして、過去11の年代にわたって1,200件を超える研究が行われてきたと述べている。この論文の著者は、この枠組みを提唱し、半世紀にわたって研究してきた当人たちである。
数値のほうは、同じ著者たちが2014年に大学教育の実践誌へ寄せた総括に載っている。18歳以上を対象にした168件を超える研究を自分たちで集計し、達成度についての平均効果量は、競争的な学び方に対して0.54、個別に学ぶやり方に対して0.51。論文中に、集める研究の数からいってメタ分析が最も適切な手続きだと考えた、という趣旨の記述がある。集計の設計をした側と、枠組みを提唱した側が同じである。 なお、この0.54と0.51は集計表の値で、同じ論文の本文には競争的な学び方に対して0.49、個別に学ぶやり方に対して0.53という別の値が書かれている——どちらを採っても話は変わらないが、集計した当人の論文の中で数字が二通りあること自体は書いておく。
では 0.59 はどこから来たのか。たどり着けなかった。 探したのは、2009年の論文の要旨と、同じ著者たちによる2014年の総括の集計表、そして外部から集め直したメタ分析の報告である。0.54 と 0.51 には行き当たったが、0.59 という値には行き当たらなかった。無いとは書かない。見つからなかった、と書く。
外から数え直すと
枠組みの外から集め直した分析もある。2013年に Educational Research Review へ出たメタ分析は、1995年以降に実際の教室で行われた研究に絞り、条件を満たした65件を集めた。対象は初等教育から高等教育まで。
結果は、達成度と態度に対する正の効果である。ただし、この分析が同時に報告したのは効果量が動く条件のほうだった。教科の領域、学習者の年齢の段階、そして研究が行われた文化圏——この3つが、効果量のばらつきと有意に結びついていた。
つまり、外から数え直したときに出てくるのは、ひとつの数字ではない。条件つきの幅である。0.59 のような一つの値が流通しているとき、落ちているのはたいていこの幅のほうだ。
人数が増えると、一人分は落ちる
1979年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た実験は、できるだけ大きな音を出す課題を使った。一人のときを100とすると、2人では一人あたり71%、4人では51%、6人では40%まで落ちる。第2の実験では、実際には一人なのに他の人も一緒に出していると思わせた。それだけで、一人だと思ったときの82%、5人いると思ったときの74%に下がった。
読みどころは人数ではない。下がったことに、本人が気づいていないという点である。声は自分の耳にも届いているのに、出力が落ちたことは分からない。自分の出力の見え方と、外から測った出力は、別々に動く。
時間・変化:数字が一つに丸まっていく順番
順番は決まっている。まず条件つきの結果がある——この教科で、この年齢で、この文化圏で、これだけ。次に、それが平均に丸められる。次に、平均が一つの効果量として引かれる。最後に、その効果量が誰の集計だったかが落ちる。残るのは、d = いくつ、という一文である。
逆向きには動かない。条件が戻ってくることは、まず起きない。 だから効果量を見たときに確かめるのは、大きさではなく、誰が集計したかと、何で動く値なのかである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、説明する場を、うまく説明できたかどうかの検定として扱うことである。説明の出来は、この単位で扱ってきた効果とは関係がない。効いていたのは、教えることになっているという前提と、言い渡すのではなく組み立てる形のほうだった。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠の大半は、学校に通っている児童・生徒と、欧米の大学生から採られている。働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少ない。 実験室の課題と、実際の試験や仕事の課題は別物であり、効果は短い期間で測られたものが多い。そして——もともと学ぶ余裕のある人ほど、その学習法を試せる、という逆向きを排除できない。 説明する相手がいるかどうか自体が、その人の資源である。
助けるのは、詰まった場所を記録するという一手である。説明の途中で言葉が止まった箇所は、自分の理解の穴が外に出てきた数少ない瞬間である。
最初の一歩は5分。直近1か月で人に何かを説明した場面を1件思い出し、詰まった箇所を1つ書き出して、書いたものを一度だけ読み返す。
二つめの空白に戻る
この棚は16回、同じことをした。ある道具について、それが学びの何を指しているのかを書き、どこまで効くと確かめられているのかを探し、その範囲の外で何が起きるかを書いた。
16回とも、最後は同じ場所に着いた。学んでいる本人には、覚えた量も、伸びた幅も見えない。 見えるのは、読み返すたびに文章が滑らかになっていく感触だけで、滑らかさは理解ではない。だから毎回、見えないものの位置に数字が置かれていた。0.27、11パーセンタイル、r = .19、d = 0.59。置かれた数字は、正しいから残ったのではない。確かめる側が、自分の学びを直接は測れないから残った。
この単位の最後の実験が、その見本になっている。声の大きさは物理的に測れるのに、出している本人には落ちたことが分からなかった。測れるものですらそうなのだから、覚えた量については言うまでもない。
そして、この棚のフレームは足し算ではなく掛け算だった。信じているかどうか、注意を向けられるか、一度に何を載せられるか、言葉があるか、並べ直せるか、続くか、気持ちが動いても手が止まらないか、段取りが当たるか、そして人に渡せるか。どれかがゼロなら、他がいくら大きくても積はゼロになる。 逆に言えば、ここには順序が無い。上から順に消化して終わりになる並びではないし、どの引き出しから開けてもよい。足りていないものが1つあるとき、他を伸ばしても積は動かない——それだけが、掛け算という形から出てくる実務的な結論である。
だからこの棚が最後に置くのは、勉強法の正解ではない。自分の理解の穴が、外に出てくる瞬間を1つ持っておくという一手である。人に説明して詰まった箇所でもいいし、見ないで書き出して空いた行でもいい。見えないものは、これからも見えないままだ。だが、詰まった場所だけは見える。
- 米国・2014年に Memory & Cognition へ出た実験(大学生56人と44人)は、あとで人に教えると伝えられた群が、テストがあると伝えられた群より多く思い出したと報告した。実験1では考えの単位の再生が17%と13%、まとまりの指標が.81と.67。ただし実験2では要点の設問で.56と.44と境界線上の差にとどまり、細部の設問では.30と.31で差が無かった
- 2024年に Educational Psychology Review へ出たメタ分析(39件)は、準備して学んだあとに教えることの効果を g = 0.27(95%信頼区間 0.15〜0.39)と報告した。教える予定があると伝えられていた場合は g = 0.48、伝えられていなかった場合は g = −0.02 で、効いていたのは教える行為そのものより、教えることになっているという前提のほうだった
- 2007年に Review of Educational Research へ出た総説は、教える側が学ぶことは多くの場面で観察されてきたが伸びの大きさはしばしば期待外れであるとし、説明する側には知識を組み立てるより言い渡すほうへ偏る傾向が広く見られ、訓練を受けていてさえその偏りが残ると報告している
- 「協調学習が個人学習より概念理解・保持・転移を促進。メタ分析効果量 d=0.59」の代表文献である2009年 Educational Researcher の論文は、協同学習の普及を社会心理学と教育心理学の大きな成功物語のひとつと呼び、過去11の年代にわたって1,200件を超える研究が行われたと述べている。著者はこの枠組みを提唱した当人たちである
- 同じ著者たちが2014年に大学教育の実践誌へ寄せた総括では、18歳以上を対象にした168件を超える研究を自分たちで集計し、達成度の平均効果量を競争的な学び方に対して0.54、個別に学ぶやり方に対して0.51と報告している。集計の設計をした側と、枠組みを提唱した側が同じである
- 2013年に Educational Research Review へ出たメタ分析は、1995年以降に実際の教室で行われた研究65件(初等から高等教育まで)を枠組みの外から集め直し、達成度と態度への正の効果を報告した。同時に、教科の領域・学習者の年齢の段階・研究が行われた文化圏の3つが効果量のばらつきと有意に結びついていたとしており、出てくるのは一つの数字ではなく条件つきの幅である
- 1979年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た実験では、できるだけ大きな音を出す課題で、一人のときを100とすると2人で71%、4人で51%、6人で40%に落ちた。実際には一人なのに他の人がいると思わせた条件でも、一人だと思ったときの82%、5人いると思ったときの74%に下がっており、本人はその低下に気づいていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 協同学習の効果は d = 0.59 と確かめられている | この値の出どころにはたどり着けなかった。探したのは、代表文献である2009年 Educational Researcher の論文の要旨、同じ著者たちが2014年に大学教育の実践誌へ寄せた集計表、そして枠組みの外から集め直した2013年のメタ分析である。行き当たったのは、18歳以上の168件を超える研究について著者ら自身が集計した0.54と0.51であり、その集計の設計をしたのは枠組みを提唱した当人たちだった。無いとは書かない。見つからなかった、と書く |
| 人に教えれば、教えた側が最もよく学べる | 2024年のメタ分析(39件)では、準備して学んだあとに教えることの効果は g = 0.27 で、教える予定があると伝えられていた場合が0.48、伝えられていなかった場合は −0.02 だった。さらに2007年の総説は、説明する側の伸びがしばしば期待外れであり、訓練を受けていてさえ、知識を組み立てるより言い渡すほうへ偏ると報告している。効いていたのは、教える行為そのものではなく、その前提と説明の形のほうである |
| 人数が増えれば、集団としての力はその分だけ増える | 1979年の実験では、できるだけ大きな音を出す課題で、一人のときを100とすると2人で71%、4人で51%、6人で40%まで一人あたりの出力が落ちた。実際には一人なのに他の人がいると思わせただけでも同じ向きの低下が起きている。重要なのは、その低下に本人が気づいていないことである。自分の出力の見え方と、外から測った出力は、別々に動く |
協同学習には、成功物語として理想的な性質がある。誰も反対しない。教室でそのまま実施できる。そして効果量を集計する仕事は、その枠組みを最もよく知っている人たち——つまり提唱した当人たち——に任されてきた。皮肉なのは、この棚で最後まで確かめられなかった数字が、いちばん温かい響きの単位から出てきたことである。一緒に学ぶと伸びる。たぶん、そうなのだろう。ただ、いくつ伸びるかを言うときの d は、誰かの家で数えられた値である。
Q1. 2024年に Educational Psychology Review へ出たメタ分析(39件)では、準備して学んだあとに教えることの効果は全体で g = ____ だったが、教える予定があると伝えられていた場合は ____、伝えられていなかった場合は ____ だった。穴埋め
Q2. 本文が「d = 0.59」の出どころについて述べていることとして正しいものはどれか。選択
Q3. 2013年に Educational Research Review へ出たメタ分析(実際の教室での65件)が、効果量のばらつきと有意に結びついていたと報告した3つの条件はどれか。選択
Q4. 1979年の実験について、本文が読みどころとしている点はどれか。選択
Q5. 本文がたどった「数字が一つに丸まっていく順番」を、古い順に並べよ。(平均が一つの効果量として引かれる/その効果量が誰の集計だったかが落ちる/条件つきの結果がある/平均に丸められる)並べ替え
紙かメモアプリを開く。直近1か月で、誰かに何かを説明した場面を1件だけ思い出す。仕事の手順でも、読んだ本の内容でも、道案内でもよい。まず、何を説明したかを1行書く。次に、説明していて自分が詰まった箇所を1つだけ書き出す。言葉が出てこなかったところ、順番が分からなくなったところ、聞き返されて答えられなかったところのどれかである。最後に、書いたものを一度だけ読み返し、その箇所が「知らなかったこと」なのか「知っていたが並べられなかったこと」なのかに印を付ける。相手には何も求めない。誰かに新しく説明しに行く必要もない。思い出せる場面が無ければ、直近で自分に説明しようとして詰まった箇所を1つ書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Nestojko J.F., Bui D.C., Kornell N., Bjork E.L. (2014) 'Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages', Memory & Cognition 42(7):1038-1048 — link.springer.com
- Kobayashi K. (2024) 'Interactive Learning Effects of Preparing to Teach and Teaching: A Meta-Analytic Approach', Educational Psychology Review 36(1):26 — link.springer.com
- Roscoe R.D., Chi M.T.H. (2007) 'Understanding Tutor Learning: Knowledge-Building and Knowledge-Telling in Peer Tutors’ Explanations and Questions', Review of Educational Research 77(4):534-574 — eric.ed.gov
- Johnson D.W., Johnson R.T. (2009) 'An Educational Psychology Success Story: Social Interdependence Theory and Cooperative Learning', Educational Researcher 38(5):365-379 — eric.ed.gov
- Johnson D.W., Johnson R.T., Smith K.A. (2014) 'Cooperative Learning: Improving University Instruction By Basing Practice On Validated Theory', Journal on Excellence in College Teaching 25(3&4):85-118 — static.pseupdate.mior.ca.s3.amazonaws.com
- Kyndt E., Raes E., Lismont B., Timmers F., Cascallar E., Dochy F. (2013) 'A meta-analysis of the effects of face-to-face cooperative learning. Do recent studies falsify or verify earlier findings?', Educational Research Review 10:133-149 — daneshyari.com
- Latané B., Williams K., Harkins S. (1979) 'Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing', Journal of Personality and Social Psychology 37(6):822-832 — www.academia.edu