「自分に合った学び方」を確かめられる設計の研究は、1,215件のうち10件だった
自分に合った学び方がある、という前提は、たいてい疑われないまま使われる。疑うのが面倒だからではない。それを確かめる実験の形が、思ったより厳しいからである。厳しさの中身は、たった一語——交差。
自分を管理する、とは何をすることか
自己調整という言葉は、たいてい意志の強さの話に読み替えられる。そうではない。 ここで言う自己調整は、やり方を選び、途中で確かめ、選び直すという手続きのことである。目標を立てる。方法を決める。やってみる。うまくいっているかを見る。合っていなければ方法を替える。替えるところまでが一続きで、そこが抜けると、ただの「がんばった」になる。
我慢する力そのものと、それが後の人生を予測するかどうかは、開運の棚が扱っている。 ここでは、今日どのやり方を選ぶかだけに絞る。
この手続きを整理した枠組みは複数ある。2017年に *Frontiers in Psychology* へ出たレビューは、六つの主要なモデルを並べて比較し、どれも「見通しを立てる/実行しながら監視する/終わってから振り返る」という循環を共有していること、効果が学年や教育段階によって違うことを、既存のメタ分析から指摘している。
問題は、この循環の「方法を決める」のところにある。そこでいちばん広く使われている基準が、視覚型・聴覚型・体感型といった分類だからである。
値切り:「自分に合った学び方がある」
自分は目で見たほうが覚えられる。自分は耳で聞いたほうが入る。自分は手を動かさないと駄目だ——こういう自己診断は、疑われないまま使われる。疑うのが面倒だからではない。それを確かめる実験の形が、思ったより厳しいからである。
米国で2008年に *Psychological Science in the Public Interest* へ出た大規模なレビューが、その形を定義した。必要な条件は四つある。①学習者を、診断された型ごとに群に分ける。②各群の中から無作為に割り付けて、複数の提示形式のどれかを受けさせる。③全員に同じ試験を受けさせる。④そのうえで、特定の交差が現れること——ある型の学習者にとって最良だった提示形式が、別の型の学習者にとっては最良でない、という交差である。
「視覚型は図を見せると成績が上がった」だけでは足りない。 図は誰にでも効くかもしれないからだ。型と形式が入れ替わる交差が出てはじめて、型に合わせる意味が生まれる。
このレビューは、「学習スタイルの文献は膨大だが、教育への応用を検証できる実験設計を用いた研究はごくわずかしかない」と書いた。そして「その条件を満たす可能性があると言えるものは1件だけ見つかった」とも書いている。適切な方法を使った研究のうち複数は、この仮説とはっきり反対の結果を出していた。結論は——「現時点で、学習スタイル評価を一般的な教育実践に組み込むことを正当化する十分な証拠はない」。
先に探した人が、いる
「見つからなかった」という報告は、その後も出ている。2018年に *Frontiers in Psychology* へ出たミニレビューは、六つのデータベースを横断して1,215件を走査し、上の四条件を満たす方法を用いた研究として10件を特定した。その10件を集計した結果は、視覚型への一致で g = −0.09(95%信頼区間 −0.74〜0.58)、聴覚型への一致で g = −0.27(−0.87〜0.32)。 どちらも小さく、統計的に有意ではなく、しかも符号は理論の予測と逆向きだった。
同じレビューは、条件に完全に沿っていたのは1件だけだと書いている。米国で2015年に *Journal of Educational Psychology* へ出た研究で、成人の学習スタイルを測ってから、無作為に音声の本か画面上の文章へ割り付け、全員に同じ理解度の試験を受けさせたものである。型と提示形式のあいだに、統計的に有意な関係は出なかった。 取り出された効果量は、視覚型への一致で g = −0.11、聴覚型への一致で g = −0.256 だった。
助言どおりに勉強したかを追った研究もある。2019年に *Anatomical Sciences Education* へ出た調査は、解剖学を履修した426人を対象に、診断結果と実際の勉強のしかたを突き合わせた。多くの学生は、自分の診断に合った勉強のしかたをしていなかった。 そして、合わせていたかどうかは成績と相関しなかった。 一方で、診断とは無関係に、特定の勉強のしかた——たとえば画面上の顕微鏡を使う——は成績と正の相関を示した。
三段目——別の集め方をすると、数字は出る
ここで正直に書いておく必要がある。「まったく何も出ない」わけではない。
2024年に *Frontiers in Psychology* へ出たメタ分析は、集め方を広げた。21件・101の効果量・1,712人を集計し、提示形式を型に合わせた条件のほうが、合わせない条件より成績がよかった(g = 0.31、標準誤差 0.12、95%信頼区間 0.05〜0.57)。 数字としては有意である。
ところが同じ論文は、続けてこう書いている。交差の形が確認できたのは、結果指標のうち26%だけだった。 統計量が足りず本体の集計に入れられなかった12件を別に点検しても、交差らしい所見が出たのは25%である。著者たちの結論は、実施にかかる時間と費用に対して、効果は小さすぎ、出てくる頻度が低すぎる、というものだった。
「合わせると少し良い」は出る。「型ごとに最適な形式が入れ替わる」は、ほとんど出ない。 前者だけなら、型の診断は要らない。全員に同じ形式を配ればよいことになるからである。
信じている人の割合は、証拠ではない
証拠がこの状態でも、この説は広く信じられている。2020年に *Frontiers in Education* へ出た系統的レビューは、18か国・15,405人の教育者を対象にした37件の調査を集計した。提示形式を学習スタイルに合わせるべきだと答えた割合は、加重して 89.1%。国や職種によって 58% から 97.6% まで幅がある。
同じレビューは、もうひとつ書いている。この説の根拠を説明する介入を行うと、信じていると答える割合は平均で約37%下がった。 つまり、信じられている理由の相当部分は、根拠を見ていないことである。
信じている人の割合は、証拠の量ではない。 89.1% という数字は、この説が正しいことの証拠ではなく、「自分に合ったやり方がある」という感覚が、どれだけ自然に湧くかの証拠である。
時間・変化:診断が先に来て、検証があとから来た
時間の軸で並べると、順番がはっきりする。分類のほうが先で、検証はあとから来た。
1970年代から1990年代にかけて、学習者を型に分ける質問票が次々に作られ、研修に入った。2008年、検証に必要な実験設計が定義され、条件を満たす研究がほとんど無いと報告される。2015年、条件を完全に満たした検証で交差は出ない。2018年、1,215件を走査して10件が特定され、集計値は 0 の近くで符号が逆になる。2019年、426人で「助言どおりに勉強したかどうか」が成績と無関係だと示される。2020年、教育者の 89.1% が信じていることが集計される。2024年、集め方を広げると g = 0.31 が出るが、交差は結果指標の26%にとどまる。
分類が先に配られると、検証はいつも後追いになる。 そして後追いの結果は、たいてい配られない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、やり方を選んだ理由を思い出せないことである。多くの場合、選んだのは「効果を確かめたから」ではなく「やりやすかったから」だ。やりやすさは、理解の手応えとよく似ていて、しかも理解ではない。
ここでこの棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、ほぼすべて欧米の大学生と、学校に通う児童・生徒を対象に採られている。 働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少ない。実験室の課題と実際の試験は別物で、効果は短い期間で測られたものが多い。そして続けられた人のデータだけが残る。とりわけ——もともと学ぶ余裕のある人ほど、その学習法を試せる、という逆向きを排除できない。 日本の社会人を対象にした追試は見あたらなかった。
助けるのは、型ではなく手続きのほうを固定することである。六つのモデルが共通して持っているのは、見通し・監視・振り返りの循環であって、型の診断ではない。「どの形式で学ぶか」より「途中で確かめて替えたか」のほうが、記録に残せる。
最初の一歩は3分。今日の勉強や作業で使ったやり方を1つ挙げ、それを選んだ理由が「効果を確かめたから」か「やりやすかったから」かに印を付ける。どちらでもないと感じたなら、それは理由がまだ言葉になっていないという意味である。
次の単位は 052「注意制御」——やり方を選び直せても、選んだやり方に向かうあいだに注意が持っていかれる。 道具箱の隣の引き出しである。そして、注意がどれだけ削られるかを測った有名な実験は、測り直すたびに小さくなっている。
- 自己調整は意志の強さではなく、やり方を選び、途中で確かめ、選び直す手続きである。Panadero 2017(Frontiers in Psychology 8:422)は六つの主要なモデルを比較し、どれも見通し・監視・振り返りの循環を共有していること、効果が学年や教育段階によって違うことを既存のメタ分析から指摘した
- Pashler ら 2008(Psychological Science in the Public Interest 9(3))は、学習スタイル説の検証に必要な設計を定義した——型ごとに群を分け、無作為に提示形式へ割り付け、全員に同じ試験を受けさせ、そのうえで型と形式が入れ替わる交差が現れること。図が誰にでも効くだけでは足りない
- 同じ2008年のレビューは、学習スタイルの文献は膨大だが検証可能な実験設計を用いた研究はごくわずかで、条件を満たす可能性があると言えるものは1件だけだったと報告した。適切な方法を用いた研究のうち複数は、仮説とはっきり反対の結果を出していた。結論は、学習スタイル評価を一般的な教育実践に組み込む十分な証拠はない、である
- Aslaksen & Lorås 2018(Frontiers in Psychology 9:1538)は六つのデータベースで1,215件を走査し、四条件を満たす方法を用いた10件を特定した。集計値は視覚型への一致で g = −0.09(95%信頼区間 −0.74〜0.58)、聴覚型への一致で g = −0.27(−0.87〜0.32)。小さく、有意でなく、符号は理論の予測と逆向きだった
- 四条件に完全に沿っていた研究は Rogowsky ら 2015(Journal of Educational Psychology 107(1))の1件で、成人を音声の本か画面上の文章に無作為に割り付けたが、型と提示形式のあいだに有意な関係は出なかった。Husmann & O'Loughlin 2019(Anatomical Sciences Education 12(1))は解剖学の履修者426人を調べ、多くが診断に合った勉強をしておらず、合わせていたかどうかは成績と相関しなかったと報告した
- Clinton-Lisell & Litzinger 2024(Frontiers in Psychology 15:1428732)は集め方を広げ、21件・101効果量・1,712人で、合わせた条件のほうが成績がよい(g = 0.31、標準誤差 0.12、95%信頼区間 0.05〜0.57)とした。ただし交差の形が確認できたのは結果指標の26%だけで、統計量が足りず本体に入れられなかった12件でも25%だった。合わせると少し良い、は出る。型ごとに最適な形式が入れ替わる、はほとんど出ない
- Newton & Salvi 2020(Frontiers in Education 5:602451)は18か国・15,405人の教育者を対象にした37件の調査を集計し、提示形式を学習スタイルに合わせるべきだと答えた割合が加重して89.1%(範囲 58〜97.6%)だったこと、根拠を説明する介入を行うと信じている割合が平均で約37%下がったことを報告した。信じている人の割合は、証拠の量ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 人にはそれぞれ合った学び方があり、自分の型に合った形式で学ぶと成績が上がる | この主張を確かめるには、型ごとに群を分け、無作為に提示形式へ割り付け、全員に同じ試験を受けさせ、型と形式が入れ替わる交差を示す必要がある。六つのデータベースで1,215件を走査して、その方法を用いた研究は10件、条件に完全に沿っていたのは1件だった。10件の集計値は視覚型への一致で g = −0.09、聴覚型への一致で g = −0.27 で、どちらも有意でなく符号は逆向きである。解剖学の履修者426人を調べた研究でも、診断に合わせて勉強したかどうかは成績と相関しなかった |
| 学習スタイルを否定する研究ばかりで、合わせることに効果はいっさい無い | 2024年に集め方を広げたメタ分析(21件・101効果量・1,712人)では、合わせた条件のほうが成績がよく g = 0.31(95%信頼区間 0.05〜0.57)だった。ただし、型ごとに最適な形式が入れ替わるという交差の形が確認できたのは結果指標の26%にとどまる。交差が出ないなら、それは特定の形式が誰にでも効いているという意味であり、型の診断は要らない。全員に同じ形式を配ればよいことになる |
| これだけ多くの教育者が使っているのだから、何かしら根拠があるはずだ | 18か国・15,405人を対象にした37件の調査を集計すると、合わせるべきだと答えた割合は加重して89.1%(範囲 58〜97.6%)である。ただし同じ集計は、根拠を説明する介入を行うと、その割合が平均で約37%下がったとも報告している。信じられている理由の相当部分は、根拠を見ていないことのほうにある。信じている人の割合は、証拠の量ではない |
この説が便利なのは、**外れたときに誰も困らない**からである。合わなかったのは、型の見立てが違ったから。合ったのは、型に合わせたから。どちらに転んでも説明がつく仕掛けは、教材としてはよくできているが、確かめる対象としては最悪だ。しかも、この診断を配ると、選び直しの手続きのほうが省ける。**型が決まっていれば、途中で確かめる理由が無くなるからである。** 皮肉なことに、自己調整という道具の中でいちばん壊れやすい部品——**替える**——を、いちばん静かに外していったのが、自分に合ったやり方という言葉だった。
Q1. 米国・2008年のレビューは、学習スタイル説の検証に必要な設計として、型ごとに群を分け、____ に提示形式へ割り付け、全員に ____ 試験を受けさせ、そのうえで型と形式が入れ替わる ____ が現れることを挙げた。当時、その条件を満たす可能性があると言えたのは ____ 件だけだった。穴埋め
Q2. 2018年のミニレビューは六つのデータベースで ____ 件を走査し、必要な方法を用いた研究 ____ 件を特定した。集計値は視覚型への一致で g = ____ 、聴覚型への一致で g = −0.27 で、どちらも有意でなく、符号は理論の予測と ____ 向きだった。穴埋め
Q3. 2024年のメタ分析は g = 0.31 という有意な値を出した。それでもこの説の根拠にならないのはなぜか。数字を使って答えよ。一問一答
Q4. 「信じている人の割合は証拠ではない」とは、この単位ではどういうことか。2020年の集計の数字を使って答えよ。一問一答
Q5. 解剖学の履修者426人を対象にした2019年の調査の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
今日の勉強や作業で実際に使ったやり方を1つだけ書き出す。マーカーを引いた、音読した、動画で見た、書き写した、問題を先に解いた——粒はどれでもよい。次に、それを選んだ理由が「効果を確かめたから」なのか「やりやすかったから」なのかに印を付ける。どちらでもないと感じたら「理由がまだ言葉になっていない」に印を付けてよい。判定は自分にしか分からないので、正直に付けても誰も困らない。いま学校に通っていない人は、仕事の資料を読むときのやり方に置き換えて構わない。やり方を今すぐ変える必要はない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Pashler H., McDaniel M., Rohrer D., Bjork R. (2008) 'Learning Styles: Concepts and Evidence', Psychological Science in the Public Interest 9(3):105-119 — bjorklab.psych.ucla.edu
- Aslaksen K., Lorås H. (2018) 'The Modality-Specific Learning Style Hypothesis: A Mini-Review', Frontiers in Psychology 9:1538 — www.frontiersin.org
- Rogowsky B.A., Calhoun B.M., Tallal P. (2015) 'Matching Learning Style to Instructional Method: Effects on Comprehension', Journal of Educational Psychology 107(1):64-78 — eric.ed.gov
- Husmann P.R., O'Loughlin V.D. (2019) 'Another Nail in the Coffin for Learning Styles? Disparities among Undergraduate Anatomy Students Study Strategies, Class Performance, and Reported VARK Learning Styles', Anatomical Sciences Education 12(1):6-19 — eric.ed.gov
- Clinton-Lisell V., Litzinger C. (2024) 'Is it really a neuromyth? A meta-analysis of the learning styles matching hypothesis', Frontiers in Psychology 15:1428732 — www.frontiersin.org
- Newton P.M., Salvi A. (2020) 'How Common Is Belief in the Learning Styles Neuromyth, and Does It Matter? A Pragmatic Systematic Review', Frontiers in Education 5:602451 — www.frontiersin.org
- Panadero E. (2017) 'A Review of Self-regulated Learning: Six Models and Four Directions for Research', Frontiers in Psychology 8:422 — www.frontiersin.org