学習と成長
成長マインドセット
「能力は伸びる」を信じているのは、人ではなく場所のほうだった
マインドセット介入53件を集めた2023年の分析で、成果の段に出た平均効果は d = 0.09。効果が観察されたのは、もともと成績が下位の層で、しかも周りの規範がそれを支えている場所だけだった。信念は、頭の中だけには置かれていない。
内発的学習動機
「自律・熟達・目的」の3つを検証した論文を、探しても見つからない
動機づけを3つに切り分ける枠組みは、査読誌に検証を探しても行き着かなかった。研究の側が使っている区分は5つで、そのうち自律寄りの3つは互いに .82〜.91 という相関で重なっている。人は、いくつもの理由を同時に持っている。
自己マスタリー
ギャップを縮めるという話で、いちばん怪しいのは理想ではなく現在地のほうだ
自己評価と実際の出来を並べた22のメタ分析をまとめると、平均の相関は .29。米国の医師を対象にした系統的レビューでは、20の比較のうち13が、ほとんど関係が無いか逆を向いていた。ギャップの片側は、いつもぼやけている。
学習エージェンシー
やると決めた人のうち、実際にやった人は半分をわずかに超えるだけだった
意図を持った人が実際に動いたかを集計した2023年のメタ分析では、意図した人のうち47.6%が実行に至らなかった。対象は身体活動であり、学習の話ではない。それでも、意図の量を増やす施策がどこで止まるかは、この形でしか見えない。
経験設計の質
70対20対10は、測って出た配分ではない——足して100になり、3つとも10の倍数である
2018年に Human Resource Development Review へ出た検討は、学習の7割以上が非公式に起きるという主張の証拠基盤が弱いと結論した。同じ2018年、オーストラリアの公共部門で管理職ら145人に聞いた研究は、この枠組みを実装しても学習の転移が起きていなかったと報告している。この単位が扱うのは、経験のどんな性質が学習と結びついていると確かめられているか、である。
フィードバック密度
平均は0.41。ただし、607個の効果量のうち38%超はマイナス側にあった
1996年に Psychological Bulletin へ出たメタ分析は、131本の論文から607個の効果量を集め、平均の効果量が d=0.41 だったと報告した。同じ論文は、そのうち38%を超えるものがマイナス側にあり、しかもこのばらつきは標本の揺らぎでは説明できないとも書いている。この単位が扱うのは、平均の下に何が隠れているか、である。
育成責任の分散
会社が割り当てた育成の関係では、効果がほとんど検出されない——自然に始まった関係では検出される
2006年に Journal of Vocational Behavior へ出たメタ分析は、会社が割り当てた公式の育成関係では効果が検出されず(平均効果量0.057、95%信頼区間 −0.163〜0.279)、自然に始まった関係では検出された(0.259、0.051〜0.468)と報告した。ただしその根拠は、それぞれ3件と2件の研究である。この単位が扱うのは、誰が誰を育てているか、だけである。
学習効果の可視化
満足度と、直後に覚えた量の相関は .02 だった——「役に立つと思ったか」を聞くと .26 になる
1989年、カークパトリックの4段階が暗黙に置いている3つの前提を検討した論文が出た。1997年、同じ雑誌に段どうしの相関を集計したメタ分析が出て、感情的な満足と直後の学習の相関は .02、役に立つと思ったかを聞いた場合は .26 だった。この単位が扱うのは、組織が学習を測るときの枠組みと、その段のあいだが検証されているか、だけである。
暗黙知の形式知化
書けたものは、たぶん最初から書けた——四つの変換を提示した論文は、効果を検証していない
知識創造の四つの動きを示した1994年の Organization Science 5巻1号の論文は、要旨自身が「パラダイムを提案する」「理論的枠組みが展開される」と書いた論文で、データも標本も統計も含まない。2006年に Journal of Management Studies へ出た批判的検討は、四つの型のうち三つについて、もっと単純に説明できない証拠には支えられていないと論じた。この単位が扱うのは、書けるようになったという報告を、何を根拠に受け取るか、である。
知識流通の活性度
同じ細いつながりが、片方の荷物では近道になり、もう片方では回り道になる
1999年に Administrative Science Quarterly 44巻1号へ出た研究は、年商50億米ドルを超える米国の電機・コンピュータ企業の41事業部で、1993年から1995年までの新製品開発120件を追った。弱い事業部間のつながりは、他の部署にある有用な知識を探す段階では助けになり、複雑な知識を実際に移す段階では妨げになる。同じ変数の符号が、運ぶ荷物の種類で入れ替わる——この単位が扱うのは、その一点だけである。
実践コミュニティ(CoP)
同じ名前の下で、別のものが測られている——だから「効果がある」と「効果がない」が同時に成り立つ
2005年に Journal of Information Science 31巻6号へ出た論文は、この語を作った側の四つの主要な著作を読み比べ、共同体・学習・権力・変化・多様性・非公式性の捉え方が著作ごとに大きく異なると整理した。2023年に PLOS ONE へ出た医療分野の系統的レビューは、2,009件から選んだ50件のうち、有意性を報告できる統計手法を備えていたのは11件、無作為化比較試験の設計を持つ研究は1件だけだったと報告している。
組織記憶の保全
同じ船を数え直したら、忘れる速さがほとんど消えた——「組織記憶」は比喩であって、目盛りではない
1991年に Academy of Management Review 16巻1号へ出た論考は、組織記憶を現在の意思決定に持ち出せる過去の情報と定義し、五つの保持先に分けて提案した。2010年に Organization Studies へ出た実証研究は、その論考が組織記憶についての量的な実証研究を1件も引用しておらず、状況はその後15年たってもさほど変わっていないと書いている。いっぽう減価のほうは測られてきたが、速さの推定値は研究のあいだで大きく食い違う。
チーム学習と集合知
同じ設計で測り直したら、集団の賢さの8割は個人の知能に吸い込まれた
2010年に Science へ出た米国の研究は、699人を2〜5人の集団に分け、集団の成績に共通の因子を見つけた。2017年に Intelligence へ出た3件の追試(312人)では、集団の成績の差のおよそ80%が構成員個人の知能で説明された。集合知が消えたのではない。同じ設計で測り直すと、残るものが変わったのである。
ダブルループ学習
トリプルループ学習の出どころをたどった論文は、たどり着いた先の索引に、その語が無いと書いた
Management Learning に出たこの論文は、トリプルループ学習という語の出どころをさかのぼり、多くの論文が典拠として挙げている書き手の刊行物には、その語が本文にも索引にも現れないと報告した。ループの数は、学習の深さの目盛りではない。この単位が扱うのは振り返りの制度ではなく、何を問い直したことになるのか、という定義の問題である。
外部知識の獲得・統合
「学ぶ力」を測ったことになっている数字は、研究開発費を売上で割ったものだった
1990年に Administrative Science Quarterly へ出た米国の研究は、318社・1,719の事業単位・151の事業分野の1975年から1977年のデータを使い、研究開発の支出の割合を軸にこの概念を提示した。2006年に Academy of Management Review へ出たレビューは、14誌の289本を詳しく調べ、この概念が実体のように扱われるようになったと論じている。この単位が扱うのは、社外の人脈づくりではなく、受け取る側の下地である。
メタ学習能力(学び方の学び)
5、10、20、30、50、75、90——測定から出た数字は、こんなにきれいには並ばない
2016年に Journal of Curriculum Studies へ出た研究は、この一連の数字が学術文献のなかでどう広まったかを追い、2018年に Cogent Education へ出た研究は、その版が160年以上前からあり、実証研究から生まれたものではないことを示した。学び方について組織が信じていることを、ここでは数字の並び方のほうから見ていく。