やると決めた人のうち、実際にやった人は半分をわずかに超えるだけだった
学びは自分で決めるものだ、という言い方には反対しにくい。反対しにくい主張は、たいてい検証されないまま前提になる。決められることと、決めたことが起きることは、まったく別の話である。
前の単位では、現在地の見え方が自己評価と客観指標のあいだで平均 .29 程度しか一致しないことを見た。だが現在地がぼやけていても、学ぶことを自分で決められる状態は作れる。ここではその上に、決めたことが実際に起きるかを積む。
この単位が扱わないこと
最初に範囲を狭めておく。勉強計画の立て方、復習の設計、自己調整学習の指導法は、まるごと学業の棚の持ち場である。 ここでは踏み込まない。
この単位が扱うのは一点だけだ。自分で決められる状態と、決めたことが実際に起きる状態は、別の問題である。 前者を増やす施策が、後者をどれだけ動かすのか。
値切り:自律性を高めれば学ぶようになる、という前提
学習者が自分で学びを方向づける、という考え方は、この10年で政策の言葉になった。国際機関が2019年に公表した枠組みでは、その能力を目標を定め、振り返り、変化を起こすために責任を持って行動する力と定義している。行動を受けるのではなく行動すること。形づくられるのではなく形づくること。
言葉としては明快である。ただし、この文書は概念の枠組みであって、効果を推定した報告ではない。 定義と、その定義どおりの状態を作ると何がどれだけ変わるかは、別の作業になる。この単位が扱うのは後者のほうだ。
そして後者を見に行くと、自律性の量ではなく、意図と行動のあいだの落差が最初に目に入る。
意図した人のうち、実際に動いた人
意図と行動の落差は、健康行動の分野でいちばん丁寧に数えられてきた。この棚は、その数え方を借りる。 対象は学習ではなく身体活動であることを、先に断っておく。
2023年に公表されたメタ分析は、行動する意図と実際の行動の組み合わせを4通りに分けて集計した研究を集め、22本の論文から25の独立した標本、参加者29,600人を得た。結果はこうである。
意図が無く行動もしなかった人が 26.0%。意図は無かったが行動していた人が 4.2%。意図はあったが行動に至らなかった人が 33.0%。 意図があり行動もした人が 38.7%。
意図を持った人だけを取り出して、そのうち実行できなかった人の割合を出すと、47.6%。論文は、意図を行動に翻訳できるかどうかは、ほとんど五分五分であると述べている。
ここから学習の話に移すときは、外挿していることを自分で断る必要がある。 運動と学習は、必要な時間も、周りからの見え方も、失敗したときに残るものも違う。それでも、意図の量を増やす施策が、どこで止まるのかを数えた形は、この分野以外にほとんど無い。同じ枠組みで数えた先行のメタ分析は、Rhodes と de Bruijn によって2013年にも出ている。ただし割合の内訳を原典の表で照合できなかったので、ここではその存在だけを記し、数値は引かない。
意図を動かすと、行動はその半分ほど動く
割合ではなく、動かした量で見た集計もある。2006年に Psychological Bulletin へ出た分析は、意図を実験的に変化させた47の検証を集め、意図と行動それぞれの変化の大きさを並べた。
意図の変化は d = 0.66。それが引き起こした行動の変化は d = 0.36。
中程度から大きめの意図の変化が、小さめから中程度の行動の変化になる。消えるわけではない。だが、半分ほどに細る。 そしてこの 0.36 のほうが、施策の側が本当に欲しかった数字である。
研修の文脈にも、同じ構造の数字がある。2010年に Journal of Management へ出た転移のメタ分析は、89件の実証研究を集め、学んだことが仕事で実際に使われるかどうかと、さまざまな要因の関係を調べた。動機づけと転移の相関は r = .23(24件、2,574人)。ただし——ここが本題だが——転移を本人の自己申告で測ると .33、他者の評価や客観的な指標で測ると .11 に落ちる。
同じ関係が、測り方を変えるだけで3倍近く違って見える。実行できたかどうかを本人に聞くと、意図の強さがそのまま答えに混ざる。 前の単位で見た自己評価の精度の話は、ここでも効いている。
原因と結果の向きが、逆になっている可能性
もうひとつ、この単位が引き受ける読み方がある。自信があるから動くのか、動けたから自信がつくのか。
2018年に公表された分析は、同じ人を時間をおいて2回以上測った研究を集め、両方向の効果を同時に推定した。11件の研究、2,688人。 結果は非対称だった。自信が後の出来に与えた効果は β = .071。出来が後の自信に与えた効果は β = .205。 出来から自信への向きのほうが、3倍近く大きい。
横断調査で自信と成果の相関を測ると、そこそこの値が出る。だがその値の大半は、後ろ向きの矢印が作っている可能性がある。 つまり「自信をつけさせれば動くようになる」という設計は、いちばん効きの薄い向きに賭けていることになる。
自信が無意味だという話ではない。 .071 はゼロではない。だが、.205 と並べたときの比率のほうが、施策を考えるうえでは重要である。
時間・変化:意図は、決めた瞬間がいちばん強い
意図には時間の形がある。決めた瞬間がいちばん強く、そこから減っていく。 そして減り方は一様ではない。
上の集計のうち、意図があって実行できなかった人たちは、意図が弱かったから止まったとは限らない。測定の時点で意図は十分に高かった——それが、この4分割の集計の要点である。止まったのは、意図の水準ではなく、意図と行動のあいだにある何かのほうだ。
ここに、この棚の観察の形が現れる。「やろうと決めたこと」の件数は、決めた直後なら数えられる。 一週間後に何件が着手されたかも数えられる。この2つの数字の差は、意欲の量ではなく、意図と実行のあいだの距離を示している。 差が大きいことは、決めた人の問題ではない。差が大きいという事実そのものが、次に何を変えるかの手がかりになる。
もうひとつ、この単位の観察が効きにくい場面を書いておく。決めたことが記録に残らない働き方では、差そのものが数えられない。 口頭で決まり、口頭で流れる仕事では、決めた件数の側が最初から存在しない。その場合に数えられるのは、着手した件数のほうだけである。片側しか無い数字からは、距離は出てこない。 差を見たいなら、決めた瞬間に一行だけ残すところから始めるほかない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、実行できたかどうかを自分の記憶で判定してしまうことである。転移の相関が .33 と .11 に割れたのと同じことが、自分の中でも起きる。着手したつもりでいたが、実際には開いてもいなかった、ということはふつうに起きる。
ここでこの棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、欧米の成人を対象にした健康行動の研究と、大学生を対象にした縦断研究、そして企業の研修を受けた人の調査から採られたものが大半である。30人規模の組織を対象にした研究はほとんど無い。 研修の効果を測った研究は、その研修を設計した側が測っていることが多い。学習の成果は自己申告で測られたものが大半で、客観指標まで追った研究はその一部にすぎない。そして、学ぼうとする人ほど学ぶ機会を得やすい、という逆向きを排除できない。 学びに使える時間や体力は、雇用の形や家庭の事情で大きく違う。着手できなかった件数は、意欲の低さの証拠にはならない。
助けるのは、決めた件数と着手した件数を、別々に数えることである。ひとつの数字にまとめると、差が見えなくなる。差が見えなくなると、次に変えるものが決められない。
最初の一歩は3分。今週やろうと決めていた学びを、思い出せるだけ書き出し、そのうち実際に着手した件数を数える。 着手が0件でも構わない。0件と書けることのほうが、記憶の中で「だいたいやった」に丸めるより正確である。
次の単位は 197「経験設計の質」——ここまでの4つは、学ぶ人の側に何が起きているかの話だった。だが決めたことが実行に移るかどうかは、本人の内側だけで決まらない。ここからは、その人の周りに何が置かれているかの話に移る。まず割り当てられる経験そのものから見る。
- 国際機関が2019年に公表した枠組みは、学習者が自ら方向づける力を「目標を定め、振り返り、変化を起こすために責任を持って行動する力」と定義しているが、この文書は概念の枠組みであって効果を推定した報告ではない。定義と、その状態を作ると何がどれだけ変わるかは、別の作業である
- Feil, Fritsch & Rhodes 2023(British Journal of Sports Medicine 57(19)、22本の論文から25標本・29,600人)は、意図が無く行動もしなかった人 26.0%、意図は無かったが行動した人 4.2%、意図はあったが行動に至らなかった人 33.0%、意図があり行動もした人 38.7% と集計した。意図を持った人のうち実行に至らなかった割合は47.6%である
- この数字の対象は身体活動であって学習ではない。学習に持ってくるときは外挿していることを自分から断る必要がある。それでも、意図の量を増やす施策がどこで止まるのかを4通りに分けて数えた集計は、この分野以外にほとんど無い
- Webb & Sheeran 2006(Psychological Bulletin 132(2)、意図を実験的に変化させた47の検証)は、意図の変化 d = 0.66 が、行動の変化 d = 0.36 を生んだと報告した。中程度から大きめの意図の変化が、小さめから中程度の行動の変化になる。消えはしないが、半分ほどに細る
- Blume ら 2010(Journal of Management 36(4)、89件の実証研究)は、動機づけと訓練内容の転移の相関を r = .23(24件、2,574人)と報告した。ただし転移を本人の自己申告で測ると .33、他者の評価や客観的な指標で測ると .11 に落ちる。同じ関係が、測り方を変えるだけで3倍近く違って見える
- Talsma ら 2018(Learning and Individual Differences 61、11件の研究・2,688人)は、同じ人を時間をおいて測った研究から両方向の効果を同時に推定し、自信が後の出来に与えた効果 β = .071、出来が後の自信に与えた効果 β = .205 と報告した。出来から自信への向きのほうが3倍近く大きい
- 意図があって実行できなかった人たちは、意図が弱かったとは限らない。測定の時点で意図は十分に高かった——それがこの4分割の集計の要点である。決めた件数と着手した件数を別々に数えると、その差は意欲の量ではなく、意図と実行のあいだの距離を示す
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 学習の自律性を高めれば、人は学ぶようになる | 自分で決められる状態と、決めたことが起きる状態は別の問題である。意図と行動の組み合わせを4通りに分けて集計した2023年のメタ分析(25標本・29,600人)では、意図を持った人のうち47.6%が実行に至らなかった。意図を実験的に動かした47の検証でも、意図の変化 d = 0.66 に対して行動の変化は d = 0.36 にとどまる。対象は健康行動であり、学習への外挿であることは断っておく |
| 自信をつければ、行動が変わる | 同じ人を時間をおいて測った11件・2,688人の分析では、自信が後の出来に与えた効果は β = .071、出来が後の自信に与えた効果は β = .205 で、後ろ向きの矢印のほうが3倍近く大きかった。横断調査で自信と成果の相関がそこそこ出るとき、その値の大半は後ろ向きの矢印が作っている可能性がある。自信が無意味だという話ではないが、比率のほうが施策には効く |
| 学んだことを実際に使えたかどうかは、自分がいちばんよく分かっている | 89件の研究を集めた転移のメタ分析では、動機づけと転移の相関が、転移を本人の自己申告で測ると .33、他者の評価や客観的な指標で測ると .11 だった。実行できたかどうかを本人に聞くと、意図の強さがそのまま答えに混ざる。決めた件数と着手した件数を別々に数えると、この混ざりを減らせる |
自分の学びは自分で決める、という言い方には、ひとつだけ都合のよいところがある。決めた時点で、すでに何かをやり遂げたような気分になれることだ。29,600人分の集計が示したのは、そこから先がほぼ五分五分だということだった。皮肉なのは、この分野でいちばん確かに数えられていたのが、学んだ量でも決めた量でもなく、決めたのに始まらなかったものの量だったことである。
Q1. 22本の論文から25標本・参加者 ____ 人を集計した2023年のメタ分析では、意図はあったが行動に至らなかった人が ____ %、意図があり行動もした人が ____ % だった。意図を持った人に占める未実行の割合は ____ % である。穴埋め
Q2. この単位が、健康行動の分野の数字を学習の話に持ってくるときに置いている断りは何か。またその断りをしてもなお、この数字を使う理由は何か。一問一答
Q3. 意図を実験的に変化させた47の検証を集計した2006年の分析の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q4. 89件の実証研究を集めた転移のメタ分析について、本文が強調している点はどれか。選択
Q5. この単位が扱った数字を、意図から実行へ向かう順に並べよ。(意図を持った人のうち実行に至らなかった割合/意図を実験的に動かしたときの意図の変化/その意図の変化が生んだ行動の変化/転移を客観的な指標で測ったときの動機づけとの相関)並べ替え
紙かメモアプリを開く。今週のはじめに「やろう」と決めていた学び——読もうと思った資料、見ようと思った動画、調べようと思った用語、通そうと思った教材——を、思い出せるだけ書き出す。予定表を見返してよく、思い出せる範囲で構わない。次に、そのうち実際に1分でも着手したものに印を付け、印の付いた件数を数えて数字で記録する。着手が0件でも構わない。0件と書けることのほうが、記憶の中で「だいたいやった」に丸めるより正確である。組織に所属していない場合は、資格や趣味や家の手続きに関する学びに置き換えて構わない。誰にも見せなくてよく、残った分を今から片づける必要もない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- OECD (2019) 'Student Agency for 2030', OECD Future of Education and Skills 2030 Conceptual Learning Framework(発行元の公開資料、2026年閲覧。公表は2019年) — www.oecd.org
- Feil K., Fritsch J., Rhodes R.E. (2023) 'The intention-behaviour gap in physical activity: a systematic review and meta-analysis of the action control framework', British Journal of Sports Medicine 57(19):1265-1271 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Webb T.L., Sheeran P. (2006) 'Does Changing Behavioral Intentions Engender Behavior Change? A Meta-Analysis of the Experimental Evidence', Psychological Bulletin 132(2):249-268 — research.manchester.ac.uk
- Blume B.D., Ford J.K., Baldwin T.T., Huang J.L. (2010) 'Transfer of Training: A Meta-Analytic Review', Journal of Management 36(4):1065-1105 — journals.sagepub.com
- Talsma K., Schüz B., Schwarzer R., Norris K. (2018) 'I believe, therefore I achieve (and vice versa): A meta-analytic cross-lagged panel analysis of self-efficacy and academic performance', Learning and Individual Differences 61:136-150 — www.sciencedirect.com
- Rhodes R.E., de Bruijn G.-J. (2013) 'How big is the physical activity intention-behaviour gap? A meta-analysis using the action control framework', British Journal of Health Psychology 18(2):296-309 — bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com