70対20対10は、測って出た配分ではない——足して100になり、3つとも10の倍数である
能力開発の話に、これほど覚えやすい数字はない——70と20と10。足して100になり、3つとも10の倍数である。測定から出てきた数字が、これほど行儀よく並ぶことは、あまりない。
経験のほうを見る
前の単位では、学ぶことを自分で決められる状態と、決めたことが実際に起きる状態が別物であることを見た。ここではその上に、実際に起きたほうの経験を置く。ここから棚の第2段、育成と学習の構造設計に入る。
持ち場を狭めておく。研修の作り方も、現場での教え方の手順も書かない。この単位が扱うのは、経験のどんな性質が学習と結びついていると確かめられているか、そしてその確かめ方がどこまで確かか、だけである。
足して100になる数字
能力開発の話には、必ずといっていいほど同じ比率が出てくる。70対20対10。仕事の経験が70、人からの薫陶が20、研修が10。
この棚のもとになった設計資料には、こう書かれている——「70%の経験・20%の薫陶・10%の研修が最も効果的な能力開発配分(複数企業の縦断研究)」。代表文献として挙がっているのは Lombardo & Eichinger 1996 『The Career Architect』である。
足して100になる。3つとも10の倍数である。測って出てきた数字が、これほど行儀よく並ぶことは、あまりない。
どこを探したか
代表文献の1996年のものは書籍であって、研究論文ではない。比率の元をたどると、1988年の別の書籍『The Lessons of Experience』に行き着く。2018年に Human Resource Development Quarterly へ出た研究は、この枠組みの出どころをこう記している——6つの大企業の、200人を超える成功した経営幹部を対象にした4つの調査であり、そこで挑戦的な仕事の経験が学びの70%、他者との関係が20%、公式な訓練が10%を占めた、と。
問題は、その調査が何を尋ねたかである。尋ねられたのは、あなたを形づくった出来事は何か——起きたことを後から思い出してもらう聞き取りであって、3つの経路に人を割り当てて結果を比べた試験ではない。
探した先を書いておく。査読誌のデータベースで、この比率そのものを検証したとする論文を探した。枠組みを引用している査読論文の参照先を1件ずつたどった。1988年の書籍の該当章と、この枠組みを広めた発行元の公開資料にも当たった。結果として、比率そのものを測った一次情報にはたどり着けなかった。存在しないと断定はしない。たどり着けなかった、とだけ書いておく。
先に探していた人がいた
ただし、そこで終わらなかった。2018年に Human Resource Development Review へ出た検討が、まさに同じことを調べていたからである。
著者は、学習の7割以上が非公式に起きるという主張を支えている5つの文献の系統を、それぞれ読み直した。結論は、この主張の証拠基盤は弱く、この7割の決まりごとは脇に置くべきだ、というものである。挙げられている問題は3つ——引用の扱いが雑であること、非公式の学習という言葉の定義が研究ごとに違うこと、そして研究手続きに根本的な問題があること。
つまりこの比率は、まだ検証されていない数字ではない。検証を試みた側から、証拠が足りないと名指しで報告されている数字である。それでも流通は止まっていない。
実装した先で何が起きたか
同じ2018年、オーストラリアの公共部門で、この枠組みが実際にどう実装されているかを調べた研究が出ている。連邦と3つの州・準州の政府機関で、上級管理職5人への聞き取り、中間管理職18人への個別の聞き取り、122人への13回の集団聞き取り——合わせて145人。
報告された結果は、学習の転移が起きていなかった、である。著者らは4つの取り違えを挙げている。構造のない経験を積めば自動的に能力が育つという思い込み。人から学ぶという部分を狭く解釈していたこと。研修のあとは支えなしでも行動が変わるはずだという期待。そして、3つの部分を切り離して別々に扱っていたこと。比率は、配分表として使われたときにいちばん効かない。
難度は、一つの目盛りではない
では、経験の何が効いているのか。
2009年に Journal of Applied Psychology へ出た研究が、60人の管理職の225の職務経験を対象に、経験の挑戦度と、そこで伸びた指導の技能の関係を調べている。結果は収穫逓減——挑戦度が上がるほど学習は増えるが、増え方はしだいに鈍る。そして著者らは、その鈍りが、フィードバックを得られる状況では打ち消されていたと報告している。効いているのは量ではなく、難度と、返ってくるものの有無である。
もう一つ。挑戦度という言葉が、一つのものを指しているとも限らない。2026年に発表された研究は、管理職の経験を5つの型に分ける枠組みを検証し、実際に管理職が自分の経験をまとめると2つにしか分かれなかったと報告している。しかも2つは向きが違った。仕事の複雑さは指導への自信と正の関係にあり、対人的な難しさは逆を向いていた。難しさを一本の目盛りで測ると、この符号の違いは平均のなかで消える。
比率を値切ったあとに残るもの
数字を値切っても、仕事のなかの学習そのものが消えるわけではない。
2018年に Journal of Business and Psychology へ出たメタ分析は、49の標本・のべ55,514人を統合し、仕事のなかで自分から学ぶ行動が、態度と .29、知識や技能の獲得と .41、成果と .42 の関連にあったと報告している。いずれも補正後の相関係数であって、効果量ではない。関連はある。ただし相関であって、どちらが先かは言えない。
面白いのは、この論文の書き出しである。過去20年の研究は、組織の学習の70%から90%が公式な研修ではなく非公式に起きるという合意へ向かってきた——そう始まる。値切られた側の数字が、値切る側の論文の1行目に据わっている。数字は、そういうふうに残る。
時間・変化:比率が固まるまで
1988年、回顧的な聞き取りが1冊の書籍になる。1996年、別の書籍で 70:20:10 という表記が広まる。2010年代、人材開発の実務で世界的に採用される。2018年、二つの査読論文がほぼ同時に、証拠を確かめにかかる。
この30年のあいだ、比率そのものは一度も測り直されていない。増えたのは引用の回数だけである。数字は動いていないのに、確からしさの見え方だけが上がっていく。比率が固まるというのは、そういう起き方をする。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、この比率を時間の配分表として読むことである。70は、あなたの1週間の時間割ではない。
もう一つは、型に当てはめてから経験を選ぶ順番である。経験学習の循環として引かれる Kolb 1984 も書籍であり、そこから作られた学習スタイルの診断票については、信頼性と妥当性に問題があると査読誌で繰り返し報告されてきた(Koob & Funk 2002、米国の検討)。診断が先、経験が後、という順番は根拠が薄い。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、欧米の大企業や公的機関の管理職を対象に採られたものが中心で、対象の国が要旨に書かれていない研究もある。30人規模の組織を対象にした研究はほとんど見当たらない。研修の効果は、その研修を設計した側が測っていることが多い。そして——学ぼうとする人ほど学ぶ機会を得やすい、という逆向きは、ここまでのどの研究でも排除できていない。挑戦的な仕事は、学ぼうとする人のところへ先に回ってくる。
助けるのは、比率ではなく難度のほうで見ることである。難度は自分で判定できる。配分は判定できない。
最初の一歩は3分。直近3か月にやった仕事を3件だけ挙げ、それぞれを、やったことがある/少し背伸び/まったく初めて、の3つのどれかに置く。それだけでよい。
次の単位は 198「フィードバック密度」——ここでは経験の難しさを見た。その上に、その経験のあとで返ってくるものを置く。返ってくるものは、平均すると助けになる。ただし平均の下では、逆を向いている例が同居している。
- 設計資料にある「70%の経験・20%の薫陶・10%の研修が最も効果的な能力開発配分(複数企業の縦断研究)」という一文は、出典が特定できる形で書かれていない。代表文献の Lombardo & Eichinger 1996 も、比率の元をたどった先の McCall, Lombardo & Morrison 1988 も、いずれも書籍であって研究論文ではない
- 査読誌のデータベース、枠組みを引く査読論文の参照先、1988年の書籍の該当章、枠組みを広めた発行元の公開資料まで探したが、70/20/10 という比率そのものを測った一次情報にはたどり着けなかった。存在しないと断定はできない。たどり着けなかった、とだけ言える
- Clardy 2018(Human Resource Development Review 17(2):153-178)は、学習の7割以上が非公式に起きるという主張を支える5つの文献の系統を読み直し、証拠基盤が弱いと結論した。挙げられた問題は、引用の扱いの雑さ、非公式の学習という語の定義の不統一、研究手続きの根本的な問題の3つで、著者はこの7割の決まりごとを脇に置くべきだと書いている
- Johnson, Blackman & Buick 2018(Human Resource Development Quarterly 29(4):383-402)は、オーストラリアの公共部門で管理職ら145人に聞き取りを行い、70:20:10 を実装しても学習の転移が起きていなかったと報告した。原因として、構造のない経験が自動的に能力になるという思い込みなど、4つの取り違えが挙げられている
- DeRue & Wellman 2009(Journal of Applied Psychology 94(4):859-875)は、60人の管理職の225の職務経験を分析し、経験の挑戦度と指導の技能の伸びの関係が収穫逓減の形になること、そしてその鈍りがフィードバックを得られる状況では打ち消されることを示した
- Caza & Jelinek 2026(Journal of Management Scientific Reports 4(2):139-160)は、管理職の経験を5つの型に分ける枠組みを検証し、実際には2つにしか分かれず、しかも仕事の複雑さは指導への自信と正、対人的な難しさは逆を向いたと報告した。難しさを一本の目盛りで測ると、この符号の違いは平均のなかで消える
- Cerasoli ら 2018(Journal of Business and Psychology 33(2):203-230)は49の標本・のべ55,514人を統合し、仕事のなかで自分から学ぶ行動が、態度と .29、知識や技能の獲得と .41、成果と .42 の補正後の相関係数を示したと報告した。相関であって効果量ではなく、どちらが先かも言えない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 70対20対10は、複数企業の縦断研究から出てきた最適な配分である | その縦断研究にあたるものが見つからない。代表文献として挙がる Lombardo & Eichinger 1996 は書籍で、比率の元をたどった先の McCall, Lombardo & Morrison 1988 も書籍である。1988年の調査で尋ねられたのは、あなたを形づくった出来事は何か、という回顧の聞き取りであって、3つの経路に人を割り当てて結果を比べた試験ではない。Clardy 2018 は、この7割の主張を支える文献の系統を読み直し、証拠基盤が弱いと結論している |
| 経験は多いほど、また難しいほど学習になる | DeRue & Wellman 2009 が60人の管理職の225の職務経験から示したのは収穫逓減である。挑戦度が上がるほど学習は増えるが、増え方は鈍る。しかもその鈍りは、フィードバックを得られる状況では打ち消されていた。さらに Caza & Jelinek 2026 では、仕事の複雑さと対人的な難しさで、指導への自信との関係が逆を向いた。難しさは一本の目盛りではない |
| 自分の学習スタイルを診断してから、それに合う経験を選ぶとよい | 経験学習の循環として引かれる Kolb 1984 は書籍であり、そこから作られた学習スタイルの診断票については、信頼性と妥当性に問題があると査読誌で繰り返し報告されてきた(2002年・米国の検討)。診断が先で経験が後、という順番を支える一次情報は薄い。判定できるのは、目の前の作業が自分にとってどれくらい初めてか、のほうである |
70対20対10には、たいへん優れた性質がある。足して100になり、3つとも10の倍数で、しかも自分では検算できない。だから30年ものあいだ、この比率は誰にも測り直されずに走り続けた。皮肉なのは、この数字を値切ったメタ分析までが、書き出しの1行目でその数字を引いていることだ。値切りは論文の中ほどに書かれ、数字は1行目に書かれる。運ばれるのは、いつも1行目のほうである。
Q1. 70対20対10の代表文献として挙がる Lombardo & Eichinger 1996 も、比率の元をたどった先の McCall, Lombardo & Morrison 1988 も、いずれも( )であって研究論文ではない。穴埋め
Q2. Clardy 2018 は、学習の7割以上が非公式に起きるという主張を支える( )つの文献の系統を読み直し、証拠基盤が弱いと結論した。穴埋め
Q3. DeRue & Wellman 2009 が60人の管理職の225の職務経験から示した、挑戦度と学習の関係の形と、その形を変えた条件を答えよ。一問一答
Q4. Johnson, Blackman & Buick 2018 の報告として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. Cerasoli ら 2018 のメタ分析について、本文の内容に合うものはどれか。選択
直近3か月にやった仕事や作業を3件だけ挙げ、それぞれを、やったことがある/少し背伸び/まったく初めて、の3つのどれかに置いて記録する。3件は大きな仕事でなくてよく、30分で終わったものでもよい。順位を付けたり、良し悪しを判定したりはしない。置くのは難度の印だけである。仕事に就いていない場合、休職中や求職中の場合は、家のことでも、手続きでも、趣味でも、直近3か月に実際にやったことなら何でもよい。誰かに見せる必要はなく、他の人の仕事を評価する項目も作らない。3件を置き終えたら、3つの段のどこが空いているかだけを一度見る。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Clardy A. (2018) '70-20-10 and the Dominance of Informal Learning: A Fact in Search of Evidence', Human Resource Development Review 17(2):153-178 — journals.sagepub.com
- Johnson S.J., Blackman D.A., Buick F. (2018) 'The 70:20:10 framework and the transfer of learning', Human Resource Development Quarterly 29(4):383-402 — onlinelibrary.wiley.com
- DeRue D.S., Wellman N. (2009) 'Developing Leaders via Experience: The Role of Developmental Challenge, Learning Orientation, and Feedback Availability', Journal of Applied Psychology 94(4):859-875 — doi.org
- Caza A., Jelinek S. (2026) 'Unpacking managers’ developmental challenges', Journal of Management Scientific Reports 4(2):139-160 — journals.sagepub.com
- Cerasoli C.P., Alliger G.M., Donsbach J.S., Mathieu J.E., Tannenbaum S.I., Orvis K.A. (2018) 'Antecedents and Outcomes of Informal Learning Behaviors: a Meta-Analysis', Journal of Business and Psychology 33(2):203-230 — link.springer.com
- Koob J.J., Funk J. (2002) 'Kolb’s Learning Style Inventory: Issues of Reliability and Validity', Research on Social Work Practice 12(2):293-308 — journals.sagepub.com