「自律・熟達・目的」の3つを検証した論文を、探しても見つからない
やる気には3つの要素がある、という話は、あまりにも覚えやすい。覚えやすい枠組みは、たいてい検証より先に広まる。そして広まったあとで、誰も出どころを見に行かなくなる。
前の単位では、能力は伸びるという信念が、頭の中だけでなく場所の側にも置かれていることを見た。ここではその上に、なぜそれを学ぶのかという理由を積む。
学ぶ理由は、一つではないし、純粋でもない
内発的な動機、という言葉は、たいてい純粋なものとして語られる。面白いから学ぶ。誰にも言われずに調べる。褒美のためではない。
だが、自分の直近の学びを1件思い出してみると、たいてい理由は混ざっている。面白かったのは本当だ。同時に、それを知らないままでいるのが少し恥ずかしかったのも本当で、来期の面談で聞かれそうだと思ったのも本当である。好奇心と、給料と、恥ずかしさは、同時に働いている。
この単位が扱うのは、理由の型を分けて測ると何が見えるかである。報酬が内発的な動機を損なうかどうかという実験の系譜は、学業の棚と組織の基盤の棚がすでに引き受けている。 ここでは踏み込まない。
値切り:自律・熟達・目的という3つ
育成の資料でいちばんよく引かれる枠組みは、自律・熟達・目的の3つである。出どころは2009年の一般向けの書籍で、著者は科学ジャーナリストである。書籍は、それ自体では一次情報ではない。 問題は書籍であることではなく、この3区分を構成概念として検証した査読研究に、たどり着けなかったことだ。
探した範囲を書いておく。医学と心理学の文献データベースの検索、自己決定理論の側で使われている測定尺度の中身、そしてこの理論の動機づけを集計したメタ分析2件の変数一覧である。3区分を測る尺度も、3区分の妥当性を検討した論文も、見あたらなかった。 出てくるのは書籍の要約記事と、研修事業者の解説である。
ついでに書いておくと、この枠組みの学術的な出どころとして挙げられることの多い1985年の自己決定理論の文献も、書籍である。理論そのものは査読誌にも大量にあるが、理論の提唱と、効果の検証は別の作業であり、資料の引用はしばしば前者だけを指している。
無いと断定はしない。見つからなかった、と書く。 そして、研究の側が実際に使っている区分は3つではない。
型を分けて測ると、何が見えるか
研究の側でよく使われる尺度は、2015年に7つの言語・9つの国の3,435人の働く人のデータで検証されたもので、5つの型を測る——無動機、外的な調整(報酬や罰)、取り入れ(恥や自尊心)、同一視(自分にとって意味があると納得している)、そして内発である。
この5つを使って、職場での動機づけと成果の関係を集計したメタ分析が2021年に出ている。124の標本(104本の論文と未公表原稿、うち公表72・未公表32)を集めたもので、結果は素朴な予想とずれる。
仕事の成果と、職務の外側の助け合いをいちばんよく予測したのは、内発ではなく「同一視」だった。 つまり、面白いからではなく、意味があると自分で納得しているほうが、成果の側とよく結びついていた。内発がいちばん強く効いていたのは、仕事への没入や、態度や、心身の健やかさのほうである。取り入れ・外的・無動機は、燃え尽きの側と正の向きで結びついた。
「同一視」という言葉は硬いが、中身は難しくない。やらされているわけではないが、面白くてやっているわけでもない。ただ、これは必要だと自分で腑に落ちている——引き継ぎのための手順書を読む、苦手な会計の基礎を一度だけ通す、といった学びは、たいていここに入る。面白さの言葉で語られないので、動機づけの話をするときに真っ先に落ちる型でもある。
ここは丁寧に読む必要がある。内発的動機が役に立たない、という話ではない。 結びつく先が違う、という話である。どれだけやったかよりどんな質でやったか、と言われることの中身は、おおむねこれだ。そして——ここが値切りの本体だが——この差は、動機を「内発か外発か」の2つに丸めた瞬間に消える。
隣り合う型は、別物として測れていない
では5つの型は、きちんと別物として測れているのか。2017年に Psychological Bulletin へ出た分析が、これを正面から確かめている。13種類の尺度を使った486の標本、参加者20万5千人超、4,111個の相関を集め、型どうしの相関が、自律の度合いの順に並ぶかどうかを見た。
並びはおおむね支持された。だが、内訳がいびつである。自律寄りの3つ(同一視・統合・内発)どうしの相関は .818〜.913。 一方、統制寄りの隣り合う型どうしは .510〜.603 にとどまった。
相関が .9 に近いということは、質問紙のうえで、その2つがほとんど同じものを測っているということだ。自律寄りの側は、名前は3つに分かれているが、データの上ではひとかたまりに近い。枠組みの区分の数と、実際に分けて測れている数は、別である。 3つに切り分ける話の危うさは、ここにもある。
人は、いくつもの理由を同時に持っている
もうひとつ、平均が隠すものがある。同じ人の中で、複数の型が同時に高いことだ。
2016年に公表された研究は、カナダの従業員723人とベルギーの従業員286人について、個人ごとの動機の組み合わせを分類した。出てきたのは4つの型である。
無動機が目立つ人(カナダ 27.6%/ベルギー 13.1%)、中程度に自律的な人(11.5%/27.8%)、あらゆる動機が高い人(25.6%/22.0%)、そしてすべての型がほどほどに高い均衡型(35.3%/37.1%)。どちらの国でも、いちばん多いのは均衡型だった。
そもそも内発と外発は、シーソーの両端ではない。1994年に公表された尺度の検証では、社会人1,055人(ほかに大学生1,363人)で、内発の主尺度と外発の主尺度の相関は −.08 だった。ほぼ無関係、つまり独立に動く2つの目盛りである。
片方が上がればもう片方が下がる、という描き方は、この数字とは合わない。
時間・変化:理由は、始まりと途中で入れ替わる
学ぶ理由には、始めるときの理由と、続いているあいだの理由がある。この2つは、しばしば別物になる。
理由が入れ替わる筋道について、いまの研究が使っている並べ方の出発点は、2005年に Journal of Organizational Behavior へ出た論文である。そこで著者たちが書いたのは、内発と外発という単純な二分では、仕事の場に当てはめにくかったということだった。外から与えられた理由を、自律の度合いの違う型に分け直す——やらされている、決まりだから従う、意味があると納得している——という作業を経て、はじめて職場で使える形になった。
ここで注意がいる。この論文は理論の提示であって、効果の測定ではない。枠組みを出す作業と、その枠組みが成り立つかを確かめる作業は別である。そして前の節で見た通り、確かめてみると、自律寄りの3つの型は互いにきわめて高く相関していた。理由が時間とともに内側へ移るという見立てと、移った先が別々の型として切り分けられるかどうかは、別の問題である。
もう一段、時間の話がある。理由を尋ねられた時点で、理由は作り直される。 「なぜ学んだのか」と聞かれた人は、そのとき手元にある一貫した説明を組み立てる。始めた瞬間の理由が、そのまま保存されているわけではない。だから、動機の質問紙が測っているのは、いま自分の学びをどう説明しているかでもある。
この二つを合わせると、動機の質問紙の読み方が変わる。高い値が出たからその人がよく学ぶ、ではなく、その人がいま自分の学びをどう語れる状態にあるかが出ている、と読むほうが安全である。語り方は、直近にうまくいったかどうかで揺れる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、自分の動機を純粋なものに揃えようとすることである。面白いから学んでいるのでなければ本物ではない、という基準を自分に当てると、均衡型のほうが多数派だという事実と衝突する。
ここでこの棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、欧米と一部のアジアの国の、雇用されている成人から採られたものが大半である。30人規模の組織を対象にした研究はほとんど無い。 動機も成果も同じ人が同じ質問紙で答えているものが多く、客観指標まで追った研究はその一部にすぎない。そして、学ぼうとする人ほど学ぶ機会を得やすい、という逆向きを排除できない。 学びに使える時間や体力は、雇用の形や家庭の事情で大きく違う。学習量の少なさは、動機の弱さの証拠にはならない。
助けるのは、理由を一つに決めないことである。型は5つあり、そのうち成果とよく結びつくのは「意味があると納得している」ほうだった。面白さが薄い日でも、納得のほうが残っていることはある。
最初の一歩は3分。今日か昨日、頼まれていないのに調べたことを1件挙げて、調べ始めたきっかけを1行で書く。 無ければ「無かった」と書けばよい。無かったと書けることのほうが、無理に思い出すより正確である。
次の単位は 195「自己マスタリー」——理由が揃っても、どこから伸ばすのかが分からなければ動きようがない。理由の上に、現在地の見え方を積む。そしていちばん怪しいのは、理想ではなく現在地のほうである。
- 育成の資料でよく引かれる「自律・熟達・目的」の3要素は、2009年の一般向け書籍が出どころで、この3区分を構成概念として検証した査読研究にたどり着けなかった。探したのは、医学と心理学の文献データベースの検索、自己決定理論の測定尺度の中身、そして動機づけのメタ分析2件の変数一覧である。無いと断定はしない、見つからなかったと書く
- 研究の側が使っている区分は3つではなく5つである。Gagné ら 2015(European Journal of Work and Organizational Psychology 24(2))は7言語・9か国の3,435人のデータで、無動機/外的な調整/取り入れ/同一視/内発の5因子を測る尺度を検証した。枠組みの提唱と、効果の検証は別の作業である
- Van den Broeck ら 2021(Organizational Psychology Review 11(3))は124標本(104本の論文と未公表原稿、公表72・未公表32)を集計し、仕事の成果と職務の外側の助け合いをいちばんよく予測したのは内発ではなく同一視(意味があると納得している型)だったと報告した。内発がいちばん強く効いたのは没入・態度・心身の健やかさの側である
- Howard, Gagné & Bureau 2017(Psychological Bulletin 143(12))は13種類の尺度を使った486標本・参加者20万5千人超・4,111個の相関を集計した。自律寄りの3つ(同一視・統合・内発)どうしの相関は .818〜.913 と高く、統制寄りの隣り合う型どうしは .510〜.603 だった。名前は分かれていても、データの上ではひとかたまりに近い
- Howard ら 2016(Journal of Vocational Behavior 95-96)はカナダの従業員723人とベルギーの従業員286人を分類し、無動機が目立つ人(27.6%/13.1%)、中程度に自律的な人(11.5%/27.8%)、あらゆる動機が高い人(25.6%/22.0%)、すべての型がほどほどに高い均衡型(35.3%/37.1%)の4つを得た。どちらの国でもいちばん多いのは均衡型だった
- Amabile ら 1994(Journal of Personality and Social Psychology 66(5))は社会人1,055人と大学生1,363人で尺度を検証し、内発の主尺度と外発の主尺度の相関は成人で −.08 だったと報告した。内発と外発はシーソーの両端ではなく、独立に動く2つの目盛りである
- Gagné & Deci 2005(Journal of Organizational Behavior 26(4):331-362)は、内発と外発という単純な二分ではこの理論を仕事の場に当てはめにくかったと述べ、外発的な理由を自律の度合いの違う型へ分ける並べ方を、職場の動機づけの理論として示した。これは理論の提示であって、効果の測定ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| やる気には自律・熟達・目的の3つの要素がある、と研究で示されている | この3区分の出どころは2009年の一般向け書籍で、3区分を構成概念として検証した査読研究にたどり着けなかった。探したのは文献データベースの検索、自己決定理論の測定尺度の中身、動機づけのメタ分析2件の変数一覧である。研究の側が使っている区分は5つで、しかも自律寄りの3つは互いに .818〜.913 という相関で重なっており、データの上ではひとかたまりに近い |
| 内発的動機が高いほど、成果も高い | 124標本を集めた2021年のメタ分析では、仕事の成果と職務の外側の助け合いをいちばんよく予測したのは内発ではなく、意味があると自分で納得している型だった。内発がいちばん強く効いたのは没入・態度・心身の健やかさの側である。結びつく先が違うという話で、この差は動機を内発か外発かの2つに丸めた瞬間に消える |
| 内発的動機が上がれば、外発的動機は下がる | 社会人1,055人での検証では、内発の主尺度と外発の主尺度の相関は −.08 で、ほぼ独立に動いていた。個人ごとの組み合わせを分類した研究でも、カナダ723人・ベルギー286人のどちらでもいちばん多かったのは、すべての型がほどほどに高い均衡型(35.3%/37.1%)である。好奇心と、給料と、恥ずかしさは同時に働いている |
動機づけの枠組みが3つに整理されると、人は安心する。3つなら覚えられるし、会議で言えるし、研修の章立てにもできるからだ。皮肉なのは、実際にデータを取ってみると、いちばん多かったのが「全部それなりに当てはまる人」だったことである。均衡型という名前は、要するに、切り分けに失敗した人たちの集まりに付けられた名前でもある。そして、そこがいちばん人口の多い場所だった。
Q1. 13種類の尺度を用いた ____ 標本・参加者20万5千人超・4,111個の相関を集計した2017年の分析では、自律寄りの3つ(同一視・統合・内発)どうしの相関は ____ 〜 ____ 、統制寄りの隣り合う型どうしは .510〜 ____ だった。穴埋め
Q2. 「自律・熟達・目的」という3要素の枠組みについて、この単位はどこまで確かめ、どう結論したか。探した範囲を挙げて答えよ。一問一答
Q3. 動機づけを内発と外発の2つに丸めて読むと、何が見えなくなるか。この単位の説明にそって答えよ。一問一答
Q4. 124標本を集計した2021年のメタ分析が報告した、動機の型と結びつく先の対応として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q5. 個人ごとの動機の組み合わせを分類した2016年の研究(カナダ723人・ベルギー286人)の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。今日か昨日のうちに、誰にも頼まれていないのに調べたこと、読んだこと、人に聞いたことを1件だけ書き出す。仕事に関係なくてよく、献立でも路線図でも構わない。次にその下へ、調べ始めたきっかけを1行で書く。面白かった、恥ずかしかった、必要だと思った、なんとなく——どれでもよく、複数あればそのまま複数書く。1件も思い当たらなければ「無かった」と書けばよい。無かったと書けることのほうが、無理に思い出すより正確である。組織に所属していない場合は、家事や趣味や手続きの中で調べたことに置き換えて構わない。誰にも見せなくてよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Gagné M., Forest J., Vansteenkiste M. et al. (2015) 'The Multidimensional Work Motivation Scale: Validation evidence in seven languages and nine countries', European Journal of Work and Organizational Psychology 24(2):178-196 — www.tandfonline.com
- Van den Broeck A., Howard J.L., Van Vaerenbergh Y., Leroy H., Gagné M. (2021) 'Beyond intrinsic and extrinsic motivation: A meta-analysis on self-determination theory's multidimensional conceptualization of work motivation', Organizational Psychology Review 11(3):240-273 — journals.sagepub.com
- Howard J.L., Gagné M., Bureau J.S. (2017) 'Testing a Continuum Structure of Self-Determined Motivation: A Meta-Analysis', Psychological Bulletin 143(12):1346-1377 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Howard J., Gagné M., Morin A.J.S., Van den Broeck A. (2016) 'Motivation profiles at work: A self-determination theory approach', Journal of Vocational Behavior 95-96:74-89 — www.sciencedirect.com
- Amabile T.M., Hill K.G., Hennessey B.A., Tighe E.M. (1994) 'The Work Preference Inventory: Assessing Intrinsic and Extrinsic Motivational Orientations', Journal of Personality and Social Psychology 66(5):950-967 — people.uncw.edu
- Gagné M., Deci E.L. (2005) 'Self-determination theory and work motivation', Journal of Organizational Behavior 26(4):331-362 — onlinelibrary.wiley.com