思考法
演繹
同じ形の推論なのに、中身を入れ替えると正答率が4%から75%に動いた
米国・1982年の実験では、同じ論理構造の4枚カード問題を記号で出すと48人中2人(4%)しか解けず、飲酒年齢の規則として出すと48人中36人(75%)が解けた。英国・1983年の三段論法の実験では、結論が信じられる内容のとき、論理的に妥当な三段論法も妥当でない三段論法も、同じ92%の割合で受け入れられた。演繹の強さは形にあるが、人がその形を使えるかどうかは中身で決まる。
帰納
「いつもこうだ」の“いつも”は、たいてい3件くらいでできている
米国・1971年、84人の専門の心理学者に出された問題がある。20人で出た有意な結果は、追加の10人でも有意になるか。回答の中央値は .85 だった。理論上の値はおよそ .48 で、.40 から .60 のあいだに答えたのは84人中9人だけである。事例が足りているかどうかの見積りは、それを職業にしている人でも大きく外れる。
類推
思いつかないのではない。5分前に読んだ話を、思い出せないのだ
米国・1993年の実験では、以前に読んだ話を思い出させたとき、見た目が似ているだけの話は .53 の割合で思い出されたのに、構造が同じで見た目の違う話は .12 にとどまった。ところが、どちらが役に立つかを5段階で評価させると順位は逆になる——構造の同じ話がおよそ 4.2、見た目だけ似た話が 2.70。類推の難所は、思いつくところではなく、思い出すところにある。
アブダクション
「最善の説明」の“最善”を決めているのは、たいてい説明の短さである
批判的思考の指導を扱った2015年のメタ分析は、341の効果量を集計して平均 g+ = 0.30(95%信頼区間 .25 から .34)と報告した。小さい。ただし、対話と、本物に近い問題と、助言者による個別の手ほどきの3つがそろった19件では 0.57 まで上がる。道具は、使いどころごと教わらないかぎり、部屋の外へは出ていかない。
実体
説明してくださいと言われて書いたあと、下がったのは知識ではなかった
米国・2002年の実験では、ファスナーや水洗トイレなどの仕組みを7段階で自己評価させ、段階を追った説明を書かせ、要点を問う質問に答えさせると、自己評価は段階的に下がった。イェール大学の大学院生16人で F(4,56)=16.195、効果の大きさは η²=.536 である。ところが同じ落ち方は、事実や手順や物語では起きない。この単位が扱うのは、「分かっているつもり」と「説明できる」のあいだの距離を、その場で測る道具である。
意味
動詞を1つ差し替えただけで、目撃者の答えた速度が時速9マイル動いた
米国・1974年の実験では、同じ交通事故の映像を見せたあと「激突したとき、車は時速何マイルで走っていましたか」と尋ねると平均40.5マイル、「接触したとき」と尋ねると31.8マイルだった。参加者は45人、動詞ごとに9人ずつである。この単位が扱うのは、意味——言葉を決める作業が、合意のための前準備ではなく、自分が何を測っているかを固定する操作だ、という一点である。
証拠
同じ1つのデータを29の研究チームに渡したら、20チームが有意だと言い、9チームが言わなかった
同じデータセットを29の研究チームに渡し、同じ問いに答えさせた実験では、20チーム(69%)が統計的に有意な効果を報告し、9チーム(31%)は有意でないと報告した。分析の選択肢を研究者が自由に使えると、実際には差の無いものからでも偽陽性率は60.7%まで上がる。この単位が扱うのは、証拠——手元の材料を数えるのではなく、それらが互いに独立しているかを見る道具である。
構造化思考
同じ患者について4つの見通しを別々に見積もらせたら、合計が164%になった
米国・1995年に報告された調査では、同じ症例について医師に診断の候補を見積もらせたところ、候補を3つだけ示したときの「それ以外」への割り当ては平均50%だったのに、同じ範囲を細かく分けて示すと合計69%になった。別の課題では、1人の患者の4つの見通しを別々に見積もらせると合計が164%になった。この単位が扱うのは、構造化思考——分け方そのものが答えを動かす、という一点である。
システム思考
店に入る人と出る人のグラフは95%が読めた。店の中に何人いるかは、44%しか答えられなかった
米国の大学院生173人に、店に入る人と出る人のグラフを見せた実験では、いちばん人が入った時間帯を答えられたのが96%、いちばん出た時間帯が95%だったのに対し、店の中の人数がいちばん多い時間帯を答えられたのは44%、いちばん少ない時間帯は31%だった。この単位が扱うのは、たまっている量と出入りの量を分けて見る道具である。組織の基盤の棚が扱ったのは制度どうしの整合であって、ここで扱うのは思考の道具としての遅れとループの捉え方である。
トレードオフ思考
「買わない」を「そのお金を他のことに使う」と書き換えただけで、購入率が75%から55%になった
米国・2009年の実験では、映像作品を買うかどうかの選択肢を、「買わない」から「その14.99ドルを他の買い物のために取っておく」に書き換えるだけで、購入すると答えた割合が75%から55%へ下がった。参加者は150人である。いっぽう、選択肢が多いほうが売れないという有名な話は、50件の実験・5,036人を集めたメタ分析で平均効果がほぼゼロだった。この単位が扱うのは、選ばなかったものを見えるところに置く、という操作である。
発散思考
たくさん出しても、当たりの割合は動かない。動くのは当たりの本数だ
創造性を測るとされるテストの予測力は、27研究・47,197人を集めた2008年のメタ分析で、創造的達成との相関が .216 だった。50年後を追いかけた追跡でも、テスト得点は個人的な達成とはほどほどに関係し、公的な達成とは関係しなかった。いっぽう1997年に提案された等確率則は、同じ人の中では当たりの割合がほぼ一定で、当たりの本数だけが総生産量に比例すると述べる。10分間の課題では、1分あたりの件数は最初の1分が最も多く、評価された創造性は時間とともに上がっていった。
ラテラル思考
本人は「ちゃんと探した」と言った。目の記録は、同じ場所しか見ていなかった
1手先に見えた解があると、より短い解が同じ盤上にあっても見つからない。2008年の研究では、60人のチェス選手のうち、上位から3段階目の熟達者は、既知の解が同時に置かれている問題で短い解を1人も見つけられなかった。同じ問題から既知の解を取り除くと、全員が見つけた。視線の記録では、彼らは既知の解に関わる場所を見つづけていた。本人の報告は「短い解を探していた」である。
逆算思考
カナダ・1994年の研究で、卒業論文の完成日を予想させたところ、平均予想は33.9日、実際は55.5日だった。予想した日までに終えたのは29.7%。「すべてが可能なかぎり悪く運んだ場合」として書かせた予想は48.6日で、それより早く終えた人も48.7%にとどまった。当てにいく方向は二つある——計画の中身ではなく似た計画の分布から見積もること、そして手順を終点から逆向きに並べることだ。
確率的思考
1995年にオーストリアで行われた実験では、同じ形の問題を確率で提示したときの正答率は16%、自然頻度——1万人のうち何人という数え方——で提示したときは46%だった。35本の論文・226件の推定値を集めたメタ分析でも、この差は残っている。いっぽう「二つの条件を同時に満たす」ほうが起こりやすいと答える段差は、統計の詳しさでは動かず、報酬と相談では動いた。動く条件が違えば、打つ手も違う。
仮説思考
先に答えを立てると速くなる。速くなったぶん、確かめる手順が痩せる
規則を当てる課題で、最初の宣言で正解に届いたのは29人中6人。9人は二つ以上の誤りを重ねた。ところが同じ課題の枠組みを、二つの分類のどちらに入るかを埋める形に変えると、最初の宣言での成功は6割に上がった。人が変わったのではなく、確かめる手順の形が変わっている。厄介なのは、外したあとである——結果を知らされた人は、知らなかった人より高い確率をその結果に割り当てた。33.8%が57.2%になり、23.4ポイント動いた。
メタ認知
無能な人ほど自分を過大評価する、というあのグラフは、乱数からでも同じ形が出てくる
米国・コーネル大学の学部生を対象にした1999年の実験では、成績が下位4分の1の人たちの実際の順位は下から12パーセンタイル、自己評価は58パーセンタイルだった。ところがこの46ポイントの差のうち37.5ポイントは、自己評価を実力と無関係な乱数に置き換えても、四分位に割るという算術だけで出てくる。この単位が扱うのは、思考を監視する最後の道具は、その道具自身では点検できない、という一点である。