道筋は引ける。日付だけが、どうしても当たらない
逆算しろ、と言われる——終点を決めて、そこから手前へ並べれば計画になる、と。並びのほうは、たしかにそれで作れる。ところが同じ手続きで出てくる日付は驚くほど当たらず、「最悪の場合」として書いた日付ですら、実際より早い。
終点から引く、という操作
逆算思考は、終点をひとつ置いて、そこから手前へ向かって「その直前に何が要るか」を繰り返す道具である。出てくるのは、やることの並びと、その並びのどこで分岐するかの地図だ。
この道具が得意なのは、抜けを見つけることである。終点から逆にたどると、前向きに考えているときには手順の中に埋もれていた「これが無いと次に進めない」が、独立した項目として立ち上がる。ここまでは、この道具の効くところだ。
苦手なのは、日付である。並びは作れるのに、その並びを歩き終わる日は当たらない。しかもこの外し方には、決まった向きがある。
予想日と、実際の日
1994年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た研究が、この向きに名前を付けた。計画の錯誤である。
研究1では、カナダの大学で卒業論文の最終学期にいる心理学の学生37人に、自分の論文がいつ仕上がるかを予想させ、そのまま実際の完成日を記録した。分析できた33人の平均予想は33.9日、実際は55.5日だった。予想した日までに終えたのは29.7%である。
面白いのはここからだ。同じ学生に、「すべてが可能なかぎりうまく運んだ場合」の予想も書かせている。それは27.4日だった。そして「すべてが可能なかぎり悪く運んだ場合」の予想も書かせた。それは48.6日で、実際の55.5日より早い。最悪を想定した日付ですら、実際より楽観的だった。その日までに終えた人は48.7%にとどまる。
卒業論文という特殊な課題だから、という反論は先に潰されている。同じ論文の研究2では、101人に学業の課題と学業以外の用事——自転車の修理、部屋の片づけ、手紙を書く——の両方について予想させた。予想内に終わったのは学業の課題で37.1%、学業以外で42.5%だった。研究3では、2週間以内に終える予定の課題について78人に予想させ、予想内に終わったのは43.6%である。
数字は課題によって動く。向きは動かない。
中身ではなく、分布のほうを見る
では、どう当てにいくか。ひとつの答えは、計画の中身を見るのをやめることである。
2008年に European Planning Studies へ出た論文が、参照クラス予測という手続きを実務の文脈で紹介している。自分の計画がどれだけかかるかを、その計画の内訳から積み上げるのではなく、過去に行われた似た計画がどれだけかかったかの分布から取る。中身を知っているという感覚は、この手続きでは使わない。論文はこの手続きが米国の都市計画の職能団体に採用されたことと、英国の交通計画——エディンバラの路面電車、ロンドンの大型鉄道計画——で実際に使われたことを報告している。
この手続きは、英国では上乗せ率という形で運用に落ちている。英国運輸省が2020年に公表した見直しでは、事業計画が正式に固まる段階での資本費用に対して、鉄道は中央値で19%、上位20%の水準に備えるなら60%を上乗せする、と示されている。道路は同じ段階で16%と47%である。
数字そのものより、形のほうが大事だ。上乗せ率は、計画がどれだけよくできているかとは無関係に決まっている。その計画を作った人がどれだけ優秀でも、上乗せは同じである。それが参照クラス予測の要点で、同時にこの手続きが実務で嫌われる理由でもある。
逆向きに並べると、予想が遅くなる
もうひとつの答えは、逆算という操作そのものの中にある。
2016年に Judgment and Decision Making へ出た4つの実験が、計画を作る向きを操作した。前向き——最初の手順から順に並べる——と、逆向き——終点から手前へ並べる——の比較である。カナダで3つ、米国のオンライン被験者で1つ。
結果は一貫していた。逆向きに並べた人の予想は、前向きに並べた人より遅い日付になる。学業の課題では締切の2.25日前対3.44日前。実際の課題では2.77日前対3.87日前。実際の完成日まで記録した研究4では、逆向き2.57日前対前向き4.11日前で、逆向きの条件では楽観の偏りが統計的に消えていた。
著者たちが挙げた理由は素っ気ない。逆向きに並べると、障害と遅れに注意が向き、前向きでは出てこなかった手順が出てくる。つまり逆算は、日付を当てる道具ではなく、日付を当たりにくくしている項目を掘り出す道具として効く。掘り出した項目の数だけ、予想は後ろへ動く。
探しにいった二つ
逆算という発想は、実務では二つの看板のもとで売られている。ひとつは、利用者の理解から始めて試作と検証を繰り返す設計手法。もうひとつは、目標と、その達成度を測る数値をひと組で置く目標管理の枠組みである。
どちらについても、その手法を使った場合と使わなかった場合を比べた査読された検証を探した。
設計手法のほうでは、2023年に Design Studies へ出た体系的レビューにたどり着いた。ただしそのレビューが報告しているのは、効果の大きさではない。設計手法の研究が、動機から主張までの証拠の連鎖のどこを報告しているかを調べ、連鎖のすべてを報告している論文も、一貫して最良の作法を満たしている論文も、1本も無かったと述べている。著者らの結論は、この領域には証拠の基準が必要だ、である。
目標管理の枠組みのほうでは、2024年に情報システム系の査読誌へ出た体系的マッピングにたどり着いた。学術文献47件を拾い上げたうえで、この枠組みの利用は理論的な観点から十分に記録されていない、深く扱った学術研究はほとんど見つからなかった、と書いてある。
どちらも「効果が無い」という報告ではない。効果を測った報告が見つからない、という報告である。この二つは違う。売り手はこの違いを埋めずに話し、批判する側もしばしば埋めずに話す。
時間・変化:並びは縮まない。日付だけが伸びる
計画は、時間の中で決まった崩れ方をする。
第一に、崩れるのは並びではなく日付である。逆算で引いた並びは、途中で作り直されることが案外少ない。動くのは各項目の所要時間のほうだ。だから「計画が甘かった」という反省は、たいてい並びを作り直す方向に向かい、次も同じだけ外れる。
第二に、外れの向きは経験で消えない。1994年の研究で予想を外した学生たちは、過去に同種の課題を何度も経験している。過去の実績を思い出せる状態でも、いま目の前にある計画の予想は楽観に寄った。
第三に、外れは終盤に集中する。英国運輸省の見直しは、計画が進むにつれてリスクが分布の全体から均等に減るのではなく、主に裾の側から減っていくと述べている。平均的にはうまくいっているように見えても、大きく外れる可能性だけが最後まで残る、ということだ。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、見積りを「宣言」として扱う場面である。日付が意思表明として読まれる場では、参照クラス予測の答え——似た計画は平均でこれだけかかりました——は、やる気がない発言として扱われる。この道具が実務で嫌われるのは、精度が低いからではなく、精度が高いときに角が立つからだ。
第二の妨げは、記録が残らないことである。見積りと実測の差は、両方を書いていた人にしか見えない。多くの職場では、見積りは残り、実測は残らない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた行動の研究は、カナダと米国の大学生と、オンラインの被験者で採られたものが中心である。実験室で数分の課題として測られたものが、締切のある本物の判断にそのまま当てはまるとは限らない。英国運輸省の数字は、交通インフラという特殊な領域の、公開された事業のものだ。日本の事情——年度、稟議、年度末の集中——に同じ率が当てはまる保証はない。うまくいった計画は記録に残り、途中で消えた計画は記録に残らない。
助けるのは、自分の参照クラスを持つことである。他人の平均ではなく、自分が過去に同じような作業にかけた時間の記録を分布として持つ。数件でいい。数件あれば、中身の感覚より当たる。
最初の一歩は5分。直近で終わった作業を1件選び、着手前に見積もっていた時間と、実際にかかった時間を、数字で2つ並べて書く。
次の単位は 190「確率的思考」——逆算思考が一本の道筋の上で時間を扱う道具なら、こちらは、道筋が複数あるときにその重みを扱う道具である。引き出しは隣にあり、どちらから開けてもかまわない。
- Buehler, Griffin & Ross 1994(Journal of Personality and Social Psychology 67(3):366-381)の研究1では、カナダの大学で卒業論文の最終学期にいる心理学の学生37人が完成日を予想し、分析できた33人の平均予想は33.9日、実際は55.5日だった。予想日までに終えたのは29.7%である
- 同じ研究で「すべてが可能なかぎりうまく運んだ場合」の予想は27.4日、「すべてが可能なかぎり悪く運んだ場合」の予想は48.6日だった。最悪を想定した日付ですら実際の55.5日より早く、その日までに終えた人は48.7%にとどまった
- 同論文の研究2では101人が学業の課題と学業以外の用事の両方を予想し、予想内に終わったのは学業の課題で37.1%、学業以外で42.5%だった。研究3では78人が2週間以内の課題を予想し、予想内に終わったのは43.6%だった。数字は課題で動くが、向きは動かない
- Flyvbjerg 2008(European Planning Studies 16(1):3-21)の参照クラス予測は、計画の内訳から積み上げるのではなく、過去の似た計画がどれだけかかったかの分布から見積もる手続きである。米国の都市計画の職能団体に採用され、英国の交通計画(エディンバラの路面電車、ロンドンの大型鉄道計画)で使われたと報告されている
- 英国運輸省が2020年に公表した見直しでは、事業計画が正式に固まる段階の資本費用に対し、鉄道は中央値で19%・上位20%の水準に備えるなら60%、道路は16%と47%の上乗せが示されている。上乗せ率は、その計画がどれだけよくできているかとは無関係に決まる
- Wiese, Buehler & Griffin 2016(Judgment and Decision Making 11(2):147-167)の4実験では、終点から手前へ逆向きに並べた人の予想は前向きに並べた人より遅い日付になった。実際の完成日まで記録した研究4では逆向き2.57日前対前向き4.11日前で、逆向きの条件では楽観の偏りが統計的に消えていた
- 利用者理解から試作と検証を繰り返す設計手法については Cash, Daalhuizen & Hekkert 2023(Design Studies 88:101204)が、証拠の連鎖のすべてを報告した論文も一貫して最良の作法を満たした論文も1本も無いと報告した。目標と測定値をひと組で置く目標管理の枠組みについては、2024年の体系的マッピングが学術文献47件を拾ったうえで、利用が理論的観点から十分に記録されていないと述べている
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| デザイン思考や目標管理の枠組みは、効果が検証済みの手法である | どちらも、使った場合と使わなかった場合を比べた査読された検証にたどり着けなかった。設計手法については Cash ら 2023(Design Studies)が、証拠の連鎖のすべてを報告した論文も一貫して最良の作法を満たした論文も1本も無いと報告している。目標管理の枠組みについては2024年の体系的マッピングが、学術文献47件を拾ったうえで理論的観点から十分に記録されていないと述べている。これは「効果が無い」ではなく「効果を測った報告が見つからない」であり、この二つは違う |
| 最悪の場合を想定しておけば、日付は当たる | Buehler ら 1994 の研究1で、カナダの学生が「すべてが可能なかぎり悪く運んだ場合」として書いた予想は48.6日だった。実際の平均は55.5日である。最悪を想定した日付ですら実際より早く、その日までに終えた人は48.7%にとどまった。想定の幅を広げる操作では、この外れ方は消えない |
| 経験を積めば、見積りは当たるようになる | 1994年の研究で予想を外した学生たちは、過去に同種の課題を何度も経験していた。過去の実績を思い出せる状態でも、いま目の前にある計画の予想は楽観に寄る。効いたのは経験ではなく、手続きのほうだった——似た計画の分布から取る参照クラス予測と、終点から手前へ並べる逆向きの計画である。後者は Wiese ら 2016 の研究4で、楽観の偏りを統計的に消した |
見積りが外れたあと、人は並びを作り直す。項目を細かく割り、順番を入れ替え、依存関係に矢印を足す。作り直された計画は前より美しく、そして前と同じだけ遅れる。動いていたのは並びではなく、各項目の時間のほうだったからだ。皮肉なことに、いちばん効く一手は、計画書に一行も足さない——過去に自分が同じことに何日かけたかを、ただ思い出さずに、調べることである。
Q1. Buehler ら 1994 の研究1では、卒業論文の平均予想は ____ 日、実際は ____ 日だった。予想日までに終えたのは ____% である。「すべてが可能なかぎり悪く運んだ場合」として書かせた予想は ____ 日で、その日までに終えた人は ____% にとどまった。穴埋め
Q2. 参照クラス予測とはどういう手続きか。また、英国運輸省が2020年に示した上乗せ率について、本文が「数字そのものより大事だ」としている形とは何か。一問一答
Q3. デザイン思考と目標管理の枠組みについて、本文が探して確かめたこととして正しいものはどれか。選択
Q4. Buehler ら 1994 の研究1で得られた4つの日数を、小さい順に並べよ。(A)いちばん当たると思う予想(B)実際にかかった日数(C)すべてがうまく運んだ場合の予想(D)すべてが悪く運んだ場合の予想並べ替え
Q5. 本文が示した「見積りを当てにいく手順」を、実行する順に並べよ。(A)自分が過去に同じような作業にかけた時間の記録を数件集める(B)逆向きに並べる過程で出てきた障害と遅れの項目を書き足す(C)終点を1つ置き、そこから手前へ「その直前に何が要るか」を繰り返す(D)集めた数件の分布から日数を取り、計画の中身の感覚では上書きしない並べ替え
直近で終わった作業を1件だけ選ぶ。仕事の書類でも、部屋の片づけでも、確定申告の書類そろえでも、自分の手元で完結したものならなんでもよい。その作業について、(1)着手する前に頭の中で見積もっていた所要時間を、分か時間の単位で1つ書く。思い出せる範囲でよく、正確でなくてかまわない。(2)実際にかかった時間を、同じ単位で1つ書く。(3)2つの差を引き算して、数字を1つ記録する。これが今日の記録になる。差がマイナス(見積りより早く終わった)ならそのまま記録する。他人の見積りは扱わない。誰かの計画を評価したり、締切について誰かに何かを求めたりはしない——この課題は自分の記録の中だけで完結する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Buehler R., Griffin D., Ross M. (1994) 'Exploring the Planning Fallacy: Why People Underestimate Their Task Completion Times', Journal of Personality and Social Psychology 67(3):366-381 — bear.warrington.ufl.edu
- Flyvbjerg B. (2008) 'Curbing Optimism Bias and Strategic Misrepresentation in Planning: Reference Class Forecasting in Practice', European Planning Studies 16(1):3-21 — ora.ox.ac.uk
- UK Department for Transport (2020) 'Updating the evidence behind the optimism bias uplifts for transport appraisals' — assets.publishing.service.gov.uk
- Wiese J., Buehler R., Griffin D. (2016) 'Backward planning: Effects of planning direction on predictions of task completion time', Judgment and Decision Making 11(2):147-167 — www.cambridge.org
- Cash P., Daalhuizen J., Hekkert P. (2023) 'Evaluating the efficacy and effectiveness of design methods: A systematic review and assessment framework', Design Studies 88:101204 — orbit.dtu.dk
- Silva R., Santos G. (2024) 'Surveying the Academic Literature on the Use of OKR (Objectives and Key Results) – An Update', iSys - Brazilian Journal of Information Systems 17(1):4:1-4:26 — journals-sol.sbc.org.br