思いつかないのではない。5分前に読んだ話を、思い出せないのだ
類推は、ひらめきの道具ということになっている。異分野から比喩を持ってくれば発想が飛ぶ、と言われる。ところが実験室で起きているのは逆で、答えになる話を直前に読んでいても、大半の人はそれを使わない。使えないのではない。使えることに気づかないのである。
類推という道具は、何をする道具か
類推は、ある領域で成り立っている関係を、別の領域へ写す道具である。運ぶのは、もののほうではない。ものともののあいだの関係のほうだ。
分かりやすい例を挙げる。目的地に大きな塊で一度に届けると壊れてしまうものがあるとき、小さく分けて別々の道から同時に届ければ、途中は無害なまま目的地でだけ合流して十分な量になる。この関係は、軍隊にも、医療の照射にも、社内の根回しにも、荷物の配送にも当てはまる。当てはまっているのは登場人物ではなく、分割・同時・合流という関係の骨組みのほうである。
だから類推の良し悪しは、似ているかどうかでは決まらない。どこが似ていることにしたかで決まる。そして人は、ここでほぼ確実に取り違える。
なお、この棚のどの道具にも付く断りが、類推にも付く。実験室と研修室で効いた道具は、部屋を出たとたんに効かなくなることが繰り返し確かめられている。類推も例外ではない。
思い出しやすいのは見た目、役に立つのは構造
1993年に発表された一連の実験が、この取り違えを2つに割って測った。
参加者にたくさんの短い物語を読ませ、しばらく置いてから新しい物語を読ませて、「これで思い出す話がありましたか」と尋ねる。新しい物語には、登場人物や場面が似ているだけのもの、関係の骨組みだけが同じで見た目はまったく違うもの、両方似ているもの、どちらでもないものが混ぜてある。
実験2の結果はこうだった。見た目が似ているだけの話が思い出された割合は .53。関係の骨組みが同じで見た目が違う話は .12。4倍以上の差がある。
ところが同じ参加者に、その組み合わせがどれくらい役に立つか、どれくらい健全な対応かを5段階で評価させると、順位はひっくり返る。骨組みが同じ組み合わせはおよそ 4.2、見た目だけ似た組み合わせは 2.70 だった。実験1でも同じ形が出ている——思い出される割合は見た目 .78 に対し骨組み .44、役に立つ度合いの評価は骨組み 4.40 に対し見た目 2.80。
つまり人は、役に立つと分かっているものを、思い出せない。見せられれば正しく評価できる。自力では出てこない。
同じ非対称は、熟達の研究にも出る。1981年に発表された物理の問題の分類実験では、初学者は問題を斜面・ばね・滑車といった見た目で分け、熟達者はエネルギー保存則やニュートンの第二法則といった、解き方を決める原理で分けた。熟達とは、知識が増えることよりも、分ける基準が見た目から骨組みへ移ることとして現れている。
使えるはずのものを、使わない
類推の実験でいちばん有名なのは、放射線の問題である。体内の腫瘍を放射線で破壊したいが、十分な強さで当てると通り道の健康な組織まで壊れる。弱くすると腫瘍が壊れない。どうするか。答えは、弱い放射線を複数の方向から同時に当てて腫瘍で合流させることだ。
1980年に発表された実験は、この問題の前に、要塞を攻める将軍の物語を読ませた。将軍は軍を小さく分け、複数の道から同時に進ませて城の前で合流させる——構造は完全に同じである。
物語を読ませ、それが役に立つかもしれないと伝えたうえで問題を出したとき、正解にあたる分割の解を出したのは実験2で76%だった。同じ実験には、解の書きぶりはそのままに、要塞を攻め落とすという問題の目標そのものを外した版もあった。将軍は攻めるのではなく行進を見せるために軍を分ける。表面の道具立てはむしろそのままで、崩れているのは骨組みのほうである。この版では49%に落ちた。物語を読ませなかった統制群は8%である。読ませれば、確かに効く。
問題はその次だ。1983年に発表された続きの研究では、物語を読ませたあと「さっきの話が使えるかもしれない」というひとことを与えなかった場合、分割の解にたどり着いたのはおよそ3割にとどまった。物語を読ませない場合がおよそ1割だから、上乗せは2割ぶんしかない。そこでひとこと告げると、合計は7割から8割に届く。
1989年の研究は、この落差を時間とともに測っている。物語を読んだ30分後に問題を出した群では、ヒントの前に解けたのは11%、ヒントの後の合計は71%。1週間後の群では、ヒントの前が7%、ヒントの後の合計が47%だった。ヒント1つで、7%が47%になる。
手元にある。使える。使えると分かれば使う。ただし、自分では取り出さない。
値切り:異分野の比喩を持ってくれば発想が飛ぶ
発想法の本や研修では、類推はたいてい入り口として売られる。異分野の事例を並べ、遠いところから比喩を借りてくれば、発想が飛ぶ——という筋書きである。
この筋書きは、難所の場所を間違えている。実験が繰り返し示してきたのは、比喩を思いつく力ではなく、すでに知っている話を、いま解いている問題の隣に置けるかどうかが壁だということだった。1987年の研究は、この壁を2つに分けている。見た目の似ていることは、思い出す段階を左右する。構造の似ていることは、思い出したあとに当てはめる段階を左右する。つまり遠い分野から借りてこようとするほど、思い出す段階の助けは薄くなる。
もう一つ、この筋書きは表面の類似を評価しない。異分野の比喩は、たいてい聞き手に「なるほど」と言わせる。だがその「なるほど」は、骨組みの対応が取れたという証拠ではなく、場面が鮮明に浮かんだという証拠であることが多い。1993年の実験が測ったのは、まさにその区別だった。思い出しやすさと、役に立つ度合いは、別々に動く。
なお、類推を構造の写像として整理する理論の枠組みは1983年に提出されており、この単位の図もその骨格を借りている。ただし枠組みは枠組みであって、実証の代わりには置かない。ここで数字を出しているのは、上に挙げた実験のほうである。
時間・変化:時間が経つほど、表面しか残らない
類推の材料は、時間とともに劣化する。ただし、均等にではない。
第一に、記憶に残りやすいのは場面のほうである。何年か前の案件について残っているのは、たいてい誰がいたか、どこでやったか、どんな雰囲気だったかで、そこで何と何がどう釣り合っていたかは薄れている。1989年の実験が30分後と1週間後で示した差は、この劣化を1週間で測ったものだ。
第二に、劣化した表面は、間違った相手を呼ぶ。似た雰囲気の案件を思い出させ、骨組みの違う手を引っぱってくる。
第三に、劣化を止める手は、思い出しやすさ側ではなく整理側にある。1989年の実験でいちばん成績がよかったのは、構造の同じ物語を2つ読み、その2つを見比べる作業をした群だった。ヒントの前に47%が解いている。他の3群はいずれも25%以下だった。2つ並べて共通点を書き出すと、場面に埋もれていた骨組みが、場面から独立した形で残る。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、遠さを目標にすることだ。遠い分野から借りるほど良い、という言い方は、思い出す段階の難しさを無視している。
第二の妨げは、対応が取れているかを確かめないことである。比喩が場を沸かせたかどうかと、骨組みが対応しているかどうかは、別々に判定できる。
ここで、この棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、ほぼすべて英語圏の大学生を対象にした実験室課題から採られている。物語は数百語、課題は数分、締切もない。実験室で数分の課題として測られたものが、締切のある本物の判断にそのまま当てはまるとは限らない。日本語での追試もほとんど無い。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、2つ並べることだ。1つの事例からは場面しか残らないが、2つ並べて共通点を書き出すと、共通していないもの——つまり場面——が自動的に落ちる。
最初の一歩は10分。いま抱えている問題を1つ選び、構造が似ていると思う別の分野を3つ挙げる。それぞれについて、登場するものが似ているだけなのか、ものどうしの関係が似ているのかを、一言で書き分ける。3つとも表面だけだったなら、それはそれで収穫である。少なくとも、使えない3つを使わずに済む。
次の単位は 180「アブダクション」——類推が2つの領域を横に結ぶ道具なら、こちらは目の前で起きた1件から、その裏側にある説明へ跳ぶ道具である。運ぶものが違い、保証の欠け方も違う。道具箱の隣の引き出しに、それは別々に入っている。
- 類推が運ぶのは、ものではなく、ものとものの関係の骨組みである。だから良し悪しは似ているかどうかではなく、どこが似ていることにしたかで決まる
- Gentner, Rattermann & Forbus 1993(Cognitive Psychology 25(4):524-575)の実験2では、見た目が似ているだけの話が思い出された割合は .53、関係の骨組みが同じで見た目の違う話は .12 だった。ところが役に立つ度合いを5段階で評価させると順位は逆転し、骨組みが同じ組み合わせがおよそ 4.2、見た目だけ似た組み合わせが 2.70 だった
- 同じ研究の実験1でも同じ形が出ている——思い出される割合は見た目 .78 に対し骨組み .44、役に立つ度合いの評価は骨組み 4.40 に対し見た目 2.80。人は、役に立つと分かっているものを自力では思い出せない
- Chi, Feltovich & Glaser 1981(Cognitive Science 5(2):121-152)の物理の問題の分類実験では、初学者は斜面やばねといった見た目で分け、熟達者はエネルギー保存則などの解き方を決める原理で分けた。熟達は、分ける基準が見た目から骨組みへ移ることとして現れる
- Gick & Holyoak 1980(Cognitive Psychology 12(3):306-355)の実験2では、構造の同じ物語を読ませ役に立つかもしれないと伝えたうえで放射線の問題を出すと76%が分割の解に達し、解の書きぶりはそのままに要塞を攻め落とすという目標を外して骨組みを崩した版では49%、物語を読ませない統制群は8%だった
- Gick & Holyoak 1983(Cognitive Psychology 15(1):1-38)では、物語を読ませても「さっきの話が使える」と告げなかった場合、分割の解に達したのはおよそ3割(物語なしはおよそ1割)にとどまり、ひとこと告げると合計は7割から8割に届いた。難所は思いつくことではなく、思い出すことである
- Catrambone & Holyoak 1989(Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 15(6):1147-1156)の実験2では、30分後の群でヒント前11%・合計71%、1週間後の群でヒント前7%・合計47%。実験1では、構造の同じ物語を2つ読んで見比べた群がヒント前に47%解き、他の3群はいずれも25%以下だった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 異分野から遠い比喩を持ってくれば発想が飛ぶ。類推の難しさは、思いつくところにある | 実験が示してきた壁は別の場所にある。Gick & Holyoak 1983 では、答えの構造をそのまま含む物語を直前に読んでいても、ひとこと告げられなければ分割の解に達したのはおよそ3割(物語なしのおよそ1割に対して)。告げるだけで7割から8割になる。Holyoak & Koh 1987 が分けたように、見た目の似ていることは思い出す段階を、構造の似ていることは当てはめる段階を左右する。遠い分野から借りようとするほど、思い出す段階の助けは薄くなる |
| 「なるほど」と思える比喩なら、構造が対応しているということだ | Gentner, Rattermann & Forbus 1993 の実験2では、見た目が似ているだけの話は .53 の割合で思い出されたのに、骨組みが同じで見た目の違う話は .12 だった。いっぽう役に立つ度合いの評価は、骨組みが同じもの およそ 4.2 に対し、見た目だけ似たもの 2.70。思い出しやすさと役に立つ度合いは別々に動く。場面が鮮明に浮かんだことは、対応が取れた証拠ではない |
| 良い事例を1つ知っていれば、必要なときに使える | Catrambone & Holyoak 1989 の実験2では、1週間後に問題を出された群がヒントの前に解けたのは7%、ヒントの後は47%だった。手元にあり、使え、使えると分かれば使うが、自分では取り出さない。同じ研究の実験1で成績がよかったのは、構造の同じ物語を2つ読んで見比べた群で、ヒントの前に47%が解いている(他の3群は25%以下)。1つではなく2つ並べたときに、場面から独立した骨組みが残る |
類推は、研修で教えるのに向いた道具である。事例を2つ並べて共通点を指させれば、部屋の全員が同時に「なるほど」と言う。講師にとってこれほど気持ちのよい瞬間はない。皮肉なのは、その「なるほど」が成立した時点で、この道具のいちばん難しい部分——いま解いている問題の隣に、どの話を置くかを自分で決める部分——が、すでに講師の側で済まされていることである。1週間後、参加者の手元に残るのは、部屋の空気と、共通点を指した講師の身ぶりのほうだ。
Q1. Gentner, Rattermann & Forbus が1993年に発表した実験2では、見た目が似ているだけの話が思い出された割合は ____ で、骨組みが同じで見た目の違う話は ____ だった。ところが役に立つ度合いの5段階評価では、骨組みが同じ組み合わせがおよそ 4.2、見た目だけ似た組み合わせが ____ と、順位が逆転する。穴埋め
Q2. Catrambone & Holyoak が1989年に発表した実験2では、物語を読んだ1週間後に放射線の問題を出された群が、ヒントの前に解けたのは ____%、ヒントの後の合計は ____% だった。30分後の群ではヒント前が11%、合計が ____% である。穴埋め
Q3. 「異分野から遠い比喩を持ってくれば発想が飛ぶ」——本文はこの言い方の何が間違っていると書いているか。Gick & Holyoak 1983 と Holyoak & Koh 1987 の内容に触れて答えよ。一問一答
Q4. Catrambone & Holyoak 1989 の実験1で、ヒントの前にいちばんよく解けた群はどんな条件だったか。その割合と、他の群との差も書け。あわせて、この結果が「最初の一歩」でどう使われているか答えよ。一問一答
Q5. Gick & Holyoak 1980 の実験2について、本文の内容に合うものはどれか。選択
いま抱えている問題を1つ選び、紙かメモアプリに1行で書く。仕事でも生活でも、規模は問わない。次に、構造が似ていると思う別の分野を3つ挙げる。分野は何でもよい——スポーツ、料理、乗り物の運行、自然現象、過去に自分がやった別の仕事など。3つ書けたら、それぞれについて2つのことを1行ずつ記録する。1つめ、そこに出てくるものが自分の問題に出てくるものと似ているか(登場人物・道具・場面の似かた)。2つめ、ものとものの関係が似ているか(何と何が、どう釣り合っているか)。最後に、3つそれぞれに「表面だけ」「骨組みも」のどちらかを付ける。3つとも「表面だけ」で構わない。誰かに見せる必要はなく、誰かに意見を求める必要もない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Gentner D., Rattermann M.J., Forbus K.D. (1993) 'The roles of similarity in transfer: Separating retrievability from inferential soundness', Cognitive Psychology 25(4):524-575 — www.sciencedirect.com
- Gick M.L., Holyoak K.J. (1980) 'Analogical problem solving', Cognitive Psychology 12(3):306-355 — www.sciencedirect.com
- Gick M.L., Holyoak K.J. (1983) 'Schema induction and analogical transfer', Cognitive Psychology 15(1):1-38 — www.sciencedirect.com
- Catrambone R., Holyoak K.J. (1989) 'Overcoming contextual limitations on problem-solving transfer', Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 15(6):1147-1156 — psycnet.apa.org
- Holyoak K.J., Koh K. (1987) 'Surface and structural similarity in analogical transfer', Memory & Cognition 15(4):332-340 — link.springer.com
- Chi M.T.H., Feltovich P.J., Glaser R. (1981) 'Categorization and representation of physics problems by experts and novices', Cognitive Science 5(2):121-152 — onlinelibrary.wiley.com