たくさん出しても、当たりの割合は動かない。動くのは当たりの本数だ
アイデアは質より量だ、とよく言われる。だがこの助言は、たいてい根拠を添えずに配られる。根拠のほうを見にいくと、量が質を生むのではなく、量は質の出る場所を増やすだけ、という、もっと地味な形をしていた。
量という道具は、何をする道具か
発散思考は、ひとつの問いに対してできるだけ多くの答えを並べる道具である。この道具がする仕事は、はっきりしている——選択肢が1つか2つしかない状態のまま、そのどれかを選ばされる、という事態を止めること。それだけだ。良い案を出す道具ではない。良い案が入りうる箱の数を増やす道具である。
この区別が曖昧なまま、「アイデアは質より量」という助言が配られる。配るときに根拠が添えられることはほとんどない。だから根拠のほうを先に見る。
先に断っておくと、ここでは作品づくりの話をしない。何を作るか、どう仕上げるかは芸道の棚の持ち場である。ここで扱うのは、件数という一つの変数と、その変数が何と結びついているかだけだ。
テストは、何を予測したか
創造性を測るとされる道具の代表格に、1966年に米国で標準化された図形と言語の課題群がある。丸をいくつも渡して絵に仕上げさせ、出てきた答えを件数・種類の多さ・珍しさ・描き込みの細かさで採点する。この採点方式が、いまも発想力研修の下敷きになっている。
では、その得点は何を当てるのか。2008年に Journal of Creative Behavior へ出たメタ分析が、これを二方向から集計している。発散思考テストの得点と創造的達成の相関を扱ったのは27研究・47,197人で、相関は .216 だった。同じ論文が知能テストと創造的達成の関係も17研究・5,544人で集計しており、そちらは .167 である。書かれている結論は「発散思考テストのほうがいくらか強く予測する」であって、「よく予測する」ではない。.216 という数字は、当たった人の中に外れた人がたくさん混ざる大きさである。
もっと長い時間で見た報告もある。2010年に Creativity Research Journal へ出た50年追跡では、子どものころのテスト得点は、本人が自分の人生で達成したと申告する事柄とはほどほどに関係し、外から見て確認できる公的な達成とは関係しなかった。
つまり、この道具で測れているのは、その場で何件出せるかであって、10年後に何が出るかではない。研修の売り文句が「創造性を測ります」であるのに対し、原典が言っているのは「件数を測ります」である。この二つは、同じ言葉で語られている。
等確率則——割合は動かない、本数が動く
では量そのものはどう効くのか。1997年に Psychological Review へ出たキャリア軌跡のモデルが、この問いに一つの形を与えた。等確率則と呼ばれる。同じ一人の作り手の中では、成功作が全生産物に占める割合はキャリアを通じてほぼ一定であり、したがって成功作の数は総生産量に比例する、という主張である。原典の言い方はもっと素っ気なくて、総生産物が多いほど成功作も多く、そして失敗作も多い、と書いてある。
この主張の効きどころは、裏返したときに出る。割合が一定だということは、割合を上げにいく操作は、この法則の外にあるということだ。多く出せば当たりの本数は増える。だが当たりの率は上がらない。だから「量をこなせば質が上がる」は、この法則からは出てこない。出てくるのは「量をこなせば当たりの本数が増え、同時に外れの本数も増える」である。
原典自身、割合の一定性は完全ではないと書いている。作り手によって、生涯を通じた割合には幅がある。等確率則は、個人差を消す法則ではなく、一人の中で時間を追ったときに割合が動きにくいという法則である。
実験室でも、同じ形の関係は出る。2015年に Frontiers in Psychology へ出た米国・ニューメキシコ大学の研究では、16歳から31歳までの246人に抽象的な図形の説明をできるだけ多く書かせ、出てきた説明を、書き手が誰かを知らない評価者が採点した。件数と、創造的と採点された量の相関は .73 だった。たくさん書いた人は、良いと採点された説明も多く持っていた。良い説明の割合が高かったわけではない。
10分の中で起きていること
件数は、時間の中で一様には出ない。2012年に Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts へ出た研究では、133人に10分間、日用品の変わった使い道を挙げさせ、一つ一つに時刻の記録を付けた。
出てきた形はこうだった。1分あたりの件数は最初の1分が最も多く、そのあと急に落ちる。いっぽう評価された創造性は時間とともに上がり、終わりのほうでゆるやかになる。つまり、最初に出るのは早く取り出せるもので、後から出るのは探しにいって見つかるものである。
ここに、発散思考という道具の実務的な意味がある。この道具は「良いものを出せ」と命じる道具ではなく、早く出るものを出し切るまで手を止めないための道具である。3件で止めると、3件はほぼ全部が最初の1分の産物になる。
時間・変化:得点は動いた。意味のほうは動いていない
2011年に Creativity Research Journal へ出た分析は、米国の同じテストの標準化データを、1966年から2008年までの6時点、272,599人ぶん並べた。得点は1990年以降に下がっていて、とくに描き込みの細かさの下がり方が大きい。
この結果は、しばしば「創造性が失われつつある」という見出しで運ばれる。だが、ここまで見たとおり、この得点が長期の達成をどれだけ当てるかは、はっきりしていない。予測力が .216 の物差しの平均値が下がったとき、何が下がったのかは、物差しの側からは言えない。得点は動いた。得点の意味のほうは、1966年から動いていない。
この棚が16回くり返している手つきの一つがここにも出る。実験室と研修室で測れたものは、部屋を出たとたんに同じ意味を持たない。物差しの目盛りが細かくなっても、その物差しが何を当てるかは別に確かめないといけない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、件数を数える前に良し悪しを言うことである。10分の課題で見たとおり、後半に出るものほど珍しくなる。前半で「それは筋が悪い」と言うと、後半が来ない。
第二の妨げは、件数の目標を人と比べることだ。等確率則が言うのは一人の中での関係であって、人と人のあいだの関係ではない。他人より多く出したかどうかは、この道具が答えられる問いではない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた証拠は、ほとんどが英語圏の大学生を対象にした実験室課題で採られている。10分の課題も、大学の一室で行われたものだ。実験室で数分の課題として測られたものが、締切のある本物の判断にそのまま当てはまるとは限らない。日本語での追試はほとんど見当たらない。50年追跡のような長い研究は貴重だが、追跡できた人のデータは残り、途中で連絡が取れなくなった人のデータは残らない。
助けるのは、時間を先に決めることだ。件数の目標ではなく、時間の長さを決める。10分と決めれば、最初の1分で出るものを出し切ったあとの9分が確保される。
最初の一歩は10分。問いを一つ決めて、思いつくものを書けるだけ書き、最後に件数だけ数える。良し悪しは今日は付けない。
次の単位は 188「ラテラル思考」——発散思考が件数を増やす道具なら、こちらは、増やそうとしても同じ場所しか探せなくなる現象そのものを扱う道具である。引き出しは隣にあり、どちらから開けてもかまわない。
- 創造性を測るとされる発散思考テストの予測力について、Kim 2008(Journal of Creative Behavior 42(2):106-130)のメタ分析は、27研究・47,197人で発散思考テスト得点と創造的達成の相関を .216、17研究・5,544人で知能テスト得点と創造的達成の相関を .167 と報告した。前者のほうが強いが、どちらも控えめな大きさである
- Runco, Millar, Acar & Cramond 2010(Creativity Research Journal 22(4):361-368)の50年追跡では、子どものころの創造性テスト得点は本人が申告する個人的な達成とはほどほどに関係したが、外から確認できる公的な達成とは関係しなかった
- Simonton 1997(Psychological Review 104(1):66-89)の等確率則は、同じ作り手の中では成功作が全生産物に占める割合がキャリアを通じてほぼ一定で、したがって成功作の数は総生産量に比例すると述べる。原典の言い方では、総生産物が多いほど成功作も多く、失敗作も多い
- 等確率則が言うのは割合の一定性なので、量を増やしても当たりの率は上がらない。増えるのは当たりの本数と、同時に外れの本数である。「量をこなせば質が上がる」はこの法則からは出てこない
- Jung ら 2015(Frontiers in Psychology 6:864)は米国・ニューメキシコ大学で16歳から31歳までの246人に抽象図形の説明を多数書かせ、書き手を知らない評価者の採点との相関を調べた。件数と創造的と採点された量の相関は .73 だった
- Beaty & Silvia 2012(Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts 6(4):309-319)は133人に10分間の変わった使い道の課題を課し、各回答に時刻を記録した。1分あたりの件数は最初の1分が最も多くその後急に落ち、評価された創造性は時間とともに上がって終盤でゆるやかになった
- Kim 2011(Creativity Research Journal 23(4):285-295)は米国の同テストの標準化データを1966年から2008年までの6時点・272,599人ぶん並べ、1990年以降の得点低下、とくに描き込みの細かさの大きな低下を報告した。ただし予測力が .216 の物差しの平均が下がったとき、何が下がったのかは物差しの側からは言えない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 創造性テストの点が高い人は、創造的な人である | Kim 2008 のメタ分析は、27研究・47,197人で発散思考テスト得点と創造的達成の相関を .216 と報告した。Runco ら 2010 の50年追跡でも、テスト得点は本人が申告する個人的な達成とはほどほどに関係したが、公的な達成とは関係しなかった。測れているのは、その場で何件出せるかである。研修の売り文句は「創造性を測ります」だが、原典が言っているのは「件数を測ります」だ |
| 量をこなせば、やがて質も上がる | Simonton 1997 の等確率則が述べるのは逆で、同じ人の中では成功作の割合がほぼ一定だということである。だから量を増やして増えるのは当たりの本数であり、同時に外れの本数も増える。当たりの率は上がらない。量は質の代わりではなく、質が出うる場所を増やす操作である |
| 良い案は最初に思いつく | Beaty & Silvia 2012 の10分課題では、1分あたりの件数は最初の1分が最も多く、そのあと急に落ちた。いっぽう評価された創造性は時間とともに上がり、終盤でゆるやかになった。早く出るものは早く取り出せるものであって、探しにいって見つかるものは後から出る。3件で止めると、その3件はほぼ最初の1分の産物になる |
件数を数えるのは、たいへん都合が悪い。10分で7件しか出なかったことが記録に残ってしまうし、そのうち5件が最初の1分に出ていたことまで残る。だから発想の研修では、件数ではなく雰囲気が測られる。参加者の満足度は高く、付箋は色とりどりで、翌週には何も残らない。皮肉なことに、この道具がいちばん正直に働くのは、誰にも見せない紙の上で、黙って正の字を書いているときである。
Q1. Kim 2008 のメタ分析が報告した、発散思考テスト得点と創造的達成の相関はいくつか。研究数と人数も答えよ。また、この数字から本文はこの物差しについて何と言っているか。一問一答
Q2. Simonton 1997 の等確率則を、本文の言い方で説明せよ。そこから「量をこなせば質が上がる」が出てこないのはなぜか。一問一答
Q3. Beaty & Silvia 2012 の10分間の課題で観察された形として、本文の記述に合うものはどれか。選択
Q4. Kim 2011 が報告した、米国の創造性テスト得点の1990年以降の低下について、本文はどう扱っているか。選択
Q5. 本文が示した「10分の課題の中で起きること」を、時間の順に並べよ。(A)探しにいって見つかる種類の答えが出はじめる(B)早く取り出せる答えが次々に出る(C)1分あたりの件数が急に落ちる(D)評価された創造性の上がり方がゆるやかになる並べ替え
自分にとって今いちばん引っかかっている問いを1つ決めて、手元の紙かメモアプリに書く。たとえば「今月の週末の使い道」「玄関がすぐ散らかる件の対処」「来月の予定の詰め方」など、自分の手元で完結するものにする。そこから10分だけ時間を計り、思いつく選択肢を、良し悪しをいっさい判断せずに書けるだけ書く。書いている途中で「これは筋が悪い」と思っても、消さずに残す。10分が過ぎたら、書けた件数を数えて数字を1つ記録する。ついでに、最初の1分で何件書けていたかも分かれば書き添える。誰にも見せない。他人と件数を比べない——等確率則が述べるのは一人の中での関係であって、人と人のあいだの関係ではないからだ。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Kim K.H. (2008) 'Meta-Analyses of the Relationship of Creative Achievement to Both IQ and Divergent Thinking Test Scores', The Journal of Creative Behavior 42(2):106-130 — onlinelibrary.wiley.com
- Runco M.A., Millar G., Acar S., Cramond B. (2010) 'Torrance Tests of Creative Thinking as Predictors of Personal and Public Achievement: A Fifty-Year Follow-Up', Creativity Research Journal 22(4):361-368 — www.tandfonline.com
- Simonton D.K. (1997) 'Creative Productivity: A Predictive and Explanatory Model of Career Trajectories and Landmarks', Psychological Review 104(1):66-89 — www.semanticscholar.org
- Jung R.E., Wertz C.J., Meadows C.A., Ryman S.G., Vakhtin A.A., Flores R.A. (2015) 'Quantity yields quality when it comes to creativity: a brain and behavioral test of the equal-odds rule', Frontiers in Psychology 6:864 — www.frontiersin.org
- Beaty R.E., Silvia P.J. (2012) 'Why Do Ideas Get More Creative Across Time? An Executive Interpretation of the Serial Order Effect in Divergent Thinking Tasks', Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts 6(4):309-319 — pure.psu.edu
- Kim K.H. (2011) 'The Creativity Crisis: The Decrease in Creative Thinking Scores on the Torrance Tests of Creative Thinking', Creativity Research Journal 23(4):285-295 — www.tandfonline.com