動いた量は、決まるところまでしか届かない
たくさん動いた人は、たしかに決まりやすい。ところが標本を7倍にして測り直したメタ分析は、その量が就いた仕事の質をまったく予測しなかったと書いている。しかも内定の数との相関は、20年で半分になった。
前の単位で、仕事の情報がどの経路から届くかを扱った。ここでは、集めた情報を持って実際に応募し、選考を進める段に入る。
先に断っておく。やると決めたことを実際にやる、という一般的な自己管理の話は、学業の棚と開運の棚と病気の棚が扱い切っている。 ここではその枠組みを主役にしない。見るのは一点——動いた量は、何に効いて、何に効かないのかである。
動いた量は、たしかに効く
2001年に *Journal of Applied Psychology* 86(5) へ出たメタ分析が、この領域の出発点になっている。職探しの行動の量と、その結果の関係を集計した。
補正後の相関はこうだった。就職できたかどうかとの相関は .21(21件・5,818人)。受け取った内定の数との相関は .28(11件・1,485人)。探索が続いた期間との相関は −.14(9件・3,243人)。動いた量が多いほど決まりやすく、内定の数が増え、期間が短くなる。素直な結果である。
ここで一つ、押さえておきたいことがある。このメタ分析の従属変数に、給与も、満足度も、就いた仕事の質も含まれていない。 測られたのは「決まったかどうか」と「いくつ決まったか」と「どれだけかかったか」だけである。
これは欠陥ではない。当時、集められるだけのデータを集めた結果である。ただし、この集計を根拠に「動けば良い仕事に就ける」と言うことはできない。良い仕事に就けたかどうかは、そもそも測られていないからだ。
20年後、標本を7倍にして測り直す
2021年に同じ誌の 106(5) へ出たメタ分析は、378の独立標本、のべ165,933人を集めた。2001年の集計より、はるかに大きい。
結果はこうなる。面接の数との相関は .23(26件・17,380人)。就職できたかどうかとの相関は .19(87件・41,114人)。内定の数との相関は .14(29件・7,995人)。そして、この論文の要旨が名指しで書いている一句がある——全体としての職探しの強度は、雇用の質を予測できなかった。
数字で言えば、就いた仕事の質との相関は .06(40件・11,090人)である。
もう一つ、目を引く動きがある。内定の数との相関は、2001年の .28 から2021年の .14 へ、20年で半分になった。 標本が7倍になり、集める範囲が広がったところで、値は縮んだ。
量ではなく質、という提案が先にあった
面白いのは順序である。2013年、同じ第一著者が「量ではなく質だ」と書いていた。 *Organizational Psychology Review* 3(1) に出たその論文の書き出しは、既存の理論と研究が職探しの一つの側面、すなわち強度と労力(つまり職探しの量)に集中してきたと述べ、そのうえで職探しの質の重要性を主張することでこの理論を拡張する、と宣言している。
その時点では、まだ概念の提案である。効果を測ってはいない。8年後のメタ分析が、その提案の根拠になる数字を出した。 量の指標は雇用の質を予測せず、質の指標のほうが有望だ、と。
理論から検証へ、一本の線が引かれている。ただしこの線が示しているのは、質が有効だと確かめられた、ということではない。確かめられたのは、量が届かない場所があるという一点である。
ついでに言うと、この論文がいう「質」は、気合いや丁寧さのことではない。自分の状態を確かめながら手続きを組み立てていく過程の質と、その結果として出てくる行動や産物の質に分けられている。心構えの強さではなく、手続きの中身の話である。
結果の一部は、動いた量の外側で決まっている
ここで、量の話がまったく届かないところを見ておく。
2001年から2002年にかけて、米国のボストンとシカゴで行われた実験がある。新聞の求人広告に、架空の履歴書を送る。 中身は同じで、名前だけを、その地域で白人に多い名前と、アフリカ系に多い名前に無作為に割り当てた。
1,300件を超える求人広告に対して、約5,000通の履歴書が送られた。 結果は、白人に多い名前の履歴書がコールバックを受ける確率が10.08%、同等の履歴書でアフリカ系に多い名前のものが6.70%。差は3.35パーセントポイント、割合にして50%であり、論文はこれが名前の操作だけに帰せられると書いている。
★この10.08%と6.70%という値は、この研究の作業論文版(2003年7月)の記述である。 2004年に *American Economic Review* 94(4) に載った掲載版の要旨は、割合の形ではなく「白人に多い名前は50%多くコールバックを受ける」と書いている。50%という差の大きさは、両方の版で一致している。
同じ設計の実験を集めたメタ分析も出ている。2017年に *PNAS* 114(41) へ出たもので、要旨はこう書いている——1989年以降、白人は平均してアフリカ系より36%多く、ラテン系より24%多くコールバックを受けている。 そして、過去25年間、アフリカ系に対する採用差別の水準に変化は見られない。 ラテン系については、わずかな減少の証拠があるという。
日本ではどうか。同じ設計の監査実験——実際に履歴書を送って結果を比べる研究——は、探した範囲では見つからなかった。 探したのは、2005年から2016年のあいだに行われた約90件の同種の実験を網羅した一覧である。その一覧に載っている実施国はアルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、中国、キプロス、チェコ、フランス、ドイツ、ギリシャ、インド、アイルランド、イスラエル、イタリア、マレーシア、メキシコ、オランダ、ノルウェー、ペルー、ポーランド、スペイン、スウェーデン、英国、米国であり、アジアでの実施は全体で7件、日本は含まれていない。だから「日本では起きていない」とは書かない。「日本ではまだ確かめられていない」と書く。
ここでは事実の提示に留める。 制度をどうすべきかは、この棚の持ち場ではない。書いておきたいのは一点だけである——結果の一部は、あなたが何通送ったかとは無関係のところで決まっている。
時間・変化:量の管理から、質の管理へ
順番はこうである。まず、強度を測るメタ分析が出る(2001年)。次に、その枠組みの中で「量に集中しすぎている」という概念的な提案が出る(2013年)。次に、標本を7倍にした測り直しが出て、量が雇用の質を予測しないことが示される(2021年)。そのあいだに、内定の数との相関は .28 から .14 へ半減している。
この順番から出てくる実務的な含意は一つだけである。数えるものを、送った件数から、進んだ手続きの中身へ移す。 送った件数は、決まったかどうかには効く。その先には効かない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、送った件数を、自分の努力の証明として扱うことである。件数は努力の量をよく表すが、この単位で見たかぎり、就いた仕事の質とはほとんど結びついていない(相関 .06)。件数が増えないときに自分を責めても、増えたときに安心しても、どちらも質の側の情報にはならない。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の求職者を対象にしたものが大半で、監査実験は米国の特定の都市と職種で行われている。日本の労働市場を対象にした同じ設計の研究は、探した範囲では見つからなかった。 効果は短い期間で測られたものが多い。そして——もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。 応募に時間を割ける状態にあること自体が、その人の条件である。
助けるのは、かけた時間と、進んだ手続きの件数を、並べて記録するという一手である。並べると、時間が増えても手続きが進まない週があることが見える。そこが、量では動かない場所である。
そして、決まらない週があったときに、そこから読み取れることは限られている。この単位で見た証拠は、結果の一部が本人の行動の外側で決まっていることを、実際に測って示している。 決まらなかったという事実から、努力の量を逆算することはできない。
最初の一歩は5分。直近1週間で応募や準備にかけた時間と、その結果として進んだ手続きの件数を並べて記録する。
次の単位は 096「不確実性への耐性と修正力」——動いた先が外れたとき、どこへ戻るのかという段へ進む。
- 米国・2001年に Journal of Applied Psychology 86(5) へ出たメタ分析は、職探しの行動の量と結果の補正後の相関を、就職できたか .21(21件・5,818人)、内定の数 .28(11件・1,485人)、探索が続いた期間 −.14(9件・3,243人)と報告した。給与も満足度も就いた仕事の質も、このメタ分析の従属変数に含まれていない
- 2021年に同じ誌の 106(5) へ出たメタ分析は378の独立標本・のべ165,933人を集め、面接の数 .23(26件・17,380人)、就職できたか .19(87件・41,114人)、内定の数 .14(29件・7,995人)と報告した。要旨には、全体としての職探しの強度は雇用の質を予測できなかった、という一句がある。就いた仕事の質との相関は .06(40件・11,090人)である
- 内定の数との補正後の相関は、2001年の .28 から2021年の .14 へ、20年で半分になった。標本が7倍になり、集める範囲が広がったところで値は縮んでいる
- 2013年に Organizational Psychology Review 3(1) へ出た概念論文は、既存の理論と研究が職探しの一つの側面すなわち強度と労力(職探しの量)に集中してきたと述べ、職探しの質の重要性を主張することで理論を拡張すると宣言した。同じ第一著者の8年後のメタ分析が、その提案の根拠になる数字を出している
- 2001年から2002年に米国のボストンとシカゴで行われた監査実験は、1,300件を超える求人広告に約5,000通の架空の履歴書を送り、白人に多い名前のコールバック率10.08%、同等の履歴書でアフリカ系に多い名前は6.70%、差は3.35パーセントポイント=50%で、名前の操作だけに帰せられると報告した。★この割合は作業論文版(2003年)の値で、掲載版の要旨は50%多いという形で書いている
- 2017年に PNAS 114(41) へ出た同種の実験のメタ分析は、1989年以降、白人が平均してアフリカ系より36%多く、ラテン系より24%多くコールバックを受けており、過去25年間アフリカ系に対する採用差別の水準に変化は見られないと報告している
- 日本で同じ設計の監査実験は、探した範囲では見つからなかった。2005年から2016年に行われた約90件の同種の実験を網羅した一覧に載っている実施国に日本は含まれておらず、アジアでの実施は全体で7件である。だから日本では起きていないとは書かない。日本ではまだ確かめられていない、と書く
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 応募数を増やして計画的に動けば、良い仕事に就ける | 動いた量は、決まったかどうかには効いている。米国・2021年の378標本・165,933人のメタ分析で、面接の数との補正後の相関は .23、就職できたかどうかとは .19 だった。ところが同じ集計で、就いた仕事の質との相関は .06 であり、要旨は、全体としての職探しの強度は雇用の質を予測できなかった、と書いている。しかも内定の数との相関は、2001年の .28 から2021年の .14 へ半分に縮んでいる。量は、決まるところまでしか届かない |
| 結果は、自分がどれだけ動いたかで決まる | 米国のボストンとシカゴで2001年から2002年に行われた監査実験は、内容がまったく同じ履歴書に、その地域で白人に多い名前とアフリカ系に多い名前を無作為に割り当てて、1,300件を超える求人広告に約5,000通を送った。コールバック率は10.08%と6.70%で、差は3.35パーセントポイント=50%。論文はこれを名前の操作だけに帰せられると書いている。動いた量と無関係に決まっている部分が、実際に測られている。日本で同じ設計の実験は、探した範囲では見つからなかった |
| 職探しの質という言葉は、要するに気合いや丁寧さのことだ | 2013年の概念論文は、職探しの質を、自己調整の過程の質と、その結果として出てくる行動や産物の質に分けている。心構えの強さではなく、手続きの中身の話である。そして重要なのは、質が有効だと確かめられたわけではない、という点である。2021年のメタ分析が確かめたのは、量が雇用の質に届かないという一点であり、質の側は有望な構成概念として今後の研究に回されている |
応募の件数が便利なのは、それが唯一その日のうちに増やせる数字だからである。質のほうは、その日には増えない。手続きが進んだかどうかは相手の都合で決まり、就いた仕事が良かったかどうかは何年かしてからでないと分からない。だから助言はいつも件数の側に寄る。数えられるものだけが管理の対象になり、管理の対象になったものだけが努力と呼ばれる。名前を入れ替えるだけで3.35パーセントポイント動く世界で、件数は、こちらの側に残された数少ない数字ではある。ただし、それが何に届いているかは、もう分かっている。
Q1. 2021年に378の独立標本・のべ165,933人を集めたメタ分析では、職探しの強度と面接の数との補正後の相関は ____、就職できたかどうかとは ____、そして就いた仕事の質とは ____ だった。穴埋め
Q2. 内定の数と職探しの強度との補正後の相関は、2001年の集計と2021年の集計でそれぞれいくつだったか。標本の大きさの変化とあわせて答えよ。一問一答
Q3. 米国のボストンとシカゴで行われた監査実験で報告されたコールバック率の組み合わせはどれか。選択
Q4. 日本における同じ設計の監査実験について、本文はどう書いているか。選択
Q5. 2013年に出た「量ではなく質だ」という論文について、本文の説明として正しいものはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。直近1週間を1日ずつ7行に分ける。各行に二つだけ書く。左に、その日に応募や準備にかけた時間を分単位で書く。書類を書いた時間、募集要項を読んだ時間、下調べをした時間を含めてよい。右に、その日に進んだ手続きの件数を書く。送った、返事が来た、日程が決まった、といった、状態が一つ動いた出来事を1件と数える。0分の日は0、0件の日は0と書く。7行書き終えたら、時間が長いのに件数が0だった日に印を1つ付ける。いま応募していない場合は、直近1週間で継続的に取り組んだ活動を1つ選び、同じ形で『かけた時間』と『状態が一つ動いた件数』を記録すればよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Kanfer R., Wanberg C.R., Kantrowitz T.M. (2001) 'Job search and employment: A personality-motivational analysis and meta-analytic review', Journal of Applied Psychology 86(5):837-855, doi:10.1037/0021-9010.86.5.837 — doi.org
- van Hooft E.A.J., Kammeyer-Mueller J.D., Wanberg C.R., Kanfer R., Basbug G. (2021) 'Job search and employment success: A quantitative review and future research agenda', Journal of Applied Psychology 106(5):674-713, doi:10.1037/apl0000675 — doi.org
- van Hooft E.A.J., Wanberg C.R., van Hoye G. (2013) 'Moving beyond job search quantity: Towards a conceptualization and self-regulatory framework of job search quality', Organizational Psychology Review 3(1):3-40, doi:10.1177/2041386612456033 — doi.org
- Bertrand M., Mullainathan S. (2004) 'Are Emily and Greg More Employable Than Lakisha and Jamal? A Field Experiment on Labor Market Discrimination', American Economic Review 94(4):991-1013, doi:10.1257/0002828042002561 — doi.org
- Quillian L., Pager D., Hexel O., Midtbøen A.H. (2017) 'Meta-analysis of field experiments shows no change in racial discrimination in hiring over time', Proceedings of the National Academy of Sciences 114(41):10870-10875, doi:10.1073/pnas.1706255114 — doi.org
- Baert S. (2017) 'Hiring Discrimination: An Overview of (Almost) All Correspondence Experiments Since 2005', IZA Discussion Paper No. 10738 — docs.iza.org