人づての就職が良いのは本当だった。良くなっている場所が、言われているのと違う
人づてで決まった仕事は良い、と言われる。米国の3業種9社の人事データで測ると、ふつうの生産性指標では差がほとんど無かった。良くなっているのは、辞めにくさと、めったに起きないが影響の大きい出来事のほうである。
前の単位で、自分のことを人にどう伝えるかを扱った。伝える相手は、どこかから見つけてこなければならない。この単位は、その経路のほうの話である。
先に断っておく。弱いつながりと、人と人のあいだの空白という枠組みは、友達の棚と開運の棚が扱い切っている。 ここではその枠組みを主役にしない。代わりに一点だけを見る——「人づてで決まった」という報告の、効いている中身は何かである。
人づてで決まった、という報告の中身
2015年に *The Quarterly Journal of Economics* 130(2) へ出た研究は、米国の3業種9社——コールセンター、運送、技術職——の人事データを使っている。紹介経由で入った人と、そうでない人を、同じ会社の同じ職で比べた。
掲載版の要旨は、こう書いている。紹介された応募者は採用されやすく、提示を受け入れやすい。技能の特徴はどちらも似ているのに、である。そして——紹介経由の人は、ほとんどの指標では、そうでない人と似た生産性を示す。 差が出たのは、運送での事故の少なさと、技術職での特許の多さ。そして辞めにくさと、わずかに高い賃金だった。
同じ研究の作業論文版——2013年に出た、題名も違う版である——には、割合が書かれている。紹介経由の人は10〜30%辞めにくく、防げたはずの事故が12%少なく、特許を出す確率が約20%高い。 ★これらの割合は作業論文版の数値であり、掲載版の要旨には割合の形では出てこない。 掲載版で確認できるのは、方向と、「ほとんどの指標では差がない」という一句である。
つまり、人づての就職が「良い結果になる」と言われるとき、その良さは全体の底上げではない。ふつうの成績指標では差がほとんど無く、めったに起きないが影響の大きい出来事と、辞めるかどうかのところに偏っている。
採用する側の選抜を、実験で止めてみる
ここには厄介な問題がある。紹介経由の人が良く見えるのは、紹介があるという理由で採用側が甘く見ているからかもしれない。だとすれば、差は本人の性質ではなく、選抜のしかたの産物である。
2016年に *Journal of Political Economy* 124(6) へ出た研究は、そこを実験で止めた。オンラインの労働市場で三つのフィールド実験を行い、時給3ドル以下で応募した人を、紹介の有無にかかわらず全員採用した。 採用する側の目利きを、設計から抜いたのである。
結果はこうだった。仕事の継続に再応募したのは、紹介経由の82%。紹介の無い人は、それより20パーセントポイント低い。しかも、履歴書から取れる属性を統制変数として足しても、紹介の係数はほとんど動かなかった。論文はそれを、紹介が持っている情報の大半は、履歴書からは見えなかったという意味で書いている。
そして、もう一つ。紹介した本人と組ませたとき、チームの設問に同じ答えを出す割合は、他人の紹介者と組ませたときより29パーセントポイント高かった。 一方、紹介者に見られていると伝える条件——監視の経路——では、成績にも離職にも差が出なかった。
この研究は、紹介に情報としての価値があることを支持する側である。 向きを間違えてはいけない。ただし支持されたのは、履歴書に出てこない質の情報と、紹介者と組んだときの噛み合い方であって、能力一般の証明ではない。
効かなかった経路のほうも、書いておく価値がある。監視の経路に効果が無かったというのは、否定の結果である。否定の結果は引用されにくい。ところがここで落ちたのは、人づての採用を勧めるときにいちばんよく持ち出される説明——紹介者に顔向けできないから、紹介された人はまじめに働く——そのものである。実験は、紹介した人が成績を見ていると伝える条件をわざわざ作り、それでも差が出ないことを確認した。義理立てで人は働かない、と読める。 少なくとも、この設計で測れた範囲では働かなかった。人づてを勧める文章がこの説明を使っているのを見かけたら、その説明だけは、実験で一度落ちていると思ってよい。
ところが、人づてを増やすこと自体は
2000年に *Journal of Applied Psychology* 85(4) へ出た研究は、失業中の人を対象に、人づてで情報や助言を得ようとする行動の量を測っている。外向性と誠実性は、その量とも、他の職探しの方法の量とも結びついていた。その行動への構え——やってみて気が重くならないかどうか——は、性格の効果を超えて量を予測した。
ところが結果のほうである。人づての行動の量は、他の職探しの方法を考慮に入れると、失業給付を使い切ったかどうかにも、再就職の速さにも、就いた仕事の満足にも、上乗せの予測をしなかった。
「とにかく人に会う数を増やせ」という助言が、少なくともこの研究では支持されていない。効いていたのは量ではなく、紹介という関係の中に入っている情報のほうだった。
ただし「上乗せの予測をしない」という言い方は、丁寧に読む必要がある。人づてに動くことが無意味だった、という意味ではない。 職探しの方法をひととおり数え上げたうえで、そのうち人づての分だけを取り出したとき、残りの方法が説明していない部分を、新たに説明しなかったということである。人づてに動く人は、たいてい他の方法でも動いている。動く量そのものが重なっているので、人づての分だけを抜き出しても、新しい情報が出てこない。 助言の形に言い直すと、こうなる——人に会った回数を、職探しの進み具合の代わりに使わないほうがよい。 会った回数は、動いた記録ではある。ただしこの研究では、結果の予測にはならなかった。
評価が集まってくる経路そのものが偏っている
働く場所を人づてで調べるとき、いまは公開された評価が混ざる。その評価の集まり方に何が起きているかを、2021年に *Journal of Experimental Psychology: Applied* 27(2) へ出た研究が測っている。
論文はまず、既存の研究の指摘を確認する——オンラインの評価はしばしば選択バイアスを抱えている。極端な意見を持つ人のほうが、穏当な意見の人より、それを共有する動機が強いからである。そして、雇い主に腹を立てている人は、同じように観察される特徴を持つが無関心な人より、書き込んで感情を吐き出しやすいとも述べている。
数字はこうなる。自発的に書かれた評価は、報酬を伴う評価にくらべ、最低評価になる確率が1.4パーセントポイント高く、最高評価になる確率が4.3パーセントポイント高い。(この割合は、同じ研究の作業論文版で確認した値である。)
この棚が最初に置いた手つきが、そのまま出てくる。 就職の情報は、決まった人と、辞めた人の側からしか書かれない。穏当に働き続けている人の分は、最初から集まっていない。 そして、この偏りは読む側では直せない。 星の数を平均しても、書かなかった人の分は戻ってこない。読めるのは書く動機を持った人の像であって、職場の像ではない。
紹介は似た人を増やすのか——向きが揃わない
「紹介を使うと、いまいる人と似た人ばかりが集まる」という一般命題は、証拠の向きが揃っていない。
2005年に *American Journal of Sociology* 111(3) へ出た研究は、あるコールセンターの採用過程を、応募の前から追いかけた。応募する前の選択、似た者どうしがつながる性質、そして選考する側の選択——その三つすべてが、この職の性別の偏りに寄与していたと報告している。要旨自身がもう一つ書いている。採用後の集団のデータから採用前の過程を推し量ると、誤った結論になりうる。
ところが、同じ研究者を含むチームが2006年に *American Sociological Review* 71(1) へ出した研究は、人種について、この設定では、こうしたネットワークの要因が少数派を雇用から切り離しているという証拠は乏しいと結論している。
だから断定しない。 少なくとも性別については、採用の前の段階で偏りを生む機構が観察されている。人種については、同じチームが別の職場で調べて、その設定では乏しいと報告している。どちらの結果も、一つの職場の話である。
時間・変化:「紹介は良い」が縮んでいった順番
順番はこうである。まず、紹介経由の人は成績が良いという観察がある。次に、指標を分けて数え直すと、ふつうの指標では差が消える。次に、採用側の選抜を実験で止めると、残るのは辞めにくさと紹介者と組んだときの噛み合い方になる。そして、人づての行動の量そのものは、他の方法を考慮に入れると上乗せの予測をしない。
縮んでいく向きにしか進まない。逆向き——数え直したら効果がもっと広かった——という報告には、この領域では行き当たらなかった。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、経路を、数えるべき成果として扱うことである。この単位で見たかぎり、効いていたのは会った人数ではなく、履歴書からは見えない情報が一緒に渡ったかどうかだった。人数は、そのための代理でしかない。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の特定の業種の人事データ、オンラインの労働市場、そして米国の失業者の調査から採られている。日本の労働市場を対象にした同じ設計の査読研究はごく少ない。 効果は短い期間で測られたものが多い。そして——もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。 紹介してくれる人がすでにいること自体が、その人の条件である。
助けるのは、経路ごとに件数を数えるという一手である。どの経路から何件来たかを数えると、自分がどこに寄っているかは分かる。良い経路かどうかは、この単位の証拠からは決められない。
最初の一歩は5分。直近3か月で仕事の情報を得た経路を書き出し、経路ごとの件数を記録する。
次の単位は 095「応募・選考プロセスの実行力」——集めた情報を持って、実際に応募する段へ進む。
- 米国・2015年に The Quarterly Journal of Economics 130(2) へ出た3業種9社(コールセンター・運送・技術職)の人事データ研究は、掲載版の要旨で、紹介経由の人はほとんどの指標でそうでない人と似た生産性を示し、差が出るのは運送の事故の少なさ、技術職の特許の多さ、辞めにくさ、わずかに高い賃金だと報告している
- 同じ研究の作業論文版(2013年・題名も異なる)には割合が載っており、紹介経由の人は10〜30%辞めにくく、防げたはずの事故が12%少なく、特許を出す確率が約20%高い。★これらの割合は作業論文版の値であり、掲載版の要旨には割合の形では出てこない
- 米国・2016年に Journal of Political Economy 124(6) へ出た研究は、オンラインの労働市場で時給3ドル以下で応募した人を紹介の有無にかかわらず全員採用し、採用する側の選抜を設計から抜いた。継続の仕事に再応募したのは紹介経由の82%で、紹介の無い人はそれより20パーセントポイント低かった
- 同じ研究で、履歴書から取れる属性を統制変数に足しても紹介の係数はほとんど動かず、紹介が持つ情報の大半は履歴書からは見えないと報告された。また紹介者本人と組ませたときは、他人の紹介者と組ませたときよりチームの設問に同じ答えを出す割合が29パーセントポイント高く、監視の経路には差が出なかった
- 米国・2000年に Journal of Applied Psychology 85(4) へ出た失業者を対象にした研究は、人づてで情報や助言を得ようとする行動の量が、他の職探しの方法を考慮に入れると、失業給付を使い切ったかどうか・再就職の速さ・仕事の満足のいずれについても上乗せの予測をしなかったと報告している
- 2021年に Journal of Experimental Psychology: Applied 27(2) へ出た研究は、オンラインの評価に選択バイアスがあり、極端な意見を持つ人ほど共有する動機が強いと確認したうえで、自発的に書かれた評価は報酬を伴う評価にくらべ最低評価になる確率が1.4パーセントポイント、最高評価になる確率が4.3パーセントポイント高いと報告した(割合は同じ研究の作業論文版で確認)
- 紹介が似た人を増やすかどうかは向きが揃っていない。米国・2005年の American Journal of Sociology 111(3) は、ある電話応対の職場で応募前の選択・似た者どうしのつながり・選考する側の選択の三つが性別の偏りに寄与したと報告し、採用後のデータから採用前の過程を推し量ると誤りうるとも述べている。同じ研究者を含むチームの2006年の American Sociological Review 71(1) は、人種についてはこの設定では証拠が乏しいと結論している
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 人づて(社員紹介)で入った人は、そうでない人より仕事ができる | 米国の3業種9社の人事データを使った2015年の研究は、掲載版の要旨で、紹介経由の人はほとんどの指標で似た生産性を示すと書いている。差が出たのは、運送での事故の少なさ、技術職での特許の多さ、辞めにくさ、そしてわずかに高い賃金である。つまり良さは全体の底上げではなく、めったに起きないが影響の大きい出来事と、辞めるかどうかのところに偏っている。10〜30%辞めにくい・事故12%少ない・特許約20%多いという割合は、同じ研究の作業論文版の値である |
| 紹介が効くのは、採用する側が紹介を信用して甘く見ているからだ | 2016年の研究は、時給3ドル以下で応募した人を紹介の有無にかかわらず全員採用することで、採用する側の目利きを設計から抜いた。それでも紹介経由の人は継続の仕事に再応募する割合が20パーセントポイント高く、履歴書から取れる属性を統制変数に足しても係数はほとんど動かなかった。効いているのは選抜の甘さではなく、履歴書に出てこない情報である。ただし支持されたのはその情報と、紹介者と組んだときの噛み合い方であって、能力一般の証明ではない |
| 職探しでは、会う人の数を増やすほど結果が良くなる | 米国の失業者を対象にした2000年の研究では、人づてで情報や助言を得ようとする行動の量は、他の職探しの方法を考慮に入れると、失業給付を使い切ったかどうかにも、再就職の速さにも、就いた仕事の満足にも上乗せの予測をしなかった。効いていたのは量ではなく、紹介という関係の中に入っている情報のほうだった |
人づてを勧める話の便利なところは、失敗しても誰も損をしない点である。決まればつながりのおかげになり、決まらなければ、まだ数が足りなかったことになる。証拠のほうを見ると、量そのものは上乗せの予測をしていなかった。効いていたのは、履歴書に書けない何かを、誰かがすでに知っていたという事実である。それは増やせるものではないし、増やせと言われて増えるものでもない。人脈という言葉が便利なのは、その差を隠せるからだ。
Q1. 米国の3業種9社の人事データを使った2015年の研究の掲載版の要旨によれば、紹介経由の人は ____ ではそうでない人と似た生産性を示し、差が出たのは運送での ____ の少なさ、技術職での ____ の多さ、そして辞めにくさとわずかに高い賃金だった。穴埋め
Q2. 2021年の研究によれば、自発的に書かれた職場の評価は、報酬を伴う評価にくらべ、最低評価になる確率が ____ パーセントポイント、最高評価になる確率が ____ パーセントポイント高い。穴埋め
Q3. 2016年の三つのフィールド実験は、紹介経由の人が良く見える理由が「採用する側の甘い判断」かもしれないという疑いを、どんな設計で取り除いたか。1文で答えよ。一問一答
Q4. 米国の失業者を対象にした2000年の研究は、人づてで情報や助言を得ようとする行動の量について、他の職探しの方法を考慮に入れたとき何を予測しなかったと報告したか。三つ挙げよ。一問一答
Q5. 「紹介は良い」という主張が縮んでいった順番を、本文のとおりに並べよ。(ア)採用側の選抜を実験で止めると、残るのは辞めにくさと紹介者と組んだときの噛み合い方になる(イ)紹介経由の人は成績が良いという観察がある(ウ)人づての行動の量そのものは、他の方法を考慮に入れると上乗せの予測をしない(エ)指標を分けて数え直すと、ふつうの指標では差が消える並べ替え
紙かメモアプリを開く。直近3か月で、仕事についての情報が自分のところに届いた出来事を思い出す。求人の情報でも、職場の様子の話でも、業界の動きでもよい。次に経路を分けて書く。たとえば『公開されている募集の情報』『公開されている評価や口コミ』『知っている人から直接聞いた』『知っている人の知っている人から回ってきた』『こちらから問い合わせて得た』の5つでよい。そのうえで、経路ごとに件数を数字で書く。合計が0件でも構わない。0件と書く。最後に、いちばん件数の多かった経路に印を1つ付ける。誰かに連絡を取ったり、質問を送ったりする必要はない。今日は数えるだけでよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Burks S.V., Cowgill B., Hoffman M., Housman M. (2015) 'The Value of Hiring through Employee Referrals', The Quarterly Journal of Economics 130(2):805-839, doi:10.1093/qje/qjv010(作業論文版:IZA Discussion Paper No. 7382, 2013) — doi.org
- Pallais A., Sands E.G. (2016) 'Why the Referential Treatment? Evidence from Field Experiments on Referrals', Journal of Political Economy 124(6):1793-1828, doi:10.1086/688850 — doi.org
- Wanberg C.R., Kanfer R., Banas J.T. (2000) 'Predictors and outcomes of networking intensity among unemployed job seekers', Journal of Applied Psychology 85(4):491-503 — doi.org
- Marinescu I., Chamberlain A., Smart M., Klein N. (2021) 'Incentives can reduce bias in online employer reviews', Journal of Experimental Psychology: Applied 27(2):393-407, doi:10.1037/xap0000342 — doi.org
- Fernandez R.M., Sosa M.L. (2005) 'Gendering the Job: Networks and Recruitment at a Call Center', American Journal of Sociology 111(3):859-904, doi:10.1086/497257 — doi.org
- Fernandez R.M., Fernandez-Mateo I. (2006) 'Networks, Race, and Hiring', American Sociological Review 71(1):42-71, doi:10.1177/000312240607100103 — doi.org