面接の前の2分は、いまや第一著者本人が信じていない
面接の前に、広く強い姿勢を2分だけ取れ、という助言がある。その元になった実験の第一著者は、いま自分の教員ページに、効果が実在するとは思わない、と書いている。そして元の実験は、そもそも面接を一度も測っていない。
前の単位で、候補を一つに絞りきらずに並行して残しておくことの代償を見た。ここから先は、残した候補に向かって実際に動く段である。動きはじめて最初に来るのが、自分のことを人に伝えるという場面になる。
この単位が扱うのは一点——伝え方を変えたとき、何が動いて、何が動かないのかである。受け答えの型は扱わない。自信の持ち方も扱わない。
同じふるまいが、二つの物差しで3倍以上違う値を取る
2009年に米国で *Journal of Applied Psychology* へ出たメタ分析は、面接で人が使う見せ方を三つに分けた。外見、印象管理、そして言語と非言語のふるまいである。そのうえで、それぞれが二つの別々の結果とどれだけ結びつくかを、同じ手続きで並べた。二つの結果とは、面接での評価と、入ってからの職務成果である。
補正後の相関は、こうなる。面接評価との相関は、外見 .53(26件・3,333人)、印象管理 .47(37件・4,542人)、言語と非言語のふるまい .40(26件・3,458人)。ところが職務成果との相関は、外見 .14(5件・741人)、印象管理 .15(19件・2,851人)、言語と非言語のふるまい .23(7件・580人)。いずれも測定の信頼性などを補正したあとの値である。
同じ人の同じふるまいが、片方の物差しでは .47、もう片方では .15。3倍以上の開きがある。 論文の要旨は、そのことをそのまま題名にしている——面接で見えているものは、仕事の上で手に入るものとは違うかもしれない。そして、構造の無い面接ほど、この見せ方の影響を強く受けるとも書かれている。
誤解しないでほしいのは、これが「見せ方は無意味だ」という結論ではないことである。面接評価への .47 は、ちゃんと大きい。 見せ方は、面接という装置に対しては、はっきり効いている。効いていないのは、その先である。
この開きの意味は、立場によって逆に読める。採る側から見れば、これは面接という道具の精度の話である。読者の側から見ると、話はもっと単純になる——面接で高い評価を得るための努力と、入ってから成果を出すための努力は、同じ一本の努力ではない。 前者に効くことが後者にも効く、という保証は、少なくともこのメタ分析からは出てこない。
取り繕うことは、例外的な逸脱ではない
2007年に同じ誌へ出た研究は、面接で人がどのくらい話を盛るかを測る尺度を作っている。六つの研究、のべ1,346人。出てきたのは四つの区分——ささやかな像づくり、大がかりな像づくり、像の防御、そして取り入り——と、その下の11の細かい型である。
数字のほうは率直だった。回答者の9割を超えるが、直近の面接で少なくとも一つは使ったと答えている。 つまりこれは、一部の人の逸脱ではなく、面接という場に人が置かれたときの標準的な反応である。
値切り:面接の前に、2分だけ強い姿勢をとれ
この単位でいちばん多く流通している助言を、四段に分けて追いかける。
**一段め。元の実験は2010年、米国で *Psychological Science* 21(10) に出た。参加者は42人(女性26・男性16)。広く開いた姿勢を2分とった群と、縮こまった姿勢をとった群を比べ、唾液中のテストステロンが上がり(F(1, 39) = 4.29, p < .05, r = .34)、コルチゾールが下がり(F(1, 38) = 7.45, p < .02, r = .43)、賭けに出た割合が 86.36% 対 60%** だった(χ²(1, N = 42) = 3.86, Φ = .30)と報告している。
二段め。2015年、同じ誌 26(5) に追試が出た。最終標本は200人(女性98・男性102)。有意になったのは主観的なパワー感だけである(t(193) = 2.399, p = .017)。テストステロンは t(196) = −1.405, p = .162、コルチゾールは t(196) = −1.101, p = .272、リスク選好は t(198) = −1.245, p = .215。ホルモンも賭けも、再現しなかった。
三段め。2017年、同じ誌 28(5) で、証拠の山そのものが検討された。 提唱者側が根拠として挙げた33件を集め、除外後に残った24件の24個のp値の分布を調べる手続きにかけた。推定された平均の検定力は約5%。論文はそれを、真の効果がゼロで有意水準が .05 のときに期待される値そのものであると書いている。結論は、広い姿勢と縮こまった姿勢の行動面・生理面の効果は、いまのところ実証的な裏づけを欠いた仮説として扱われるべきだ、というものだった。
四段め。提唱者側の応答は、同じ誌の別の号にある——2018年の 29(4) である。同じ誌だが、同じ号ではない。 系統的な文献探索で集めた55件にもとづき、姿勢からの反応には明確な証拠価値があり、とりわけ情動・感情の状態(気分、自分についての評価や態度や感じ方)への効果には頑健な証拠価値がある、と主張している。2017年の分析はより古く、網羅性の低い34件にもとづくものだ、とも書いている。 なお、対象とした研究の数は、批判した側が33件と書き、応答した側はそれを34件と呼んでいる——どこまでを一つの研究と数えるかも、争点のうちである。
ここを混同しないでほしい。擁護されているのは、情動・感情の状態への効果である。 ホルモンの変化とリスク選好は、復権していない。論争は、範囲を縮めたまま止まっている。
そして、元の実験の第一著者本人が、大学の教員ページで自分の立場を公開している(2026年閲覧)。そこにはこう書いてある——私は「パワーポーズ」の効果が実在するとは思わない。 私の研究室は、姿勢の身体的効果について何の研究も行っていない。最終的な標本の大きさは N = 42 だった。 標本は極小である。 データは薄い。効果は小さく、かろうじてあるかないかである。そして——自己申告の従属変数は p-hack されていた。 多くの異なるパワーの質問を尋ね、選ばれたのは「うまくいった」ものだった、と。
そして、面接のデータは一つも無い
ここまで書いてきて、まだ触れていないことがある。この一連の研究のどこにも、面接についての一次データが無い。
元の実験の従属変数は、ホルモンの値と、主観的なパワー感と、ギャンブルの選択である。追試の従属変数も同じ三つだった。p-curve が集めた33件も、行動面と生理面の指標である。面接の評価も、書類の通過も、採用の結果も、従属変数として登場しない。
探したのは、元論文の方法と結果の記述、追試の従属変数の一覧、そしてp-curve が対象にした研究群の結果指標である。そのどれにも、面接を測ったものに行き当たらなかった。無いと断定はしない。一次情報にたどり着けなかった、と書く。
これは、この棚で何度か出てくる型である。数字は実在する。実験も実在する。ただし測られた対象が、助言が語っている対象と違う。 42人にホルモンの変化があったことと、あなたが来週の面接で受かりやすくなることのあいだには、一度も測られていない距離がある。距離があること自体は、罪ではない。罪になるのは、その距離を無いことにして助言に変えるところである。 確かなのは、「面接の前に2分ポーズを取れば受かりやすくなる」という助言が、測られていないことを測られたことにしているという一点である。
時間・変化:42人が助言になるまでの順番
順番は決まっている。まず42人の実験がある。次に、それが一般向けの講演で広く紹介される。次に、そこに面接という場面が足される——研究には無かった場面である。次に、追試が失敗する。次に、証拠の山が数え直される。次に、第一著者本人が撤回する。 それでも助言は残る。
逆向きには、まず動かない。撤回は、助言が届いた範囲まで追いかけていかない。 引用されるとき落ちるのは、たいてい標本の大きさと、何を測ったかである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、自分を伝える場を、うまく見せられたかどうかの採点として扱うことである。この単位で見たかぎり、見せ方の巧拙は面接評価をよく動かし、その先の職務成果はあまり動かさない。採点で高い点を取ることと、その先に効くことは、別々に動く。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、大学生と、すでに就業している人から採られたものが大半である。日本の選考を対象にした査読研究はごく少ない。 実験室の課題と実際の選考は別物で、効果は短い期間で測られたものが多い。そして——もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。 面接の練習に時間を割ける状態にあること自体が、その人の条件である。
助けるのは、使った言葉と、実際に起きた出来事を、並べて置くという一手である。並べると、盛った箇所は自分の目にも見える。見えたうえで、どちらを使うかを決めればよい。ここで決めるのは、正直さの度合いではない。自分がどこまでを引き受けたのかという線を、自分の側で持っておくという、それだけのことである。線を持っていれば、質問が細かくなっても言葉は崩れない。
最初の一歩は5分。直近で自分の経験を人に説明した場面を一つ思い出し、そこで使った言葉と、実際に起きた出来事を並べて書き、一度だけ読み返す。
次の単位は 094「情報収集・ネットワーク活用力」——伝える相手をどこから見つけてくるのか、その経路の話へ進む。
- 米国・2009年に Journal of Applied Psychology へ出たメタ分析は、面接での見せ方を外見・印象管理・言語と非言語のふるまいの三つに分け、補正後の相関を面接評価とのあいだで .53(26件・3,333人)/.47(37件・4,542人)/.40(26件・3,458人)と報告した。同じ三つと職務成果との相関は .14(5件・741人)/.15(19件・2,851人)/.23(7件・580人)で、同じふるまいが二つの物差しで3倍以上違う値を取る
- 同じ2009年のメタ分析は、要旨で、面接で見えているものは仕事の上で手に入るものとは違うかもしれないと述べ、構造の無い面接ほど見せ方の影響を強く受けると報告している
- 米国・2007年に Journal of Applied Psychology へ出た6研究(のべ1,346人)は、面接で話を盛る行動を四つの区分と11の型に整理し、回答者の9割を超えるが直近の面接で少なくとも一つは使ったと答えたと報告した。取り繕うことは一部の人の逸脱ではない
- パワーポーズの元の実験は米国・2010年の Psychological Science 21(10) で、参加者は42人。テストステロンの上昇は F(1, 39) = 4.29, p < .05, r = .34、コルチゾールの低下は F(1, 38) = 7.45, p < .02, r = .43、賭けに出た割合は 86.36% 対 60%(χ²(1, N = 42) = 3.86, Φ = .30)だった
- 2015年に同誌 26(5) へ出た最終標本200人(女性98・男性102)の追試では、有意だったのは主観的なパワー感だけ(t(193) = 2.399, p = .017)で、テストステロン p = .162、コルチゾール p = .272、リスク選好 p = .215 はいずれも再現しなかった
- 2017年に同誌 28(5) へ出たp値の分布の分析は、提唱者側が挙げた33件から除外後に残った24件の24個のp値をもとに平均の検定力を約5%と推定し、広い姿勢の行動面・生理面の効果は実証的な裏づけを欠いた仮説として扱われるべきだと結論した。提唱者側の応答は同じ誌の別の号(2018年 29(4))にあり、55件にもとづいて擁護されたのは情動・感情の状態への効果である
- 元の実験の第一著者は大学の教員ページで、パワーポーズの効果が実在するとは思わない、最終的な標本は N = 42 で標本は極小である、自己申告の従属変数は p-hack されていたと書いている(2026年閲覧)。そして元の研究にも追試にも、面接評価や採用結果を従属変数にしたデータは無い
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 面接の前に2分だけ強い姿勢をとると、面接に受かりやすくなる | 元の実験(米国・2010年・42人)が測ったのは、唾液中のホルモン、主観的なパワー感、ギャンブルの選択の三つである。面接評価も書類の通過も採用の結果も、従属変数に入っていない。探したのは元論文の方法と結果の記述、200人の追試の従属変数の一覧、そして2017年のp値分析が対象にした33件の結果指標だが、面接を測ったものには行き当たらなかった。無いとは書かない、一次情報にたどり着けなかった、と書く。しかもホルモンとリスク選好は200人の追試で再現せず、第一著者本人が公開ページで効果が実在するとは思わないと述べている |
| 提唱者側の反論が同じ号に載ったのだから、論争は決着していない | 反論が載ったのは同じ誌だが、同じ号ではない。分析は2017年の 28(5)、応答は2018年の 29(4) である。そして応答が55件にもとづいて主張したのは、情動・感情の状態への効果に頑健な証拠価値がある、という範囲である。ホルモンの変化とリスク選好への効果は復権していない。論争は決着していないのではなく、範囲を縮めたまま止まっている |
| 面接でうまく見せられた人は、入ってからも成果を出す | 2009年のメタ分析では、印象管理と面接評価の補正後の相関が .47(37件・4,542人)であるのに対し、同じ印象管理と職務成果の相関は .15(19件・2,851人)である。外見では .53 と .14。同じふるまいが、二つの結果指標で3倍以上違う値を取る。面接という装置に対しては見せ方ははっきり効いており、効いていないのはその先である |
皮肉なのは、この助言がいまも生き残っている理由のほうである。2分で済む。道具がいらない。誰にも見られずにできる。そして何より、効いたかどうかを本人が確かめようがない。落ちれば姿勢のせいにはならず、受かれば姿勢のおかげになる。これほど反証されにくい助言は、そう多くない。42人の実験は、その性質のおかげで、著者の撤回より長く生きている。
Q1. パワーポーズの元の実験(米国・2010年)の最終的な参加者は何人だったか。また、その実験が実際に測った従属変数を三つ挙げよ。一問一答
Q2. 最終標本200人による2015年の追試で、統計的に有意になった従属変数はどれか。選択
Q3. 2009年のメタ分析で、印象管理と面接評価の補正後の相関が .47 だったのに対し、同じ印象管理と職務成果の補正後の相関はいくつだったか。選択
Q4. 2018年に同じ誌の別の号へ出た提唱者側の応答が、55件にもとづいて「とりわけ頑健な証拠価値がある」と主張した範囲はどれか。選択
Q5. パワーポーズをめぐる四つの出来事を、発表された年の早い順に並べよ。(ア)提唱者側の応答が55件にもとづいて同じ誌の別の号に出る(イ)42人の元の実験が出る(ウ)33件から除外後に残った24件のp値の分布が分析される(エ)最終標本200人の追試が出る並べ替え
紙かメモアプリを開く。今日、または直近で、自分の経験を誰かに説明した場面を1つだけ思い出す。面接でなくてよい。仕事の報告でも、人に近況を伝えた場面でも、自己紹介でもよい。まず左側に、そのとき自分が使った言葉をそのまま1行書き写す。次に右側に、実際に起きた出来事を、日付と件数と自分がやった範囲だけで1行書く。誇張も謙遜も入れずに書く。書き終えたら、左右を一度だけ読み比べて、ずれている箇所に印を1つ付ける。誰にも見せない。直したり言い直したりする必要はない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Barrick M.R., Shaffer J.A., DeGrassi S.W. (2009) 'What you see may not be what you get: Relationships among self-presentation tactics and ratings of interview and job performance', Journal of Applied Psychology 94(6):1394-1411, doi:10.1037/a0016532 — doi.org
- Levashina J., Campion M.A. (2007) 'Measuring faking in the employment interview: Development and validation of an interview faking behavior scale', Journal of Applied Psychology 92(6):1638-1656 — doi.org
- Carney D.R., Cuddy A.J.C., Yap A.J. (2010) 'Power Posing: Brief Nonverbal Displays Affect Neuroendocrine Levels and Risk Tolerance', Psychological Science 21(10):1363-1368 — doi.org
- Ranehill E., Dreber A., Johannesson M., Leiberg S., Sul S., Weber R.A. (2015) 'Assessing the Robustness of Power Posing: No Effect on Hormones and Risk Tolerance in a Large Sample of Men and Women', Psychological Science 26(5):653-656, doi:10.1177/0956797614553946 — doi.org
- Simmons J.P., Simonsohn U. (2017) 'Power Posing: P-Curving the Evidence', Psychological Science 28(5):687-693, doi:10.1177/0956797616658563 — doi.org
- Cuddy A.J.C., Schultz S.J., Fosse N.E. (2018) 'P-Curving a More Comprehensive Body of Research on Postural Feedback Reveals Clear Evidential Value for Power-Posing Effects: Reply to Simmons and Simonsohn (2017)', Psychological Science 29(4):656-666, doi:10.1177/0956797617746749 — doi.org
- Carney D.R. 'My position on Power Poses', University of California, Berkeley, Haas School of Business, 著者公開ページ, 閲覧年 (2026) — faculty.haas.berkeley.edu