12.9 が数えているのは、転職ではない。同じ雇用主に戻っても2つになる
人は生涯に平均12.9回、仕事を変える——この数字は、あちこちで引かれている。原典を開くと、そこで数えられているのは転職ではない。夏だけ働いて辞め、翌年に同じ店へ戻れば、それだけで2つになる。
前の単位で、動いた量が就いた仕事の質には届かないことを見た。届かないのなら、外れることのほうが前提になる。ここで扱うのは、外れたあとに何をするかである。
先に断っておく。逆境からどう立ち直るかという枠組みは、病気の棚が扱い切っている。 ここでは一点だけを見る——外れたとき、どこへ戻るのかである。
12.9 という数字が、何を数えているか
「人は生涯に平均12.9回、仕事を変える」という数字が、あちこちで引かれている。出どころははっきりしていて、たどるのも難しくない。米国労働統計局が2025年8月26日に公表したニュースリリースである。
そこにはこう書いてある——1957年から1964年生まれの人は、18歳から58歳までに平均12.9の職に就いた。
問題は、この「職」が何を指すかである。同じ発表の中に、定義がそのまま書いてある。原文はこうである——A job is defined as an uninterrupted period of work with a particular employer. 訳せば、職とは、特定の雇用主のもとでの、中断のない就業期間である。
そして、例まで添えられている。ある人が夏のあいだ小売の店で働き、夏の終わりに辞め、翌年の春に同じ雇用主のもとで働き始めたなら、この一連は1つではなく2つの職として数えられる。
つまり 12.9 は、転職の回数ではない。ましてキャリアを変えた回数でもない。同じ雇用主に戻れば2つと数え、夏だけのアルバイトも1つと数える、就業期間の個数である。
数え方には、もう一つ癖がある。複数の年齢区分にまたがる就業は、それぞれの年齢区分で1回ずつ数えられる。 だから同じ発表が自分で断っている——18歳から58歳までの平均は、年齢区分ごとの数を足し合わせた値より小さくなる。
対象も限られている。1957年から1964年生まれの米国人だけ。18歳から58歳まで。58歳で止めた理由も書いてある——それより上の年齢区分では、統計的に信頼できる推定値を出すには標本がまだ小さすぎた。 そしてこの集団の職業人生は、まだ終わっていない。43年分の職歴がすでに追跡されているが、集団が年を重ねるにつれてより完全な情報が得られるようになる、と資料は書いている。
標本の人数についても一言。ニュースリリース本文は9,964人と書き、技術的な注記は12,686人と書いている。 後者は1979年の開始時の全体で、前者はのちに一部を除いたあとの人数である。直近の2022〜23年の調査に答えたのは6,413人。ここでは、リリース本文が使っている9,964人を採る。 ただし、同じ発表の中で標本の人数が二通り書かれていること自体は、書いておく。
立て直す力を測る、という枠組み
外れたあとに立て直す力を測ろう、という枠組みもある。キャリア適応力と呼ばれる。
尺度のほうから見ていく。2012年に *Journal of Vocational Behavior* 80(3) へ出た論文が代表である。13か国の研究者が協力し、55項目の研究版を13か国で試し、最終的に4つの下位尺度・各6項目——関心、制御、好奇心、自信——にまとめた。13か国はベルギー、ブラジル、中国、フランス、アイスランド、イタリア、韓国、オランダ、ポルトガル、南アフリカ、スイス、台湾、米国である。
ここで、論文自身が書いている限界がある。この尺度は、すべての国にわたって計量的な等価性は示したが、残差の等価性も、切片の等価性も示さなかった。 平たく言えば、国をまたいで平均値を直接くらべることはできない、と原典が書いている。よく見かける「この国の人はキャリア適応力が高い」という言い方は、尺度を作った論文が明示的に否定している使い方である。
もう一つ。2017年に同じ誌の 98 へ出たメタ分析は、90件の研究を集めて、この構成概念が何と結びついているかを調べた。結びついていたのは——認知能力、性格の5因子、自尊感情、中核的自己評価、先を見越す性格、将来志向、希望、楽観。そして、キャリアの計画、キャリアの探索、職務の自己効力感、意思決定の自己効力感。要するに、すでにある個人差の変数と、広く重なっている。
同じメタ分析は、他の個人差の特徴を考慮に入れてもなお上乗せの予測力がある、とも報告している。ただし、その上乗せがどれだけ大きいかを示す数値には、原典で到達できなかった。だからここでは大小を書かない。 書けるのは二つだけである——重なりが広いことと、それでも上乗せがあると報告されていること。
「偶然を活かせ」は、効果を測っていない
この場面でもう一つよく引かれる枠組みがある。計画された偶発性、という言い方である。
1999年に *Journal of Counseling & Development* 77(2) へ出た論文は、偶然が誰のキャリアにも重要な役割を果たすこと、従来の介入では不確実さに備えきれないこと、計画されていない出来事を避けられないものであると同時に望ましいものと見る立場が要ることを述べている。これは概念論文である。 2009年に *Journal of Career Assessment* 17(2) へ出た論文も、4つの命題を提示する理論論文である。
どちらも、介入の効果を測定していない。 それでもこの枠組みは、「偶然を活かす力を鍛えれば結果が良くなる」ことの証拠として引かれる。提唱者の理論論文が、効果の証拠として使われている——この形は、証拠を探すたびに何度も出てくる。
時間・変化:数字が対象を取り替えていく順番
順番は決まっている。まず定義つきの集計がある——特定の雇用主のもとでの、中断のない就業期間の個数。次に、それが平均になる。次に、平均が「回数」と呼ばれる。次に、「回数」が「転職」に読み替えられる。最後に、対象の生年と、国と、年齢の上限が落ちる。
逆向きには動かない。定義が戻ってくることは、まず起きない。 12.9 が間違いだ、という話ではない。この数字は正しい。正しいのは、元の定義の中でだけである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、外れたことを、自分の判断の採点として扱うことである。就業期間が一つ終わったという事実は、それだけでは何も評価していない。同じ雇用主のもとに戻っても、数の上では2つになる。数え方が、意味を持っているように見えるだけである。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の特定の生年の集団と、欧米を中心とする13か国の質問紙調査から採られている。日本の労働市場を対象にした同じ設計の追跡研究はごく少ない。 適応力の研究の大半は、すでに働いている人に一度だけ質問紙を配って測ったものである。そして——もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。 外れたあとに立て直せたという報告は、立て直せる余地があった人からしか集まらない。
助けるのは、自分の職歴を、元の定義のとおりに数え直すという一手である。中断のない就業期間として数えると、たいていの人の数字は、自分が思っていたものと合わない。合わないところに、自分がどう数えていたかが出る。
最初の一歩は5分。直近5年で自分が就いた「同じ雇用主のもとでの、中断のない就業期間」を数え上げ、同じ雇用主に戻った回数を別に記録する。
就いた後にしか測られていない
この棚は16回、同じことをした。ある力について、それが就職の何を指しているのかを書き、どこまで効くと確かめられているのかを探し、その範囲の外で何が起きるかを書いた。
16回とも、証拠は同じ癖を持っていた。「自分に合う」は、就く前ではなく、就いた後に測られている。 適性も、相性も、その職場らしさが合うかどうかも、研究の大半は、すでにその仕事に就いている人に、一度だけ質問紙を配って測っている。しかも訊いているのは、合っているかと、満足しているかを、同じ人に、同じ日に、である。だから「合う仕事を選べば満足できる」という順序は、証拠の側から見ると逆にも読める——満足している人が、合っていると答えている。
この単位の 12.9 が、そのことを別の角度から映している。就業期間の個数は、就いたあとにしか数えられない。 合っていたかどうかも、就いたあとにしか測られていない。選ぶ前の自分に届く数字は、思っているよりずっと少ない。
だから、選ぶ前にできることの範囲は、はっきりしている。合うかどうかを当てることはできない。 できるのは、外れたと分かるまでの時間を短くすることと、外れたときにどこへ戻るかを、あらかじめ決めておくことである。
戻る先は、外れ方が教えてくれる
自分を見て、相手を見て、突き合わせて、動く——この棚が置いた道筋は、そういう順序だった。
絞り込みの形をしているから、外れると全部やり直しに見える。実際にはそうならない。戻るのは、どこか一つの段である。
求めているものが変わっていたのなら、いちばん前に戻る。相手の見積もりが違っていたのなら、真ん中に戻る。伝え方や経路の問題だったのなら、直前の段に戻る。どの段に戻るかを決めるのに要るのは、粘り強さではなく、外れ方の中身を見ることだけである。
そして、そのために必要な材料は、外れたその場にしか無い。あとから思い出して書いたものは、たいてい滑らかになっている。
- 米国労働統計局が2025年8月26日に公表したニュースリリースは、1957年から1964年生まれの人が18歳から58歳までに平均12.9の職に就いたと報告している。同じ発表が定義を書いており、職とは特定の雇用主のもとでの、中断のない就業期間である
- 同じ発表は例まで添えている。夏のあいだ小売の店で働き、夏の終わりに辞め、翌年の春に同じ雇用主のもとで働き始めた場合、この一連は1つではなく2つの職として数えられる。つまり12.9は転職の回数でもキャリアを変えた回数でもない
- 複数の年齢区分にまたがる就業は、それぞれの年齢区分で1回ずつ数えられる。そのため18歳から58歳までの平均は、年齢区分ごとの数を足し合わせた値より小さくなる、と発表自身が断っている
- 対象は1957年から1964年生まれの米国人だけで、18歳から58歳まで。58歳で止めた理由は、それより上の年齢区分では統計的に信頼できる推定値を出すには標本がまだ小さすぎたためである。標本の人数はリリース本文が9,964人、技術的な注記が12,686人と二通りに書かれており、直近の2022〜23年の調査に答えたのは6,413人である
- 2012年に Journal of Vocational Behavior 80(3) へ出た尺度開発の論文は、13か国の研究者が協力し、55項目の研究版を13か国で試して、4つの下位尺度・各6項目(関心・制御・好奇心・自信)にまとめたと報告している。ただし同じ論文が、すべての国にわたって計量的な等価性は示したが残差の等価性も切片の等価性も示さなかったと書いており、国をまたいで平均値を直接くらべることはできない
- 2017年に同じ誌の 98 へ出たメタ分析は90件の研究を集め、キャリア適応力が認知能力・性格の5因子・自尊感情・中核的自己評価・先を見越す性格・将来志向・希望・楽観、およびキャリアの計画・キャリアの探索・職務の自己効力感・意思決定の自己効力感と結びついていると報告した。すでにある個人差の変数と広く重なっている。上乗せの予測力があるとも報告されているが、その大きさの数値には原典で到達できなかった
- 「偶然を活かせ」という枠組みの代表文献は、1999年の Journal of Counseling & Development 77(2) の概念論文と、2009年の Journal of Career Assessment 17(2) の4命題を提示する理論論文である。どちらも介入の効果を測定していない。それでもこの枠組みは、効果の証拠として引かれる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 人は生涯に平均12.9回、転職する | 米国労働統計局が2025年8月26日に公表した発表は、職を、特定の雇用主のもとでの中断のない就業期間と定義している。夏だけ働いて辞め、翌年の春に同じ雇用主のもとで働き始めれば、それは1つではなく2つと数えられる。年齢区分をまたぐ就業は各区分で1回ずつ数えられるため、区分ごとの数を足すと総数を上回る。対象は1957年から1964年生まれの米国人だけで、18歳から58歳まで。上限が58歳なのは、それより上では信頼できる推定値を出すには標本が小さすぎたからである。数字は正しい。正しいのは、この定義の中でだけである |
| キャリア適応力を測れば、立て直せる人かどうかが分かる | 90件の研究を集めた2017年のメタ分析によれば、この構成概念は認知能力、性格の5因子、自尊感情、中核的自己評価、先を見越す性格、将来志向、希望、楽観、キャリアの計画、キャリアの探索、二種類の自己効力感と結びついている。すでにある個人差の変数と広く重なっているということである。上乗せの予測力があるとも報告されているが、その大きさの数値には原典で到達できなかったので、ここでは書かない。また尺度を作った2012年の論文自身が、国をまたいで平均値を直接くらべることはできないと明記している |
| 偶然を活かす力を鍛えれば、キャリアはうまく回りだす | この枠組みの代表文献は、1999年の概念論文と2009年の4命題を提示する理論論文である。どちらも介入の効果を測定していない。枠組みとして考える材料にはなるが、効果の証拠にはならない。提唱者の理論論文が効果の証拠として引かれるという形は、就職や適性をめぐる話の中でくり返し現れる |
「人は生涯に何度も仕事を変える」という数字が、これほど気持ちよく引用されるのには理由がある。慰めになるからである。あなただけではない、みんな何度も変えている、と。原典が数えていたのは、夏だけの仕事も、同じ店に戻った二度目も、等しく1つと数える就業期間の個数だった。慰めのほうは、その数え方を知らないまま成立している。皮肉なのは、この棚が16回追いかけてきた数字の中で、いちばん人に優しかったものが、いちばん定義から遠いところで使われていたことである。就職の助言が温かく響くとき、たいてい落ちているのは、その温かさを支えているはずの定義のほうだ。
Q1. 米国労働統計局の2025年8月26日の発表によれば、____ 年から ____ 年生まれの人は、____ 歳から ____ 歳までに平均 ____ の職に就いた。ここでいう職とは、特定の雇用主のもとでの ____ 就業期間である。穴埋め
Q2. 発表に添えられた例によれば、夏のあいだ小売の店で働き、夏の終わりに辞め、翌年の春に同じ雇用主のもとで働き始めた場合、この一連はいくつの職として数えられるか。選択
Q3. 年齢区分をまたぐ就業の数え方について、発表自身が断っていることはどれか。選択
Q4. 13か国で作られたキャリア適応力の尺度について、その論文自身が書いている限界はどれか。選択
Q5. 12.9 という数字が対象を取り替えていく順番を、本文のとおりに並べよ。(ア)平均が「回数」と呼ばれる(イ)対象の生年と国と年齢の上限が落ちる(ウ)定義つきの集計がある——特定の雇用主のもとでの中断のない就業期間の個数(エ)「回数」が「転職」に読み替えられる(オ)それが平均になる並べ替え
紙かメモアプリを開く。直近5年をさかのぼり、自分が働いた期間を、原典の定義のとおりに区切る。区切りの規則は一つだけ——同じ雇用主のもとでの、中断のない期間を1つと数える。同じ雇用主のもとに一度離れてから戻った場合は、2つとして数える。短期の仕事も、掛け持ちも、1つずつ数える。数え終えたら、合計の個数を書く。次に、そのうち『同じ雇用主に戻ったことで2つになった』箇所が何回あったかを、別の行に数字で書く。最後に、自分が数え始める前に頭の中で思っていた個数を思い出して書き、実際の個数と並べる。いま働いていない場合や、これから初めて働く場合は、直近5年で継続的に取り組んだ活動を対象にし、同じ規則で『中断のない期間』を数えればよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- U.S. Bureau of Labor Statistics (2025) 'Number of Jobs, Labor Market Experience, Marital Status, and Health for Those Born 1957-1964', News Release, 2025年8月26日公表, 閲覧年 (2026) — www.bls.gov
- U.S. Bureau of Labor Statistics (2025) 'Technical Note' to the News Release on Number of Jobs, National Longitudinal Survey of Youth 1979, 閲覧年 (2026) — www.bls.gov
- Rudolph C.W., Lavigne K.N., Zacher H. (2017) 'Career adaptability: A meta-analysis of relationships with measures of adaptivity, adapting responses, and adaptation results', Journal of Vocational Behavior 98:17-34, doi:10.1016/j.jvb.2016.09.002 — doi.org
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