「3分の1ずつ」の出どころは、二つの職場である
仕事との関係は3通りに分かれる、という話はよくできている。生活の手段として見る人、階段として見る人、天職として見る人。しかもきれいに3分の1ずつ。皮肉なことに、この「きれいに3分の1ずつ」が示していたのは分布の普遍性ではなく、同じ職種の中でさえ構えが割れるという事実のほうだった。
前の単位で、型に分けて職業に結びつける枠組みが、型そのものの再現でつまずくことを見た。ここでは、型ではなく、何に没入するかという構えのほうを見る。
報酬と動機づけの論争そのものは、組織の基盤の棚と学業の棚が扱っている。ここで扱うのは「好きなことを仕事にせよ」という助言の側である。
「3分の1ずつ」の実体
仕事との関係は3通りに分かれる——生活の手段(job)、階段(career)、天職(calling)。この分類は米国・1997年の研究から来ている。そして「およそ3分の1ずつ」という但し書きが、必ず付く。
原典を開くと、たしかにこう書いてある。ほぼ同数の回答者が、仕事を job、career、calling と見ていた(それぞれ44人、43人、48人)。
分母は196ではなく135だった
ここから先が本題である。44 + 43 + 48 = 135。 ところが、この研究が分析に使った回答者は196人である。残りの61人は、単一の構えに分類できなかった。
配った先も見ておく。大規模な州立大学の学生保健サービスの職員130人のうち76人、小規模なリベラルアーツ大学の教員以外の職員283人のうち162人。合計413人に配って238人が答え、196人が分析に入り、135人が分類できた。回答者の79%は女性、平均年齢42歳(21〜69歳)。
つまり「働く人の3分の1ずつ」の出どころは、米国の二つの大学の職員135人である。 業種は一つ、地域は一つ、性別は大きく偏っている。便宜的に集められた標本から、世界の労働者の分布が語られているというのが、この数字の実体になる。
同じ職種24人の中で、9対7対8
同じ論文には、もっと効く数字が載っている。標本の中から管理事務職24人だけを取り出したときの内訳である。
9人が job、7人が career、8人が calling。
同じ職種、同じ職場、同じ仕事内容で、構えは三つに割れていた。 ここを読み替えるとこうなる——この研究が示したのは「人類は3分の1ずつに分かれる」ではなく、「職種が同じでも構えは割れる」である。前者は職業選択の指針に使えそうに見えるが、後者は逆に、職種名からその人の構えを予測できないことを意味する。
なお、この研究を独立に追試した査読論文は、探したが確認できなかった。探した先は、査読誌のデータベース、原典を引用している後続論文の本文、発行元の公開ページである。「追試されている」とは書けない。
「情熱は見つけるもの」を実験にかける
「好きなことを仕事に」という助言の背後には、情熱はどこかに実在していて、見つけるものだという前提がある。米国・2015年の4研究は、この前提を「見つける」派と「育てる」派に分けて比べた。
予備調査98人のうち78%が「見つける」側を選び、本調査271人でも69.9%が同じ側だった。 多数派である。
ただし条件を見ておく。4研究はすべてオンラインの成人パネルで行われている。実験室でもなく、縦断でもない。 そして効果量は小さい——本調査の交互作用で ηp² = .03。「多数派の信念である」ことと「その信念が結果を左右する」ことは、別に確かめなければならない。
プレプリントの巻号が、そのまま流通する
同じ主題で、2018年に5研究を重ねた論文がある。学部生とコミュニティ・カレッジの学生が中心で、分析標本の最小は44人、効果量は ηp² = .04 から .08。小さい。
この論文には、書誌のほうに事故がある。出版された版は 29(10):1653-1664、doi は 10.1177/0956797618780643 である。 これは発行元の誌面で確認できる。ところが世の中には、29(6):1014-1025、doi は 10.1177/0956797618774799 と刷り込まれた版が出回っている。 その doi を doi.org に入れると、登録されていないという応答が返る(2026年8月に確認)。巻号も、通し番号も、doi も違い、しかも片方はどこにも登録されていない。 こうしたずれは、公表前の版の書誌が拾われたときに起きるとよく説明される。その説明が正しいかどうかまでは、確かめられなかった。
一度どこかに刷り込まれた巻号は、そのまま次の論文へ、次の記事へ渡っていく。中身の検証より先に、書誌のほうが独り歩きする。 数字を確かめるときは、巻号とページと doi が出版版のものかどうかから始めるのが早い。doi をそのまま doi.org に入れてみるのが、いちばん短い検証である。
ついでにもう一件。就職の資料でよく見る「内発的動機が高い職種への就職者は、3年後の職業満足・離職率・給与水準のすべてで優位」という一文は、出典が特定できなかった。査読誌のデータベース、当該分野の総説の引用一覧、資料に代表文献として挙がっていた書籍の該当章まで当たったが、この命題を検証した研究に行き着かない。「存在しない」とは書かない。一次情報にたどり着けなかった、と書く。
時間・変化:7年で、構えは下がっていく
構えは固定されているのか。追いかけた研究がある。
米国の二つの高校生向け夏期音楽プログラムの参加者450人を、2001年から2008年までの7年間、4回にわたって追跡した調査である。天職としての構えの強さを毎回測ると、平均は7年のあいだに下がり続けた(1年あたり平均 .08 の低下)。 その活動への関与が強かった人ほど、はじめの水準は高かった。ただしその水準も、年を追って下がっていった。
この構えを測る12項目の尺度そのものも、音楽・美術・ビジネス・経営の4領域、1,500人・2,278観測から作られている。領域は限られており、そこで作られた物差しが、あらゆる職業の話に使われている。
構えは、就く前に確定して持ち歩くものではない。就いてから動く。 前の二つの単位で見た、順位が動くこと、型が入れ替わることと、同じ形の話である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、構えの名前で自分を呼ぶことである。「自分は天職型だ」と名乗ると、火曜の15時に何が起きていたかを書かなくなる。名前は記録の代わりにならない。
もうひとつ、値切っておくべきことがある。「好きでやっているのだから」という見立ては、扱いの悪さを正当化する向きにも働く。 米国・2020年の一連の実験は、その仕事に情熱があると見なされた働き手ほど、業務外の仕事を割り当てられたり無償の残業をさせられたりすることが、周囲から正当だと判断されやすいことを報告している。情熱は、本人の資源であると同時に、他人の言い訳にもなる。
ここでこの棚として毎回断ることがある。ここまでの数字は、ほぼすべて米国と欧州の、すでに働いている人か大学生を対象に採られている。 日本の労働市場を対象にした査読研究はごく少ない。実験室の課題と実際の選考は別物である。効果は短い期間で測られたものが多い。そして何より、就職の研究に協力できるのは、調査に答えられる状態にある人だけである。とりわけ——もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。
助けるのは、職種ではなく時間帯で数えることである。何時から何時まで、時間の経過を忘れていたか。何時から何時まで、時計を何度も見たか。これは職業名を持たない記録で、次の段で職務の中身と突き合わせられる。
最初の一歩は5分。今日(または直近の作業日)のうち、時間の経過を忘れていた時間帯と、時計を何度も見た時間帯を、それぞれ記録する。 該当が無ければ「無し」と書けばよい。
次の単位は 085「嫌悪・回避パターンの認識」——没入する側を数えたなら、機能が落ちる側も同じ精度で数えられるのか。 段はもう一つ進んで、自分を見る最後の一つに入る。
- 仕事を生活の手段(job)・階段(career)・天職(calling)として見るという分類は、米国・1997年の研究に由来する。原典では、ほぼ同数の回答者が三つの構えを持ち、それぞれ44人・43人・48人だった。合計は135人であり、分析に使われた196人が分母ではない。残りの61人は単一の構えに分類できなかった
- 標本は二つの職場である。大規模な州立大学の学生保健サービス職員130人のうち76人、小規模リベラルアーツ大学の教員以外の職員283人のうち162人。合計413人に配って238人が答え、196人が分析に入った。回答者の79%は女性、平均年齢は42歳(21〜69歳)である
- 同じ論文の中で、標本の管理事務職24人だけを取り出すと、内訳は9人が job、7人が career、8人が calling だった。同じ職種・同じ職場でも構えは三つに割れる。示されたのは分布の普遍性ではなく、職種名からその人の構えを予測できないということである。この研究を独立に追試した査読論文は、査読誌のデータベース・後続論文の本文・発行元の公開ページを探したが確認できなかった
- 「情熱は見つけるもの」という前提を調べた米国・2015年の4研究では、予備調査98人のうち78%が「見つける」側を選び、本調査271人でも69.9%が同じ側だった。ただし4研究はすべてオンラインの成人パネルで、実験室でも縦断でもなく、本調査の交互作用の効果量は ηp² = .03 と小さい
- 同じ主題で5研究を重ねた2018年の論文は、学部生とコミュニティ・カレッジの学生が中心で、分析標本の最小は44人、効果量は ηp² = .04 から .08 だった。しかも書誌に事故がある——出版された版は 29(10):1653-1664(doi:10.1177/0956797618780643)で発行元の誌面で確認できるが、29(6):1014-1025(doi:10.1177/0956797618774799)と刷り込まれた版が出回っており、そちらの doi は登録されていない
- 米国の二つの高校生向け夏期音楽プログラムの参加者450人を2001年から2008年まで4回追跡した調査では、天職としての構えの強さの平均は7年のあいだに下がり続けた(1年あたり平均 .08 の低下)。構えを測る12項目の尺度そのものも、音楽・美術・ビジネス・経営の4領域、1,500人・2,278観測から作られている
- 「内発的動機が高い職種への就職者は3年後の職業満足・離職率・給与水準のすべてで優位」という、就職の資料でよく見る一文は、査読誌のデータベース・総説の引用一覧・代表文献として挙がっていた書籍の該当章まで当たったが、原典を特定できなかった。存在しないとは書かず、一次情報にたどり着けなかったと書く
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 働く人はおよそ3分の1ずつ、仕事を生活の手段・階段・天職として見ている | この分布は、米国・1997年に二つの職場から採られたものである。大規模な州立大学の学生保健サービス職員130人のうち76人と、小規模リベラルアーツ大学の教員以外の職員283人のうち162人。分析に使えたのは196人、うち単一の構えに分類できたのは135人で、内訳は44人・43人・48人だった。分母は196ではなく135である。回答者の79%は女性、平均年齢は42歳(21〜69歳)だった |
| 同じ分布が世界中で再現しているから、これは人間の普遍的な型である | 同じ論文の中に、逆の読み方をする材料がある。同じ標本の管理事務職24人だけを取り出すと、内訳は9人・7人・8人だった。示されたのは分布の普遍性ではなく、職種が同じでも構えは割れるということである。なお、この研究を独立に追試した査読論文は探したが確認できなかった。追試されている、とは書けない |
| 情熱は見つけるものだから、合う仕事を探し当てるのが先である | 「見つける」と「育てる」のどちらを信じているかで、行動が変わる。米国・2015年の4研究では、予備調査98人のうち78%が「見つける」側の考えを選び、本調査271人でも69.9%が同じ側だった。ただし4研究はすべてオンラインの成人パネルで行われており、実験室でも縦断でもなく、効果量は小さい(交互作用の ηp² = .03)。5研究を重ねた2018年の研究でも効果量は ηp² = .04 から .08 で、分析標本の最小は44人である |
「好きなことを仕事に」という言い方の使い勝手のよさは、外れたときに責任の所在が動かないことである。合わなかったのは、まだ本当に好きなものに出会っていないから。合ったのに苦しいのは、好きなことにも苦労はつきものだから。**どちらでも助言は無傷で残る。** 無傷で残る助言は、たいてい何も予測していない。予測しているのは、火曜の15時に何が起きていたかを書いた記録のほうである。
Q1. 米国・1997年の研究で、仕事を job / career / calling と見た回答者はそれぞれ44人・43人・48人で、合計は ____ 人だった。ただしこの研究が分析に用いた回答者は ____ 人であり、残りは単一の構えに分類できなかった。穴埋め
Q2. 同じ研究の管理事務職24人の内訳を挙げ、その数字から読み取れることを1文で書きなさい。一問一答
Q3. 「情熱は見つけるものか、育てるものか」を調べた米国・2015年の4研究について、本文が付けた但し書きはどれか。選択
Q4. 同じ主題で5研究を重ねた2018年の論文の書誌について、本文が指摘したことはどれか。選択
Q5. 米国・1997年の研究で、人数が削られていった四つの段階を、多い順に並べなさい。並べ替え
紙かメモアプリを開く。今日(または直近の作業日)を思い返し、二つだけ記録する。ひとつめ、時間の経過を忘れていた時間帯(例:10時30分から11時15分ごろ)。ふたつめ、時計を何度も見た時間帯。それぞれ、そのとき何をしていたかを短く1行添える。仕事の内容でも、家事でも、学びでも、探し物でもよい。いま勤め先が無い場合は、直近で継続的に取り組んだ活動の日を1日選んで同じ形で記録すればよい。該当が無ければ「無し」と書く。良い悪いの評価は書かない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Wrzesniewski A., McCauley C., Rozin P., Schwartz B. (1997) 'Jobs, Careers, and Callings: People's Relations to Their Work', Journal of Research in Personality 31(1):21-33 — doi.org
- Chen P., Ellsworth P.C., Schwarz N. (2015) 'Finding a Fit or Developing It: Implicit Theories About Achieving Passion for Work', Personality and Social Psychology Bulletin 41(10):1411-1424 — journals.sagepub.com
- O'Keefe P.A., Dweck C.S., Walton G.M. (2018) 'Implicit Theories of Interest: Finding Your Passion or Developing It?', Psychological Science 29(10):1653-1664 — gregorywalton-stanford.weebly.com
- Dobrow S.R. (2013) 'Dynamics of calling: A longitudinal study of musicians', Journal of Organizational Behavior 34(4):431-452 — eprints.lse.ac.uk
- Dobrow S.R., Tosti-Kharas J. (2011) 'Calling: The Development of a Scale Measure', Personnel Psychology 64(4):1001-1049 — eprints.lse.ac.uk
- Kim J.Y., Campbell T.H., Shepherd S., Kay A.C. (2020) 'Understanding contemporary forms of exploitation: Attributions of passion serve to legitimize the poor treatment of workers', Journal of Personality and Social Psychology 118(1):121-148 — doi.org