うまくなるほど、自分の技は自分から隠れていく
上達すると動きは速く、正確に、楽になる。同時にもう一つ、あまり歓迎されない変化が起きる——自分が何をしているか説明できなくなるのだ。しかも無理に説明しようとすると、その場で下手になる。上達の最大の副作用は、技が本人から隠れることである。
前の単位が渡してきたもの
前の単位では、頭の中に置く見本——心的表象の解像度を上げる話をした。正解の像がはっきりするほど、自分の音や線や動きのどこがずれているかが見える。あれは、意識に上げる方向の作業だった。
この単位が扱うのは、その逆向きの過程である。繰り返した動作は、あるところから意識に上らなくなる。楽器の運指も、包丁の入れ方も、受け身の取り方も、最初は一手ずつ考えていたものが、やがて考えなくても出る。これを技術の自動化と呼ぶ。
そして自動化には、ほとんど誰も勘定に入れていない代償がついてくる。自動化されたものは意識に上らない。意識に上らないものは、自分では点検できない。この棚の前提——芸には採点表がなく、身体は正しいことも間違ったことも同じ熱心さで覚える——が、ここでいちばん厄介な形で顔を出す。
自動化は、なだらかな坂ではなく段差だった
運動学習の教科書に必ず出てくる区分がある。認知の段階、連合の段階、自律の段階の3つだ。最初は何をすべきかを言葉で考え、次にその手順がつながって滑らかになり、最後は考えずに出るようになる——1960年代に提案された枠組みで、長らく便利な比喩として使われてきた。
比喩ではなく実測できるのか。テニソン、フィンチャム、アンダーソンが2016年に Cognitive Psychology で報告した研究は、40人の大学生に同じ形式の問題を1問あたり36回ずつ解かせ、その間の脳活動を撮り続けた。反応時間だけでなく、脳の活動パターンから1試行を段階に切り分け、局面の切り替わりを推定したのである。
出てきたのは、きれいに3つだった。第1局面では答えを計算しており、計算にあたる区間が5〜6秒ある。第2局面に入るとその区間がほぼ消え、答えは計算ではなく記憶から引き出される。第3局面では、問題を読み取る区間まで大きく縮み、問題全体がひとまとまりとして認識されて反応に直結する。
重要なのは、これが連続的な短縮ではなく、質の違う3つの状態の移行として検出された点だ。上達は、同じことが速くなる過程ではない。途中で、やっていることの中身が入れ替わる。
楽器なら譜面を読んで指を探す段階、フレーズごとに手が動く段階、曲全体が一続きの運動として出る段階。武道なら手順を数える段階、連続技として通る段階、相手に反射で応じる段階。第3局面に入ったものは、もはや手順として取り出せない。
言語化すると下手になる、というもとの発見
ここから代償の話に入る。まず、記憶の研究から始まった有名な効果を見る。
スクーラーとエングスラー=スクーラーが1990年に Cognitive Psychology で発表した6つの実験は、延べ518人の大学生を対象にした。犯行場面の映像を見せ、片方の群には犯人の顔を言葉で詳しく描写させ、もう片方には無関係な課題をさせる。そのあと顔写真から犯人を選ばせる。
結果は直感に反していた。顔を言葉で描写した群のほうが、選び当てる率が低かった。著者らはこれを、言葉による記述が視覚的な記憶を上書きする現象と考え、言語隠蔽効果と名づけた。言葉にできることは顔の情報のごく一部でしかない。その一部が、全体の代わりに残ってしまう。
その効果は、31研究室の追試でどこまで残ったか
流行した概念は必ず縮む。この効果も例外ではなかったが、縮み方に癖があった。
アログナらが2014年に Perspectives on Psychological Science で発表した事前登録済みの多施設追試は、2段階で行われた。第1弾は31の研究室が参加し、映像を見た直後に描写させ、20分おいてから顔写真を選ばせる手順。統合効果は -4.01%、95%信頼区間は -7.15% から -0.87%。原研究の対応する実験では -22% だったから、ほとんど消えたに等しい。
ところが第2弾で、順序を入れ替えた。20分置いてから描写させ、その直後に顔写真を選ばせる。参加したのは22研究室。統合効果は -16.31%、95%信頼区間は -20.47% から -12.14%。原研究の対応する実験の -25% に、かなり近い。
読み方は一つしかない。言語化の害は存在する。ただし効果の大きさは、言語化と本番のあいだにどれだけ時間が空いているかで4倍近く変わる。直前に言葉にしたことだけが、手を狂わせる。
稽古の途中で言葉にするのと、舞台に上がる直前に言葉にするのとでは、まったく別のことをしている。
ゴルフで同じことをやると、うまい人だけが落ちる
顔の記憶の話が、身体の技にも及ぶのか。フリーガルとアンダーソンが2008年に Psychonomic Bulletin & Review で報告した実験は、そこを直接試している。
ゴルファーにパッティングを一定基準まで練習させ、片方の群にだけ自分がどう打っているかを詳しく言葉で記述させ、再テストする。
技能の高いゴルファーでは、記述させた群の成績が有意に落ちた。技能の低いゴルファーでは落ちなかった。著者らは、これは同時に2つのことをやる負荷の問題ではなく、長期記憶に及ぶ影響だと論じている。手続きとして持っている知識と、言葉として持っている知識が競合するのだ。
皮肉な含意がある。同じ助言——自分のフォームを言葉で確認しなさい——が、初心者には無害で、熟達者には有害になる。
手順に注意を向けさせると、熟達者だけ崩れる
言葉にしなくても、注意を手順に向けるだけで同じことが起きる。
グレイが2004年に Journal of Experimental Psychology: Applied で報告した実験は、野球の打撃を模した課題を使った。参加者は大学1部リーグで12年から19年の経験を持つ熟達打者10人と、5年未満の初心者10人。打つ最中に、無関係な音を聞き分ける課題を足す条件と、自分のバットが今どちらに動いているかを判断させる課題を足す条件を比べる。
無関係な課題は初心者の成績を落としたが、熟達者には効かなかった。逆に、自分のバットの動きを監視させる課題は熟達者の誤差を増やし——タイミングの誤差でおよそ31ミリ秒——初心者には効かなかった。注意の向け先によって、誰が壊れるかが入れ替わる。
さらに面白いのは第2の実験だ。熟達打者は、調子を落としている時期ほど、自分のバットの動きについての判断が正確になっていた。好調な時期には不正確になる。つまり、うまくいっていないとき、人はすでに自分の動作を監視している。そして監視が、崩れをさらに深くする。
注意を外に置くことが自動性を守る、という逆側の証拠もある。カル、ファンデルカンプ、ハウダイクが2013年に Human Movement Science で報告した実験は、30人に脚の屈伸課題をさせ、注意を自分の脚に向ける条件と、足が届く目標に向ける条件を比べた。外に向けた条件のほうが動きは滑らかで規則的になり、同時に別の課題をやらせたときの負担も小さかった。筋活動そのものには差がない。同じ力で、より自動的に動いていたことになる。
時間・変化:自動化はどう進み、どこで巻き戻るか
進む向きはこうだ。手順を言葉で数える状態から、まとまりとして出る状態へ。3局面の研究では、これが1問あたり36回の反復のあいだに起きた。数十回で起きるものもあれば数年かかるものもあるが、順序は同じである。
巻き戻る向きもある。言葉で説明する、手順に注意を向ける、調子を崩して自分を監視しはじめる——どれも、自律の段階にあったものを一段前へ引き戻す。追試が示したのは、この巻き戻りが直前であるほど強く効くということだった。
厄介なのは、巻き戻りが自覚されないことだ。監視しているとき、本人の感覚はむしろ「丁寧にやっている」である。丁寧さと自動性は、ある水準を超えると両立しない。
自分では点検できない、という代償
自動化されたものは意識に上らない。ならば、熟達者は自分の演技の中身を憶えていないはずだ——この予測は熟達性起因の健忘と呼ばれ、支持する実験がある。熟達ゴルファーは、自分が今打った1打について、初心者より短い説明しかできない。一般的な打ち方の説明は、むしろ長くなるのに、である。
ただしここでも値切りが入る。ホフディングとモンテロが Mind & Language に発表した検討は、この主張を4点から疑っている。実験では同じ動作を70回近く繰り返させており、熟達者は退屈から自動操縦に入っただけかもしれない。質問は「再現するのに十分な詳しさ」を求めており、憶えていないことと省略したことを区別できない。実験室の緊張度は本番に遠く及ばない。そして何より、熟達者の記憶が優れていることを示す研究のほうが大量にある——チェスの名人は数十年前の対局を再現できる。
著者らの対案は、演技後に記憶が薄いのは自動化のせいではなく、いま起きていることへの深い注意か、言葉にならない身体感覚への注意によるというものだ。
どちらが正しいにせよ、実務上の結論は変わらない。自分の演技について、自分の記憶は当てにならない。これは棚05の通奏低音そのものである。芸には採点表がなく、本番は一瞬で終わり、記録を取らなければ何も残らない。その上、記録を取る唯一の当事者の記憶が、上達するほど薄くなる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、良かれと思ってやる直前の言語化だ。舞台袖で注意点を3つ確認する、試合前にフォームを頭の中で言葉にする、料理を出す直前に手順を反芻する。追試が示したのは、この直前という条件でこそ害が最大になることだった。もうひとつは、調子が悪いときに自分の動作を監視する反射である。打撃の研究が示したのは、その監視が不調の結果としてだけでなく、不調の一部として現れることだ。
助けるのは、言語化の時間帯を分けることである。分解して言葉にするのは練習の前半に置く。本番に近づくほど、注意は自分の身体ではなく外の目標へ移す。外的焦点の研究が示すのは、それが気分の問題ではなく、動きの滑らかさと二重課題の負担で測れる違いだということだ。
標本の断りを入れておく。ここで引いた研究は欧米の大学生と、ゴルフ・野球という限られた種目に偏り、脳活動の研究は40人規模、動作の研究は10人から30人規模の小標本である。しかも実験室の課題は本番の重さを再現していない。向きは信用してよいが、あなたの技で何ミリ秒ずれるかは、ここには書いていない。
最初の一歩は15分。すでに考えなくてもできる手順を1つ選ぶ。まず何も言わずに10回やって出来を数える。次にその手順を紙に細かく書き出し、そのあと同じ10回をやって出来を数える。2つの数字を並べる。それだけでいい。
次の単位は 074「フロー誘発能」——自動化がある水準に達したときだけ立ち上がる状態、挑戦と技能が釣り合ったときに起きると言われているあの体験を扱う。そこでも数字は、言われているほど気前がよくない。
- Tenison, Fincham & Anderson 2016(Cognitive Psychology・大学生40人、1問36回反復、脳活動併記):技能習得は3局面として検出。第1局面は計算区間が5〜6秒、第2局面ではその区間がほぼ消えて記憶検索に置き換わり、第3局面では読み取り区間まで縮んで刺激と反応が直結する。上達は速くなることではなく中身が入れ替わること
- Schooler & Engstler-Schooler 1990(Cognitive Psychology 22(1):36-71・6実験、延べ518人):見た顔を言葉で詳しく描写した群は、その後の顔写真からの同定率が低かった。言葉にできる情報が視覚的記憶を上書きする現象で、言語隠蔽効果と名づけられた
- Alogna et al. 2014(Perspectives on Psychological Science 9(5):556-578)の事前登録多施設追試:直後に描写させ20分後に同定させた第1弾は31研究室で -4.01%(95%信頼区間 -7.15%〜-0.87%、原研究 -22%)、20分後に描写させ直後に同定させた第2弾は22研究室で -16.31%(-20.47%〜-12.14%、原研究 -25%)。害は実在するが、言語化と本番の間隔で4倍近く変わる
- Flegal & Anderson 2008(Psychonomic Bulletin & Review 15(5):927-932):打ち方を言葉で記述させると、技能の高いゴルファーだけ再テストの成績が有意に落ちた。低技能では落ちない。著者らは二重課題の干渉ではなく長期記憶への影響だと論じている
- Gray 2004(JEP: Applied 10(1):42-54・熟達打者10人=経験12〜19年、初心者10人):無関係な課題は初心者だけを害し、バットの動きを監視させる課題は熟達者だけを害した(タイミング誤差でおよそ31ミリ秒)。熟達者は不調期ほど自分の動作についての判断が正確だった
- Kal, van der Kamp & Houdijk 2013(Human Movement Science 32(4):527-539・30人):注意を自分の脚ではなく外の目標に向けた条件のほうが動きは滑らかで規則的になり、同時課題の負担も小さかった。筋活動には差がなく、同じ力でより自動的に動いていた
- 熟達性起因の健忘(熟達者は直前の1打を初心者より短くしか説明できない)は実験で支持されるが、Høffding & Montero が Mind & Language で4つの反証を並べた——反復による退屈、質問が求めた詳しさの水準、実験室の低い緊張度、熟達者の記憶が優れていることを示す膨大な研究。いずれにせよ、自分の記憶は当てにならない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 自分のフォームを言葉で細かく確認すれば、確実さが増す | 打ち方を言葉で記述させると、技能の高いゴルファーだけ再テストの成績が有意に落ちた。低技能では落ちない。しかも多施設追試が示したのは、言語化と本番の間隔が短いほど害が大きいこと——直後の同定では -16.31%、20分空けた場合は -4.01% だった |
| 調子が悪いのは注意が足りないからで、動作をよく見て直すべきだ | 熟達打者を調べた研究では、不調期ほど自分のバットの動きについての判断が正確だった。つまり不調のとき人はすでに自分を監視している。そしてその監視こそが、熟達者のタイミング誤差をおよそ31ミリ秒増やしていた要因だった。監視は不調の結果であると同時に、不調の一部でもある |
| 自動化されれば、あとは意識しなくても勝手に上達していく | 自動化されたものは意識に上らないので本人には点検できない。熟達者が直前の1打を初心者より短くしか説明できないという実験もある。この主張には反論もあるが、どちらにせよ結論は同じで、自分の演技についての自分の記憶は当てにならない。だから外部の記録が要る |
自動化は、上達の証明であると同時に、上達を確かめる手段の破壊でもある。手が勝手に動くようになった瞬間から、あなたはその手が何をしているか知らない当事者になる。そして親切な人が「フォームを意識して」と助言し、その助言は初心者には無害で、あなたにだけ効く毒になる。芸道のこの仕様は徹底していて、上達すればするほど、自分で自分を検算する道具が減っていく。減った分は、外から補うしかない。棚05の後半が丸ごとその話なのは、偶然ではない。
Q1. Alogna ら(2014)の多施設追試では、映像視聴の直後に描写させ20分後に同定させた第1弾(31研究室)の統合効果が ____%、20分後に描写させ直後に同定させた第2弾(22研究室)の統合効果が ____% だった。対応する原研究の効果はそれぞれ ____% と ____% である。穴埋め
Q2. Tenison ら(2016)が検出した技能習得の3局面を、各局面で何が起きているかを含めて順に説明せよ。研究の規模にも触れること。一問一答
Q3. Gray(2004)の野球打撃課題で、熟達打者(経験12〜19年)と初心者にそれぞれ二重課題を課したときの結果はどれか。選択
Q4. Flegal & Anderson(2008)のパッティング実験の結果と、著者らがそれをどう説明したかを答えよ。一問一答
Q5. 「熟達性起因の健忘」への疑義として Høffding と Montero が挙げた4点を、本文で登場した順に並べよ。(実験室の低い緊張度/質問が求めた詳しさの水準/熟達者の記憶が優れていることを示す研究群/70回近い反復による退屈)並べ替え
自分の技のうち、すでに考えなくてもできる手順を1つ選ぶ(音階の1フレーズ、包丁の刻み、受け身、サーブ、線の引き方など、10回繰り返せるもの)。まず何も言わずに10回やり、成功と判断した回数を数える。次にその手順を紙かメモに、他人が再現できる詳しさで言葉に書き出す(3分程度)。書き終えたらすぐに同じ10回をやり、成功回数を数える。2つの数字を並べて記録する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Tenison C., Fincham J.M., Anderson J.R. (2016) 'Phases of learning: How skill acquisition impacts cognitive processing', Cognitive Psychology — ctenison.com
- Schooler J.W., Engstler-Schooler T.Y. (1990) 'Verbal overshadowing of visual memories: Some things are better left unsaid', Cognitive Psychology 22(1):36-71 — eric.ed.gov
- Alogna V.K. et al. (2014) 'Registered Replication Report: Schooler & Engstler-Schooler (1990)', Perspectives on Psychological Science 9(5):556-578 — static1.squarespace.com
- Flegal K.E., Anderson M.C. (2008) 'Overthinking skilled motor performance: Or why those who teach can't do', Psychonomic Bulletin & Review 15(5):927-932 — link.springer.com
- Gray R. (2004) 'Attending to the execution of a complex sensorimotor skill: Expertise differences, choking, and slumps', Journal of Experimental Psychology: Applied 10(1):42-54 — www.academia.edu
- Kal E.C., van der Kamp J., Houdijk H. (2013) 'External attentional focus enhances movement automatization: A comprehensive test of the constrained action hypothesis', Human Movement Science 32(4):527-539 — www.researchgate.net
- Høffding S., Montero B.G. (2020) 'Not being there: An analysis of expertise-induced amnesia', Mind & Language — barbaramontero.wordpress.com