毎回教えてもらった人のほうが、翌日には下手になっていた
ずれをその場で教えてもらえるほど、ありがたい気がする。実際、教わっている最中は確かに上手くなる。ところが翌日、誰も教えてくれない状態で同じことをやらせると、毎回教わっていた側のほうが下手になっている。しかもその差は、感覚ではなく数字で測られていて、35%という値がついている。
前の単位から:条件のなかで、いちばん壊れやすい部品
意図的練習の5条件のうち、ひとつだけ、他人の手に握られている項目があった。やるとずれが即座に分かること、である。この単位はそこだけを取り出す。
直感はこう言う。ずれが分かる回数は多いほどよい。教師がついていればなお良い。この直感は、運動学習の実験でもっとも見事に裏切られてきたものの一つだ。
結果の知識と、やり方の知識
運動学習の研究では、外から与えられる情報を2つに分ける。結果の知識は、目標に対してどれだけずれたかを教える情報だ。矢が的の右下に外れた、演奏が2秒巻いた、といった種類のもの。やり方の知識は、動きそのものの質を教える情報で、肘が早く開いた、重心が後ろに残った、といった種類を指す。
両者は同じではない。結果だけを知らされても、原因の見当がつかなければ次の一投は変えられない。逆に、やり方の指摘ばかりで結果を見せられないと、直したつもりで的から遠ざかることがある。体育の場面を集めた15研究・853人のメタ分析では、フィードバックを与える条件は与えない条件を上回った(標準化平均差 0.47)が、その内訳ごとの優劣を切り分けるには証拠が足りない、という結論だった。
ここまでは常識の範囲である。裏切りはこの先にある。
100%と50%を比べたら、練習中は同じで、翌日に差がついた
ウィンスタインとシュミットが1990年に行った実験は、この分野の定番になっている。参加者58人が、レバーを使って800ミリ秒のあいだに決まった軌道を描く課題を、2日にわたって192試行練習した。片方の群は毎試行のあとに軌道のずれを見せられる。もう片方は、はじめは頻繁に、後半になるほど回数を減らし、全体で半分だけ見せられる。
練習中の成績は、両群でほとんど同じだった。誤差はどちらもきれいに下がっていく。差が出たのは、翌日、フィードバックなしで行われた保持テストのほうだ。半分だけ見せられた群は、毎回見せられた群より二乗平均平方根誤差が35%小さかった。
練習中に見えていたものと、身についていたものが、別物だったということである。
要約フィードバックが作る、きれいな逆転
もっと分かりやすい形の実験がある。シュミット、ヤング、スウィネン、シャピロが1989年に行ったものだ。72人が、550ミリ秒で決まった動きをつくる課題に取り組む。違うのはフィードバックのまとめ方だけで、1試行ごとに知らせる群、5試行分をまとめて知らせる群、10試行分、15試行分の4群がある。
練習中の誤差は、まとめる量が増えるほど大きくなった。1試行ごとが22.3ミリ秒、5試行が31.8、10試行が48.4、15試行が52.1。ここまでは予想どおりだ。
2日後、フィードバックなしの保持テストを行うと、順位が上から下まできれいにひっくり返る。1試行ごとの群が50.6ミリ秒、5試行が44.2、10試行が34.1、15試行が25.7。練習中いちばん下手に見えていた群が、いちばん上手くなっていた。
ガイダンス仮説:フィードバックは、杖である
この逆転をどう説明するか。1984年のサルモニ、シュミット、ウォルターの総説が持ち込んだのが、練習中の成績と学習を分けて考えるという発想だった。そこから育ったのがガイダンス仮説である。
言い分は単純だ。頻繁なフィードバックは、その場の動きを正しい方向へ誘導する。だから練習中の成績は上がる。しかし誘導されているあいだ、学習者は自分でずれを検出する作業をしていない。次の試行の修正量を外から与えられているので、自分の感覚と結果を照合する処理が省略される。杖をついて歩けば速く歩けるが、その間、足は鍛えられていない。
シュミットが1991年にまとめた論文の言い方を借りれば、頻繁なフィードバックによる低下は、その場しのぎの小刻みな修正を誘発することと、いくつかの情報処理を丸ごと塞いでしまうことから生じる。
ここで芸道の通奏低音が顔を出す。芸には試験も採点表もなく、本番は一瞬で終わる。誰も教えてくれない状態でのふるまいが、そのまま結果になる。つまり、あなたが最終的に必要としているのは、フィードバックがある状態での上手さではない。
自分で要求する方式は、有望に見えたが縮んだ
では、いつ見るかを本人に選ばせればよいのではないか。この考えは自己制御フィードバックと呼ばれ、20年ほど有望視されてきた。
2022年、マッケイらが51実験・52個の効果量を集めて検証した。素朴に平均すると効果量は g = .44 で、確かに効いているように見える。ところが、出版バイアスを補正する複数の手法にかけると推定値は g = .107(95%信頼区間 .047〜.18)まで縮み、有意な結果だけを集めた分布には証拠としての価値がほとんど残らなかった。著者たちの結論は、自己制御練習の利益は小さく、現時点ではゼロと区別できない、というものである。
流行の技法を1つ値切ったので、代わりに残るものを言う。回数を減らすこと自体の効果は、誰が決めるかとは独立に、上の2つの実験で確かめられている。決定権より、頻度のほうが確かだ。
録画と録音は、フィードバックではなく素材である
映像や音声の記録をどう情報に変えるかは、077 自己観察精度で単独に扱う。ここで押さえるのは、その手前にある問い——そもそもフィードバック全体について、いまどこまで言えるのか——だけである。
ハンらが2022年に報告したメタ分析は、9つのデータベースから選んだ15研究・延べ853人を統合し、フィードバックを与えた条件のほうが運動技能の学習で優ることを示した。標準化平均差は0.47、95%信頼区間は0.01〜0.93である。効いてはいる。ただし信頼区間の下端は、ほとんどゼロに接している。そして著者たちは、もうひとつ効き目の話より大事なことを付け加えた。結果の知識か、やり方の知識か、映像か、言葉か——下位の種別ごとに優劣を切り分けるには、現時点で証拠が足りない。
つまり、何かを返してもらうこと自体の効果は確かめられているが、どの形式が優れているかは決着していない。だから形式選びに時間を使うより、返ってきた情報を自分で照合する処理が残る配り方かどうかを見たほうがよい。撮った映像そのものは情報ではない。どこを見るかという指示と組み合わさって、はじめて情報になる。何を見るか決めずに再生する時間は、練習ではなく鑑賞だ。
運用に落とすと、問いは二つになる。いつ減らすか。そして、いつ自分から求めるか。
減らす時期の目安は、すでに上の実験が出している。ウィンスタインとシュミットの58人の実験で効いたのは、一律に半分にする配り方ではなく、前半を密にして後半ほどまばらにしていく配り方だった。シュミットらの要約の実験も同じ方向を指している。要約を長くするほど練習中は下手に見え、2日後には順位が反転した。だから減らす判断は、その日の出来ではなく、翌日以降に何が残ったかで下す。練習中の成績が落ちたので頻度を戻す——という運用は、ガイダンス仮説がまさに警告している手順そのものである。
自分から求めるタイミングのほうは、期待を下げておいたほうがよい。マッケイらの51実験のメタ分析が示したのは、決定権を本人に渡すこと自体の上乗せが、出版バイアスを補正すると g = .107 まで縮むということだった。ただし、決定権の中身までは測られていない。見る前に自分の判定を口に出してから求める、という順序だけは、誰の許可もいらずに自分で決められる。賭けるなら、決定権そのものではなく、決定した中身のほうである。
時間・変化:最初から、減らしていく前提で設計する
フィードバックの適量は固定値ではなく、上達の段階とともに動く。初期には、自分ではずれを検出できないので、頻度は高くてよい。問題は、そこで身につくのが技だけでなく、確認する習慣のほうでもあることだ。
だから設計としては、最初から減らす予定を組んでおくのがよい。ウィンスタインらの実験で使われたのも、一定の半分ではなく、前半は密で後半ほどまばらな配り方だった。中期には、確認の前に必ず自己判定を挟む。後期には、確認は週単位に落とし、自己判定と実際のずれのほうを記録の対象にする。
上達とは、ずれが小さくなることであると同時に、ずれを自分で検出できるようになることでもある。後者を測っていないと、前者だけが伸びた状態、つまり誰かがいないと成立しない技ができあがる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、フィードバックの心地よさだ。ずれを教えてもらった直後は必ず上手くなるので、教わる行為には即時の報酬がついている。減らすと、その場では下手になる。研究がそろって示しているのは、その下手さが投資だという不都合な話である。
もう一つは、映像の見すぎ。撮る手間が小さくなった分、見る時間は際限なく伸びる。見る前に、今日どこを見るかを1つ決めていないなら、それは確認ですらない。
標本の偏りも断っておく。ここに挙げた実験は、レバー操作や時間制御といった実験室課題を、欧米の大学生に短期間やらせたものが中心だ。楽器や武道のように長期にわたる複雑な技へそのまま外挿できるかは分かっていない。方向は信用してよいが、あなたの練習で最適な頻度が50%になるとは限らない。
助けるのは、確認の前に自己判定を1語入れることだ。的を見る前、再生ボタンを押す前に、今のは○か△か×かを口に出す。これだけで、省略されていた照合の処理が戻ってくる。
最初の一歩は15分。同じ動きを10回やり、毎回やる前ではなく直後に自分で○△×を判定する。実際に確認するのは5回目と10回目の2回だけにする。一致した回数を数える。
次の単位は071「変動練習設計」。フィードバックの配り方ではなく、課題そのものの並べ方を扱う。ここと同じ形の逆転が、もっと大きな規模で現れる。
- 運動学習では外部情報を2つに分ける。結果の知識は目標からのずれ(矢が右下に外れた等)、やり方の知識は動きの質(肘が早く開いた等)を伝える。体育場面の15研究・853人のメタ分析ではフィードバックあり条件が優った(標準化平均差 0.47、95%CI 0.01〜0.93)
- Winstein & Schmidt 1990(JEP:LMC):58人が800ミリ秒の軌道課題を192試行練習。毎試行フィードバック群と、前半は密で後半ほどまばらにして全体を半分にした群は、練習中の成績に差がなかった
- 同実験の24時間後の保持テスト(フィードバックなし)では、半分に減らした群の二乗平均平方根誤差が毎回もらった群より35%小さかった。練習中に見えていたものと身についていたものが別物だった
- Schmidt, Young, Swinnen & Shapiro 1989(JEP:LMC):72人・要約の長さ1/5/10/15試行の4群。練習中の絶対恒常誤差は22.3/31.8/48.4/52.1ミリ秒だが、2日後の保持テストでは50.6/44.2/34.1/25.7ミリ秒と順位が完全に逆転した
- ガイダンス仮説(Salmoni, Schmidt & Walter 1984 の総説に由来し Schmidt 1991 が整理):頻繁なフィードバックはその場の動きを誘導して練習中の成績を上げるが、学習者自身がずれを検出し照合する処理を省略させ、短期的で場当たり的な修正を誘発する
- McKay et al. 2022(Meta-Psychology):自己制御フィードバックの51実験・52効果量を集計。素朴な平均は g = .44 だが、出版バイアス補正後は g = .107(95%CI .047〜.18)まで縮み、著者らは利益は小さく現時点でゼロと区別できないと結論した
- Han, Syed Ali & Ji 2022(IJERPH 19(22):15361):体育での運動技能学習を扱った15研究・延べ853人のメタ分析。結果の知識・やり方の知識・映像といった下位種別の優劣を切り分けるには証拠が足りないと結論された。形式を選ぶより、頻度と自己照合を設計するほうが確かである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ずれはその場ですぐ、毎回教えてもらったほうが上達が速い | 58人・192試行の実験では、毎回もらった群と半分に減らした群は練習中に差がなく、24時間後の保持テストでは減らした群の誤差が35%小さかった。要約の長さを変えた実験では、練習中の順位と2日後の順位が完全に逆転する |
| いつフィードバックを見るかを自分で決められる方式なら、確実に学習が進む | 51実験・52効果量のメタ分析では、素朴な平均 g = .44 が出版バイアス補正後に g = .107 まで縮み、有意な結果の分布には証拠としての価値がほとんど残らなかった。決定権より、頻度を下げることのほうが確かめられている |
| フィードバックは細かく具体的なほどよい。やり方まで毎回指摘してもらえるなら、なおよい | ハンらの15研究・853人のメタ分析は、フィードバックあり条件が優ること(標準化平均差 0.47、95%信頼区間 0.01〜0.93)を示す一方で、結果の知識・やり方の知識・映像といった下位種別の優劣を切り分けるには証拠が足りないと結論した。細かさを上げるより、頻度を下げて自己照合の処理を残すほうが、24時間後や2日後の保持では確かめられている |
この単位の教えを一言でいうと、上達したければ自分に情報を出し惜しみしろ、になる。ずいぶん意地の悪い助言だが、意地が悪いのは教える側ではなく、記憶のほうだ。答えを見ながら解いた問題は、答えを見ながらしか解けるようにならない。芸の本番には、答えを見せてくれる人がいない。だから練習のどこかで、必ず一度は不安なまま終える必要がある。気持ちよく確認して帰った日の記録は、上達ではなく安心の記録である。
Q1. Winstein & Schmidt(1990)の実験で、フィードバック100%群と50%群の成績は、練習中と24時間後の保持テストでそれぞれどうだったか答えよ。一問一答
Q2. Schmidt ら(1989)の要約フィードバック実験では、練習中の絶対恒常誤差は1試行ごとの群が____ミリ秒で最も小さく、15試行の群が____ミリ秒で最も大きかった。ところが2日後の保持テストでは、1試行ごとが____ミリ秒、15試行が____ミリ秒となり順位が反転した。穴埋め
Q3. 自己制御フィードバック(いつ見るかを本人が選ぶ方式)について、McKay ら(2022)のメタ分析が示したものはどれか。選択
Q4. ガイダンス仮説が、頻繁なフィードバックの何を説明しているのかを、練習中と保持テストの違いに触れて答えよ。一問一答
Q5. 本文が示した、フィードバックの配り方の段階を初期から順に並べよ。(確認は週単位に落とし、自己判定と実際のずれを記録する/頻度は高くてよい/確認の前に必ず自己判定を1語挟む)並べ替え
いま練習している動きを1つ選び、同じ条件で10回続けてやる。各回の直後に、自分で○△×のどれかを声に出して判定する(頭の中ではなく声に出す)。実際に結果を確かめるのは5回目と10回目の2回だけにして、残り8回は確かめずに次へ進む。最後に、自己判定と実際が一致した回数(0〜2)を数える。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Salmoni A.W., Schmidt R.A., Walter C.B. (1984) 'Knowledge of results and motor learning: A review and critical reappraisal', Psychological Bulletin 95(3):355-386 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Winstein C.J., Schmidt R.A. (1990) 'Reduced frequency of knowledge of results enhances motor skill learning', Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 16(4):677-691 — www.krigolsonteaching.com
- Schmidt R.A., Young D.E., Swinnen S., Shapiro D.C. (1989) 'Summary knowledge of results for skill acquisition: Support for the guidance hypothesis', Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 15(2):352-359 — www.academia.edu
- Schmidt R.A. (1991) 'Frequent Augmented Feedback Can Degrade Learning: Evidence and Interpretations', in Tutorials in Motor Neuroscience, pp.59-75 — link.springer.com
- McKay B., Yantha Z.D., Hussien J., Carter M.J., Ste-Marie D.M. (2022) 'Meta-analytic findings of the self-controlled motor learning literature: Underpowered, biased, and lacking evidential value', Meta-Psychology 6, MP.2021.2803 — open.lnu.se
- Han Y., Syed Ali S.K.B., Ji L. (2022) 'Feedback for Promoting Motor Skill Learning in Physical Education: A Trial Sequential Meta-Analysis', International Journal of Environmental Research and Public Health 19(22):15361 — www.mdpi.com