一つの数字がきれいに上がるとき、たいてい数え方が動いている
設備の稼働率を上げれば、工場は儲かる——OEEという便利な一つの数字が、そう教える。ところがその数字は、一台の機械の効率しか見ておらず、しかも何をどう数えるかで、同じ一日が高くも低くもなった。上がったのが生産性なのか、それとも数え方なのかは、その数字の外にある。
前の単位では、現場の安全をどう数えるかを扱った。ここでは、その現場の働きぶりを、どんな数字で測り、上げるのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——「OEE(設備総合効率)という一つの数字を上げれば、工場の生産性が上がる」という思い込みである。個別の設備投資の助言はしない。特定の生産管理のしくみやセンサーを名指しもしない。扱うのは、この数字が何を測っていて、何を測っていないかである。
OEEとは、掛け算で作られた一つの割合だ
まず言葉をほどく。OEE(設備総合効率)とは、機械がどれだけ有効に使われたかを、一つの割合で表そうとする指標である。作り方は掛け算だ——可用率(止まらずに動けた時間の割合)×性能率(本来の速さで動けた割合)×良品率(不良を出さなかった割合)。三つの割合を掛け合わせて、一つの数字にする。
この指標には、はっきりした由緒がある。設備を丸ごと保全するTPMという活動のなかで、中島清一と日本プラントメンテナンス協会(JIPM)が定式化し、「85%なら世界クラス」という目安も広めた。だが、ここで一本目の筋が乗る。この85%は、実務のなかで置かれた目安であって、実験で導かれた最適値ではない。 定式が実在し、基準の数字が実在することは、その数字を目指せば生産性が上がる、という証明ではない。由緒ある指標ほど、達成すべき自然な目標のような顔をする。
OEEは設備の効率であって、工場全体の生産性ではない
では、OEEを上げれば生産性が上がるのか。1999年に *International Journal of Operations & Production Management* 19(1):55-78 へ出た論文(Jonsson & Lesshammar)は、製造の測定システムを調べ、その共通の弱点をこう述べた。“A common weakness of the systems was that they did not measure flow orientation or external effectiveness to any great extent.” 流れ(工場全体のものの流れ方)や、外部有効性(納期どおりに客へ届いているか)を、ほとんど測っていない、と。
OEEは、一台の機械が有効に回ったかを測る。だがそれは、工場全体がうまく流れているかとは別の話だ。ある機械のOEEが高くても、その機械が作りためた仕掛品が次の工程の前で山になっていれば、全体の流れはむしろ悪い。同じ論文は、OEEの弱点として複雑さと、継続的な改善の欠如も挙げている。
ここに、次の単位(332)へつながる話がある。工場のなかには、いちばん詰まっている工程——ボトルネック——がある。ボトルネックでない設備のOEEをいくら上げても、全体が出せる量(スループット)は増えない。 むしろ、非ボトルネックを全力で回すと、行き場のない仕掛品が積み上がるだけだ。「機械の稼働率を上げれば儲かる」は、この局所最適の罠にはまっている。設備が忙しく動いていることと、工場が儲かっていることは、別である。 それどころか、遊ばせておくべき設備を「稼働率が低い」と責めて動かし続ければ、置き場を圧迫し、次の工程を待たせ、直すべきボトルネックから人手と注意をそらす。一台ごとの効率を全部そろえて高くすること自体が、全体を悪くしうる——ここは、素朴な「稼働率は高いほどよい」から、いちばん遠いところだ。
OEEの数値は、数え方しだいで動く
さらに厄介なのは、OEEの数値そのものが、定義しだいで動くことだ。2008年に *International Journal of Production Research* 46(13):3517-3535 へ出た論文(Muchiri & Pintelon)は、OEEについて 「理論と実務の差」 を分析し、ロスの分類が現場ごとに食い違うことを示した。同じ論文は、OEEから派生した指標が乱立してきたことも整理している——設備の総合効率、工場の総合効率、資産の総合効率……名前だけでいくつもある。同じ「効率」という言葉で、別のものを数えている。
定義の揺れは、その後の研究でも裏づけられている。2020年の *Applied Sciences* 10(18):6469(Ng Corrales ら)は、186本の文献をまとめたレビューで、元のモデルに対する改変版が多数あり、OEEの定義は一枚岩ではないと示した。同じ2020年の *Computers & Industrial Engineering* 145:106518(Schiraldi & Varisco)に至っては、ISOの標準と文献のあいだで、OEEの定義が一致しているかどうかそのものが、検証すべき課題になっている。つまり——「うちのOEEは○○%です」という数字を、客観的な事実のようには引けない。 6大ロスをどこで区切るか、理想のサイクルタイムをいくつに置くか、稼働時間の分母に何を入れるか——その決め方しだいで、同じ工場の同じ一日が、高いOEEにも低いOEEにもなる。
数字を目標にすると、数え方のほうが動きだす
ここで、この棚の分析的なスタンスを一つ置く。ある数字を測るための道具から、達成すべき目標に変えると、その数字は測ることをやめ、動かされるものになる。 OEEを人やシフトの評価目標にすると、力は数字そのものではなく、数え方にかかりはじめる。計画停止を増やして分母を都合よく狭める、理想サイクルを低めに置いて性能率を上げる、小さな変更や不良を記録しない——どれも、現場を働かせるのではなく、数字を上げるための操作だ。
これはOEEが悪いのではなく、OEEの使い方の誤りである。そして、この逆機能はまさに、この単位が値切る対象だ。監視で人を締めるために数字を使わない。 OEEを下げた人を責める道具にした瞬間、返ってくるのは改善ではなく、都合のいい数え方のほうである。数える者が、数え方を握っている。 その決めが変われば、数字は現場が動かなくても動く。だから、OEEが上がった、という報告を受け取ったとき、まず問うべきは「何が良くなったか」ではなく、「分母と区切りが去年と同じか」のほうだ。数字が動いた理由の半分は、たいてい現場ではなく、数え方の側にある。
時間・変化:1988年から2020年まで
順に置く。1988年、TPMの文献がOEEを定式化し、85%という世界クラスの目安を広める(中島/JIPM・実務の目安)。1999年、OEEは流れや外部有効性を測らない、複雑で継続改善に弱い、と測定システムの研究が指摘する(Jonsson & Lesshammar)。2008年、理論と実務でロス分類が食い違い、派生指標が乱立していることが整理される(Muchiri & Pintelon)。2020年、186本のレビューが改変版の多さを示し(Ng Corrales ら)、別の研究がISO標準と文献の定義の一致を検証課題として立てる(Schiraldi & Varisco)。
32年で確からしくなったのは、「OEEを上げれば生産性が上がる」ではなく、OEEが何を測り落とし、その数字が数え方しだいでどう動くか、のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、一つの数字に、全体の良し悪しを代表させてしまうことである。OEEは一つの割合にまとまっているから、扱いやすい。扱いやすいから、それが上がれば全部が良くなった気になる。だが、まとまった数字ほど、その中でどんな決めがされたかは見えなくなる。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、量産の設備をもつ工場や、そこを調べた研究から採られたものが多い。一品ものや小ロット、手作業の多い現場では、そもそも「理想のサイクルタイム」を一つに決めること自体が難しい。 作るものが毎回変われば、本来の速さも毎回変わる。分母に何を入れるかも、その日の段取り次第で揺れる。そういう現場のOEEは、量産の工場のOEEと同じ数字に見えても、まったく別のものを数えている。 段取りの頻度も、作るものの構成も違えば、妥当なOEEも違う。85%という他人の目安を、自分の現場の合格点として持ち込まないことが、ここでの助けの入り口になる。
助けになるのは、自分がふだん見ている生産性の数字を一つ選び、その数字が『何を分母にし、何を数えていないか』を書き出してみるという一手である。値の高い低いではなく、定義のほうを見る。分母に何が入り、何が外されているかが分かれば、その数字が上下する理由の半分は見える。
最初の一歩は10分。自分がふだん目にする効率や稼働の数字を一つ選び、紙に三つ書く——「この数字の分母は何か」「この数字が数えていないもの(流れ・納期・仕掛品など)は何か」「この数字を上げたいとき、数え方をどういじれるか」。他人の数字を調べに行かない。自分が見ている一つの数字について、定義を書き出すだけである。
次の単位は 332「工程の詰まりをなくすには?」——一台ずつの効率ではなく、工場全体の流れを止めているボトルネックを、どう扱うのかを、ここに積み上げる。
- OEE(設備総合効率)=可用率(止まらず動けた割合)×性能率(本来の速さで動けた割合)×良品率(不良を出さなかった割合)。この定式化と『85%=世界クラス』の目安は中島清一・日本プラントメンテナンス協会(JIPM)のTPM文献に由来する実務ベンチマークで、実験で導かれた最適値ではない(通奏低音①)。85%を科学的到達目標として引かない
- Jonsson & Lesshammar 1999(IJOPM 19(1):55-78):製造の測定システムの共通の弱点は、流れ(flow orientation)や外部有効性(納期どおり客へ届いているか)をほとんど測らないこと。OEEは一台の機械の効率であって、工場全体の生産性(納期・スループット・在庫)とは別物で、複雑さと継続改善の欠如も弱点
- 非ボトルネック設備のOEEをいくら上げても全体のスループットは増えず、行き場のない仕掛品が積み上がるだけ(局所最適の罠)。機械の稼働率を上げれば儲かるは成り立たない。設備が忙しく動くことと工場が儲かることは別で、この筋は332 TOCへ接続する
- Muchiri & Pintelon 2008(IJPR 46(13):3517-3535):OEEは理論と実務でロスの分類が食い違い、派生指標(設備の総合効率・工場の総合効率・資産の総合効率など)が乱立している。同じ効率という言葉で別のものを数えており、数値は6大ロスの区切り・理想サイクル・稼働分母の決め方で動く
- Ng Corrales ら 2020(Applied Sciences 10(18):6469・186本のレビュー)は元モデルへの改変版が多数あり定義が一枚岩でないと示し、Schiraldi & Varisco 2020(Computers & Industrial Engineering 145:106518)はISO標準と文献でOEE定義が一致するかそのものを検証課題とした。うちのOEEは○○%という数字を客観的事実のようには引けない
- ある数字を測る道具から達成すべき目標に変えると、その数字は測ることをやめ動かされるものになる(棚の分析的スタンス)。OEEを評価目標にすると、計画停止で分母を狭める・理想サイクルを低く置く・変更を記録しないなど数え方が操作される。これはOEEの誤用で値切りの対象、監視で人を締める道具にしない
- OEEも不良率も、定義と数え方を現場が決めている(通奏低音②の先出し)。まとまった一つの数字ほど、その中でどんな決めがされたかは見えなくなる。336での回収に接続する
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| OEE(設備総合効率)という一つの数字を上げれば、工場の生産性が上がる | Jonsson & Lesshammar 1999 は、OEEが流れ(flow orientation)や外部有効性(納期どおり客へ届いているか)をほとんど測らない、設備単体の効率だと示した。非ボトルネック設備のOEEを上げても全体のスループットは増えず、仕掛品が積み上がるだけである(局所最適の罠)。85%も中島/JIPM由来の実務の目安で、実験で導かれた最適値ではない。設備が忙しく動くことと工場が儲かることは別である |
| OEEは客観的な数字だから、他社や過去や目標値と比べられる | Muchiri & Pintelon 2008 は理論と実務でロス分類が食い違い派生指標が乱立していることを、Ng Corrales ら 2020 は改変版が多数あることを、Schiraldi & Varisco 2020 はISO標準と文献の定義の一致がそもそも検証課題であることを示した。OEEの値は6大ロスの区切り・理想サイクル・稼働分母の決め方で動くため、うちのOEEは○○%という数字を客観的事実のようには引けない |
| 85%が世界クラスの目標なのだから、どの現場もそこを目指せばよい | 85%は中島清一/JIPMのTPM文献に由来する実務の目安で、実験で導いた最適値ではない。段取りの頻度も作るものの構成も違えば、妥当なOEEも違う。一品ものや小ロット、手作業の多い現場では理想のサイクルタイムを一つに決めること自体が難しい。他人の目安を自分の現場の合格点として持ち込まない |
| OEEを評価の目標にすれば、現場は本気で効率を上げる | ある数字を測る道具から達成すべき目標に変えると、力は数字ではなく数え方にかかる。計画停止を増やして分母を狭める、理想サイクルを低く置く、変更を記録しない——現場を働かせるのではなく数字を上げる操作が起きる。これはOEEの誤用であり値切りの対象で、監視で人を締める道具にはしない |
皮肉なのは、いちばん扱いやすい数字が、いちばん動かしやすい数字でもあることだ。OEEは一つの割合にまとまっている。だから会議で見せやすく、去年と比べやすく、目標に置きやすい。そして目標に置かれた瞬間、その数字は、機械が本当にどれだけ役に立ったかではなく、分母をどう取り、理想の速さをいくつに置いたかを映すようになる。85%まで上がりました、と胸を張れる工場のいくつかでは、上がったのは効率ではなく、効率の数え方のほうである。数字は、現場が汗をかかなくても、ちゃんと上がる。
Q1. OEE(設備総合効率)は、【 ① 】(止まらず動けた割合)×性能率×【 ② 】(不良を出さなかった割合)という掛け算で作られる。『85%=世界クラス』は中島/JIPMのTPM文献に由来する【 ③ 】の目安で、実験で導かれた最適値ではない。穴埋め
Q2. Jonsson & Lesshammar 1999 によれば、OEEを含む測定システムがほとんど測っていない二つのものは何か。それがなぜ「OEEを上げれば生産性が上がる」を怪しくするのかも書け。一問一答
Q3. 「うちのOEEは○○%です」という数字を客観的な事実のようには引けない、と本文が言う理由として正しいものはどれか。選択
Q4. OEEを人やシフトの評価目標にすると、なぜ「現場の働き」ではなく「数え方」のほうが動きだすのか。本文が挙げた操作の例を一つ添えて書け。一問一答
Q5. 本文『時間・変化:1988年から2020年まで』で並べた出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)理論と実務でロス分類が食い違い派生指標が乱立していると整理される(イ)TPM文献がOEEを定式化し85%の目安を広める(ウ)186本のレビューと、ISO標準と文献の定義の一致を検証課題として立てる研究が出る(エ)OEEは流れや外部有効性を測らないと測定システムの研究が指摘する並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分がふだん目にする効率や稼働、生産性の数字を一つ選ぶ(仕事の数字でも、家計や時間の使い方の数字でもよい)。その数字について、三つを書き出す。一つめ『この数字の分母は何か(何分の何か)』。二つめ『この数字が数えていないもの(全体の流れ・納期・仕掛品・待ち時間など)は何か』。三つめ『もしこの数字を上げたいとき、数え方のどこをいじれるか』。値が高いか低いかは書かない。あくまで定義のほうを書き出す。他人の数字を調べに行ったり、誰かの数字を評価したりしない。自分が見ている一つの数字について、分母と、数えていないものと、いじれる余地を並べるだけである。数字を持っていない場合は、身近な『効率がいい/悪い』の言い方を一つ選び、それが何を分母にしているかを言葉にするだけでよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Jonsson P., Lesshammar M. (1999) 'Evaluation and improvement of manufacturing performance measurement systems – the role of OEE', International Journal of Operations & Production Management 19(1):55-78, doi:10.1108/01443579910244223 — doi.org
- Muchiri P., Pintelon L. (2008) 'Performance measurement using overall equipment effectiveness (OEE): literature review and practical application discussion', International Journal of Production Research 46(13):3517-3535, doi:10.1080/00207540601142645 — doi.org
- Ng Corrales L.C., Lambán M.P., Hernandez Korner M.E., Royo J. (2020) 'Overall Equipment Effectiveness: Systematic Literature Review and Overview of Different Approaches', Applied Sciences 10(18):6469, doi:10.3390/app10186469 — doi.org
- Schiraldi M.M., Varisco M. (2020) 'Overall Equipment Effectiveness: consistency of ISO standard with literature', Computers & Industrial Engineering 145:106518, doi:10.1016/j.cie.2020.106518 — doi.org
- Nakajima S.(中島清一)(1988) Introduction to TPM: Total Productive Maintenance, Productivity Press(書籍・原典。TPMとOEEの定式化) — archive.org
- 日本プラントメンテナンス協会(JIPM)(1988) TPM実務資料——OEEの定式化と『85%=世界クラス』のベンチマーク(中島清一 Introduction to TPM 英訳刊1988を含む・実務資料、査読誌ではない) — www.jipm.or.jp