分ければ安全、とはかぎらない
一社に頼るな、分散せよ、という定石がある。途絶を解析した研究はそれを否定していない。ただし同じ研究は、信頼できる一社と在庫の組み合わせが最適になりうる、決め手は仕入先の数ではなく稼働率と途絶の型だ、と書いている。
前の単位では、調達のコストを価格だけで測らないという話を扱った。ここでは、仕入れる先を一社に絞るか、複数に分けるか——分散という選び方を扱う。
この単位が扱うのは一点——「複数に分ければリスクは下がる」が、無条件では成り立たないことである。どの相手と組むべきかは扱わない。そして、この単位は災害や国際情勢を予測しない。過去に起きたことから、分散という手の効き方を見るだけである。
「一社に頼るな、分散せよ」の、その分散は何を下げるのか
供給が止まると困る。だから、一社に頼らず複数に分けておけば安心だ——という助言がある。仕入れ先の複線化、マルチソース(複数の相手から買うこと)は、途絶に備える定石として語られる。ここで言葉をほどく。シングルソースは一社だけから買うこと、マルチソースは複数から買うこと、リードタイムは注文してから届くまでの時間、そしてn次仕入先は、直接の相手のさらに先にいる、相手の仕入れ先のことである。分散の狙いははっきりしている。一社が止まっても、別の一社が動いていれば、供給は途切れない——という理屈だ。理屈としては、まっすぐで分かりやすい。問題は、その理屈が成り立つための条件のほうが、いつも語られるとはかぎらないことである。
一見、分ければ分けるほど安全に思える。ところが、途絶への備えを解析した研究は、そう単純ではないと言う。
信頼できる一社+在庫、が最適になりうる
2006年に *Management Science* 52(5):639-657 へ出た研究は、一つの品目を、信頼できないが安い相手と、信頼できるが高い相手の二つから調達できる状況を解析した。設定はこうだ——“We study a single-product setting in which a firm can source from two suppliers, one that is unreliable and another that is reliable but more expensive.”
結論の中心はこうである——“…a risk-neutral firm will pursue a single disruption-management strategy: mitigation by carrying inventory, mitigation by single-sourcing from the reliable supplier, or passive acceptance.” リスクに中立な会社が採る途絶対策は、一つに絞られる——在庫を持って備えるか、信頼できる一社からのシングルソースで備えるか、あるいは何もせず受け入れるか。 分散は、必ずしもここに入ってこない。
では、何がその選択を決めるのか。研究はこう書く——“We find that a supplier’s percentage uptime and the nature of the disruptions (frequent but short versus rare but long) are key determinants of the optimal strategy.” 最適な戦略を決めるのは、相手がどれだけの割合で動いているか(稼働率)と、途絶の性質——頻繁だが短いか、稀だが長いか——である。 何社に分けるか、ではない。
もっとも、研究は「常に一社」とも言っていない——“…a mixed mitigation strategy (partial sourcing from the reliable supplier and carrying inventory) can be optimal if the unreliable supplier has finite capacity or if the firm is risk averse.” 相手の生産能力に限りがあるときや、会社がリスクを嫌うときは、信頼できる相手からの一部調達と在庫を組み合わせるのが最適になりうる。答えは、条件で動く。2009年に *Omega* 37(4):788-800 へ出た解析も、需要や途絶の起こりやすさによっては単一調達が優位になりうると報告し、2010年の研究は、相手が約束を守れなくなる危険の大きさしだいで一社か複数かの選択が変わることを示している。
単一調達でも、二日で戻った事例がある
「一社だと止まったら終わり、複数なら安全」という直感に、正面から反する事例がある。1998年に実務誌へ出た事例研究は、ある自動車グループの部品にまつわる出来事を記録している。その部品は、ほぼ一社からしか供給されていなかった。1997年、その供給元の工場が火災で焼けた。 単一調達だから、供給は完全に止まった——はずだった。
ところが、組立の停止は長くは続かなかった。事例研究によれば、系列の企業どうしが自分たちで役割を分け合い、代わりの生産を立ち上げ、およそ二日で組立が再開した。速さの源は、供給元の数ではない。ふだんから積み上げられた、網としての助け合いのほうにあった。
「単一だから遅い、複数だから速い」は、成り立たない。 回復の速さを決めていたのは、頭数ではなく、途絶が起きたあとに動ける関係と、代わりの道だった。
「一次を複線にしても、上流が一つ」なら、分散は見かけだけ
もう一つ、分散が効かない形がある。複数の相手から買っていても、その相手たちが、さらに上流で同じ一つの供給元や、同じ一つの地域に頼っていたら、どうなるか。上流が一度に止まれば、複線にした相手が、そろって止まる。 見かけは分散だが、リスクは分散されていない。
供給網の途絶を俯瞰した2016年の査読レビューは、この種の相関——独立に見える供給元が、実は共通の要因を分け合っている——を、途絶を考えるうえでの一つの軸として扱っている。現に、2021年に公表されたある政府の供給網の点検報告は、半導体の製造が世界の少数の製造拠点に集中していることを指摘した。自分の直接の相手が二社でも三社でも、その先が一つなら、数だけ増やしても、共通の一点は残る。この「見えない上流」の話は、次の単位(供給網の全体を見渡す)へつながる。
その「複線化しなさい」は、誰の勧めか
ここで、この段を貫く注意を置く。分散を勧める言葉の多くは、分散を支える仕組み——複数の相手を管理する道具や、切り替えを助けるやり方——を売る側から出てくる。「一社依存は危険」という一言は、それ自体はまちがっていなくても、複線化の費用(単価の上昇、管理の手間、各社にとってこちらの優先度が下がること)を数えない形で流通しやすい。 危険のほうは目立つ言葉で語られ、費用のほうは静かに後から効く。何を安全と数え、何を費用と数えないか——ここでも、その決めが結論の手前にある。数だけを見て安心する前に、その分散が、どの途絶に効いて、どの途絶には効かないのかを、一度分けて考えておくとよい。
時間・変化:1998年から2021年まで
順に置く。1998年、単一調達の部品が火災で止まっても、系列網の助け合いで二日で回復した事例が記録される。2006年、途絶対策を解析した研究が、信頼できる一社+在庫が最適になりうること、最適戦略は稼働率と途絶の性質で決まることを示す。2009年、需要や途絶の確率によっては単一調達が優位になりうる、という解析が加わる。2016年、供給網の途絶のモデルを俯瞰する査読レビューが、分散だけが解ではないことを枠として整理する。2021年、公的な供給網の点検報告が、上流の製造が少数の拠点に集中している現実を指摘する。
23年で確からしくなったのは、「分けろ」という処方ではなく、効き方が稼働率・途絶の型・上流の相関で変わる、という条件のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、数を増やすこと自体を、安全の量だと思ってしまうことである。分けることには費用がある。量を分ければ、各社にとってこちらは小さな客になり、いざというときの優先順位が下がることもある。数は、安心の見た目を作るが、安全そのものとは別である。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠は、解析のモデルと、特定の産業の事例から採られたものが多い。途絶は、報道された大きなものや、記録に残った事例が標本になりやすく、静かに乗り切られた小さな途絶や、逆に畳んでしまって語られない途絶は、数に入りにくい。 生き残った側の記録が、教訓として残る。だから「こうすれば止まらない」という話は、止まらなかった側から書かれている、という偏りを、いつも一つ引いておく。
助けになるのは、自分の供給の道筋を、知っている範囲で一度描いてみるという一手である。数を数えるのではない。直接の相手の先に、思い当たる共通の上流があるか、代わりの道があるか——それを、自分の頭の中から紙に出す。紙の上に出してはじめて、どこが見えていないかも、見える。
最初の一歩は10分。自分が仕入れているものを一つ選び、直接の相手、その先で思い当たる共通の上流、代わりの調達先があるかどうかを、知っている範囲で紙に描く。相手に問い合わせない。分からないところは「分からない」と書く。分からない場所が見えることが、この図のいちばんの収穫である。 数を数えるのではなく、どこが一点に集まっているかを見るための図である。
次の単位は 313「供給網の全体を見渡すには?」——その「見えない上流」を、どこまで見渡せるのかを、ここに積み上げる。
- 2006年に Management Science 52(5):639-657 へ出た研究は、リスクに中立な会社の途絶対策が、在庫を持つ・信頼できる一社からのシングルソース・受け入れ、の一つに絞られると解析した。分散は必ずしもこの選択肢に入らず、最適戦略を決めるのは供給元の稼働率と途絶の性質(頻繁だが短いか、稀だが長いか)である
- 同研究は「常に一社」とも言っていない。相手の生産能力に限りがあるときや会社がリスクを嫌うときは、信頼できる相手からの一部調達と在庫を組み合わせる混合戦略が最適になりうる。答えは条件で動く
- 2009年に Omega 37(4):788-800 へ出た解析は需要や途絶の確率によっては単一調達が優位になりうると報告し、2010年の研究は相手が約束を守れなくなる危険の大きさしだいで一社か複数かの選択が変わることを示した。仕入先の数そのものが安全を決めるのではない
- 1998年に実務誌へ出た事例研究では、ほぼ一社からしか供給されていなかった自動車部品の供給元工場が1997年に火災で焼けたが、系列の企業どうしが役割を分け合って代わりの生産を立ち上げ、およそ二日で組立が再開した。速さの源は供給元の数ではなく、途絶後に動ける関係と代わりの道だった
- 複数の相手から買っていても、その相手たちがさらに上流で同じ供給元や地域を共有していれば、上流が一度に止まると複線にした相手がそろって止まる。見かけは分散だがリスクは分散されない。2016年の査読レビューはこの相関を途絶を考える一つの軸として扱い、2021年の公的な供給網の点検報告は上流の製造が少数の拠点に集中していると指摘した
- 分散を勧める言葉の多くは、分散を支える仕組みを売る側から出てくる。一社依存は危険という一言は、それ自体はまちがっていなくても、複線化の費用(単価の上昇・管理の手間・各社にとっての優先度の低下)を数えない形で流通しやすい。何を安全と数え何を費用と数えないかの決めが結論の手前にある
- 途絶は報道された大きなものや記録に残った事例が標本になりやすく、静かに乗り切られた小さな途絶や畳んで語られない途絶は数に入りにくい。1998年の事例・2006年と2009年と2010年の解析・2016年のレビュー・2021年の点検報告を通じて確からしくなったのは、分けろという処方ではなく、効き方が稼働率・途絶の型・上流の相関で変わるという条件である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 仕入れ先を複数に分ければ、途絶のリスクは下がる | 2006年の Management Science 52(5) の解析では、リスクに中立な会社の途絶対策は在庫・信頼できる一社からのシングルソース・受け入れの一つに絞られ、分散は必ずしも入らない。最適戦略を決めるのは供給元の稼働率と途絶の性質であって、仕入先の数ではない。分けること自体には費用があり、各社にとってこちらの優先度が下がることもある |
| 一社に頼ると、止まったら終わりで、回復も遅い | 1998年の事例研究では、ほぼ一社からしか供給されていなかった部品の工場が火災で焼けたのに、系列網の助け合いでおよそ二日で組立が再開した。回復の速さを決めたのは供給元の数ではなく、途絶後に動ける関係と代わりの道である。単一だから遅い、複数だから速い、は成り立たない |
| 複数の相手から買っていれば、上流のことは気にしなくてよい | 直接の相手を複数にしても、その相手たちがさらに上流で同じ供給元や地域を共有していれば、上流が一度に止まると全員がそろって止まる。見かけは分散でもリスクは分散されない。2021年の公的な点検報告は、半導体の製造が少数の拠点に集中していることを指摘している |
皮肉なのは、いちばん語られる強靭化の話が、いちばん語られやすい形をしていることである。二日で立ち直った網の物語は、教訓として何度も引かれる。だが同じ火事で、複数の相手に分けていたのに、その相手たちが同じ上流を分け合っていたせいで、静かに、まとめて止まった側の話は、たいてい記録に残らない。分散という言葉が安心を運ぶのは、数えられた成功と、数えられなかった失敗の、あいだの溝を跨いでいるからだ。分けたことが効いたのか、たまたま上流が無事だったのかは、止まってみるまで、区別がつかない。
Q1. 2006年の Management Science 52(5) の解析によれば、最適な途絶対策を決めるのは何か。仕入先の数ではないことを含めて書け。一問一答
Q2. 1998年の事例研究が記録した、単一調達の部品の供給元が火災で止まったあとの出来事として正しいものはどれか。選択
Q3. 複数の相手から買っていても、その相手たちがさらに【 ① 】で同じ供給元や地域を共有していれば、そこが一度に止まったとき、複線にした相手が【 ② 】止まる。見かけは分散でも、リスクは【 ③ 】されていない。穴埋め
Q4. この単位で扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)供給網の途絶のモデルを俯瞰する査読レビューが、分散だけが解ではないと整理する(イ)単一調達の部品が火災で止まっても二日で回復した事例が記録される(ウ)途絶対策の解析が、信頼できる一社+在庫が最適になりうると示す(エ)公的な点検報告が、上流の製造が少数の拠点に集中していると指摘する並べ替え
Q5. 「数を増やすこと自体を安全の量だと思ってしまう」ことの、どこが問題か。分けることの費用と、標本の偏りの両面から1〜2文で書け。一問一答
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分が仕入れているものや、よく買っているものを一つ選ぶ。まん中あたりに自分を置き、そこから、直接の相手(どこから買っているか)を線でつなぐ。さらにその先に、思い当たるなら、相手がどこから仕入れていそうか(共通の上流や地域)を、知っている範囲で書き足す。最後に、その品目について、代わりの調達先を思いつくかどうかを一言添える。相手に問い合わせない。相手を評価したり、取引を見直したりしない。分からないところは、無理に埋めず「分からない」と書く。分からない場所がどこかが見えることが、この図のいちばんの収穫である。いま組織に属していない場合や一人で全部を回している場合も、自分がよく買っているものを一つ選んで同じ形で描けば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Tomlin B. (2006) 'On the Value of Mitigation and Contingency Strategies for Managing Supply Chain Disruption Risks', Management Science 52(5):639-657, doi:10.1287/mnsc.1060.0515 — doi.org
- Nishiguchi T., Beaudet A. (1998) 'The Toyota Group and the Aisin Fire', Sloan Management Review 40(1):49-59(実務誌・事例研究・査読を経た論文ではない) — sloanreview.mit.edu
- Yu H., Zeng A.Z., Zhao L. (2009) 'Single or dual sourcing: decision-making in the presence of supply chain disruption risks', Omega 37(4):788-800, doi:10.1016/j.omega.2008.05.006 — doi.org
- Costantino N., Pellegrino R. (2010) 'Choosing between single and multiple sourcing based on supplier default risk: A real options approach', Journal of Purchasing and Supply Management 16(1):27-40, doi:10.1016/j.pursup.2009.08.001 — doi.org
- Snyder L.V., Atan Z., Peng P., Rong Y., Schmidt A.J., Sinsoysal B. (2016) 'OR/MS models for supply chain disruptions: A review', IIE Transactions 48(2):89-109, doi:10.1080/0740817X.2015.1067735 — doi.org
- The White House (2021) 'Building Resilient Supply Chains, Revitalizing American Manufacturing, and Fostering Broad-Based Growth: 100-Day Reviews under Executive Order 14017'(公的資料・査読を経た論文ではない・2021年6月公表) — www.whitehouse.gov