開くほど良い、という線は途中で折れる
外に開けば開くほど良い、という言い方がある。実測を見ると、線は途中で折れている。しかも折れ返りが出るかどうかは、成果を何で測るかで変わり、いつ測るかによっては符号まで入れ替わる。
前の単位で、手元に残ったものを数える物差しの話をした。手元にあるものだけでは足りないとき、外から持ってくるという手が出てくる。ここでは、その手がどこまで効くのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——外に開く度合いと成果の関係が、直線ではないことである。どの相手と組むべきかは扱わない。契約の話もしない。
「開く」には、少なくとも四つの形がある
同じ言葉が、違う操作を指していることがある。2010年に *Research Policy* 39(6) へ出た総説は、この分野の論文を機械的に集めて内容を読み込み、「開かれていること」という語の定義を整理し直すことを目的に掲げている。
結果として並んだのは四つである。内向きの二つ——外から探して取り込むこと、外から買って取り込むこと。外向きの二つ——外へ明かすこと、外へ売ること。 そして総説は、この四つの形それぞれについて、利点と欠点を分析すると書いている。
「開く」と一語で言うとき、この四つのどれを指しているかで、費用も、速さも、返ってくるものも違う。 この単位でこれから見る実測は、主に内向きの二つについてのものである。
広さと深さは、途中で折れる
いちばんよく引かれるのが、2006年に *Strategic Management Journal* 27(2) へ出た研究である。標本は英国の製造業2,707社で、データは2001年に実施された英国の技術革新調査から採られている。この調査は、欧州統計局が定める共通の調査様式に沿ったものだ、と本文に明記されている。
要旨の結論はこうだ——広く、そして深く探索することは、成果と曲線的に、すなわち逆U字の形をとって関係している。
本文にはもっと直接の一文がある——外部への探索の広さが不利になる点が存在する。
つまり、外に当たる先を増やしていくと、あるところまでは成果が上がり、その先で下がる。 上がる理由も下がる理由も、同じところにある。外の相手はどれも、こちらの時間を使う。
ただし「常に逆U字」ではない
ここで単純化を一段止める必要がある。同じ論文の表には、成果の測り方を三通りに分けた結果が並んでいる。世界にとって新しい革新、その会社にとって新しい革新、そして模倣的な革新の三つである。
探索の広さの二次の項は、三つとも負で有意である(−0.024/−0.027/−0.033)。ところが探索の深さの二次の項は、世界にとって新しい革新で −0.057、その会社にとって新しい革新で −0.031 と負で有意なのに対し、模倣的な革新では −0.015 で、有意ではない。
「開きすぎると落ちる」という形がはっきり出るのは、新しさの度合いが高い成果を測ったときである。 模倣的な革新を成果に取ったときには、深さの側の折れ返りは統計的に確かめられていない。同じデータ、同じ論文の中で、成果の定義を替えると結論の一部が消える。
短期には、むしろ遅く、高くつく
もう一つ、時間軸の話がある。2011年に *Technovation* 31(1) へ出た研究は、デンマークの企業を対象に2004年に実施された調査を使っている。特別な質問票に回答した企業のうち、設問の半分以上に答えた110社が分析の対象である。著者自身が探索的な研究だと書いている。
要旨の結論は、開く側にとってきつい。直近の新製品開発の成果の指標では、単独の企業による戦略のほうが、協働の戦略より良い成績を出している。 さらに——開かれている度合いが上がるほど、新製品開発の案件は、その業界の標準より遅く、その会社のふだんの案件より遅く、そして業界の標準よりも会社のふだんよりも費用が高かった。
同じ向きの結果が、別の標本にもある。2010年に *Journal of Product Innovation Management* 27(6) へ出た研究は、ベルギーの製造業305社について、欧州の共通様式による技術革新調査の第4回のデータと、企業財務のデータベースを突き合わせ、構造方程式で分析した。
結論は二段である。技術提携の相手の多様さは、製品の革新の成果を高めることを通じて、財務の成果に間接的な正の影響を持つ。 ところが同時に——技術提携の相手の多様さは、財務の成果に対して直接に費用を増やす効果を持つ。 そして——短期においては、この直接の費用増の効果が、間接の価値創出の効果を上回る。
同じ操作が、測る時点によって符号を変える。 「開いたのに成果が出ない」と言われる場面の一部は、まだ短期の側を見ているというだけかもしれない。
外が効くのは、内があるからである
では、外から取ってくれば内側は要らないのか。2006年に *Management Science* 52(1) へ出た研究が、そこを直接に測っている。
結論はこうだ——内部の研究開発と外部からの知識の獲得は、補い合う革新の活動である。ただし、補い合いの度合いは、その会社の戦略の環境の他の要素に対して敏感である。 論文はその「他の要素」の一つを名指ししている——基礎的な研究への依存、すなわち革新の過程における情報源としての大学や研究機関の重要性である。
外から取り込むことは、内側の活動の代わりではなく、内側があるときに効きやすくなる操作である。 そして、その効きやすさは会社の置かれた条件で変わる。「外から取れば内は要らない」は、この論文の中では支持されていない。
時間・変化:2003年から2011年まで、何が付け加わったか
順番はこうである。2003年、この考え方をまとめた一般書が出る。査読誌の論文ではない。 本文には到達していないので、ここで書けるのは書誌の事実までである。ただし、この考え方が流通する過程で「開けば開くほど良い」という一句に縮んだことは、いま目にする助言の形から見て取れる。2006年、英国の製造業2,707社のデータが、逆U字を報告する。同じ年、内部と外部が補い合うことと、その度合いが環境で変わることが報告される。2010年、総説が「開く」を四つの形に分ける。同じ年、ベルギーの305社のデータが、短期には費用増が価値創出を上回ると報告する。2011年、デンマークの110社のデータが、直近の指標では単独のほうが良いと報告する。
8年かけて付け加わったのは、但し書きばかりである。 形が四つあること、途中で折れること、成果の定義を替えると折れ返りが消える場合があること、短期と長期で符号が違うこと、内側があってこそ効くこと。一方で助言のほうは、ほとんど動いていない。残ったのは「外に開け」という一句だけである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、多いほど良い、という読み方である。逆U字は「開くのが悪い」という意味ではないし、「たくさん開け」という意味でもない。どこかに折れ返りがある、という意味である。 その折れ返りがどこにあるかは、成果を何で測るか、いつ測るかで動く。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、英国・デンマーク・ベルギーの製造業から採られたもので、規模は2,707社・110社・305社である。どれも共通様式の技術革新調査に答える余裕のある企業であり、答えなかった企業と、答える人手のない企業は最初から標本に入っていない。 日本の開発現場の外部連携を対象にした査読研究は、ごく少ない。 そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 連携が途中で切れた案件、費用に耐えられずに畳んだ会社は追跡から抜け、調査票に答えているのは、いま続いている組織のほうである。
助けるのは、外から取り込んだものの中身ではなく、件数だけを記録してみるという一手である。中身の評価は、あとから使えたかどうかに引っ張られる。件数はそうならない。何件を外から入れたかは、印象ではなく数で残る。
最初の一歩は5分。今日1日で、自分の外側——別の持ち場、別の組織、公開されている情報、論文、規格——から取り込んだ情報の件数を記録する。
次の単位は 297「開発スピードを上げるには?」——ここまでの段で扱ってきた質の話から、体制と資源をどう配るかの話へ進む。
- 2006年に Strategic Management Journal 27(2):131-150 へ出た研究(英国の製造業2,707社、2001年に実施された英国の技術革新調査、欧州統計局の共通様式に準拠)は、広く深く探索することが成果と逆U字の形で関係すると報告した。本文には「外部への探索の広さが不利になる点が存在する」とある
- 同じ論文の表では、探索の広さの二次の項は三通りの成果指標すべてで負で有意(−0.024/−0.027/−0.033)だが、探索の深さの二次の項は、世界にとって新しい革新で−0.057、その会社にとって新しい革新で−0.031と有意である一方、模倣的な革新では−0.015で有意ではない。同じデータでも成果の定義を替えると、折れ返りの一部が消える。値は2006年の掲載版の表から採っており、2004年の作業論文版とは一部の値が異なる
- この考え方をまとめた2003年の一般書(Harvard Business School Press、ISBN 1-57851-837-7)は、査読誌の論文ではない。書誌は Research Policy 34(1):122-123 (2005) に掲載された書評の題名行から確認したが、ページ数の記載は資料間で食い違うため書いていない。逆U字も、短期の費用増も、この本ではなく後年の査読研究が報告したものである
- 2011年に Technovation 31(1):54-64 へ出た研究(デンマークの企業への2004年の調査、設問の半分以上に答えた110社、著者自身が探索的と明記)は、直近の新製品開発の成果の指標では単独の企業による戦略のほうが協働の戦略より良い成績を出し、開かれている度合いが上がるほど案件が業界の標準より遅く、費用も高かったと報告した
- 2010年に Journal of Product Innovation Management 27(6):785-796 へ出た研究(ベルギーの製造業305社、欧州の共通様式による技術革新調査の第4回と企業財務のデータベース、構造方程式)は、技術提携の相手の多様さが製品の革新の成果を通じて財務の成果に間接的な正の影響を持つ一方、直接には費用を増やす効果を持ち、短期にはその費用増が間接の価値創出を上回ると報告した
- 2010年に Research Policy 39(6):699-709 へ出た総説は、開かれていることの定義を整理し直し、内向きの二つ(外から探して取り込む/外から買って取り込む)と外向きの二つ(外へ明かす/外へ売る)の四つの形に分けた。同じ語が四つの違う操作を指している
- 2006年に Management Science 52(1):68-82 へ出た研究は、内部の研究開発と外部からの知識の獲得が補い合う革新の活動であること、ただし補い合いの度合いはその会社の戦略の環境の他の要素に敏感であることを報告した。名指しされた要素の一つは、革新の過程における情報源としての大学や研究機関の重要性である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 外に開けば開くほど、成果は上がる | 2006年の Strategic Management Journal 27(2) の研究(英国の製造業2,707社、2001年の調査)は、広く深く探索することが成果と逆U字の形で関係すると報告した。本文には「外部への探索の広さが不利になる点が存在する」とある。上がる理由と下がる理由は同じところにあり、外の相手はどれもこちらの時間を使う |
| 逆U字は、どの成果指標でも同じように出る | 同じ論文の表では、探索の広さの二次の項は三通りの成果指標すべてで負で有意(−0.024/−0.027/−0.033)だが、探索の深さの二次の項は、世界にとって新しい革新で−0.057、その会社にとって新しい革新で−0.031と有意である一方、模倣的な革新では−0.015で有意ではない。折れ返りがはっきり出るのは、新しさの度合いが高い成果を測ったときである |
| 外から取ってくれば、内側の研究開発は削ってよい | 2006年の Management Science 52(1) の研究は、内部の研究開発と外部からの知識の獲得が補い合う活動であると報告している。ただし補い合いの度合いは、その会社の戦略の環境の他の要素に敏感であり、名指しされた要素の一つは大学や研究機関の重要性である。さらに短期の側では、2011年のデンマークの110社の調査で単独の戦略のほうが良い成績を出し、2010年のベルギーの305社では費用増の効果が価値創出の効果を上回っていた |
皮肉なのは、この話がいちばんよく引かれる場面のほうである。外に開こう、という提案は、たいてい提案する側にとってはただである。費用を払うのは、会いに行く人、様式を合わせる人、先方の都合に合わせて予定を組み直す人のほうだ。逆U字の右下がりの部分に何が入っているかというと、その時間である。曲線は、どこかで折れることだけを教えてくれて、どこで折れるかは教えてくれない。分かっているのは一つ——折れる場所を最初に知るのは、たいてい曲線を描いた人ではない。
Q1. 「外部の技術を取り込むには?」という問いについて、2006年の Strategic Management Journal 27(2) の研究(英国の製造業【 ① 】社、2001年に実施された技術革新調査)は、広く深く探索することが成果と【 ② 】の形で関係すると報告した。本文には「外部への探索の広さが【 ③ 】になる点が存在する」とある。穴埋め
Q2. 同じ2006年の論文の表で、「常に逆U字」と単純化できない理由を、係数を挙げて説明せよ。一問一答
Q3. 2010年の Journal of Product Innovation Management 27(6) の研究(ベルギーの製造業305社)が報告した内容として正しいものはどれか。選択
Q4. 2010年の総説が整理した「開かれていること」の四つの形を、本文で述べた順に並べよ。(ア)外へ売る(イ)外から買って取り込む(ウ)外へ明かす(エ)外から探して取り込む並べ替え
Q5. この単位で扱った五つの出来事を、発表された年の早い順に並べよ。同じ年のものは本文で述べた順とする。(ア)ベルギーの305社で、短期には費用増が価値創出を上回ると報告される(イ)この考え方をまとめた一般書が出る(ウ)デンマークの110社で、直近の指標では単独の戦略のほうが良いと報告される(エ)英国の製造業2,707社で逆U字が報告される(オ)総説が「開く」を四つの形に分ける並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、今日1日のあいだに自分の外側から取り込んだ情報を、1件ずつ数え取りの印で記録する。外側とは、別の持ち場、別の組織、公開されている情報、論文、規格などを指す。読んだ・見た・聞いたのどれでもよい。中身は書かない。役に立ったかどうかも書かない。人の名前も書かない。1日の終わりに印を合計し、数字を1行だけ書き添える。あわせて、そのうち何件が文字で読んだものだったかを数えて添える。組織に属していない場合や一人で作っている場合も、いま自分が続けている制作や調べもののあいだに外から入れた情報を同じ形で数えれば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Laursen K., Salter A. (2006) 'Open for innovation: the role of openness in explaining innovation performance among U.K. manufacturing firms', Strategic Management Journal 27(2):131-150, doi:10.1002/smj.507 — doi.org
- Knudsen M.P., Mortensen T.B. (2011) 'Some immediate – but negative – effects of openness on product development performance', Technovation 31(1):54-64, doi:10.1016/j.technovation.2010.07.002 — doi.org
- Faems D., De Visser M., Andries P., Van Looy B. (2010) 'Technology Alliance Portfolios and Financial Performance: Value-Enhancing and Cost-Increasing Effects of Open Innovation', Journal of Product Innovation Management 27(6):785-796, doi:10.1111/j.1540-5885.2010.00752.x — doi.org
- Dahlander L., Gann D.M. (2010) 'How open is innovation?', Research Policy 39(6):699-709, doi:10.1016/j.respol.2010.01.013 — doi.org
- Cassiman B., Veugelers R. (2006) 'In Search of Complementarity in Innovation Strategy: Internal R&D and External Knowledge Acquisition', Management Science 52(1):68-82, doi:10.1287/mnsc.1050.0470 — doi.org
- Chesbrough H.W. (2003) Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology, Boston: Harvard Business School Press, ISBN 1-57851-837-7(一般書・査読誌ではない) — ideas.repec.org