厳しくした関門が落とすのは、いちばん新しい案件だった
関門を厳しくすれば、筋の悪いものが落ちて良いものが残る。ところが実測を見ると、厳しさが市場での成果まで届くのは新規性の高い案件のほうだけで、しかも向きは下である。関門の数を増やしても、成果とは結びついていなかった。
前の単位で、作って確かめることと作らずに確かめることを分ける話をした。確かめた結果を持って、続けるか止めるかを決める場所が関門である。ここまでの段で、何を手がけるかを見きわめてきた。この段から先は、続けるか止めるかを決める仕組みの話になる。
この単位が扱うのは一点——関門という仕組みが、どの種類の案件に、どちら向きに効くと確かめられているかである。関門の運営の作法も、誰が決めるべきかも扱わない。
関門とは、進める・止める・保留する、の三択を置く場所である
まず、言葉の中身を確かめておく。2009年に *Journal of Product Innovation Management* 26(5) へ出た調査は、要旨の冒頭で仕組みをこう説明している——開発の活動のあいだには審査の地点が挟まれており、そこで案件の情報が検討され、次の段階へ進めるか、完了前に止めるか、よりよい判断ができるだけの情報が集まるまで保留するかが決められる。 審査の目的は、危険を抑えること、優先順位を付けること、資源を配ることだ、とも書かれている。
つまり関門は、進めるための仕組みではなく、止める判断を、決まった場所と決まった基準に集めるための仕組みである。この言い方が流通する出発点は、1990年に *Business Horizons* 33(3) へ出た記事である。この誌が査読の手続きを取っているかどうかは、この原稿を書く時点では確認できなかった。 書けるのは、その年にその誌面でこの呼び名が使われたという書誌の事実までだ。
厳しくすると、新規性の高い案件だけが落ちる
厳しさと成果の関係を正面から測ったのが、2008年に *Journal of Marketing* 72(1) へ出た研究である。標本はステージゲートの手順を実際に使った120件の開発案件への調査で、要旨の一文はこうだ——改善された統制のために、厳格に実施される客観的な評価基準をくり返し適用することは、案件をより硬直させる。
ここから先が肝心である。この論文は「関門が成果を下げる」とは言っていない。 書かれているのは4段の経路だ。厳格な関門の基準 → 案件の硬直 → 学習の失敗 → 新規性の高い製品においてのみ、市場での成果の悪化。 両端だけを結ぶと、この研究の言っていないことになる。
しかも但し書きが2つ付く。ひとつ——この効果は、その組織の技術環境が乱れているときに悪化する。 もうひとつが、対処法を先回りして潰している。ゲートの条件付き緩和は、ゲート審査基準の悪影響を和らげない。 「少し緩めればよい」という手当ては、この研究の中では効かなかった。
向きが変わるのは、案件の新規性のところである。この経路が市場成果まで届くのは、新規性の高い案件のほうだけだ。同じ仕組みが、違う向きに働く。
関門の数は、成果と結びついていなかった
では、関門を増やせばよいのか。2009年の *Journal of Product Innovation Management* 26(5) の調査が、そこを直接に測っている。標本は新製品開発の実務者団体の会員425人で、共通する3つの判断の地点——最初のふるい、開発と試験の手前、市場に出す手前——を比べている。
要旨の結論は短い。審査の熟達だけが成果と有意に結びついており、審査の地点の数、審査する人数、審査基準の数は、成果と結びついていない。
数を増やす方向の対処が、ここで一度切れる。しかも、実際に何が起きているかも書かれている。新規性の高い案件では、そうでない案件より多くの審査の地点が使われており、これは新規性の高い案件の相対的に低い生存率と関係している。 さらに——新規性の高い案件よりも、そうでない案件のほうに、より多くの評価基準が使われている。 そして熟達がいちばん必要なそのときに、新規性の高い案件の開発中には、基準がより熟達しない形で使われている。 もうひとつ、3つの審査の地点のうち、熟達の係数がゼロより有意に大きかったのは、最初のふるいだけである。
「関門を厳しくする」と「関門を増やす」は、証拠の上では別の操作である。 前者は新規性の高い案件でだけ向きを変え、後者は成果と結びついていなかった。
ベンチマーク調査が言えること、言えないこと
関門の話でいちばんよく引かれるのは、企業を比べる調査のほうである。1995年に *Journal of Product Innovation Management* 12(5) へ出たものが代表格で、135社が回答した多社ベンチマーク調査である。10種類の成果の指標を2つの軸にまとめ、回答企業を4つの群に分ける。群の名前は要旨に列挙されている——堅実な成績の企業、影響の大きい技術的な勝者、影響の小さい企業、そして負け犬。 その上で、堅実な群と負け犬の群を分ける9つの要因を、影響の大きい順に並べている。筆頭は質の高い新製品プロセスである。
ここで手続きを見ておく必要がある。これは、成果の出た企業と出なかった企業を先に分けてから、両者の違いを探す設計である。 導入前と導入後を比べてもいないし、どの企業がその手順を使うかを割り付けてもいない。だから読めるのは「堅実な群には、この特徴がより多く見られた」までであって、「この手順を入れたから堅実になった」ではない。しかも10種類の成果の指標には、成功率や技術的成功の評点のように、回答者自身の申告に頼るものが並んでいる。
よく流通している一句がある。「ステージゲートを導入した企業では成果が◯%改善した」という形の数字を、2026年8月に探した範囲では、査読誌にも、提唱者側が実務誌に出した記事にも見つけられなかった。存在しないとは書かない——たどり着けなかった、と書く。
近いものはある。2007年に *Journal of Product Innovation Management* 24(1) へ出た調査は、自動車の技術部門の管理職72人を対象に、48.6%が伝統的なステージゲートを使っていると答え、その新製品の60%が商業的に成功したとみなされていると報告している。ただしこれは横断の自己申告であって、導入の前後を比べた値ではない。 同じ要旨の末尾にはこうも書かれている——開発期間を50%短縮するという長年の目標が、他の目標を犠牲にすることなく、ようやく多くの企業にとって実際に手の届くところに来ている。 達成された改善の報告ではなく、目標についての見通しである。 「50%」が独り歩きするとき、たいてい落ちるのはこの区別のほうだ。
提唱者側は、直線でも硬い仕組みでもない、と書いている
批判の側だけを読むと話が半分になる。2008年に *Journal of Product Innovation Management* 25(3) へ出た提唱者側の総説は、要旨にこう書いている——ステージゲートは直線的な過程ではないし、硬い仕組みでもない。
同じ誌の、別の号である。 提唱者側は、統治のまずさと過度の官僚化を問題として挙げ、規模に応じて伸縮させること、同時に進めること、途中で戻ることを、次の世代の形として並べている。「厳格に運用すると硬直する」という指摘と、「硬い仕組みではない」という自己記述は、同じ方向を指している。
時間・変化:1990年から2009年まで、何が測られてきたか
順番はこうである。1990年、実務誌の記事で呼び名が広まる。1995年、135社のベンチマーク調査が、成果の出ている企業とそうでない企業を分ける要因を並べる。2007年、自動車の技術管理職72人への調査が、48.6%という導入率と50%短縮という目標を報告する。2008年、120件の案件への調査が、厳格な基準が新規性の高い製品でだけ成果を下げる経路を示す。2009年、425人への調査が、審査の地点の数・人数・基準の数は成果と結びつかないと報告する。
19年かけて動いたのは、「関門があるか」から「何が成果と結びついているか」へ、という問いの側である。 助言のほうは、この間ほとんど形を変えていない。残ったのは「関門を設けよ」という一句と、出どころの分からない改善率だけである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、平均の効果と、条件によって向きが変わる効果を、同じ一文に押し込むことである。「関門は効く」も「関門は害だ」も短すぎる。証拠が言うのは、厳しさは新規性の高い案件でだけ市場成果に届き、数は成果と結びついていなかった、という条件つきの形だ。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、新製品開発の実務者団体の会員や、調査に答える余裕のある企業の管理職から採られたものが大半で、規模は72人・120件・135社・425人である。団体に所属していない組織、調査票に答える人手のない組織は、最初から標本に入っていない。 誌面に国の記載が無いものもある。日本の開発現場の関門を対象にした査読研究は、ごく少ない。 そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 止まった案件、社内で消えたテーマ、解散した部署は追跡から抜け、調査票に答えているのは、いま続いている組織のほうである。
助けるのは、関門の中身ではなく、通った案件と止まった案件の件数だけを数えてみるという一手である。中身の評価は、あとから結果の側に引っ張られる。何件が残っているかは、印象ではなく数で残る。
最初の一歩は5分。自分が知っている案件のうち、いま続いているものの件数と、止まったものの件数を数える。理由は書かない。
次の単位は 294「失敗から学びを残すには?」——止まったもののほうから、何が残るのかという話へ進む。
- 2008年に Journal of Marketing 72(1):118-134 へ出た研究は、ステージゲートの手順を実際に使った120件の開発案件への調査で、厳格で客観的な評価基準のくり返しの適用が案件を硬直させると報告した。要旨の一文は「改善された統制のために、厳格に実施される客観的な評価基準をくり返し適用することは、案件をより硬直させる」である
- 同じ2008年の研究が示した経路は4段である。厳格な関門の基準 → 案件の硬直 → 学習の失敗 → 新規性の高い製品においてのみ市場成果の悪化。両端だけを結んで「関門が成果を下げる」と読むと、この論文の言っていないことになる
- 同じ研究には但し書きが2つ付く。効果は技術環境が乱れているときに悪化し、そして「ゲートの条件付き緩和は、ゲート審査基準の悪影響を和らげない」。関門を少し緩めるという手当ては、この研究の中では効かなかった
- 2009年に Journal of Product Innovation Management 26(5):520-535 へ出た調査(新製品開発の実務者団体の会員425人)は、審査の熟達だけが成果と有意に結びつき、審査の地点の数・審査する人数・審査基準の数は新製品の成果と結びついていないと報告した。熟達の係数がゼロより有意に大きかったのは、3つの審査の地点のうち最初のふるいだけである
- 同じ2009年の調査は、新規性の高い案件のほうが多くの審査の地点を通りそれが相対的に低い生存率と関係していること、逆に評価基準の数は新規性の低い案件に多く使われていること、熟達がいちばん必要な新規性の高い案件の開発中に基準がより熟達しない形で使われていることも報告する
- 1995年に Journal of Product Innovation Management 12(5):374-391 へ出た135社の多社ベンチマーク調査は、回答企業を「堅実な成績の企業、影響の大きい技術的な勝者、影響の小さい企業、負け犬」の4群に分け、群を分ける9つの要因を並べた。成果の出た側と出なかった側を先に分けてから違いを探す設計であり、導入前後の比較でも割り付けでもない
- 「ステージゲートを導入した企業では◯%改善」という形の数字の一次情報にはたどり着けなかった。近いのは2007年の Journal of Product Innovation Management 24(1):20-33(自動車の技術管理職72人)で、48.6%が伝統的なステージゲートを使い、その新製品の60%が商業的成功とみなされたという横断の自己申告と、「開発期間を50%短縮するという長年の目標が…実際に手の届くところに来ている」という目標についての見通しだけである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ステージゲートを導入すれば開発の成果が上がる。導入企業では成果が◯%改善している | その形の数字の一次情報には、査読誌にも提唱者側が実務誌に出した記事にもたどり着けなかった。実測として確かめられるのは別の形である。2008年の Journal of Marketing 72(1) の研究(ステージゲートを使った120件の案件への調査)は、厳格な基準のくり返しの適用が案件を硬直させ、学習の失敗を通じて、新規性の高い製品でのみ市場成果を悪化させる4段の経路を報告した。ゲートの条件付き緩和は、その悪影響を和らげない |
| 関門を増やして、多くの目で見れば取りこぼしが減る | 2009年の Journal of Product Innovation Management 26(5) の調査(実務者団体の会員425人)では、審査の地点の数も、審査する人数も、審査基準の数も、新製品の成果と有意に結びついていなかった。結びついていたのは審査の熟達だけで、しかも熟達の係数がゼロより有意に大きかったのは3つの審査の地点のうち最初のふるいだけである。同じ調査は、新規性の高い案件のほうが多くの審査の地点を通り、それが相対的に低い生存率と関係していることも報告している |
| 成果を上げている企業を調べれば、何をすればよいか分かる | 1995年の135社のベンチマーク調査は、成果の出た企業と出なかった企業を先に分けてから、両者を隔てる9つの要因を探す設計である。導入の前と後を比べておらず、どの企業がその手順を使うかを割り付けてもいない。だから読めるのは「堅実な群には、この特徴がより多く見られた」までで、「この手順を入れたから堅実になった」ではない |
皮肉なのは、関門がいちばん働いている場所のほうである。厳しくするほど落ちやすくなるのは、まだ誰も見たことのない案件のほうだ。前例がないから比べる相手がなく、基準に当てはめると欠けているところばかりが目に付く。逆に、どこかで見たことのある案件は、どの欄も無難に埋まる。関門は、危険を選り分ける装置であると同時に、見慣れたものを通す装置でもある。それでも関門は要る。要るのだが、通ったものの一覧を眺めて「この手順が良いものを選んでいる」と言うときには、一度だけ思い出したほうがいい——その一覧に、落ちたものは載っていない。
Q1. 「開発の関門を設計するには?」という問いに対して、2008年の Journal of Marketing 72(1) の研究(ステージゲートを使った120件の案件への調査)が示した経路は4段である。厳格な関門の基準 → 案件の【 ① 】 → 【 ② 】の失敗 → 【 ③ 】の高い製品においてのみ市場成果の悪化。穴埋め
Q2. 2009年の Journal of Product Innovation Management 26(5) の調査(新製品開発の実務者団体の会員【 ① 】人)では、新製品の成果と有意に結びついていたのは審査の【 ② 】だけで、審査の地点の数・審査する人数・審査基準の数は結びついていなかった。3つの審査の地点のうち、その係数がゼロより有意に大きかったのは【 ③ 】だけである。穴埋め
Q3. 1995年の135社の多社ベンチマーク調査から「この手順を入れたから成果が出た」と読めないのはなぜか。設計の特徴を2つ挙げて説明せよ。一問一答
Q4. 2008年の研究が報告した「ゲートの条件付き緩和」についての結果として正しいものはどれか。選択
Q5. 2007年の Journal of Product Innovation Management 24(1) の調査(自動車の技術部門の管理職72人)について、本文の説明と合っているものはどれか。選択
紙かメモアプリに今日の日付を書き、2つの欄を作る。左は『いま続いている件数』、右は『止まった件数』。自分が知っている範囲の案件を思い出して、それぞれの数だけを書き入れる。自分が関わっているものでなくてよい。案件の名前も、止まった理由も、誰の責任かも書かない。数えるだけである。数え終わったら、2つの数のどちらが大きいかを1行だけ書き添える。組織に属していない場合や一人で作っている場合は、いま自分が続けている制作や調べもののうち、続いているものと途中でやめたものの件数を同じ形で数えれば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Sethi R., Iqbal Z. (2008) 'Stage-Gate Controls, Learning Failure, and Adverse Effect on Novel New Products', Journal of Marketing 72(1):118-134, doi:10.1509/jmkg.72.1.118 — doi.org
- Schmidt J.B., Sarangee K.R., Montoya M.M. (2009) 'Exploring New Product Development Project Review Practices', Journal of Product Innovation Management 26(5):520-535, doi:10.1111/j.1540-5885.2009.00678.x — doi.org
- Cooper R.G., Kleinschmidt E.J. (1995) 'Benchmarking the Firm’s Critical Success Factors in New Product Development', Journal of Product Innovation Management 12(5):374-391, doi:10.1111/1540-5885.1250374 — doi.org
- Cooper R.G. (2008) 'Perspective: The Stage-Gate® Idea-to-Launch Process—Update, What’s New, and NexGen Systems', Journal of Product Innovation Management 25(3):213-232, doi:10.1111/j.1540-5885.2008.00296.x — doi.org
- Cooper R.G. (1990) 'Stage-gate systems: A new tool for managing new products', Business Horizons 33(3):44-54, doi:10.1016/0007-6813(90)90040-I — doi.org
- Ettlie J.E., Elsenbach J.M. (2007) 'Modified Stage-Gate® Regimes in New Product Development', Journal of Product Innovation Management 24(1):20-33, doi:10.1111/j.1540-5885.2006.00230.x — doi.org