「長く保てているか」を組織の側で測る道具は、二種類しか見つからなかった
組織の体力を測ったと書かれた数字を探すと、二種類しか出てこない。一つは、人が抜けた出来事の前後を比べる自然実験。もう一つは、個人が自分について記入する質問票である。前者は出来事が起きた組織にしか使えず、後者が測っているのは組織ではなく個人である。平時に組織そのものを直接測る尺度は、見当たらなかった。
組織的持続可能性という道具は、何をする道具か。特定の一人や一箇所に寄りかからず、働きが続く状態を保つための言葉である。仕事が一人に集まりすぎていないか、その人が抜けたときに何が止まるか——組織の内側の体力の話である。
環境や社会への配慮の話ではない。外向きの評価や格付の話でもない。 ここで扱うのは、内側で続くかどうかだけである。
そして、この単位で確かめられたのは次のことである。「長く保てているか」を組織の単位で測る道具を探すと、見つかるのは二種類しかない。人が抜けた出来事を使う自然実験と、個人に配る自記式の質問票である。 前者は組織の記録を使うが、出来事が起きた組織にしか使えない。後者は誰にでも配れるが、答えるのは個人であって組織ではない。組織そのものを、平時に、直接測る尺度は見当たらなかった。
人が抜けた出来事を、物差しとして使う
**2020年に *The Journal of Finance* 75巻4号へ出た研究は、経営の最上位にいる人が入院した**という出来事を使っている。設計はこうである。
> “Using variation in firms' exposure to their CEOs resulting from hospitalization, we estimate the effect of chief executive officers (CEOs) on firm policies, holding firm-CEO matches constant.”(入院によって生じる、企業がその最高経営責任者にさらされている度合いの変動を用いて、企業と最高経営責任者の組み合わせを固定したまま、最高経営責任者が企業の方針に与える効果を推定する)
組み合わせを固定したまま、が要点である。 別の人に交代したのではなく、同じ組織の同じ人が、一時的にそこにいなくなる。 その前後を比べる。
報告されているのは、収益性と投資に有意な効果があること、そして効果が大きく出るのは、若い経営者の場合、成長している企業、同族が支配する企業、人の技能に強く依存する産業であること。そして三つ目が、この単位には重要である。
> “Third, CEOs are unique: the hospitalization of other senior executives does not have similar effects on the performance.”(第三に、最高経営責任者は特異である。他の上級役員の入院は、業績に同様の効果を及ぼさない)
同じ階層の別の役員が同じだけ不在になっても、同じことは起きない。 読むべきなのは、その人が偉かったという話ではなく、その一人のところにしか通っていない手続きがあった、という構造の話である。 なお入院日数ごとの効果の大きさや標本の規模は、当方が原典本文まで到達できておらず、書いていない。
規模で、効き方の経路が違う
**2022年に *Review of Finance* 26巻1号へ出た研究**は、創業した人が亡くなった事例を外から与えられた変動として使っている。
> “We use the death of nearly 1,500 entrepreneurs as a source of exogenous variation, and find large and sustained negative effects on growth and profitability.”(約1,500人の起業家の死を外生的な変動の源として用い、成長と収益性に大きく持続的な負の効果があることを見出す)
ここからが値切りである。 「主要な人が抜けると傾く」は、一つの言い方では済まない。
> “For small startups, the effects go mainly via firm survival, while for larger startups the effects are mainly on firm growth. For larger startups, the mean effect on sales is about 60%.”(小さいスタートアップでは効果は主に企業の存続を経由し、大きいスタートアップでは効果は主に企業の成長に現れる。大きいスタートアップでは、売上への平均的な効果は約60%である)
小さいところと大きいところで、経路が別である。 原典は、原因の中身もこう分けている。
> “The effects appear to be driven by entrepreneur specialness rather than leadership transition”(この効果は、指導者の交代というより、起業家の特別さによって駆動されているように見える)
原典の語は「特別さ」である。 ただし、この棚で読むのは個人の資質ではない。 交代の混乱で説明できないということは、その人に集まっていた取引先との関係、判断の手順、口頭でしか残っていない知識が、他の誰にも渡っていなかったということである。
別の領域で同じ設計をやると、どうなるか。 2010年に *The Quarterly Journal of Economics* 125巻2号へ出た研究は、学術の世界で突出した研究者112人が早くかつ予期せず亡くなった事例を使い、その後、共同研究者の質を調整した論文産出率が平均して5%から8%、持続的に低下したと報告している。ただしこの標本は企業ではない。生命科学の研究者である。 会社の話へそのまま輸入すると誤読になる。
もう一つの道具は、個人に配る質問票である
平時に測る側へ移る。組織の疲弊を測ったと書かれた数字は、たいてい、個人が自分について答えた質問票の集計である。
**2015年に *Clinical Psychology Review* 36巻へ出たレビュー**が、この事情を数え上げている。
> “A total of 92 studies were identified as informing the issue of burnout–depression overlap.”(燃え尽きと抑うつの重なりという問題に資するものとして、合計92件の研究が同定された)
> “Burnout was assessed with the MBI in about 8/10 of the studies under review”(レビュー対象の研究のおよそ10件中8件で、燃え尽きは MBI で測定されていた)
一つの自記式の尺度が、事実上の標準になっている。 測り方が一つしかないところでは、「測られた」と「その尺度で高かった」の区別が消える。
分類の上では、病名ではない
世界保健機関が2019年5月28日に公表した公式の説明が、国際的な疾病分類の最新版で燃え尽きがどこに置かれているかを書いている。
> “It is not classified as a medical condition.”(それは医学的な状態としては分類されていない)
> “It is described in the chapter: 'Factors influencing health status or contact with health services'”(それは、健康状態や保健サービスとの接触に影響する要因、という章に記載されている)
定義のほうは、うまく対処されなかった慢性的な職場のストレスから生じるものとして概念化された症候群とされている。
組織の疲弊の指標として持ち出される言葉が、国際的な疾病分類において、疾病ではなく「健康状態に影響する要因」の章に置かれている。
先のレビューは、その帰結も書いている。
> “Given the absence of consensually accepted diagnostic criteria, the prevalence of burnout, strictly speaking, is unknown.”(合意された診断基準が無いことを考えれば、厳密に言えば、燃え尽きの有病率は不明である)
だからこの単位では、「◯%が燃え尽きている」型の数字を一つも使わない。 有病率が不明だと原典が書いているものに、割合は持ち出せない。
尺度どうしが、重なっている
もう一段ある。その尺度は、別の尺度と大きく重なっている。
> “Correlations above .60 are frequently observed between MBI's global scores and measures of depression (e.g., r = .68 in Bianchi et al.'s (2013) study).”(MBI の総合得点と抑うつの尺度のあいだには、.60 を超える相関がしばしば観測される(例えば2013年の研究では r = .68 である))
相関係数は、二つの測り方がどれだけ一緒に動くかを表す数で、1に近いほど同じものを測っていることになる。 .68 は、名前が別だという理由だけでは別のものを測っているとは言えない水準である。 同じレビューは、二つの区別が概念として脆いとも書いている。
合わせると、こうなる。 平時に組織の体力を測ったと称する数字は、①個人が自分について答えた質問票であり、②尺度は事実上一つに集中し、③その尺度は別の尺度と大きく重なり、④その概念には合意された診断基準が無い。 組織を測ったと書いてあるが、測られたのは、答えた個人の自己申告である。
時間・変化:危険がいちばん高いのは、創業直後ではなかった
長く保つ、という話には、もう一つ古い筋がある。組織は若いほど失敗しやすいという仮説で、1965年に編著の一章として提示された。この仮説は、後に正面から検定される。 **1990年に *Administrative Science Quarterly* 35巻3号へ出た研究**が、その結果である。
> “It is shown that this hypothesis is not a good representation of the mortality hazard of West German business organizations.”(この仮説は、西ドイツの事業組織の死亡ハザードの良い表現ではないことが示される)
> “Therefore, we introduce the concept of a liability of adolescence, which proposes an inverted U-shaped risk pattern. It is shown that mortality, depending on the initial resource endowments of a firm, peaks between one and fifteen years after founding.”(そこで我々は青年期の不利という概念を導入する。これは山型の危険パターンを提唱するものである。企業の初期の資源賦存に応じて、死亡率は創業後1年から15年のあいだに頂点を迎えることが示される)
頂点は、創業した日ではない。 手持ちの資源に応じて、1年後から15年後のどこかに来る。多く持って始めたところほど、頂点は後ろへずれる。 データは西ドイツの事業組織で、地元の商工会議所から提供されたもの。標本の規模を、当方は取得できていない。
標本の断りを置く。この単位の数字は、企業の登録記録、西ドイツの事業組織、生命科学の研究者を数えたものである。それぞれの国は、当方が一次で確かめられたものばかりではない。 業種も時代も制度も限られている。手元の組織にそのまま当てはまる保証はない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「主要な人が抜けると傾く」を一般則として読むことである。小さいところでは存続を経由し、大きいところでは成長に現れ、同じ階層の別の役員が不在になっても同じことは起きない。 経路も対象も違う。
もう一つ。この話を、個人の資質の話に変えること。 実証が分けたのは、交代の混乱と、その人に依存する構造である。扱えるのは後者だけで、それは手続きと記録の問題である。
この単位では、「◯%が燃え尽きている」型の数字も、誰かの健康状態を推し量る道具も渡さない。 有病率は不明だと原典が書いており、尺度は別の尺度と大きく重なっている。人の不調を測る道具として、ここにあるものを使わない。
助けるのは、自分ひとりのところにしか通っていない手続きを、記録から数えてみることである。思い出しではなく、記録から。
最初の一歩は5分。直近1週間の記録——予定表、送信済みの連絡、共有している場所の更新の履歴——を開き、自分ひとりしか触っていない作業の件数だけを書く。 中身も、良し悪しも書かない。
次の単位は 288「長期投資意思決定力」——いま使うか、後のために取っておくかという、時間の配り方を扱う。掛け算の最後の項で、そこには、この棚でよく引かれる数字が置いてある。
- 「長く保てているか」を組織の単位で測る道具を探すと、見つかるのは二種類である。人が抜けた出来事を使う自然実験と、個人に配る自記式の質問票。前者は出来事が起きた組織にしか使えず、後者は答えるのが個人であって組織ではない。平時に組織そのものを直接測る尺度は見当たらなかった。
- 2020年のThe Journal of Finance 75巻4号の研究は、最高経営責任者の入院という出来事を使い、企業と経営者の組み合わせを固定したまま効果を推定した。収益性と投資に有意な効果があり、他の上級役員の入院では同様の効果が出ない。入院日数別の効果量と標本規模は当方が原典本文まで到達できておらず、書いていない。
- 2022年のReview of Finance 26巻1号の研究は、約1,500人の起業家の死を外生的な変動として使い、成長と収益性に大きく持続的な負の効果を報告している。ただし小さいところでは効果は主に存続を経由し、大きいところでは主に成長に現れる。大きいところでは売上への平均的な効果は約60%である。
- 同じ研究は、効果が指導者の交代というより起業家の特別さによって駆動されているように見える、と書いている。この棚で読むべきなのは個人の資質ではなく、取引先との関係や判断の手順が他の誰にも渡っていなかったという構造のほうである。
- 2015年のClinical Psychology Review 36巻のレビューは、燃え尽きと抑うつの重なりに資する研究として92件を同定し、そのおよそ10件中8件で燃え尽きがMBIという一つの自記式尺度で測られていたと書いている。さらに、その総合得点と抑うつの尺度の相関は.60を超えることがしばしばで、2013年の研究ではr=.68である。
- 世界保健機関が2019年5月28日に公表した公式の説明によれば、燃え尽きは医学的な状態としては分類されておらず、健康状態や保健サービスとの接触に影響する要因という章に記載されている。加えて、合意された診断基準が無いため厳密には有病率は不明だと上記レビューが書いている。したがって割合の数字は使えない。
- 1990年のAdministrative Science Quarterly 35巻3号の研究は、若い組織ほど失敗しやすいという1965年来の仮説が西ドイツの事業組織の死亡ハザードの良い表現ではないと示し、代わりに山型の危険パターンを提唱した。死亡率は初期の資源賦存に応じて、創業後1年から15年のあいだに頂点を迎える。標本の規模は当方が取得できていない。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 主要な人が抜けると、組織は傾く | 一言では言えない。2022年のReview of Finance 26巻1号の研究は、約1,500人の起業家の死を使い、小さいところでは効果が主に存続を経由し、大きいところでは主に成長に現れると報告している。大きいところでは売上への平均的な効果は約60%である。さらに2020年のThe Journal of Finance 75巻4号の研究は、同じ会社の他の上級役員が不在になっても業績に同様の効果は出ない、と書いている。規模と経路で、全部別の話になる。 |
| 組織の疲弊は測れる。燃え尽きの割合を出せばよい | 2015年のClinical Psychology Review 36巻のレビューは、合意された診断基準が無いことを考えれば厳密には有病率は不明である、と書いている。加えて世界保健機関の2019年5月28日付の公式説明は、燃え尽きは医学的な状態としては分類されておらず、健康状態や保健サービスとの接触に影響する要因という章に記載されている、と明記している。割合の数字は、この足場の上には置けない。 |
| 組織が若いうちがいちばん危ない | 1990年のAdministrative Science Quarterly 35巻3号の研究は、その仮説が西ドイツの事業組織の死亡ハザードの良い表現ではないと示し、代わりに山型の危険パターンを提唱した。死亡率は企業の初期の資源賦存に応じて、創業後1年から15年のあいだに頂点を迎える。頂点は創業の日ではなく、多く持って始めたところほど後ろへずれる。 |
組織の体力という言葉には、測れそうな響きがある。測ろうとすると、二つしか道具が無い。一つは、人が抜けるまで使えない。もう一つは、組織ではなく個人に配るもので、しかも隣の尺度と .68 で重なっている。皮肉なのは、そのどちらでもない三つ目の道具——手続きが何人を通っているかを記録から数えること——には、当方が探した範囲では、名前も尺度も見当たらないことである。
Q1. 約1,500人の起業家の死を使った研究によれば、小さいスタートアップでは効果は主に ____ を経由し、大きいスタートアップでは主に ____ に現れる。大きいスタートアップでは、売上への平均的な効果は約 ____ %である。穴埋め
Q2. 国際的な疾病分類についての2019年の公式説明によれば、燃え尽きは ____ としては分類されておらず、健康状態や ____ との接触に影響する要因という章に記載されている。加えてレビューは、合意された ____ が無いため厳密には ____ は不明だと書いている。穴埋め
Q3. 経営の最上位にいる人の入院を用いた2020年の研究が報告していることとして、正しいものはどれか。選択
Q4. 組織の年齢と死亡率について、1990年の研究が示したこととして正しいものはどれか。選択
Q5. この単位で見つかった「測る道具」は二種類である。それぞれ何を測っており、何が測れないのかを説明せよ。一問一答
直近1週間の自分の記録を開く(予定表、送信済みの連絡、共有している場所の更新の履歴、作業のメモなど、自分がアクセスできるものだけ)。そこから、自分ひとりしか触っていない作業を拾い、件数だけを数えて書く。中身も、相手の名前も、良し悪しも書かない。数え方の基準を一行だけ添える——たとえば、記録上、他の誰の名前も出てこないもの、と決める。基準は自分で決めてよいが、決めたら1週間ぶんを同じ基準で通す。思い出しで足さない。記録に無いものは数えない。誰にも尋ねない。他の人の作業量や状態は数えない。最後に、記録から数えた件数と、感覚で答えるとしたら何件だったかを並べて書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Bennedsen M., Pérez-González F., Wolfenzon D. (2020) 'Do CEOs Matter? Evidence from Hospitalization Events', The Journal of Finance 75(4):1877-1911, doi:10.1111/jofi.12897 — doi.org
- Becker S.O., Hvide H.K. (2022) 'Entrepreneur Death and Startup Performance', Review of Finance 26(1):163-185, doi:10.1093/rof/rfab015 — doi.org
- Azoulay P., Graff Zivin J.S., Wang J. (2010) 'Superstar Extinction', The Quarterly Journal of Economics 125(2):549-589, doi:10.1162/qjec.2010.125.2.549 — doi.org
- World Health Organization (2019) 'Burn-out an “occupational phenomenon”: International Classification of Diseases'(2019年5月28日付の公式説明。査読誌ではない) — www.who.int
- Bianchi R., Schonfeld I.S., Laurent E. (2015) 'Burnout–depression overlap: A review', Clinical Psychology Review 36:28-41, doi:10.1016/j.cpr.2015.01.004 — doi.org
- Brüderl J., Schüssler R. (1990) 'Organizational Mortality: The Liabilities of Newness and Adolescence', Administrative Science Quarterly 35(3):530-, doi:10.2307/2393316 — doi.org