「立ち直る力」の定義は、126本の文献に71通りあった
衝撃を受けたあと、組織がどれだけ戻れるか。これを測ると称する尺度は存在する。ただし、126本の文献を集めて数え上げたレビューによれば、明示的な定義を書いていたのは71本、測定尺度を提示していたのは14本で、71の定義からは22種類の相異なる属性が出てきた。どの尺度が何を測っているのかは、尺度の側が言うしかない。
レジリエンスという道具は、何をする道具か。衝撃を受けたあとに、組織が元の働きへどれだけ戻れるかを見るための言葉である。設備が止まる、取引の条件が変わる、資金の巡りが細くなる——そのあとで、業務がどこまで、どの速さで戻ったか。それを一つの言葉にまとめたものが、この道具である。
この単位で確かめるのは、その言葉が何を指しているかではない。指しているものを数えた結果のほうである。 結論を先に書く。定義が無いのではない。定義が多すぎる。
ここで一語だけほどいておく。構成概念とは、直接は目に見えないものに名前を付けて、質問票や記録から間接に測ろうとする対象のことである。知能も、満足度も、レジリエンスも、この種類の対象である。 直接見えないものを測るときは、何をもってそれとするかを、測る側が先に決めておくしかない。
126本を数え上げたら、定義は71あった
**2021年に *International Journal of Management Reviews* 23巻1号へ出た体系的レビューが、この作業をやっている。組織のレジリエンスを扱った文献を集め、構成概念としてどう作られているか**という観点で並べ直したものである。
数字は三段で出てくる。
> “Overall, 126 references were analysed.”(全体で126件の文献を分析した)
> “First, we discuss important conceptualizations of organizational resilience and then move on to analyse existing definitions (N = 71) and existing measurement scales (N = 14).”(まず組織レジリエンスの重要な概念化を論じ、次に既存の定義(71件)と既存の測定尺度(14件)の分析へ進む)
126本を集めて、明示的な定義を書いていたのが71本、測る尺度を提示していたのが14本。 定義を書いていなかったのは55本で、書いていたほうが多い。そして、書いてあった71本は、同じ一つの定義を共有していない。
71の定義から、22種類の属性が出てきた
同じレビューは、71の定義を分解して、そこで使われている要素を数えている。
> “Only references in which the authors provided an explicit definition of the concept are included in the analysis (N = 71).”(著者がこの概念の明示的な定義を与えている文献だけを分析に含めた(71件))
> “Across those 71 definitions we found 22 distinct attributes that have been used to define organizational resilience.”(この71の定義を通じて、組織レジリエンスを定義するために使われてきた22の相異なる属性が見つかった)
22種類の部品があり、71通りの組み合わせ方がある。 耐えることを中心に置く定義もあれば、立て直す速さを置く定義も、その出来事を経て別のやり方に移ることを置く定義もある。どれも間違いではない。ただし、同じ言葉で呼ばれている。
ここに、この単位の実際的な帰結がある。ある組織のレジリエンスが高いと書かれた数字を渡されたとき、22種類のうちどれを、どの組み合わせで測ったのかが書かれていなければ、その数字は読めない。 高いか低いかではなく、何が高いのかが決まらない。
尺度は14件。何を測っているかは、尺度の側が言うしかない
尺度のほうも、同じレビューが並べている。14件。 そして原典は、その状態をこう書いている。
> “Empirical research on organizational resilience – although it has increased – is still sparse in terms of a valid measurement scale of organizational resilience”(組織レジリエンスの実証研究は——増えてはいるものの——妥当な測定尺度という点では依然として乏しい)
増えた、と、乏しい、が同じ一文に入っている。 増えているのは研究の本数のほうで、乏しいのは尺度のほうである。
14件の尺度は、いずれも多次元の高次構成概念として理解されている。 つまり、いくつかの下位の要素を測って足し上げ、その合計を一つの数として扱う形である。原典は、その足し上げ方について、こう書いている。
> “Analysis (Table 3) shows that most researchers do not discuss that aspect clearly upfront, specifically not the link between the factors and the overall construct.”(分析(表3)が示すのは、ほとんどの研究者がその点を最初に明示して論じていないこと、とりわけ、下位の因子と全体の構成概念との結びつきを論じていないことである)
部品を足して一つの点数にするとき、その足し方の根拠が書かれていない。 点数は出る。点数が何の点数かは、書かれていない。
定義が見つからないのではない。合意が無い
同じことを、別の書き手が別の言い方で書いている。
**2020年に *Business Research* 13巻1号へ出た論文**は、冒頭でこう書いている。
> “Although academic interest in organizational resilience has steadily grown in recent years, there is little consensus about what resilience actually means and how it is composed.”(組織レジリエンスへの学術的関心は近年着実に高まってきたが、レジリエンスが実際に何を意味し、どう構成されているのかについては、ほとんど合意が無い)
この論文が自分の貢献をどう位置づけているかも、そのまま書いてある。
> “We formulate propositions that can act as a foundation for future empirical work.”(将来の実証研究の土台となりうる命題を定式化する)
命題の提示である。実証ではない。 著者自身がそう書いている。
2018年に生産管理の学術誌へ出たレビューは、概念化と評価の両方を問いに立てて文献を並べ、定義の仕方には三つの筋があり、そこには共通の考えもあると認めたうえで、こう書いている。
> “we did not find consensus about the elements that contribute to improving the level of organizational resilience and how to assess it.”(組織レジリエンスの水準を上げるのに寄与する要素と、それをどう評価するかについては、合意を見出せなかった)
同じ2018年に医療政策の学術誌へ出た体系的レビューは、医療の組織とそれ以外の分野の実証文献を横断して集め、この語がどう使われているかをこうまとめている。
> “Resilience was generally taken to mean a system's ability to continue to meet its objectives in the face of challenges.”(レジリエンスは、おおむね、困難に直面しても目的を満たし続ける仕組みの能力を意味するものとして受け取られていた)
おおむね、である。 同じレビューは、選ばれた文献に共通する主題として、レジリエンスが複雑適応系の創発的な性質として認識されていることを挙げている。創発的な性質とは、部品の一つ一つには無く、組み合わさって初めて現れる性質である。 部品を測って足すという尺度の作り方と、この理解は、そのままでは噛み合わない。
よく引かれている文献の、媒体の格
引用の多い文献が査読誌の実証だとは限らない。この単位で当たった範囲では、二つ確かめられた。
一つは、2007年のもの。 組織レジリエンスの理論と研究課題を扱ったこの文献は、IEEE の国際会議の会議録に3418頁から3422頁として収録されている。査読誌の論文ではない。 もう一つは、先に引いた2020年の論文で、査読誌に載ってはいるが、自ら命題の提示だと書いている理論論文である。
当方が数字を引けなかったものも書いておく。 2020年に *European Management Journal* 38巻3号へ出たレビューは、この主題の三本目に当たるが、本文を入手できていない。 だからこの単位では、その論文の数え上げの数字を一つも使っていない。 使ったのは、レビューが複数出ているという事実だけである。
時間・変化:増えたのは研究の量で、尺度の数ではない
並べると、こうなる。2007年に会議録として理論と研究課題が示され、2018年に二つの分野から別々のレビューが出て、いずれも評価の仕方に合意が無いと書き、2020年に理論論文が出て、2021年に126本の数え上げが出た。
増えている。ただし、増えたのは文献の本数のほうである。 原典が同じ一文の中で「増えてはいるものの、妥当な測定尺度という点では依然として乏しい」と書いているのは、その意味である。年ごとの本数を数えた表は、この一連の文献には無い。だから、ここで描けるのは向きだけで、目盛りは置けない。
書誌の側の変化も一つある。2021年のレビューには、同年1月7日付の編集部の注記が付いている。 ただし内容の訂正ではなく、第二著者の所属の追記である。 撤回・訂正の照会では、この主題で当方が当たった文献に、撤回は1件も出ていない。
標本の断りを置く。この単位の数字は、組織を数えたものではない。英語で書かれた学術文献を数えたものである。 126本がどの国の、どの規模の、どんな種類の組織を扱っていたかは、この数え上げからは出てこない。そして、ある組織が戻ったように見えたとき、戻した力をどこまでその組織の側に割り当ててよいかは、この一連の文献が答えていない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、この言葉を点数として受け取ることである。尺度は14件あり、定義は71ある。 どの定義で、どの尺度で測ったかを書かない点数は、高くも低くもなりうる。
もう一つ。この道具を、組織の格付けに使うこと。 ここで扱ったのは文献の数え上げであって、どこが強いかを判定する材料ではない。 この単位は、指標を渡さない。
そして、被害を教訓に変える書き方もしない。 何がどれだけ壊れたかという話と、測る道具があるかという話は別の主題で、ここで扱ったのは後者だけである。
助けるのは、自分がこの言葉を使うときに、22種類のうちどれを指しているのかを、先に一語で決めておくことである。耐えることか、戻る速さか、やり方を替えることか。 三つとも同じ言葉で呼べてしまうので、決めておかないと、話している途中で入れ替わる。
最初の一歩は5分。自分の組織、あるいは自分が続けている取り組みについて、「立ち直りが早い」と言うときに何を見ているのかを一行で書く。 次に、その一行に何種類の要素が入っているかを数える。1種類なら、それがあなたの定義である。3種類入っていたら、その3つは同時に動くとは限らない。
次の単位は 286「戦略的スラック」——衝撃のあとの戻り方ではなく、衝撃が来る前に手元に余っているものを扱う。掛け算の別の項なので、この項をいくら磨いても、余りの項が小さいままなら積は変わらない。
- 2021年にInternational Journal of Management Reviews 23巻1号へ出た体系的レビューは、組織レジリエンスを扱った126本の文献を分析し、明示的な定義を与えていた文献が71本、測定尺度を提示していた文献が14本、71の定義から出てきた相異なる属性が22種類であることを数え上げている。
- この単位は「定義が無い」型ではない。定義はある。71件ある。無いのは、どれを使うかの合意である。22種類の属性から、耐えること・戻る速さ・やり方を替えることのどれを中心に置くかが、定義ごとに違っている。
- 同じレビューは、実証研究は増えてはいるものの妥当な測定尺度という点では依然として乏しい、と書いている。14件の尺度はいずれも多次元の高次構成概念として理解されているが、下位の因子と全体の構成概念との結びつきを最初に明示して論じている研究は少数だと、表3の分析として述べられている。
- 2020年にBusiness Research 13巻1号へ出た論文は、レジリエンスが実際に何を意味しどう構成されているかについてほとんど合意が無いと書き、自らの貢献を将来の実証研究の土台となりうる命題の定式化だと明記している。理論論文であって実証ではない。
- 2018年に生産管理の学術誌へ出たレビューは、定義の仕方に三つの筋があり共通の考えもあると認めたうえで、水準を上げる要素とその評価の仕方については合意を見出せなかったと書いている。同じ年に医療政策の学術誌へ出た体系的レビューは、この語がおおむね、困難に直面しても目的を満たし続ける仕組みの能力として受け取られていた、とまとめている。
- 引用の多い文献が査読誌の実証だとは限らない。この主題でよく引かれる2007年の文献はIEEEの国際会議の会議録に3418頁から3422頁として収録されたもので、査読誌の論文ではない。また2020年にEuropean Management Journal 38巻3号へ出たレビューは当方が本文を入手できておらず、その数え上げの数字はこの単位で一つも使っていない。
- 数えられたのは組織ではなく文献である。126本がどの国の、どの規模の、どんな種類の組織を扱っていたかは、この数え上げからは出てこない。したがってこの数字から、手元の組織が強いか弱いかは出てこない。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| レジリエンスの高い組織は衝撃を跳ね返す。そしてその高さは測れる | 2021年のInternational Journal of Management Reviews 23巻1号の体系的レビューは、126本の文献のうち明示的な定義を与えていたのは71本、測定尺度を提示していたのは14本だと数え上げている。同レビューは、実証研究は増えてはいるものの妥当な測定尺度という点では依然として乏しい、と書いている。測れると言うためには、14件のどれで、71通りのどの定義に沿って測ったのかが要る。 |
| レジリエンスという言葉には、まだ定義が無い | 逆である。定義はある。同じレビューの数え上げで71件ある。そして71の定義を分解すると、使われている属性は22種類あった。無いのは定義ではなく、どれを使うかの合意のほうである。2020年のBusiness Research 13巻1号の論文も、何を意味しどう構成されているかについてほとんど合意が無いと書いている。 |
| よく引かれている文献なら、査読誌に載った実証研究だろう | この主題でよく引かれる2007年の文献は、IEEEの国際会議の会議録に3418頁から3422頁として収録されたもので、査読誌の論文ではない。2020年に査読誌へ出た論文のほうは、将来の実証研究の土台となりうる命題を定式化する、と著者自身が書いている理論論文である。引用の多さは、媒体の格や研究の型を教えてくれない。 |
定義の無い言葉は、使うときに少し気が引ける。定義が71ある言葉は、気が引けない。どれか一つには当てはまってしまうからである。皮肉なのは、当てはめる手間がいらないぶん、その言葉が何を指しているのかを誰も確かめずに済むことだ。71通りのうちどれで測ったのかを書かない限り、点数のほうは、上がりも下がりもする。
Q1. 126本の文献を数え上げたレビューによれば、明示的な定義を与えていた文献は ____ 本、測定尺度を提示していた文献は ____ 件、71の定義から出てきた相異なる属性は ____ 種類である。穴埋め
Q2. 同じレビューは、組織レジリエンスの実証研究は ____ ものの、妥当な ____ という点では依然として ____ と書いている。穴埋め
Q3. 2020年に査読誌へ出た論文は、レジリエンスが実際に何を意味しどう構成されているかについてほとんど ____ が無いと書き、自らの貢献を将来の実証研究の土台となりうる ____ の定式化だと位置づけている。穴埋め
Q4. 「定義が無い」と「定義が多すぎる」は何が違うのか。この単位で出てきた数字を使って説明せよ。一問一答
Q5. この単位が確かめた「媒体の格」について、2件挙げよ。一問一答
紙かメモアプリを開く。自分が関わっている組織、あるいは自分が続けている取り組みについて、「立ち直りが早い」と言うときに何を見ているのかを一行で書く。抽象語のまま止めず、見ているものを具体に書く(例:注文が止まってから元の水準に戻るまでの日数、連絡が付かなくなった相手と再び取引が始まるまでの回数など)。次に、その一行に何種類の要素が入っているかを数え、数字を横に書く。最後に、その要素が手元の記録から確かめられるかどうかを、要素ごとに「確かめられる」「確かめられない」のどちらかで書き添える。誰にも尋ねない。他の組織や取引先の状態は見ない。自分の手元にある記録と、自分が書いた一行だけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Hillmann J., Guenther E. (2021) 'Organizational Resilience: A Valuable Construct for Management Research?', International Journal of Management Reviews 23(1):7-44, doi:10.1111/ijmr.12239 — doi.org
- Duchek S. (2020) 'Organizational resilience: a capability-based conceptualization', Business Research 13(1):215-246, doi:10.1007/s40685-019-0085-7 — doi.org
- Ruiz-Martin C., Lopez-Paredes A., Wainer G. (2018) 'What we know and do not know about organizational resilience', International Journal of Production Management and Engineering 6(1):11-, doi:10.4995/ijpme.2018.7898 — doi.org
- Barasa E., Mbau R., Gilson L. (2018) 'What Is Resilience and How Can It Be Nurtured? A Systematic Review of Empirical Literature on Organizational Resilience', International Journal of Health Policy and Management 7(6):491-503, doi:10.15171/ijhpm.2018.06 — doi.org
- Vogus T.J., Sutcliffe K.M. (2007) 'Organizational resilience: Towards a theory and research agenda', 2007 IEEE International Conference on Systems, Man and Cybernetics:3418-3422, doi:10.1109/icsmc.2007.4414160(国際会議の会議録。査読誌ではない) — doi.org
- Conz E., Magnani G. (2020) 'A dynamic perspective on the resilience of firms: A systematic literature review and a framework for future research', European Management Journal 38(3):400-412, doi:10.1016/j.emj.2019.12.004(当方は本文未入手。数値は引いていない) — doi.org