「提携の六〜七割は失敗する」を五系統たどると、別のものを測った数字に着いた
提携の六〜七割は失敗する。五つの系統をたどって、この数字の原典に届いた経路はゼロだった。実務誌が三系統で行き止まり、査読に届いた二系統は別の量を測っていた——契約型の提携100件の打ち切りの率と、合弁の解散の率である。そして学術の側に書かれている幅は、六〜七割ではなく、30%から70%だった。
提携の六〜七割は失敗する。この数字を追いかけた。
追いかけてみると、学術の側に書かれている数字は「六〜七割」ではなかった。 書かれているのは、30%から70%という幅である。そして、この幅が生まれる理由が、この単位の中身になる。
30%から70%まで、という幅
**2009年に *Academy of Management Perspectives* 23巻3号へ出た査読誌の論文**に、こう書かれている。
> “Studies have shown that between 30% and 70% of alliances fail; in other words, they neither meet the goals of their parent companies nor deliver on the operational or strategic benefits they purport to provide”(諸研究は、提携の30%から70%が失敗することを示してきた。言い換えれば、それらは親会社の目標を満たすことも、掲げていた運営上ないし戦略上の便益をもたらすこともない)
30%と70%では、倍以上ちがう。 ふつう、こういう幅は測定の誤差として読まれる。測り方が粗いから、幅が出る。 ところが、五つの系統をたどった結果、この幅は誤差ではなかった。
同じ論文には、もう一つ別の数字もある。打ち切りの率は50%を超えると報告されている、というものだ。さらに、提携を専門に扱う部署を置いている企業の成功率が約70%、置いていない企業が約40%、とも書かれている。同じ記事の中に、失敗が30%から70%、成功が約70%と約40%が並んでいる。 そして、この記事の中で「成功」が何を指すのかは、当方が読んだ範囲では示されていない。
五つの系統をたどった
系統A。実務誌の記事。 2007年11月に、ある実務誌に載った記事に、提携の失敗率は60%から70%のあいだを行き来すると書かれている。査読誌ではない。 出典も、脚注も、標本も、失敗の定義も、年次も、業種も、国も、記されていない。 同じ記事にある「提携の数は年に25%ほど増えている」も、どの研究を指すのかは示されていない。ここで行き止まりである。
系統B。査読誌から実務書へ。 上に引いた2009年の査読誌の論文の、30%から70%という記述には典拠が付いている。たどると、2004年に出た実務書に着く。査読誌ではない。 そのうえ、同じ論文の文献表には、その本の書名と、本のなかの一章の章題が入れ替わった形で、二重に登録されている項目がある。 査読誌の文献表の側にも、乱れがある。実務書のなかの数字がどの標本から来たのかは、当方では確かめられなかった。
系統C。著者たち自身のデータ。 2001年に別の実務誌へ出た記事には、ほぼ半分が失敗すると書かれている。六〜七割ではない。 同じ記事は、200社とその1,572件の提携を、1996年から2000年まで調査したとも書いている。ところが、そのデータの出所も、どう選んだかも、失敗をどう判定したかも、記事には示されていない。
系統D。査読の実測に届いた。 打ち切りの率が50%を超えるという記述の典拠をたどると、**2008年に *Strategic Management Journal* 29巻5号へ出た論文に着く。査読誌である。**
系統E。合弁の解散を測った古典。 **1997年に *Academy of Management Journal* 40巻2号へ出た論文は、合弁——複数の組織が出資して作る共同の事業体——の解散を、出来事史の分析で扱っている。査読誌である。**
五つのうち、六〜七割という数字の原典に届いた系統は、ゼロである。
幅は誤差ではない。「失敗」が四通りある
届いた先を並べると、測られている量が系統ごとに違う。
系統Dが測っているのは、打ち切りである。 契約型の提携100件を5年追いかけ、突然の打ち切り、短期の成果、長期の成果を見た研究で、新しく作られた提携は古い提携より打ち切りの率が高いという結果が出ている。
系統Eが測っているのは、解散である。 そして、解散は失敗ではない。 目的を達したので畳む解散も、買収に転じる解散も、同じ「解散」に数えられる。
系統Bが指しているのは、期待未達である。 親会社の目標を満たさない、掲げた便益をもたらさない。これは、目標をどこに置いたかで動く。
系統AとCは、何を数えたのかが示されていない。
打ち切り・解散・期待未達・不明。 同じ「失敗」という語に、少なくとも四つの別の量が入っている。30%から70%という幅は、測定が粗いから開いたのではない。数えているものが違うから開いた。
測り方のほうを数えたレビューが、二本ある
この事態は、学術の側でも把握されている。そして、よく取り違えられる二本のレビューがある。同じ著者が書いていて、年が近い。
**一本目は2013年に *International Journal of Management Reviews* 15巻1号へ出たもので、国際的な戦略提携の成果の「先行要因」——何が成果に効くのか——についての165本の実証研究**を体系的に検討している。
> “This paper provides a systematic review of 165 empirical studies on the antecedents of performance in international strategic alliances.”(本論文は、国際的な戦略提携における成果の先行要因についての165本の実証研究の体系的なレビューを提供する)
そして、この論文が最後に置いた提言がこれである。
> “researchers should give increased attention to achieving congruence between measures of antecedents and performance.”(研究者は、先行要因の測り方と成果の測り方のあいだの整合を得ることに、いっそう注意を払うべきである)
**二本目は2014年に *International Business Review* 23巻3号へ出たもので、こちらが成果の測り方そのものを扱っている。167本の実証研究で使われた提携の成果の指標を分類し、構成概念としての妥当性を評価し、指標の違いが結論をどう変えるか**を検証した論文である。
165本のほうは何が効くかのレビュー、167本のほうは何を測ったかのレビューである。 番号が近く、著者が同じで、年も隣り合っている。取り違えると、この単位の話は成り立たなくなる。
なお、その167本で「測り方が何通りあったか」は、当方には確かめられなかった。 論文が有料で、公開されている版が無い。書けるのは、167本の指標を分類した、というところまでである。
たくさん組めば上手くなる、ではなかった
「外に開くほど成果が出る」という言い方のほうも、実証がある。
**2002年に *Organization Science* 13巻6号へ出た論文は、バイオテクノロジーの提携145件**を対象に、提携の経験が成果にどう効くかを調べた。結果はこうである。
> “we find that only partner-specific experience has a positive impact on alliance performance, and that this effect is stronger in the absence of equity-based governance mechanisms.”(我々が見出したのは、パートナー固有の経験だけが提携の成果に正の影響を持ち、しかもその効果は、出資にもとづく統治の仕組みが無い場合により強い、ということである)
効いたのは、その相手と組んだ経験だけである。 提携一般の経験——数をこなしたこと——は効いていない。組む回数を増やすことと、同じ相手と続けることは、別の量である。
時間・変化:論点として立てられたのは1998年、指標が分類されたのは2014年
**1998年に *Strategic Management Journal* 19巻4号へ出た論文は、提携とネットワークについての研究の課題を五つ挙げている。提携がどう形づくられるか、どういう統治の形を選ぶか、どう動的に進化するか、提携の成果、そして提携した企業に何が起きるか。実証ではなく、課題を並べた論文で、数値は無い。**
成果をどう測るかは、1998年の時点ですでに論点として立てられていた。 そして、その測り方が実際に分類され、指標の違いが結論を動かすことが検証されたのは2014年である。 十六年かかっている。
そのあいだに、六〜七割という数字のほうは、実務の側で流通し続けた。 2001年の実務誌ではほぼ半分、2007年の実務誌では60%から70%、2009年の査読誌では30%から70%。数字は動いているのに、使われ方は動かなかった。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、六〜七割という数字を、提携をやめる理由にも、慎重にやる理由にも使うことである。五つの系統をたどって、原典には届かなかった。届いた先にあったのは、契約型の提携100件の打ち切りの率と、合弁の解散の率だった。
もう一つ。幅を、精度の問題として読むこと。 30%から70%が開いているのは、数えているものが打ち切り・解散・期待未達・不明の四通りに分かれているからである。測り直しても、この幅は縮まらない。
この単位では、組むべきだとも、組むべきでないとも書かない。 相手の選び方の助言もしない。書けるのは、成果がどう測られてきたかと、その数字がどこで止まったか、までである。 提携の成否のうち、どこまでを組み方の巧拙に割り当ててよいのかも、この材料では決められない。
標本の偏りを断っておく。査読に届いた実測は、契約型の提携100件を5年、バイオテクノロジーの提携145件、そして合弁の解散を測った研究である。 どれも特定の国と特定の産業で、しかも記録が残る規模の取り決めを対象にしている。 個人や小さな商いのあいだの、契約書の無い協力は、この数字のどこにも入っていない。
助けるのは、自分が組んでいる相手との取り決めについて、終わったときに何をもって終わったと呼ぶのかを、先に一行書いておくことである。打ち切りか、目的を達したのか、目標に届かなかったのか。
最初の一歩は5分。手元にある取り決めを一つ選び、それが終わるとしたら、自分はどの意味で「終わった」と記録するのかを一行で書く。 相手には尋ねない。自分の記録の付け方を決めるだけである。
次の単位は 285「組織レジリエンス」——衝撃を受けたあとの回復を扱う。掛け算の別の項であり、この項の小ささは、他の項の大きさでは埋め合わせられない。
- 2009年のAcademy of Management Perspectives 23巻3号は、諸研究が提携の30%から70%が失敗すること——親会社の目標を満たさず、掲げていた運営上ないし戦略上の便益ももたらさないこと——を示してきた、と書いている。学術の側に書かれている幅は六〜七割ではなく、30%から70%である。
- 五つの系統をたどった。系統Aは2007年11月のある実務誌の記事で、失敗率が60%から70%を行き来すると書かれているが、出典・脚注・標本・失敗の定義・年次・業種・国のいずれも記されていない。系統Cは2001年の別の実務誌の記事で、ほぼ半分が失敗すると書き、200社と1,572件の提携を1996年から2000年まで調査したとするが、データの出所も判定基準も示されていない。
- 系統Bは、査読誌の30%から70%という記述の典拠をたどる経路で、2004年に出た実務書に着いた。査読誌ではない。しかも同じ論文の文献表には、その本の書名と一章の章題が入れ替わった形で二重に登録された項目がある。実務書のなかの数字がどの標本から来たのかは確かめられなかった。
- 査読の実測に届いた系統は二つで、どちらも別の量を測っていた。2008年のStrategic Management Journal 29巻5号は、契約型の提携100件を5年追い、新しく作られた提携は古い提携より打ち切りの率が高いと報告した。1997年のAcademy of Management Journal 40巻2号は、合弁の解散を出来事史の分析で扱っている。解散は失敗ではない。
- 同じ失敗という語に、打ち切り・解散・期待未達・不明の四つの別の量が入っている。30%から70%という幅は、測定が粗いから開いたのではなく、数えているものが違うから開いた。だから測り直しても縮まらない。
- 同じ著者による二本のレビューは取り違えやすい。2013年のInternational Journal of Management Reviews 15巻1号は、国際的な戦略提携の成果の先行要因についての165本の実証研究を検討し、先行要因の測り方と成果の測り方の整合にいっそう注意を払うべきだと提言した。2014年のInternational Business Review 23巻3号は、167本で使われた成果の指標を分類し、指標の違いが結論をどう変えるかを検証している。その167本で測り方が何通りあったかは確かめられなかった。
- 2002年のOrganization Science 13巻6号は、バイオテクノロジーの提携145件で、パートナー固有の経験だけが成果に正の影響を持ち、その効果は出資にもとづく統治の仕組みが無い場合により強いと報告した。1998年のStrategic Management Journal 19巻4号は、提携の成果を含む五つの研究課題を挙げた論文で、数値を持たない。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 提携の六〜七割は失敗する | 五つの系統をたどって、この数字の原典には届かなかった。2007年11月のある実務誌の記事には失敗率が60%から70%を行き来すると書かれているが、出典も標本も定義も無い。2001年の別の実務誌の記事はほぼ半分と書いている。査読誌に書かれている幅は30%から70%で、その典拠は2004年の実務書である。査読の実測に届いた二系統が測っていたのは、契約型の提携100件の打ち切りの率と、合弁の解散の率だった。 |
| 30%から70%という幅は、測り方が粗いせいで開いている | たどった先で数えられていたものが違う。系統Dは打ち切り、系統Eは解散、系統Bは親会社の目標を満たさないという期待未達、系統AとCは何を数えたのかが示されていない。とくに解散は失敗ではない——目的を達して畳む解散も、買収に転じる解散も、同じ解散に数えられる。数えているものが四通りに分かれているのだから、測り直しても幅は縮まらない。 |
| 提携の経験を積むほど、提携は上手くなる | 2002年にOrganization Science 13巻6号へ出た論文は、バイオテクノロジーの提携145件を対象に、パートナー固有の経験だけが提携の成果に正の影響を持ち、しかもその効果は出資にもとづく統治の仕組みが無い場合により強い、と報告した。効いたのは、その相手と組んだ経験のほうである。組む回数を増やすことと、同じ相手と続けることは別の量である。 |
失敗率という数字の便利なところは、これを引いた瞬間に、話し手が慎重な人に見えることである。しかも、数字が大きいほど慎重に見える。五系統たどって分かったのは、その数字が大きくなったり小さくなったりするのは、慎重さの度合いではなく、失敗という語に何を入れたかの違いだった、ということだった。四通りのどれを選ぶかは、数える人が決めている。
Q1. 査読誌に書かれている幅は、提携の ____ %から ____ %が失敗する、である。ここでの失敗とは、親会社の ____ を満たさず、掲げていた運営上ないし戦略上の ____ をもたらさないことを指す。穴埋め
Q2. 30%から70%という幅が開いている理由を、四つの語を挙げて説明せよ。一問一答
Q3. 五つの系統をたどった結果として、正しいものはどれか。選択
Q4. 同じ著者による二本のレビューについて、正しい組み合わせはどれか。選択
Q5. バイオテクノロジーの提携145件を対象にした研究が報告したのはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。いま自分が関わっている取り決め(誰かと組んで進めていること、継続の契約、共同で使っている仕組み、当番の分担など、何でもよい)を一つだけ書き出す。次に、その取り決めが終わるとしたら、自分はどの意味で「終わった」と記録するのかを決める——(1)打ち切り、(2)目的を達したので畳む、(3)目標に届かなかった、(4)自然に立ち消えた、の四択から一つ選び、選んだ意味を自分の言葉で一行に書く。最後に、その取り決めについて、手元にある記録(契約書、やりとり、予定表のいずれか)で、いつ始まったかを確かめられるかどうかを一言で書く。確かめられなければ「確かめられない」と書く。相手には尋ねない。相手を評価しない。自分の記録の付け方を決めるだけである。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Kale P., Singh H. (2009) 'Managing Strategic Alliances: What Do We Know Now, and Where Do We Go From Here?', Academy of Management Perspectives 23(3):45-62, doi:10.5465/amp.2009.43479263 — doi.org
- Lunnan R., Haugland S.A. (2008) 'Predicting and measuring alliance performance: a multidimensional analysis', Strategic Management Journal 29(5):545-556, doi:10.1002/smj.660 — doi.org
- Park S.H., Ungson G.R. (1997) 'The Effect of National Culture, Organizational Complementarity, and Economic Motivation on Joint Venture Dissolution', Academy of Management Journal 40(2):279-307, doi:10.2307/256884 — doi.org
- Christoffersen J., Plenborg T., Robson M.J. (2014) 'Measures of strategic alliance performance, classified and assessed', International Business Review 23(3):479-489, doi:10.1016/j.ibusrev.2013.07.001 — doi.org
- Christoffersen J. (2013) 'A Review of Antecedents of International Strategic Alliance Performance: Synthesized Evidence and New Directions for Core Constructs', International Journal of Management Reviews 15(1):66-85, doi:10.1111/j.1468-2370.2012.00335.x — doi.org
- Zollo M., Reuer J.J., Singh H. (2002) 'Interorganizational Routines and Performance in Strategic Alliances', Organization Science 13(6):701-713, doi:10.1287/orsc.13.6.701.503 — doi.org
- Gulati R. (1998) 'Alliances and networks', Strategic Management Journal 19(4):293-317 — doi.org
- Hughes J., Weiss J. (2007) 'Simple Rules for Making Alliances Work', Harvard Business Review, November 2007(実務誌。査読誌ではない。2026年閲覧) — hbr.org