同じ「空隙に立つと得か」を組織どうしで測ると、負・産業で逆・正の三通りが出た
つながっていない相手どうしのあいだに立つと得をする。仲立ちできる隙間のことを、この分野では空隙と呼ぶ。組織どうしのあいだでこれを測った研究を三本並べると、符号が負・産業で逆・正の三通りに分かれた。しかも、化学産業を測った論文の討論部には、良いか悪いか無関係かは文脈の関数でありやすい、と書いてある。
外部の弱いつながりの幅という道具は、何をする道具か。
組織の外側にいる相手との、薄いつながりの数と広がりを、成果に効く条件として扱う道具である。 取引のある相手、共同で開発をした相手、情報だけが行き来する相手。そのつながりが多いほど、また、互いに面識のない相手どうしを自分が仲立ちしている位置にいるほど、新しい情報が入りやすい——そういう考え方がある。仲立ちできる位置の空きのことを、この分野では空隙と呼ぶ。つながっていない者どうしのあいだに空いている隙間、という意味である。
この考え方は、組織どうしのあいだで実際に測られている。 そして、測るたびに効き目の符号が変わる。
化学産業の97社を、11年ぶん追いかけた
**2000年に *Administrative Science Quarterly* 45巻3号へ出た論文**が、この道具を組織どうしのあいだで測った一本である。
標本は化学産業の主要な97社。西欧・日本・米国の企業で、もとは約120社を集め、子会社を親会社に統合して107社にし、特許か共変量のデータが得られない10社を落として97社になった。提携の記録は1981年から1991年まで、特許の記録は1982年から1992年まで追いかけている(提携と特許のあいだに1年の間を置いた)。観測は996の企業・年である。
結果は、四つの符号として出た。
直接つながっている相手の数は、正。 誰かを介してつながっている相手の数——間接の紐帯も、正。 ところがこの二つの掛け合わせは負で、直接の相手が多い企業ほど、間接の相手が増えることの効き目は小さくなる。そして、空隙は負だった。
論文自身が、大きさを換算して示している。直接の相手が5、間接の相手が20の企業を例に取ると、直接の相手が1標準偏差ぶん増えたときの特許の率の増加は23%、同じ企業で間接の相手が1標準偏差ぶん増えたときは4%である。交互作用のほうも同様で、直接の相手が5の企業では間接の紐帯が特許の率を1.03倍にするのに対し、直接の相手が6の企業では1.016倍にとどまる。
抄録の一文が、結論をそのまま書いている。
> “Results from a longitudinal study of firms in the international chemicals industry indicate support for the predictions on direct and indirect ties, but in the interfirm collaboration network, increasing structural holes has a negative effect on innovation.”(国際的な化学産業の企業を追跡した研究の結果は、直接紐帯と間接紐帯についての予測を支持する一方、企業間の共同のネットワークにおいては、空隙が増えることが革新に負の効果を持つことを示している)
空隙に立つほど得をする、の逆が出ている。 ただし、空隙の回帰係数そのものの数値は、当方には読めなかった。 該当する表が画像として収録されていて、文字として取り出せなかったからである。書けるのは、符号が負だった、というところまでである。
同じ道具を別の産業で測ると、符号が入れ替わる
**同じ年に *Strategic Management Journal* 21巻3号へ出た論文は、鉄鋼と半導体**の二つの産業の提携ネットワークを並べて測った。
抄録はこう書いている。
> “our empirical analysis suggests that strong ties in a highly interconnected strategic alliance network negatively impact firm performance. This network configuration is especially suboptimal for firms in the semiconductor industry. Furthermore, strong and weak ties are positively related to firm performance in the steel and semiconductor industries, respectively.”(実証分析が示唆するのは、高度に結びついた提携ネットワークの中の強い紐帯が、企業の業績に負の影響を与えるということである。この配置は半導体産業の企業でとくに不利である。さらに、強い紐帯は鉄鋼産業で、弱い紐帯は半導体産業で、それぞれ業績と正の関係を持つ)
濃いつながりが効く産業と、薄いつながりが効く産業が、同じ論文の中に並んでいる。 どちらが正しいかではない。産業を変えると、符号が入れ替わった。
この論文についても、断っておくことがある。標本の大きさと年次は、当方には確かめられなかった。 公開されている本文が文字を持たない画像で、文字として取り出せる版が見つからなかった。書けるのは、二つの産業で符号が反転した、というところまでである。
三者三様
2005年に同誌26巻9号へ出た論文は、カナダの投資信託を運用する会社を標本に、同じ空隙を測った。符号は正である。 しかもこの論文は、条件を一つ足している。
> “Innovative firms that also bridge structural holes get a further performance boost, suggesting that firms need to develop network-enabled capabilities—capabilities accruing to innovative firms that bridge structural holes.”(空隙を橋渡ししてもいる革新的な企業は、業績のさらなる押し上げを得る。企業は、ネットワークによって可能になる能力——空隙を橋渡しする革新的な企業に蓄積される能力——を育てる必要があることを示唆している)
並べると、こうなる。 化学産業の97社では負、鉄鋼と半導体では産業ごとに逆、カナダの運用会社では正。同じ問いに、三つの答えがある。
そして、化学産業を測った論文の討論部には、この事態を先回りした一文がある。
> “whether structural holes are good, bad, or irrelevant is liable to be a function of the context.”(空隙が良いか、悪いか、それとも無関係かは、文脈の関数でありやすい)
測った本人が、そう書いている。
紐帯の構造という言葉を、地の言葉にほどく
ここまでに三つの言葉が出た。直接の紐帯、間接の紐帯、空隙である。地の言葉に置き換えると、こうなる。
直接の紐帯は、自分が直に相手と結んでいる線である。 共同開発の契約、供給の関係、共同の出願。間接の紐帯は、自分の相手の相手である。 直に結んではいないが、一つ挟めば届く。空隙は、自分が結んでいる相手どうしが、互いに結んでいない状態である。
この三つは、同じ網の別々の性質である。 直接の紐帯が増えても空隙が増えるとは限らないし、空隙が減っても間接の紐帯は減らない。「外とのつながりを増やす」という一つの言い方の中に、少なくとも三つの別の量が入っている。 そして、化学産業の97社では、この三つの符号が、正・正・負とばらばらに出た。
時間・変化:測る場所が、企業のあいだからチームのあいだへ広がった
この道具の実証は、四半世紀のあいだに測る場所を変えてきた。
**1996年に *Administrative Science Quarterly* 41巻1号へ出た論文は、バイオテクノロジー産業を対象に、革新の所在が個々の企業ではなく企業どうしの学習の網にある、と論じた。つながるほどよい、を支持する側の代表的な一本**である。
**2000年に *Strategic Management Journal* 21巻3号へ出たもう一本は、カナダのバイオテクノロジーの新設企業を対象に、設立の時点で作った提携網の構成が初期の業績に効くかを調べた。抄録によれば、重複・対立・複雑さの費用を抑えつつ多様な情報と能力に届く形に配置すること、および学びの機会が大きく提携内部での競合の危険が小さい相手を選ぶことという仮説は、とくに革新の面で広く支持された。**
**2009年に *Administrative Science Quarterly* 54巻1号へ出た論文は、対象を企業からチームへ移し、空隙がどこから生まれるかを推定している。これは効き目の符号を測ったものではない。空隙の発生の側を扱う、別系統の研究**である。同じ言葉を使っていても、問いが違う。
測る場所が変わるたびに、答えの向きが動く。 そして、問いのほうも一緒に動いている。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「外とのつながりを増やすほど情報が入る」を、確かめられた法則として扱うことである。組織どうしで測った結果は、化学産業で負、鉄鋼と半導体で逆、カナダの運用会社で正だった。測った本人が、文脈の関数だと書いている。
もう一つ。三つの量を、一つの言葉で扱うこと。 直接の紐帯・間接の紐帯・空隙は、同じ網の別の性質で、同じ標本の中でさえ符号が揃わなかった。
この単位では、付き合う相手を増やせとも減らせとも書かない。 書けるのは、この道具が測られた場所と、そこで出た符号までである。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた実証は、化学・鉄鋼・半導体・バイオテクノロジーの企業と、ある国の運用会社と、ある国のテレビ制作のチームである。 そして、化学産業を測った論文は、小さい企業では共同の記録が極めて得にくいという理由で、標本から外している。 一人でやっている人、家業を継ぐ立場、行政や学校で継続を考えている人の組織は、この数字のどれにも入っていない。 成績のばらつきのうち、網の形に割り当ててよい分は、産業を変えるだけで動いた。
助けるのは、自分の手元の記録で、外との接点を三つの量に分けてみることである。直に結んでいるか、一つ挟んでいるか、自分が結んでいる相手どうしが互いに結んでいるか。分けた時点で、増やす対象がどれなのかがはっきりする。
最初の一歩は5分。この1年に外部とやりとりした記録を三つだけ拾い、それぞれが直接の線か、誰かを介した線かを書き添える。 相手を評価しない。線の形だけを書く。
次の単位は 282「エコシステムハブ設計力」——多者のあいだの依存の構造と、その語の意味が分岐したまま使われていることを扱う。掛け算の別の項であり、こちらの項を大きくしても、あちらの項が小さいままなら積のほうは動かない。
- 2000年のAdministrative Science Quarterly 45巻3号は、化学産業の主要97社(西欧・日本・米国)について、提携の記録を1981年から1991年、特許の記録を1982年から1992年まで、996の企業・年で追った。直接の紐帯は正、間接の紐帯も正、その交互作用は負、そして空隙は負に出ている。
- 同じ論文は効果の大きさを換算して示している。直接の相手が5、間接の相手が20の企業では、直接の相手が1標準偏差増えると特許の率が23%増え、間接の相手が1標準偏差増えると4%増える。交互作用のほうも、直接の相手が5の企業では間接の紐帯が特許の率を1.03倍にするのに対し、6の企業では1.016倍にとどまる。
- 空隙そのものの回帰係数の数値は、当方には読めなかった。該当する表が画像として収録されていて、文字として取り出せなかったからである。書けるのは符号が負だったというところまでである。
- 2000年のStrategic Management Journal 21巻3号は、鉄鋼と半導体の提携ネットワークを並べ、高度に結びついた網の中の強い紐帯が業績に負の影響を与えること、その配置が半導体でとくに不利であること、そして強い紐帯は鉄鋼で、弱い紐帯は半導体で、それぞれ業績と正の関係を持つことを報告した。標本の大きさと年次は当方には確かめられなかった。
- 2005年のStrategic Management Journal 26巻9号は、カナダの投資信託を運用する会社を標本に同じ空隙を測り、符号は正だった。加えて、空隙を橋渡ししてもいる革新的な企業はさらに業績が押し上げられ、企業はネットワークによって可能になる能力を育てる必要がある、と結論している。
- 外とのつながりの多さには少なくとも三つの別の量が入っている。直に結んでいる相手の数、一つ挟めば届く相手の数、自分が結んでいる相手どうしが互いに結んでいない状態である。化学産業の97社では、この三つの符号が正・正・負に分かれた。
- 測る場所は四半世紀のあいだに動いた。1996年のバイオテクノロジー産業の学習の網、2000年のカナダのバイオテクノロジーの新設企業の提携網、そして2009年には対象が企業からチームへ移り、空隙がどこから生まれるかを扱う別系統の研究が現れた。効き目の符号を測った三本とは、問いそのものが違う。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 外とのつながりを増やすほど、新しい情報が入って成果につながる | 組織どうしで測った結果は揃っていない。化学産業の主要97社を11年追った研究では、直接の紐帯と間接の紐帯は正だったが、空隙は負に出た。鉄鋼と半導体を並べた研究では、強い紐帯は鉄鋼で、弱い紐帯は半導体で、それぞれ業績と正だった。カナダの投資信託を運用する会社を測った研究では、空隙は正である。同じ道具を組織どうしで測ると、符号が三通りに分かれる。 |
| つながっていない相手どうしのあいだ——空隙に立てば、いつでも有利になる | 化学産業を測った論文の討論部には、空隙が良いか悪いか無関係かは文脈の関数でありやすい、と書かれている。共同の場を作ることや、相手に出し抜かれないことが成功に不可欠な場面では閉じた網のほうが有利になりやすく、多様な情報に速く届くことが不可欠な場面では空隙のほうが有利になりやすい、という条件つきの言い方である。 |
| 外とのつながりの多さは、一つの量として測れる | 少なくとも三つの別の量が入っている。直に結んでいる相手の数、一つ挟めば届く相手の数、そして自分が結んでいる相手どうしが互いに結んでいない状態である。化学産業の97社では、この三つが正・正・負とばらばらの符号で出た。直接の紐帯が多い企業ほど、間接の紐帯が増えることの効き目は小さくなる、という掛け合わせの負も同時に出ている。 |
外とのつながりを増やせ、という助言の良いところは、増やしたかどうかを本人が数えられることである。数えられるものは報告できるし、報告できるものは評価される。皮肉なのは、その数を丁寧に三つに割って測った研究のほうが、増やすと良いとは言ってくれないことだ。良いか悪いかは文脈の関数である——そう書いたのは、その数を数えた側である。
Q1. 化学産業の主要97社を追った研究が報告した四つの符号を、対象となる量の名前とあわせて書け。一問一答
Q2. 鉄鋼と半導体を並べて測った研究の結果を、二つの産業それぞれについて書け。あわせて、この研究について当方が確かめられなかったことを1つ挙げよ。一問一答
Q3. カナダの投資信託を運用する会社を標本にした研究で、空隙の符号はどうだったか。選択
Q4. 化学産業の97社の研究が示した効果の大きさの換算値として、正しい組み合わせはどれか。選択
Q5. この単位で並べた研究を、刊行年の古い順に並べよ。(カナダの投資信託を運用する会社で空隙が正/バイオテクノロジー産業の学習の網/対象を企業からチームへ移し空隙の発生を扱った研究/化学産業の主要97社を11年ぶん)並べ替え
紙かメモアプリを開く。この1年のうちに外部とやりとりした記録(送受信したメール、請求や納品の控え、打ち合わせのメモ、自分の予定表のどれでもよい)から、外部との接点を三つだけ拾って書き出す。次に、その三つそれぞれに、直に結んでいる線か、誰かを介して届いた線かを一言で書き添える。分からなければ「分からない」と書く。最後に、その三つの相手どうしが互いに結んでいるかどうかを、知っている範囲で一言だけ添える(知らなければ「知らない」と書く)。相手を評価しない。相手の状況を調べない。誰にも尋ねない。手元にある自分の記録だけで完結させる。いま組織に属していない場合は、自分が続けている取り組みについて外部とやりとりした記録で行えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Ahuja G. (2000) 'Collaboration Networks, Structural Holes, and Innovation: A Longitudinal Study', Administrative Science Quarterly 45(3):425-455, doi:10.2307/2667105 — doi.org
- Rowley T., Behrens D., Krackhardt D. (2000) 'Redundant governance structures: an analysis of structural and relational embeddedness in the steel and semiconductor industries', Strategic Management Journal 21(3):369-386, doi:10.1002/(SICI)1097-0266(200003)21:3<369::AID-SMJ93>3.0.CO;2-M — doi.org
- Zaheer A., Bell G.G. (2005) 'Benefiting from network position: firm capabilities, structural holes, and performance', Strategic Management Journal 26(9):809-825, doi:10.1002/smj.482 — doi.org
- Powell W.W., Koput K.W., Smith-Doerr L. (1996) 'Interorganizational Collaboration and the Locus of Innovation: Networks of Learning in Biotechnology', Administrative Science Quarterly 41(1):116-145, doi:10.2307/2393988 — doi.org
- Baum J.A.C., Calabrese T., Silverman B.S. (2000) 'Don't go it alone: alliance network composition and startups' performance in Canadian biotechnology', Strategic Management Journal 21(3):267-294, doi:10.1002/(SICI)1097-0266(200003)21:3<267::AID-SMJ89>3.0.CO;2-8 — doi.org
- Zaheer A., Soda G. (2009) 'Network Evolution: The Origins of Structural Holes', Administrative Science Quarterly 54(1):1-31, doi:10.2189/asqu.2009.54.1.1 — doi.org